1回戦も後半に入り、5戦目はB組の塩崎対A組の芦戸。ここに来て初の女子同士の対決になった。
芦戸の能力はたしか酸を自在に操ることができるんだったか。人に向かって放つだけでも相当驚異な能力だが、潤滑材にして走る速度を上げたり、壁に穴を開けて登ったりと汎用性は高い。
対するB組のは塩崎は見た通りあの頭の茨を使うのだろう。騎馬戦のときにちらっと見たが、茨を伸ばしたり、増やしたりとこちらも自在に操っていた。単純に考えれば大量の腕を保有しているのと同じだろう。おそらくこの勝負は能力による物量戦になるだろう。先に能力が底をついたほうが負けだ。
試合が始まると同時に動いたのは芦戸だった。彼女は一目散に塩崎に向けて酸を飛ばす。しかし塩崎はそれを茨で受け止める。受け止めた茨は酸で溶ける。一応人に向けて放ったものだからなのか。少し溶けた程度のものたっだ。
その後は塩崎の茨による範囲攻撃が始まる。芦戸はこれ幸いにと茨に向かって強酸を掛け、茨を千切る。そして酸でコンクリートを溶かしてその上を走る。塩崎の茨も追いかけるが、やはりあの物量を操るには少々重いのか、動きは遅い。その後も塩崎は芦戸を追いかけるも芦戸のスピードには届かない。また芦戸の方も、圧倒的な物量の前になかなか攻めきれない。両者均衡状態が続き、体力と時間が消費する。
「そろそろ決着が着くな。」
試合が始まってから数分が過ぎ、両者ともに疲労した状態で向かい合う。塩崎の茨は後二本ほど。芦戸ももう酸はそこをついているだろう。果たしてどちらが勝つか。
先に動いたのは芦戸。彼女は正面から堂々と突っ込んでいく。それを迎え撃つため、塩崎は2本の茨を伸ばす。無作為に突っ込んだ芦戸は成すすべもなく茨に捕らえられる。その様子に会場全体が塩崎の勝利を確信した瞬間、芦戸を捕らえていた茨がゆっくりと溶けていく。芦戸は底に残った酸を使うためにあえて捕らわれ、体の表面に酸を出したのだ。
茨から抜け出した芦戸はそのまま塩崎に突っ込むが塩崎も黙ったままやられない。なんとか迎え撃とうと拳を握り、戦闘態勢を取るが、芦戸は塩崎の目の前で急にしゃがみ込むと地面に手を付き、そのまま塩崎の顎を目掛け、蹴りを放つ。
「あれはカポエラか!?」
「カポエラ?何だそれは?」
「まだ超常の能力がない時代のブラジルで生まれた格闘技だ。手を拘束された人々がダンスの動きに格闘技を取り入れたものがそれだ。彼女のそれは独学のものだがかなり似通っている。自分の動きにたまたまあった格闘技がカポエラなのだろ。」
「塩崎さん行動不能!芦戸さん二回戦進出!!」
消耗したところに強力な蹴りを顎に受けて、塩崎はそのまま意識を失った。これにより勝者は芦戸。最後は能力じゃなくて体の使い方で勝った。彼女は相当曲者だな。だが彼女はこの試合で消耗しすぎた。次の試合までに能力がどのくらい回復しているか。それによって彼女の勝敗が分かれる。
次の試合はA組の切島とB組の鉄哲。両者とも体を硬化する点で言えば能力がかぶっている。単純な能力なだけにできることは限られる。
「同じタイプで接近がメイン。この試合は早く終わるな。」
私の予想通り、ふたりとも接近戦でのノーガード戦法。防御は能力頼みの乱打戦。鳴っている音はとても人が殴り合っている音ではない。後先考えずにお互いに顔を交互に殴り合っていく。
その状態は何分も続き、最後は互いの顎を打ち抜き、終了。
「両者ダウン!引き分け!!引き分けの場合は両者が回復した後、簡単な勝負で決着をつけます。」
どうやらこの試合はサドンデスに持ち込まれることになった。もし私が二人と戦うならどうするだろ。殴って気絶するならおそらく体の内部までは硬化でいていない。なら体の内部まで届くような攻撃をするしかない。そんな事を考えていると早速次の試合が始まる。次の対戦カードは…。
「八百万さんか…。」
彼女の能力、『創造』はとんでもなく強い。自分のエネルギーを対価にして様々なのもを生み出す。錬金術師の視点で見ればとんでもない行為だろう。エドが聞いたらブチ切れるんだろうな。
慢心ではないですが、私は今まで自分ながら努力をして雄英に推薦されたと思っていました。しかし、雄英に入ってからは何かとうまく行かないことばかりの連続でした。
クラスの皆さんに選ばれ、副委員長についたのですが、委員長である緑谷さんは飯田さんに委員長を譲りましたが、そうなると選ばれた私の立つ瀬がありません。
少し前には襲撃事件が起こり、ヴィランと戦う羽目に。なんとか倒せましたが、それでも彼には及ばず、自分の実力の無さを実感しました。
さらに体育祭の一回戦では峰田さんに体をくっつけられ、公衆の面前で辱めを受けました。
ここのところいろんなことがうまく行かないことばかりの連続でした。しかし、それでも私は3回戦まで勝ち進み、今常闇さんと初戦を戦います。
「『まさに才色兼備!戦闘でもその頭脳を活かせるか、八百万 百!!
