出久と勝己に声をかけた後、私は席に戻り、試合開始まで人使と会話する。
「三笠、お前どこに行っていたんだ?」
「ん?ちょっと幼馴染二人に発破を掛けてきた。」
「発破ね…次の試合、俺は轟が勝つと思っておるけど。」
「そうだね、轟のほうが何倍も上手だ。積んできた努力が違う。それで私はどこかで緑谷が勝つ可能性があると思っているよ。」
「未だに能力を扱いきれていない奴がか?」
「緑谷は、少しずつ感覚を掴み始めている。完全にコツをつかめれば望みはあるさ。」
「『今回の体育祭、両者トップクラスの成績!まさしく両雄並び立つ! 緑谷 対 轟!!
START!!』」
私と人使の会話の間にプレゼント・マイクのコールが割り込む。どうやらもう試合が始まったようだ。私達は会話を切り上げ、試合に意識を向ける。
試合開始のコールが響いた瞬間、轟は出久に向けて氷を放つ。捕まったら最後、氷漬けにされるしかない。出久どう出る?
― BOOM!! ―
「…。」
「っ!?あいつ、また!」
出久は指を弾いて、氷の壁を破壊する。全力のそれは確かに轟の攻撃を打ち砕くが、代償に放った中指は赤黒く腫れ上がり、ぐちゃぐちゃだ。しかし出久の表情からはいくつかの指を犠牲にしても構わないと読み取れる。
― BOOM!! ―
人差し指。轟の体は極度な温度変化に対応できていないから氷を使い続ければいずれは限界が来る。出久は轟相手に持久戦を持ち込む気だ。
― BOOM!! ―
薬指。しかしそれは分の悪い賭けだ。轟の限界は未だ未知数。それに比べ出久は両手合わして10発しかない。それまでに決着が着くかどうか。
― BOOM!! ―
小指。ついに親指以外の右手の指は全滅した。しかしそれでも轟はまた限界は来ていない。そして出久が左手を構えようとしたとき、私の堪忍袋の緖が切れた。
「緑谷!!!!!!!!!!!」
― キーン!!!!! ―
会場全体に私の怒声が響き渡り、それを拾ったマイクがハウリングを起こす。静まり返る会場。思わず試合中の二人もこちらを見る。しかし私の怒りは止まらない。
「いつまでそんな状態で戦っている!!!テメェの指は消耗品か!!!いつまでも能力ばかりに甘えてんじゃねぇぞ!!!!!」
「『三笠、注意するのはいいがもうちょっと声量を落とせ、耳がイカれる。…しかし、言ってる内容は間違っちゃいない。緑谷、次に自分の体を粗末に扱ってみろ。その時点で試合を止めるぞ。』」
「コホン。試合が一時中断しましたが、私達教師陣は同じ意見です。緑谷くん、次に無茶をしたら即刻、失格にします。」
私の主張に雄英の教師陣が同意する。いくらリカバリーガールがいるからといって怪我していいわけじゃない。それは教育者たる先生たちから見て明らかに間違った行為だ。ならば教師陣はそれを止めなければならない。出久、考えろ!いつまでも能力ばかりに頼るな。
僕は轟くんの氷の攻撃を自分の指を犠牲にして打ち砕く。一本、二本と撃っていき、左手を使おうとした時、三笠くんの怒号が会場内に響き渡り、皆の耳を劈く。これには戦っていた轟くんも驚いた表情を見せていた。
その後も三笠くんの説教は続きいたが、三笠くんの意見は至極真当なもので先生たちも三笠くんの意見に賛成している。そして告げられた内容は今の僕にとってとても不利になるものだった。
だけど僕には轟くんと戦うためには全力じゃないといけない。しかしもう指を犠牲にする事はできない。どうすれば…。
「『拳を振るう時は全身で振るうことが大事だぞ。』」
っ!?
僕が対策を考えているとふと三笠君の声が聞こえた。驚いて三笠君の方を向くも三笠君はさっきの怒ったままの表情でとても声を掛けたとは思えない。待って、たしかこの言葉は三笠君が体育祭前に言っていたような…?
はっ!?全身!?そういえば僕、力を込めるときはいつもその部分しか使っていなかった。でも、もしそれを、全身で使ったらどうなるか…。
「『色々合ったが仕切り直して…START!!』」
「悪いが緑谷、俺は手加減するほど甘くはないぞ。」
轟くんの氷がまた近づく。このまま何もしなければ僕は凍らされて負けてしまう。今思いついたことに確実性はない。でもやる価値はある!!
