お待ちしてくれていた方々には感謝と謝罪を申し上げますが、これからの活動を温かく見守ってくれれば幸いです。
ステージへ向かうゲートを潜ると会場中の観客の歓声を一身に受ける。腹を探り合う一回戦も終わり、ある程度の実力を知ったところで、どういう試合運びになるかを観客は想像し、盛り上がりを期待しているのだろう。まぁ、私も飯田も互いに一回戦目は実力を出し切ったとは言えないものだったのだが。互いにステージに立ったところでプレゼント・マイクのコールが響く。
「『さぁ、ステージの修復も終わったところで!次の試合だ!注目の対戦カードは、驚異的な速さで相手を翻弄するスピード特化型の二人!
飯田 天哉 VS 三笠 冬扇!!』」
「私は別段、スピード特化ではではないんだけどね。」
「三笠君!お互いにいい勝負をしよう!」
「そうだね。君にとっては初戦みたいなものだしね。」
「むっ!?たしかに一回戦目では不甲斐ないところを見せてしまったが、この試合ではしっかりと汚名返上するつもりだ!」
「いいけど、当然私も本気で行くよ!」
「『互いにやる気十分!!そんじゃぁ
START!!」
「『
― Vroooom! ―
ふくらはぎにエンジン筒を生やした飯田の能力は見た目通り、速さが売りだ。私は対抗するために試合開始から速攻でエンジンを起動し、体を強化する。加速した彼の速さがどの程度かは未知数だが、障害物では上位10位に入っていることから、少なくともスピードはあるだろう。まずは第一戦速で戦って様子を見てからもう1段階上げるかを考える。
「そら!」
「くっ!?障害物走や騎馬戦でも感じたがやはり速いな!これで個性がないとは、相当なものだな。」
「開始早々の不意をついて放った蹴りを防いだ奴に言われても嬉しくないね。」
「だが上鳴くんとの戦闘の時は速度がもっとあった。本来はもっと速いんじゃないか?」
「それはお互い様だろ!」
プレゼント・マイクのコールが聞こえた瞬間、強化した私は飯田の頭目掛けて蹴りを放つ。が、飯田に両腕で受け止められる。開始直後の最速の攻防に会場は静まり返る様を見る。どうやら会場の不意はつけたようだ。
互いに小言を吐きながらも、そのまま脚に力を入れて飯田を飛ばし、距離を取る。
飛ばされた飯田はすぐさま立て直し、エンジンの加速を生かした蹴りの応酬を私に浴びせる。私はそれを受け流しながら、早く軽い攻撃で飯田のリズムを崩す。
しかし素早さは飯田のほうが僅かにあり、更にはエンジンによって蹴りの軌道を自由に変えるその技術に私は苦戦を強いられ、軽いジャブもうまく入らない。このままの状態が続けば押し負けてしまう。自分の劣勢を感じた私は、ギアを上げる決意をする。
ここまで私がギアを上げるのを渋るのは帯電による反動を恐れているからだ。USJ襲撃事件から帯電時間の上昇もトレーニングメニューに加えたが、大会までの期間は短く、そこまで帯電時間は伸びなかった。
そもそもなぜ反動があるか。当然だが信陽の体は普通の人間で、上鳴のように帯電できるような構造を持っていない。私はそれをシンクロ率をギリギリのラインまで上げて誤魔化し、ギアを上げている。副作用はそのラインを維持できずに落ちた際に襲いかかる。そう、私がギアを上げる行為は実質はただのやせ我慢に変わりはない。
しかし、私はそんなデメリットよりも勝利を取るため、この体にムチを打つ。
ギアを上げたら最後、ノンストップで飯田に攻撃を仕掛ける。
「行くしかないね!!」
「電撃!?くっ!」
「『自家発電 第二戦速』!」
― Vroooom! ―
飯田の攻撃の隙を突いて、上鳴からもらった残りの電気を放電する。予想外の攻撃に飯田は堪らず距離を取るとその瞬間を見逃さず、私はエンジンの回転を上げ、発電する。私の体からパチパチと電気が走り出す。