対!二人で一つのダークヒーロー!常闇 踏陰!!
START!!』」
プレゼント・マイク先生の合図で試合が始める。
「いくぞ!」
常闇さんは速攻、個性で攻撃してきました。出遅れた私は盾を創造して攻撃を防ぎますが、常闇さんのダークシャドウは私の盾を簡単に弾き飛ばします。
常闇さんの猛攻に成すすべもなく、私は攻撃を喰らい、どんどんと外へ押し出されます。このままじゃやられてしまいます!一か八か、反撃を!
私は手のひらから閃光弾を創造し、上に投げる。そしてすぐさま目を腕で覆い隠し、光を遮ります。
「『おおっと!八百万、ここで閃光弾を投げた!これは常闇に効くのか!?』」
「くっ!?八百万、なぜ閃光弾を!」
「私、常闇さんと戦う前に色々考えましたの!常闇さんの個性は影!ならば光が効くのではないかと!!」
「…見事!そのとおりだ。」
単純な発想でしたがこの作戦は功を奏し、常闇さんの影は弱まっていきました。光が弱点ならば、こちらにも勝機があります!
私はまず自動車用のライトを創造し、それで常闇さんを牽制します。通常のライトよりも光度は高いのでこれには影も襲いに来ない。そのうちに私はあるものを創造する。
「…厄介なのはあのライトだけだ。
「『はいよ!』」
「っ!?きゃ!!」
創造に集中していると常闇さんのダークシャドウは光の当たらない場所を縫って近寄って来て、持っていたライトを弾き飛ばします。そしてそのまま私に向かってきますがもう創造は終わりました!
「行きなさい!」
― Bang! ―
「っ!?また光か!しかしこれは?」
「照明弾ですわ!先程の閃光弾よりも長い時間あたりを強く照らします!」
私が打ったのは兵士が夜間戦闘を行う際に使われる武器の一つ、照明弾。これはあたりを明るく照らしながらゆっくり落下するので常闇さんの影はしばらくの間動けないはず!
私は刺股を創造し、今度はこちらから攻撃を仕掛けます。予め創造していた防止を被って、上からの光を遮り、常闇さんを追いかけます。
「
「『はい!』」
「!?まだそんな力が!」
刺股を使って常闇さんを追い詰めますが、常闇さんは影を使って、速度を上げて私から逃げてしまいます。それでも追いかけてなんとか常闇さんを角に追い詰めました。
「常闇さん!追い詰めましたわ!」
「…そうだな。しかし気づいているか八百万。こうして時間を掛けて俺を追い詰めている間に、照明弾は落ちていることに!」
「っ!?」
常闇さんに指摘されて私は後ろを向く。私が撃った照明弾はもう地面に近づいていて、光は弱くなっていた。
「そして俺の
「しまった!?」
照明弾と常闇さんを挟む形で私が立っているので、私の影が常闇さんの方に影が大きく伸びていた。そのせいで常闇さんの影はまた力を取り戻し、私の持っていた刺股を弾き飛ばす。
そしてそのまま私を掴んできたので急いでライトを創造しますが、今度は常闇さんが私の腕を弾き、創造したライトが飛ばされる。そしてそのまま入れ替わる形で常闇さんに場外へ投げ飛ばされる。
「八百万さん場外!常闇くん二回戦進出!!」
あぁ…。私はここで負けてしまいましたわ。でも全力でやれたのであまり悔いはありませんわ。
「八百万、大丈夫か。」
「えぇ、大丈夫ですわ。常闇さん、本気で相手してくださってありがとうございました。」
「なに、俺に本気を出させたのはお前の策略が素晴らしかったからだ。自信を持て八百万。」
「…ありがとうございます。」
こうして私の体育祭は終わってしまいました。
7試合目も終わり、次はいよいよ一回戦最後の試合。対戦カードは勝己対麗日…。傍目から見ても麗日の勝機は薄い試合だ。さて彼女は一体どんな試合をするのか。楽しみだ。
「三笠、あの爆豪ってやつ女子相手に手加減するか?」
「いいや、絶対にしない。むしろ本気で戦う。あいつはそういうところは真面目だから、手を抜くとか絶対にありえないよ。何人たりとも爆破して突き進む。誰であろうとね。」
「そうか。」
「『それでは第一回戦、最後の試合!中学からちょっとした有名人。堅気の顔じゃねぇ爆豪 勝己!!
