「知ってる天井だ…。」
「起き抜け早々、そんな冗談言えるくらいには回復したってことか。」
「…おはようございます、先生。」
「おはよう三笠。また無茶したそうだね。」
「そうですね。そうしなければやられていました。先生たちが間に合う確証もなかったですので、あの中で戦闘に慣れている私がなんとかしなければと思ったわけです。」
「…おおよそのことは警察と雄英の教師から聞いている。君はヴィランを圧倒したそうじゃないか。その怪我の殆どは能力によるものだってね。警察は驚いていたよ。普通科の少年がオールマイト並みの力を持つヴィランを倒すなんて。」
「いえ、そうしなければ私達の誰かが命を落ちしていました。」
「…そうだね。今回の事件は正当防衛として処理することになった。安心して休んでとは言いたいけど…。」
意識を取り戻した私は見覚えのある場所で目を覚ました。ここはレントンの診療所。ならば処置をしたのも彼だろう。彼なら私の魔術の存在を知っているので余計な情報が漏れることもない。それにしても最後の攻撃、ファウストを第三戦速で打つためシンクロ率を上げた後遺症か、またし両腕がまたしても黒い義手に変わっていた。今はレントンが気を使って包帯でぐるぐる巻きにしているおかげで見えないが肩から先の感触がないため、まだ義手に変わったままだろう。
おきてそうそう、今回の事件の詳細をレントンと話していると、レントンは急に話すのをやめ後ろの方へ視線を向ける。
― knock knock knock ―
「失礼します。三笠君は居ますか?」
「緑谷?なぜここに?」
「あ!三笠君!起きたんだね!」
「あぁ、ついさっき起きたばかりだよ。」
「そうなんだ。あ、これお見舞いの花束。」
「ありがとう。後で飾っておくよ。」
「それとね、A組の皆が三笠君にお礼がしたいって来てるんだ。入ってもいいかな?」
「いいよ。」
私が了解すると、扉から大勢の人が入ってきた。皆各々に挨拶とお礼を述べる。
「飯田 天哉だ。よろしく!」
「麗日 お茶子です。」
「切島だ!お前の戦い熱かったぜ!」
「蛙吹 梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで。」
「峰田 実だぜ!」
「瀬呂 範太。お前の戦い方格好良かったぜ。」
「障子だ。あのときは助かった。礼を言う。」
「砂藤だ。俺は増強系の個性なんだがお前のパワーには驚いた。」
「芦戸 三奈!君!体がバチバチして、そのままびゅーんて走って、ボーンてヴィランを倒しちゃったね。どうやったの!?」
「轟 焦凍。あの時は助かった。」
「常闇だ。実際には目にしてはいないがお前の話は聞いている。すごいやつだな。」
「口田 甲司…です…。」
「青山 優雅。僕がいたらもっと楽にヴィランを倒せたかもね。」
「葉隠でーす!!あんな大きいヴィランを一人でぶっ飛ばすなんてすごいよ!」
「尾白 猿夫。心操と一緒に飛ばされたんだけど、あいつに格闘教えたの君なんだって?彼すごく強かったよ。」
「もう名前は知っていると思いますが改めて自己紹介させていただきます。八百万 百です。」
「耳郎 響香。あんた本当に無茶苦茶だよ。」
「上鳴 電気!あん時は助かったぜ!」
「みんなよろしく。そういえば爆豪は居ないけど彼は大丈夫だったかい?」
「かっちゃんは殴られて気絶していただけだからそこまで怪我はないよ。それと見舞いには絶対に行かないって。」
「はは!ま、爆豪ならそう言うだろうな。」
どうやら襲撃の件で色々しなければならなくなったらしく。今日は休校になったらしい。そこで出久が相澤に私が入院している場所を聞き、全員で見舞いに来たらしい。その後はしばらく雑談をしていたが、病み上がりに大人数での訪問している上に長時間いるのは酷だろうとのことでA組のみんなはすぐに退室した。
翌日、完治した私はいつもどうりの時間に登校し、後に居た人使とSHRまで襲撃事件でも話をしていた。本鈴が鳴り、全員が席につくとセメントスが入ってくる。
「今日は重大な発表がある。先日、ヴィランによる襲撃を受けたが、例年通り体育祭は行う。」