「たしかその状態は上鳴くんから電気をもらっていると聞いていたが、単独でもできるのか。」
「悪いが話している余裕はない。ここからは速攻で行くぞ!!」
「なっ!?さっきよりも速度が上がっている!?」
「しっかりと私の姿を捉えてろよ!」
「しまっ!がっ!!」
「『ここに来て三笠が速度を上げてきた!!目にも留まらぬ速さで飯田のボディにいいのを打ち込んだぜ!!そんなんあるなら始めから出しとけよ!」
「『三笠の特徴は基礎能力の高さと多彩な技術を持っているが、それを更に上げるためのギアチェンジを行っている。今までの試合では1の状態で戦っていたがこのままだと難しいと判断したのかギアを上げたようだな。』」
「『HEY!!同じ技でも威力と速度が変わるなんて相手からしたら溜まったもんじゃないぜ!』」
「『だがあの状態は本人曰く未完成のものらしいが…。』」
第二戦速へギアを上げた私はそのまま飯田目掛けて駆ける。急激に速度が上がった私に反応しきれない飯田。私はその隙を突いて今のうちに押し切る!
「いくら速くとも真正面から来れば太刀打ちできる!」
「なら破ってみな!!」
「『三笠に対抗して飯田も向かっていった!!高速同士のぶつかり合いだ!!』」
「『デビルバットゴースト』!」
「消えた!?どこに!?」
「後ろだ!!『Δダイナマイト』!!!」
高速でぶつかり合う構図は奇しくも、前世のアメフト漫画を彷彿とさせるようなものだった。そして私はかのアイシールドのように飯田の拘束しようとする腕を躱し、背後に回る。あの漫画の主人公は非力だったが強化した私は人並みを超える。そんな私の頭、肩、腕の3点を同時にぶち当てる攻撃は恐竜のような怪物ほどの力はないにしろ、人間をやすやすとふっとばすくらいはできる。
目の前で私を見失った飯田はそのままの格好で対応できずに私の攻撃を食らい飛ばされるが、脚のエンジンを吹かして方向転換してうまく着地する。
「…驚いた。騎馬戦でも見たが本当に目の前で消えるなんて、そんな技術聞いたことない。」
「教えてやりたいが、時間がない。走り方は終わったあと教えるから今は全力で行くぞ!!」
私は腰のポーチからチョークを取り出し、素早く地面に錬成陣を書き上げる。その様子を見て飯田は阻止しようと向かってくる。が、今の私はギアを2段階上げている。目にも留まらぬ速さで書きなれた錬成陣を書き上げ、手を合わせる。
「何をするかわからないが、やらせはしない!」
― CLUNK!! ―
「…あっぶねぇな。」
「刀か…君は徒手空拳だと思っていたが。」
「それは悪いな、私のスタイルはあくまでも刀だよ。」
「『What!?三笠が地面になにか書き込んだと思ったら、刀が出てきたぞ!!ありゃ一体なんだ!?』」
「『あれは三笠の錬金術だ。素材と錬成陣と小難しい理論を覚えれば誰でも扱える。騎馬戦で騎手の椅子を創ったのもこれだ。』」
「『まさに伝説のAlchemist!!現代のパラケルススだ!!』」
私が錬成したのは石の刀だ。飯田が迫ってくる中、既のところで錬成を完了し、蹴りを刀で受け止める。脆い石刀だが錬成で強度を上げている。そう簡単には壊れない。
飯田の脚を弾き返し、攻める私。先程とは打って変わって今度は飯田が防戦一方の格好になる。
私の錬成した刀の長さは80cmほどで平均的な太刀の長さに匹敵する。いくら身長の高い飯田が足を伸ばしたとてまず届かない。意味は少し違うが相手から遠く、自分からは近い理想的な間合いだ。飯田は間合いを詰め寄ろうにも私の振るう刀の前にうまく行かない様子だ。どうやら長物相手との戦闘訓練はしてこなかったようだな。