対!俺こっち応援したい!麗日 お茶子!!
START!!』」
試合開始とともに麗日は勝己に攻撃を仕掛ける。爆破と無重力。その能力の特徴だけ見れば明らかに麗日のほうが不利だ。本人もそれはわかっているのだろう。試合が始まるまでの麗日の顔はやけに険しかった。しかし、目は死んでない。彼女は何かしら勝つ算段をつけている。だから挑んでいく。
― BOMB!! ―
たとえそれが格上だろうと。
「麗日も麗日だが爆豪も容赦ねぇな。」
「当然だろ。あいつは口は悪いが、ちゃんと相手を理解して接するよ。いくら弱くても自分の足元すくわれてたら負けだからね。」
そう勝己は相手をちゃんと見ているだから右手の大振りなんて癖を出さないでいる。勝己の爆破で砂煙が巻き上がる。麗日はその煙に隠れて勝己の出方を伺う。すると勝己の足元に影が映る。すかさず勝己はその影を捕らえるが。
「上着か。爆豪の反応速度を逆手に取ったな。」
勝己が掴んだのは麗日が浮かした上着。彼はそれに気づかず、麗日に背後を取られるが。
― BOMB!! ―
勝己は瞬時に後ろを爆破し、麗日を近づけさせない。にしてあいつの反応速度、金剛阿含並に速いんじゃねぇかな。どっちも柄悪いし天才肌だ。共通点はあるな。
その後も何度も何度も麗日は姿勢を低くして勝己に突っ込み。勝己はその度、爆破して麗日を寄せ付けない。会場からは悲痛な声が上がる。たしかに傍から見たらヤケを起こしているにも見えなくないが、実際はそんなことはない。これは彼女の作戦だ。
けど会場に言うヒーローもどきはそう思わないらしい。試合中の勝己に向かってブーイングが飛ぶ。
「…。」
「三笠!やめろ!」
「『今、遊んでいるっつったのプロか?何年目だ?まじで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ。』」
相澤がブーイングを飛ばしたヒーローもどきに激を飛ばす。その様子を見た私は
それにしてもあのヒーローもどきは何かを勘違いしている。ここはヒーロー校なんだよ。全員が本気で勝ちに行ってるんだよ。何がは実力差があるなら外に放り出せだ。その言葉は勝己じゃなくて麗日を馬鹿にして傷つけているのに気づかねぇんだ。実力差があるなんて本人もわかってんだよ。
その上で本気で戦ってるんだよ。彼奴等は女性のヴィランと戦ったことねぇのか?本当のフェミニストっていうのは女性を”女性だから”て言って擁護に似た差別をするんじゃなくて、対等に扱うことが正解なんだよ。本人の努力を無視して守ってちゃ、逆にそいつを傷つけるのと何も変わんねぇんだよ。私は殺意にも似たイライラを募らせる。
ほら、今から麗日の反撃が始まるぞ。
「ありがとう、爆豪くん………。油断してくれなくて」
「『流星群!?』」
彼女の秘策、それはこの瓦礫の流星群だった。彼女の能力は触れたものや相手を浮かすだけ。それにはなんかしらものがなければ能力は意味をなさない。
しかし、開始時のフィールドはきれいな真っ平らで、浮かすものなどなにもない。だから彼女は武器を作った。爆豪にあえて爆破させ、フィールドを破壊させ、その瓦礫を宙に浮かす。空高く上がった瓦礫は能力を解除するだけで人工の隕石と変わらない。それは彼女ができる必殺技だった。
あの量の瓦礫だ。直撃すればただでは済まない。勝己はその攻撃に意識を向けなければならない。それは大きな隙きだ。麗日はそのチャンスを見逃さず、勝己へ突っ込む。
― BOOOOMB!!!! ―
ただしそれは勝己が今まで本気で戦っていたらの話だ。勝己はあの量の瓦礫を一撃の爆破で破壊した。空高くまで届く爆破は勝己が本気で撃ったことを意味する。それは突っ込んでいた麗日さえも吹き飛ばし、彼女の策を真正面から打ち崩す。