私と人使以外のクラス全体に衝撃が走る。学校としては周りに屈していないことをアピールするために強気のポーズを取る。クラスからは賛否両論の意見が出るが私と人使はヒーロー科への編入のための舞台が潰れずに済んだことに安堵する。
「静かに。確かにまたヴィランに襲われる可能性もあるが今年は警備を強化し臨む。皆は心配せずに大会に参加してくれ。それに大会の結果次第ではヒーロー科への編入も検討する。ここで甘んじたくないというやつは本気で挑むといいよ。」
当然、ヒーローになるための足がかりとして、私は今回の体育祭を本気で臨む。
生徒たちに体育祭の開催を告げた後、俺は職員室に戻り、今回の襲撃事件の会議の資料を読む。主犯各 死柄木 弔。 移動の要 黒霧。 そして驚異的な力を行使し、俺に大怪我を負わせた 脳無。ヴィラン連合と言っても殆どはチンピラの寄せ集めでこの組織の要はこの三名だった。しかしそれとは別の存在が現れた。目撃した生徒に証言では灰色の肌の優男。真っ赤な目を発光させたアルビノのような巨女。そして目の焦点が合っていない中年男性の三名の存在が確認された。そしてそのうち、灰色の男は三笠に話しかけ、中年は三笠と同じ術を使った。…やはり無関係とは思えない。俺は資料を片付け、職員室から出ていく。三笠はいつも心操と一緒に中庭で昼食を取っていたな。
居た。記憶通り、三笠は中庭で昼食を取っていた。俺はそのまま近づき声を掛ける。
「三笠、昼休み中悪いが少し聞きたいことがある。あまり人に聞かれたくないことなんで少しそこまで来てもらえないか?」
「…はい、わかりました。心操、多分遅くなるから先に戻ってもいいよ。」
「あぁ、じゃあな。」
心操と別れた三笠を連れ、人気のない場所まで移動する。そして本題を切り出す。
「三笠、お前あの時、正体不明のヴィランに話しかけられてたと証言があるんだが、お前、あいつらのこと何か知っているのか?」
「…知っていると言えば知っています。私も少し気になることがあったので。」
「構わない、知っていること話してくれ。」
そして三笠はあの三人についてのことを話す。その内容はとても信じられないものばかりだった。
「物語の登場人物に過去に沈んだ船の怨霊、別世界の人間か…にわかには信じられないな。」
「私が知っている限りでは彼らはこの世界では実在していないはずなんです。それなのにまるで“私の記憶を見た”かのようにそのままの姿、性格でした。」
「というと?」
「…前世の記憶で一つ心あたりがあります。」
そして三笠は一人の男について話し出す。それは人のおぞましさを具現化したかのような人間で、長い期間ヒーロー業をしていた俺ですら遭遇したことのないヴィラン。話を聞いているだけで背筋が凍りつくような感覚に襲われる。
「三笠、なぜ今になってその男のことを話した?」
「……確かに人理は危険な思考を持った人物です。しかし、実際に犯行に及んだ確証がなかったからです。10年前の爆破事件はあくまでもテロ組織によるもの、桔梗がいくら秀でていても子供の姿では信頼を得ることは出来ません。それにこの世界では事件が起き過ぎている。一つ一つの事件に桔梗が関わっている可能性を精査するのは現実的ではありません。」
俺は三笠の話を整理する。その中で一つ引っかかることがあった。
「三笠、あの暴走事件に関わっている可能性は無かったのか。」
俺がそう問いかけると、三笠は表情を変えずに静かにこちらを見る。暫くの沈黙の後、三笠が口を開く。
「それこそ人理が犯人かどうかわかりませんよ。そろそろ時間なので戻ってもいいですか?」
「…あぁ、情報をありがとう。戻っていいぞ」
三笠は会話を切り上げ、戻ろうとする。俺は了承し三笠を返す。戻っていく背を見て俺はふと思っていたことを問いかける。
「三笠。………信頼できる奴はいるのか?」
声を掛けられた三笠は足を止め、振り返って返事をする。
「はい、いますよ。まだ会えていませんが。」
そうして三笠は戻っていった。
「(犯人じゃないとは言わないんだな。それに、まだ会えていないか……。)」
「三笠、お前は一体どんな大きなものを背負っているんだ。」
相澤に声を掛けられ、襲撃事件のことを話した後、私は教室に戻り、授業を受ける。皆が体育祭のことで浮足立ったまま時間が進み、放課後。私と人使はいつも通りTDLで鍛錬を行うために廊下を進むとA組の教室前に人だかりができていた。私は集団の一人に声を掛けてなんの集まりなのかを問う。