しかし私の方も悠長にはしていられない。速く飯田を倒さなければ第二戦速が解ける。私はここで一気にけりを付けることにした。
「まずは距離を離すか。『黒百合』!」
「なっ!?かはっ!」
大技を使うためには飯田との距離を開けないと行けないため、私は体を半歩引き、飯田の腹を目掛けて鋭い突きを放つ。斎藤一の牙突や片倉小十郎の穿月を元にした技で本気で撃てば10m離れた壁に穴を開けるほどの斬撃を飛ばすこともできが、今回は距離を離すことが目的なので、そこまで力はこめず、初速を上げて放つ。
反応できなかった飯田は攻撃をそのまま喰らい吹き飛ばされるがやはり場外までは至らない。
「(これでも無理か。ならシンクロ率を上げて!)」
「っまだまだ!!」
吹き飛ばした飯田を追うように私は刀を下に構え、詰め寄る。痛みに耐えながらもなんとか復帰しようとする飯田は詰め寄る私に蹴りを放つが、私はその蹴りごと斬り伏せる。カウンターを決められた飯田の隙を突いて目にも留まらぬ速さで滅多斬りにする。
「『Hey!ここに来て三笠の動きが良くなってきたな!』」
「『三笠は元々剣士だ。奴は武器は手足の延長と考えて、まず体の動かし方から鍛えた。そうすれば自ずと剣の技術も上がる。合理的な思考と鍛錬を行ってきた結果だ。』」
「『さっきから気になったがやけに三笠の奴に詳しいな。もしかしてお前が鍛えたのか?』」
「『いや、昔から知っているだけだ。あいつはここまで一人で考えて鍛え上げた。無個性というレッテルをはねのけてあいつはあそこに立っている。』」
「『Oh…まさに時代の革命児!三笠の個性社会への反骨精神はとんでもないな!!ここで三笠は前半の反撃と言わんばかりに飯田を滅多斬りにする!残像が見えるほどの速さに飯田は手も足も出ない!!』」
「くっ!反撃するタイミングが無い!」
飯田が腕でガードするが私は構わず斬り続ける。そらそら!ちゃんと私を目で追わないと…。
「そら!」
「!?腕が!」
「ガードに集中しすぎたな。弾くくらい簡単だ!」
私が飯田のガードの上から斬っていたのは隙を見て、刀で飯田の腕を弾くため。腕を弾かれた飯田はボディががら空きになり、私はそこに大技を叩き込む。
「『幻影流剣術 睡蓮』」
― BASH!! ―
「くおぉぉぉ!!?」
「『な、なんだ!!?三笠が飯田のガードを弾いたと思ったら二人になって同時に斬った!!!まさに水面に映る睡蓮のごとしだ!!』」
「『三笠のもう一つの武器、”有幻覚”。普通の幻覚とは違い、実態を伴うそれは相手を惑わすための技術だ。三笠は自身が弱者だと自覚し、強者を倒すために様々な技術を学んでいった。あれもそのうちの一つだ。』」
「『弱者!?確かに三笠は能力を持っていないがそれでも学年主席だぞ!それが弱者なんて普通思わないだろ!!』」
「『三笠は自身を常に弱者だと自負し、何が足りないかを常に考えている
。三笠は勝つためにならどこまでも貪欲になれる。』」
「『Hmm…正直、タイマンならそこらへんのヒーローやヴィランなんて相手にならないな…。』」
”睡蓮”モネの睡蓮から名前を取ったそれはその絵画のように有幻覚で私の分身を作り出し、同時に袈裟斬りを行う技。目の前の相手がいきなり二人になるという普通じゃありえない状況を生み出し、相手の混乱に乗じて二人で攻撃する。私は飯田の体にそれを叩き込んだ。
一連の攻撃を受けた飯田だが猛攻を受けたのにもかかわらず、痛みを堪えながらすくっと立ち上がってみせた。
「黒百合からの睡蓮の連打は決して軽くはないはずだが、なかなかどうして君は恐ろしいほどタフだな。」