― BOOOM!! ―
「っ!?緑谷くん!?あなたまた!」
「『待ってくださいミッドナイトさん。様子がおかしい。』」
「…!?緑谷お前…!」
私の怒号により中断した試合は再開し、轟は先ほどと同じように出久を氷漬けにしようとする。しかし、まっすぐ出久に向かっていく氷は出久の目の前で破壊された。
またも指を犠牲にして破壊したと思ったミッドナイトは試合を止めようとするが、そこに相澤がすかさず待ったを掛ける。静まり返る会場の中で、出久を覆う煙が晴れる。するとそこには壊れていない左腕で氷をぶっ壊した出久が立っていた。
「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」
「ブッつけ本番!だけど出来た!!」
「…遅いんだよ。あの馬鹿。」
出久の土壇場の賭けが成功した光景に会場は歓喜の渦が巻き上がる。ミッドナイトは注意良く出久の腕を観察するがどこを見ても出久の腕は壊れていない。出久はついにオールマイトの力をコントロールすることが出来た。
今までの出久は部分的に力が入るから、そこだけに力が集中して壊れるんだ。なら全体に分散させればいい。現に障害物の最後、私とデットヒートした場面では出久は無意識のうちに力を全身に巡らせていた。私が体育祭前に出したヒントをこの土壇場で気づき、それを成功させた。これでやっと出久は轟と同じ土俵に上がった。
「ありがとう三笠君。僕はやっとここに来れた。」
「くっ!もう一回だ!」
― BOOOM!! ―
「残念だけど僕はもう腕を壊さないよ。これで君の氷はもう通用しない!」
「くそ!」
「轟くん、君震えているよ。個性は身体機能の一つ、必ず限界がある。君のそれは左を使えば解決するんじゃないの?
皆本気でやってる!心操くんも瀬呂くんも上鳴くんも飯田くんも芦戸さんも常闇くんも八百万さんも切島くんも麗日さんもかっちゃんも、B組や脱落した人たち、それに三笠君も!皆本気で一番を狙っている!君はいつまでそうしているつもりだい?僕に勝ちたいなら本気でかかってこいよ!!!」
出久の思いが爆発する。試合前たしかに私は出久にああ言ったが、出久だってただで力を欲していなかったわけではない。むしろ本気で夢に向かって努力していた。
そんな出久にとって轟はまさに自分の努力をあざわらう奴と同じだ。過去に囚われ、父親に囚われ、その全てを否定する轟を、出久は必死になって救おうとしている。あいつはやっぱり根っからのおせっかい野郎だ。
「全力だ?お前クソ親父になんか言われたんか。ムカつくな!」
轟は出久に近づこうとするが、今の出久はさっきよりも何倍も速い。出久も近づき、そのまま隙だらけの轟の腹に拳を入れる。隙を突かれた轟はそのまま後ろへ飛ばされる。今の出久はさっきまでとは全くの別人。そう思わないと勝てないよ。
「『緑谷、轟の腹にいいのを一発入れた!ボロボロのくせしてなかなかやるぜ!!』」
「『腕だけじゃなく体全体を強化してるおかげか、全体的に身体能力が上がっている。いきなり上がったんだ。轟は反応できない。』」
「お前はなんでそこまでやるんだ!!」
「僕も自分の望みを本気で叶えたいからさ!僕はなりたい!僕に期待を寄せている人に!だから本気でやらない君に僕は怒っている!!」
「うるせぇ…」
「僕は君に勝つ!!」
「うるせぇ!俺は親父を!」
「君の!力じゃないか!!!」
出久の一方的な乱打の応酬は轟に手も足も出せず、攻撃を食らう。そしてその間も出久は轟を救うため、言葉を紡ぐ。その様子に轟の表情も暖だんと変わっていく。そして炎が轟々と燃える。どうやら彼の心の闇は晴れたようだ。
「緑谷、お前意味わかんねぇよ。でもおかげで思い出した。俺もヒーローになりたい!!」
「焦凍オオオオォ!!」
会場の応援席からプロのヒーローで轟の父親のエンデヴァー声が響くが、今の轟にはあの憎かった父親の声は聞こえず、ただ純粋に勝負を楽しんでいる。轟は今、ただ一心に出久と相対する。
「行くよ轟くん!『Texas』…。」
「来い!緑谷!『フレアチック』…。」
そしてふたりとも最後の大技を繰り出すために互いに力を溜め、一気に放つ。
「『Smash』!!!!」
「『エクスプロージョン』!!!!」
起きたのはとてつもない大爆発。冷やされた空気が急激な加熱により、一気に膨張し、爆発に至った。