「爆豪のやつ、ようやく笑ったな。」
「え?どういうことだ?」
「自分と対等に戦えると認めた証拠さ。今まで周りを下に見ていた爆豪が、相手を対等に見ている。今まで張り合いがなかった相手に自分の全てをぶつけられる。それはとても心地良い感覚なんだよ。」
人生を充実させるものは様々あるが、中でも全ての原動力になるのはライバルの存在だ。勝己はそんな相手は今まで居なかった。いつも周りから褒められ、憧れの象徴として居た。
誰もが”爆豪には敵わない”と勝己を相手にしなかった。だから勝己はあんなにも歪んでしまった。周りからのイメージの押しつけで、あいつの心はどこか歪んだまま成長してしまった。私や出久はそれを治すことができなかった。出久は勝己を対等に見ていたが実力がなかったし、私は勝己を子供扱いしていた。私達では勝己の”ライバル”にはなれなかった。
勝己はそんな相手を無意識で探していた。そして麗日はその相手に認められた。やっと本気で戦える。自分の全てをぶつけられる。そんな相手が見つかった。だから勝己は笑った。
「ハ?」
だから目の前の光景に勝己は驚くしかなかった。やっと対等に戦える相手がもう戦えないと知ったからだ。ここまで来るのに、麗日は相当な攻撃と能力を酷使していた。
あの流星群の攻撃が彼女の戦略的にも精神的にも頼みの綱だった。それが折れた今、麗日を支えるものはなくなり、彼女は倒れてしまった。いくら戦う意思があっても心のどこかでもう負けを認めてしまっていた。
「…麗日さん行動不能!二回戦進出、爆豪くん!!」
あっけない幕切れに勝己の表情からは虚しさを感じる。私は席から立ち上がり、爆豪のもとへ向かう。
廊下を進むと、何やら出久と勝己が話し合っていた。私はその間に割って入る。
「爆豪、一回戦突破おめでとう。」
「三笠君!」
「あぁ!なんのようだ男女!」
「落ち着けよ。爆豪、麗日との試合は満足したか?」
「…するわけねぇだろ。」
「そうだよな。どう見たって不完全燃焼だよな。」
「そんなつまんねぇ事言いに来たのかテメェ!」
「いいや。私は宣戦布告に来た。」
「「っ!?」」
「爆豪…中学時代、私と何回も戦ったが、私はいつもいいところで水を差していたな。」
「…あぁ、うざってぇほどにな。」
「それは、もし君や私が大怪我をして雄英への階段を上がれなくなるのを危惧していたからだ。だけど今はもうその心配はいらない。爆豪、私は改めて宣言するぞ。私は優勝する。そのために君と本気で戦う。覚悟しておいてくれよ。」
「言われなくても覚悟は出来てんだよ!優勝するのはこの俺だ!!お前じゃねぇ!」
勝己はそう言って私に背を向け、立ち去る。出久はそれをおどおどした様子で見守る。
「緑谷、この宣言は君にも向けているよ。」
「え?」
「緑谷、お前は今まで私と爆豪の戦いをそばで見てるしかなかった。けど君はいつの間にか能力を発現させたな。」
「う、うん…。」
「…心操の挑発に全く思わないなんて思ってないぞ。」
「っ!?え!それは!」
「わかってる。君が能力を発現したのは君の運命だ。でもな、必死に努力した横で運に恵まれて力を付けたのを見ていると私も少し醜い感情が浮かんでくる。それはわかっていてほしい。だから、もし君が次の試合勝ち上がって、私と戦うことがあれば私は本気で君を潰す。それだけだ。」
未だ混乱する出久をおいて私は席へ戻る。次の試合が控えている出久には少し酷だったかな。でも嘘は言ってない。あれは私の本心だ。だから出久。次の試合必ず勝って、轟の目を覚まさせてやれ。
茨を使い切った塩崎ですが一応頭の茨は残っています。流石に女の子を丸坊主にするのは抵抗がありました。