「…あぁ…。家族が、兄が見ているのだ…かっこ悪いところはみせられないからな…。」
「そうか、それが君の誇りか。なら私も誇りをかけてさらなる大技を持って君を倒そう!」
私は立ち上がる飯田に向かって有幻覚の分身と共に駆ける。タイマンから2対1になった戦いは飯田にさらなる劣勢を強いる。
なまじ実態を持つ私の分身は見掛け倒しの分身ではなく、本体とは別の動きをする普通に見てもまず見分けはつかない。
一体が先に飯田へ攻撃を仕掛けるも飯田はそれを脚で止める。その隙にもう一体が上へ駆け上がり、刀を振り下ろす。
飯田は止めている刀を相手の体ごと蹴ることで後ろに飛び、攻撃を躱す。
吹き飛ばされた一体はそのままの格好のまま膝を曲げる。そしてもう一方が飛ばされた方の足裏に足を乗せ、飛ばされた方の脚を伸ばすスピードに合わせて蹴り、恐ろしい速さで加速し、飯田へ突っ込み、刀を振り下ろす。
飯田はそれを見て脚のエンジンを吹かし、刀と打ち合う。
空中でにらみ合う両者に、飛ばされた方の一体が復帰し、上から飯田目掛けて刀を構える。
飯田は刀を攻撃を仕掛けようとする方へ蹴り飛ばすことで空中で向きを変えながら攻撃を妨害する。
蹴り飛ばされた刀は突きを放とうとする方へ真っ直ぐ向かうが、刀がぶつかる瞬間、体をひねることで飯田の反撃を躱した。そして刀を避けた後、飯田に向かって斬撃を伴う突きを放つ。その突きはひねりを加えたことで恐ろしいほどの速度で飯田の胸部に迫る。
しかし飯田は再度エンジンを吹かすことで体を回転させ、それを避けた。
ここに来て、類を見ないほどの高度な高速戦闘に静まり返る会場。
私の息をつかせぬほどの連撃とそれを紙一重で躱す飯田。誰もがこの試合にのめり込んでしまった。
そして三笠の突きを躱した瞬間、誰もが飯田の反撃が来ると思っていた。
「『幻影流剣術 風車 二輪咲き』」
しかしその予想を裏切ったのは三笠だった。
突きを放った一体が突如として刀を後ろに投げる。突然のことに見ていた飯田は動揺するが、それはすぐに驚愕へと変わった。刀を投げた方の三笠が霧散したのである。
目の前であれほど鋭い攻撃を仕掛けていたのが分身の方だという事実に飯田のみならず会場が驚く。そしてその霧散した中から出できたのは先程蹴り飛ばされた方の三笠だった。
三笠は蹴り飛ばされたあと、素早く体勢を直し、蹴り飛ばされた刀を拾うため月歩で飛び上がった。そしてもう一体を影にして刀を構え、重力に従って落ちていった。そしてもう一本の刀を掴み、分身体を突っ切って飯田へ向かう。そして当たる瞬間に体を回転させ、二本の石刀を飯田ごと地面に叩きつける。
目の前で異常な光景を目の当たりにした飯田は構える隙もなく攻撃を食らう。
「『……め、目にも止まらない三笠の猛攻が強烈に決まった!!!飯田も途中までは躱しきれたが三段構えの攻撃になすすべもなく地面に叩きつけられた!!この一瞬の攻防はプロでも類を見ないほどの最高の技術のぶつかり合いだぜ!!』」
「『能力の有る無し関係なしにこの攻防は二人の努力の賜物だ。幼い頃から訓練してきた者同士だからこそ実現した光景。生徒はもちろん、並のヒーローも見習ってほしいものだな。』」
「…ハァ…ハァ…っ!?くぅぅ!!」
飯田を地面へ叩きつけたあと、距離を取って残心を取った私は体中に走る痛みに第二戦速のタイムリミットが迫っていることを悟る。痛みに耐えかね片膝を付きながらも飯田へ視線を向けると彼は体を無理やり起こしていた。
「本当に君はタフだな!?仕方がない、もう一発行くぞ!!」
「ハァ…ハァ…っ!来い!!今度こそ迎え撃つ!!」
残された時間はわずか。打てる技も一発くらいだ。根性のある相手と戦うのは骨が折れる。だが次の大技で沈める!