「ちょっといいかい?この集まりは何だい?」
「うん?あぁ何でも体育祭の前にA組の様子を見に来たみたいだよ。」
「…そうなんだ、ありがとう。」
敵情視察といえば聞こえはいいが、単にヴィランと戦ったクラスをひと目見ようと野次馬の集まりがほとんどだろうな。そんな事するくらいなら少しでも強くなるために自主練にあてればいいのに。私がそう思っていると後ろに居た人使が真剣な顔をする。
「……三笠、ちょっと寄り道していいか?」
「何するの?」
「宣戦布告。」
心操はそう言うと人混みをかき分けて、先頭に向かう。なんていうか場の空気にあてられたみたいだな。ものすごく燃えている。私はそんな人使の行動に呆れながらも、本気になっている友人の姿に笑みを浮かべる。これなら少なくとも今回の体育祭はA組の独壇場にはならないだろう。
「…そうだ。ついでに爆豪でも煽ろうかな。」
私は見舞いに来なかった腹いせに勝己を煽ることに決め、人使の後に続く。
「意味ねぇからどけモブ共」
先頭に近づくと何やらこの状況を見て勝己がいつもの節を見せる。やっぱりあいつはいい意味で芯がブレないな。
「改めて思うけどずいぶんと偉そうだな。ヒーロー科に受かった奴にこんなのがいるのか。こうしてみると幻滅するなぁ。」
勝己の売り言葉に人使は前に出て言い返す。
「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるの知ってる?
体育祭の結果によってはヒーロー科編入も検討する。逆もまた然り。
敵情視察?少なくとも俺たちは調子に乗ってるお前らの足元を掬うぞって、宣戦布告しに来た。」
「「「(心操くんも大胆不敵だな‼︎)」」」
「隣のB組のモンだけどよぅ!ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよ!
偉く調子づいちゃってんなオイ‼︎」
「(また不敵な人キタ‼︎)」
「本番で恥ずかしい事んなっぞ‼︎」
「……関係ねぇよ、上に上がりゃ関係ねぇ」
………雄英に入って何があったかはわからないが、勝己の言動と表情に相手を見下す様子がなくなっている。もう中学までの勝己ではないな。あれは真にヒーローを目指すものの目だ。気が変わった。私は本気で勝己と戦いたくなった。そう思った私は勝己に声を掛ける。
「そうだね、実力を示せば評価される。」
「!テメェ…。」
「爆豪、私と心操は入学してからここの施設を借りてほぼ毎日鍛えている。言っておくが、中学の時と同じと思わない方がいいよ。私はヒーロー科に編入するために“本気”でやるぞ。」
「チッ!……やってみろよ!本気のお前を叩き潰して俺が上だってことを証明してやるよ!」
私の登場に勝己は機嫌を悪くするが、私の本気で戦うという宣言に、表情をほんの少し変える。そうしていつものように叫び、私に挑発し返す。その後勝己は下駄箱ではなく、職員室の方向へ歩き出す。おそらく相澤に施設の使用を頼みに行ったのだろう。はてさて体育祭までにどのくらい強くなったのか、見ものだな。
勝己を見送った私は笑みを消し、出久の前へ立つ。そして見下す表情で口を開く。
「緑谷、あの時は助けてくれてありがとう。でも前に行ったこと覚えているかな。自分の身も守れない奴が誰かを守れない。あの時、瀬呂くんが助けてくれなければ二人共やられていたかもしれない。確かに私は動けなかったがそれを助けるために自分の怪我をしては意味がない。緊急時は仕方ないと思うが、複数人を助けるために能力が制御できず逆に助けられましたなんて醜態を晒す気か?」
「っ!?確かにこのままじゃダメなのは僕もわかっているよ!でも能力を使えば体が壊れてしまう。すでにリカバリーガールからは何度か怒られているし、どうすればいいかわからないんだ…。」
「はぁ〜……。ふん!」
― BIFF!! ―
「痛った!?」
私は項垂れながらも情けなく言い訳をする出久の頭に拳を叩き込む。無駄に手首のスナップを効かせた拳は、出久の脳をダイレクトで揺らす。あまりの衝撃に頭を押さえる出久は混乱しながらも私に目を向ける。そして私は呆れながらも出久にヒントを出す。