「『オイオイオイオイ!とんでもない大爆発だぜ!!煙で何も見えねぇけど一体どうなってんだ!!』」
「『轟のあれはさんざん冷やされた空気に瞬間的な高温を与えて空気を急激に膨張させた。狙ったか狙ってないかはわからないがとんでもない破壊力を生んだな。』」
温められてできた湯気は、出久の拳によって竜巻のように渦を巻いて上に上がってフィールドを覆い隠す。しかしそれも次第に晴れていき、二人の姿を表す。そこに見えたのは。
「『た…立ってる!!両者ともボロボロながらもラインギリギリに立っているぜ!!!』」
「「「「「うおおおおおおおぉ!!!!!」」」」」
再び沸き立つ会場。あれだけでかい爆発で両者ともまだ立っているなんて奇跡に等しい。その光景に観客の興奮は最高潮になる。だが…。
「ここまでか。」
「緑谷お前は本当にすごいやつだな。まだ戦うってんならもう一発行く…?」
「…。」
立っていた二人の打ち轟はボロボロながらも出久に対して再び攻撃しようとするが、肝心の出久は左手を前に突き出したまま固まってしまっていた。疑問に思ったミッドナイトがすぐに出久の様子を観察する。
「あっ!?緑谷くん気絶により行動不能!轟くん三回戦進出!!」
結果は出久の敗北。当然といえば当然、出久はぶっつけ本番で全身に力を入れることを思いついた。最初から長い時間維持できるのなら誰も苦労はしない。
壊れた指の痛みと力の行使による疲労、そして最後の爆発で出久の意識は途切れ、立ったまま気絶していた。会場は一瞬驚いたように静まり返ったが、意識を失ってまでも戦う姿勢を崩さない出久に次第に惜しみない拍手が鳴り響く。出久はそのままストレッチャーに運ばれ、リカバリーガールのいる保健室へ運ばれる。
私はその様子を見て、出久にひと声掛けようと席を立つ。
「三笠、ステージは修復するからお前の番はもう少し後だろ。どこに行くんだ。」
「なに、早めに行って損はないよ。それに声を掛けるやつもいるしね。」
私はリカバリーガールの保健所へ訪れると、何やら入り口に人だかりが出来ていた。どうやら出久を心配したA組の面々だった。私は通るため飯田に声を掛ける。
「そこ通してもらってもいいかな?」
「ん!?君は三笠君!もしかして君も緑谷くんの見舞いかい。」
「んー。半分は当たり。」
「半分?」
私は人混みをかき分け、部屋へ入る。中にはベットで寝かされている出久とやせ細ったオールマイトが居た。いくらか予想はしていたが、いくら関係者しか居ないとはいえやせ細った状態でいるなんて無謀にもほどがありますよオールマイト。まあここは話がややこしくならないようフォローしますか。
「はじめまして。私は三笠 冬扇。緑谷の幼馴染です。あなたはもしかして緑谷のトレーナーですか?」
「ん!?あぁそうだ。私は緑谷少年のトレーナーの八木だ。よろしく。」
「よろしくおねがいします。さて出久、調子はどうだ?」
「えぇと、体の節々が痛いよ。」
「そうか…ふん!」
「痛!?」
「三笠少年!?君はいきなり何を!?」
私は出久の右手を見た後、出久の頭に拳を叩き込む。呆けた頭には丁度いい刺激になるだろう。
「私が殴った理由はわかるよな。」
「…えへへ。」
「ほう、もう一発打ち込まれたいか?」
「ごめんごめん!!もうあんなことしないよ!…三笠君ありがとう。君が怒鳴ってくれたいおかげで個性の使う感覚をつかめたよ。」
「私としてはあんな無茶する前にわかってほしかったんだがな。」
「…君はもしかして緑谷少年の個性の使い方がわかるのかい?」
「いえ、だた私は可能性に賭けてみただけです。確証はありませんでした。でも良かった。これでもうお荷物は卒業だな。」
「お荷物って…否定できないのが辛いな。」
「緑谷、お前は今回の件でやっとスタートラインから一歩足を踏み出しただけだ。他の皆に追いつくのはまだ先だ。だけど一歩。確実に歩めたんだ焦らなくていいお前はお前のペースで強くなれ。」
「三笠君…。」
「それじゃあ、私は次の対戦があるのでここで失礼します。八木さん、緑谷をお願いします。」
「あぁ、任せなさい。」
こうして出久の様子見を終えた私はそのまま会場入口へ進んでいく。優勝まではまだまだ時間がかかる。次の試合は私と飯田。直前にあんな試合見せられたんだ私も一暴れしたいな。
「さぁて、いっちょ世界の度肝を抜いてやりますか!」
そういう私の顔は勝己と変わりない笑顔をしていた。