「『あんだけ猛攻を受けた飯田だが、なんとか立ち上がった!対する三笠も何やら苦しいようだが?』」
「『やはり三笠のあの状態は体に負担が掛かるらしいな。体が耐えきれずに悲鳴を上げている。両者とも限界は近いだろう。』」
「『HEY!そんな中再び三笠は飯田へ詰め寄った!!対する飯田は動かず構えている!次の攻防で試合が決まるか!!』」
「三笠君!君が目の前で消えるのは本当に消えるわけではない。君は俺に高速でフェイントを掛けてから最小限の動きで背後に回っている!そのフェイントに意識を取られ、ありもしない君を幻視する。それが君の消える仕組みだ!」
「…御名答。しかしわかったところでどうする!」
「最小限で動くことが君の弱点!それは俺の間合いに入ることを意味する。なら俺の間合いに入った瞬間、超高速の蹴りを出せばいい!」
私の目の前で消えるように動く技術は騎馬戦で見せた”デビルバットゴースト”を元にしている。この技は目の前で複雑なステップを行うことで相手を躱す技術。この時代にアメリカンフットボールがないからこそ活かせる技術だ。飯田の言う通り、目の前で仕掛けるからこそミスディレクションを起こさせるからこそであり、そのためには相手の間合いに入らなければならない。それがこの技の弱点。
しかし私はそんなことも承知で飯田の間合いに足を踏み入れる!
「『レシプロバースト』!!」
飯田の間合いに入った瞬間、彼は騎馬戦で見せた超加速での回し蹴りを仕掛ける。今の私は第二戦速まで上げているおかげで普段より速く動けるが、それでもトップスピードでは飯田の方に軍配が上がった。彼の蹴りは私にステップを仕掛ける暇もなく襲いかかる。このままでは飯田の強烈な攻撃に対応できずに私は沈む。
「………はぁ?」
会場の誰かの喉からかすかに漏れた空気のような声が聞こえた。
「『………一体…なにが起きたんだ…?イレイサー、俺には飯田の蹴りが当たる前に三笠の奴巻き戻ったような様に見えたんだが?』」
「『……信じられないが、俺にもそうとしか見えなかった。』」
「三笠君…君は一体…?」
「どうした飯田。まるで時間が巻き戻ったのを見たかのような顔をしているぞ?」
「…ぅうおおおおおおおおお!!!???」
会場全体が驚愕に包まれる。激突の瞬間、高速で動いていた私が時間が巻き戻ったようにそのまま後ろに下がり、飯田の超高速の蹴りは空を切ったのだから。
その現象の原因はなんのことのない、飯田の間合いに入った瞬間、走っていたスピードと同じ速度で全力で一歩後ろに跳んだだけだ。それだけのこと、といえば聞こえはいいが、”言うが易し 行うが難し”。普通の人間がそんなことをすれば足が耐えきれず一発でおしゃかになる。
あれはかの主人公の長年走り込んだ経験と柔軟な足と体重の軽さからギリギリ行えるものだ。なら私がどうや再現したか。シンクロ率を上げ、足を義足に変化させ、強化魔術をその脚に重点的にかけた。そこまでして再現したこの技は、相手の虚を突くことに関しては一級品。幻影流の中でも奥義に相当する。その名も…
「『幻影流剣術 奥義
枯れかかったそれに鉄の釘を打ち込むと蘇るという伝承を持つその植物を冠したその技の通り、そのままの姿勢で一歩後ろに下がることで時間の巻き戻しを錯覚させ、相手の虚を突き、強烈な斬撃を与える。