「緑谷、何のために雄英に入ったんだ。ここには能力に関する資料やそういうのに詳しい先生、さらにクラスメイトにも武術が得意な奴がいるだろう。いいか、一人でできる鍛錬には限界がある。その限界を突破するためにはどうしても他人の力が必要な時がある。そんな時は素直に他人に頼め。ヒーロー活動は一人じゃ出来ないのは緑谷も知っているだろう?」
「あっ……そうか、そんなんでいいんだ…。」
「なんだか分からないが、そうだぞ緑谷くん!俺たちは君が怪我を負いながらもひたむきに人を助けようとする姿勢を知っている。そんな君を俺たちも助けたいんだ。」
「そうだよ、私には何もできないかもしれないけど、それでも助けになりたいと思っているよ。」
緑谷のそばに飯田と麗日が近付き、励ます。その励ましに緑谷の表情は少しずつ明るくなっっていく。それを見た私はもう一言出久に助言を残して施設に向かう。
「もう大丈夫そうだな。そうだ緑谷、さっきも言ったがここには色々な施設がある。もし鍛えるのなら複数人で相澤先生に話せば使わせてもらえるんじゃないか?」
「そうだね、ちょっと聞いてみるよ。」
「あ、あとひとつ」
「なにかな?」
「拳を振るう時は全身で振るうことが基本だよ。」
そう言って私は人使と共にその場を後にした。
二週間が経ち、雄英体育祭本番当日。
正面ゲートには多くの報道陣やプロのヒーロー達が列を成していた。
C組の控え室ではただならぬ雰囲気の中、体育祭の開始を待っていた。私と人使を除く生徒たちは今回の体育祭にそこまで本気で臨む者は居なかった。そのせいか、私と人使の空気に圧倒される。私は椅子に座り、目を閉じて顔の前で両手を合わせて深呼吸する。一方、人使も集中しているのか、腕を組み、壁に寄りかかりながらも視線は私に集中していた。二人共、それぞれのスタイルで精神統一を図り、開始を待つ。
そして会場に移動する時間になった。列を作る際に、私は人使に声を掛けられる。
「三笠、お前のおかげで俺は入学からここまで強くなれた。お前には恩があるが、俺は全力で戦ってお前に勝つ!」
「当たり前さ、ここで私に気を使って負けるなんてそれこそ仇になる。私も本気で行くからかかって来い!」
いよいよ生徒たちが入場する。やはりA組の期待されているせいか声援が響く。その後にB、Cと入場するがA組よりは小さい声援だ。
「(上等!ここにいる観客全員の度肝を抜いてやるよ!)」
一年生全員が壇上前に整列すると、そこに18禁ヒーロー ミッドナイトが上がる。
「選手宣誓‼︎“1ーC” 三笠 冬扇‼︎」
ミッドナイトから三笠の名前が呼ばれた瞬間、会場全体が騒がしくなる。当然だろう、通常、宣誓はヒーロー科入試の首席が行うことになっている。ならばその生徒は必然的にA組に属しているはずだ。しかし、実際に呼ばれたの普通科の、しかも無個性で有名な私だ。無個性の入学ならまだしも、それが首席になっているとは信じられず会場に不信感が渦巻く。
一方、当の本人である私は少しも気にせず、真剣な表情で壇上の前まで歩む。マイクの前に着いた私は会場が静まるのを待つ。段々と静まる会場を確認した私は、はっきりと力強く宣言を行う。
「『宣誓!私が優勝する‼︎』」
「「「「「っ!?」」」」」
「『戦闘向きではない能力を持つ者や能力にデメリットがある者とこの体育祭に不向きな者もいます。しかし、本気で勝とうという気概を持っている者にはそんな不利な状況をひっくり返す力があります。それはヒーローにとって必要な要素だと思います。ヒーロー科も普通科もサポート科も関係ない、真に自分の意志を貫き通した者だけが優勝できる!私は“ノーマル”というハンデを背負ってこの体育祭に挑みます!
Puls Ultra!!!』」
「「「「「……っ!ぅうおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!!!」」」」」
会場全体が呆気に取られる。全員が私の言葉をゆっくりと噛みしめる。そして段々と会場が沸き立つ。この宣言に今まで乗り気ではなかった普通科やサポート科の生徒たちの士気が上がる。次の瞬間、会場のボルテージが最高潮に達する。雌雄決する祭りが今始まった。