攻撃を空振った飯田の体に私は十字に刀を振り抜く。攻撃を食らった飯田は為す術もない地面に沈む。
会場に沈黙が走る。およそノーマルが起こしたとは思えないほどの光景に驚きと恐怖が交じる。しかし私はそれどころではない。第二戦速のタイムリミットが差し迫った中で、体に負担がかかる奥義を放った私の体に気を失いそうになるほどの痛みが襲いかかる。第二戦速自体の副作用はもちろん、蘇鉄を行った脚もいくら強化したとはいえ無事では済まない。義足であるにもかかわらず激痛が走る。半端にシンクロ率を上げたせいで完璧に脚が義足に変化しきれなかったのだろう。目の前がチカチカする中でなんとか刀を支えにし気力だけで立っている。
「ハァ…ハァ…ハァ…ミッドナイト先生……コールを。」
「ハッ!?い、飯田くん戦闘…。」
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「っ!?飯田君!?貴方なんで立ってるの!?」
私に言われて戸惑いながらもミッドナイトがコールを宣言する最中、獣のような叫び声が会場に響き渡る。
掠れる視界でその声のする方へ目を向ければ、そこには倒れていたはずの飯田が立ち上がっていた。しかし彼はもう正気ではない。目は白目を向きかけ、その表情はまさに獣。彼は気絶しながらも意地と気力だけで私に向かってきた。
会場が騒然とする中、審判のミッドナイトは自身の能力で飯田を止めようとするが飯田の速さに香りがついていかない。
「(あの様子ではクラップスタナーや生半可な攻撃じゃ止まらない)…飯田、お前は本当にタフだよ。」
私は飯田を止めるために最後の力を振り絞り、シンクロ率を上げる。
― SNAP! ―
指を鳴らしたのを合図に、私の体の先端から桜の花弁のように散り始める。そしてその花弁は意思を持つように飯田の方へ流れる。そしてそのまま駆け寄る飯田とすれ違い、通り過ぎる。通り過ぎたあと飯田は先程までの激動が嘘のように動きを止める。通り過ぎた花弁は一箇所に集まり再び私の体を形成する。
「『幻影流剣術 奥義 千本桜』」
― BASH BASH BASH BASH BASH BASH BASH BASH!!!!! ―
通り過ぎた花弁が飯田の体に無数の斬撃を切り刻む様に浴びせる。体中に攻撃を受けた飯田は沈む様に倒れる。幾度もの攻撃に耐えきれなかった石刀は私の手の中で砕け散る。そして何事もなかったかのように私は再度ミッドナイトにコールを促す。
「ミッドナイト先生、コールをお願いします。」
「………飯田くん戦闘不能…三笠くん三回戦進出。」
ミッドナイトのコールが響くも会場に歓声は沸かず、私を見る視線に漂うのは未知に対する恐怖だけ。どうやらノーマルの私があそこまでの技をどうして打てるか理解できなかったらしい。そんなもの私が努力した結果だと言うのに、シンクロ率を上げ過ぎて良くなった聴覚に私を隔離すべきという戯言も聞こえてきた。私が入学した当初は軽蔑しあざ笑っていたくせにいざ実力を見せると恐怖し、あまつさえヴィランのような扱いをする。
あぁ…まったく。
「人生とは、ままならないものだ…。」
フラフラとした足取りで入場口へ帰る私の独り言に誰も答えない。
名前を『榊原直輝』に変更しました。
Twitterでときどきつぶやいているので暇つぶしにも見てください。