Lockydです。
皆さんにお知らせがあります。
この度、うつ病になりました。
よって仕事を休むことになりました。
元々は日本語の勉強の為に行っていた執筆ですが、これを期に趣味にしたいと思っています。
現在はストックを制作中です。
皆様も体調にはお気を付けて。
レントンの診療所で目を覚ましてから半年が過ぎた。始めの2、3週間はレントンの監視の元、とにかく安静にしていたが、その間に私が元居た世界とこちらの世界の相違点など、専ら歴史関連の勉強を行った。超常の力の発見時以前はこちらと大して変わらないが、ことこの超常黎明期からの動きが激しい。
当然と言えば当然だろう。”人類”としての進化の中で最も大きな変化と言えば”二足歩行”。元々猿だった私たちの祖先が様々な段階を長い時間を掛けて今の人類の原型まで進化を続けた結果である。しかしこの超常の力はある日突然、何の前触れもなく発現した。
300万年の進化の歴史をたった一日で塗り替えた結果、世界は混乱に陥った。混乱は恐怖に変わり、恐怖は差別を生んだ。最初の超常発現者である赤子がどうなったかは容易に想像がつくだろう。しかし、徐々に超常発現者が増え、過半数を超えた頃から超常への差別はなくなっていったが。…まぁ、差別の矛先が『ノーマル』に向かっただけ、差別自体はなくなっていないが。そんなワケで勉強面は一部を除いて生前の記憶で片を付けた。
「左足で支え、右足のトリガーを引き、左手のハンマーで右拳を打つ……。
『ヒュンケ・ファウスト』!」
レントンから出された条件、”警備ロボ”との戦闘をクリアするために、身体や技術の鍛錬を積む。
と言っても、第二成長期が始まってすらいないこの体で過度なトレーニングを行えば成長を妨げ、体を壊してしまう。なので、筋肉の繊維が切れない程度の筋トレやランニング、柔軟をバランスよく行った。
その結果、同年代と比較しても筋肉や力は付いたがあくまでも5歳児、対テロ用警備ロボを倒すまでには到底届かない。しかし、前世の知識を総動員し、空いた時間を技術面の向上に充てる。技術を磨けば相手の力を利用したり、力を何倍にも増幅する技術を底上げした基礎と掛け合わして用いる体術で大の大人にも有効な攻撃を出すことができるためだ。
― pipipipi…pipipipi… ―
セットしていたアラームが鳴る。気が付けば診療所を出発したころはまだ昇りきっていなかった太陽がほぼ真上まで進んでいた。帰らなければ時間や規則に厳しいレントンの小言が出る。私は体の汗を拭いて水分補給をしながら支度をし、帰路に就く。ここから診療所まではそう遠くない。時間にいくらか余裕を持つようにスケジュールを組むのは前世からの習慣だ。
― boom! ―
帰路の途中、公園から爆発音が響いていた。驚いた私は音のした方に意識を向けると、かすかに泣き声が聞こえてきた。
「(ヴィランか!?)」
私は急いで公園へ向かう。
「ひどいよかっちゃん…!泣いているだろ…!?これ以上は 僕が許さゃなへぞ!! 」
っ!?公園内に入ると、5人の子供の姿が見えた。どうやら3人のいじめっ子たちが1人をいじめていたところにたった1人の子供がその子を庇う様に立ち向かっていた。しかし、その声は涙を止めようと唇を噛みしめ、全身は恐怖で震えていた。
「(胸糞悪い、強力な力を持ちながらも複数でたった1人をいじめるなどヴィランと何ら変わりないではないか…。こんな奴らがヒーローになっていくと思うと腹の底から怒りが込み上げてくる。ヒーローにふさわしいのは恐怖を感じながらも1人で立ち向かっているあの子だ。あの子には恐怖に打ち勝つ勇気がある。)」
「
瞬間、私の中の何かがキレた。
『もう大丈夫…何故かって…? 私が来た!!』
始まりはただの憧れだった。
『こんな風になれるかな!!』
僕にもできるかなっと思っていた。
『
世界はそう甘くはなかった。
『超カッコイイヒーローに…僕もなれるかな…?』
人は生まれながらに平等じゃないと悟った。
「ノーマル上等、力があるだけの人間では決してヒーローにはなれない!」
目の前で振るわれたかっちゃんの拳は僕に届くことはなかった。ものすごいスピードで誰かが僕の脇を抜けてかっちゃんを吹き飛ばしたからだ。吹き飛ばされたかっちゃんはそのまま地面にぶつかることなく、突然現れた彼に抱きかかえられていた。どうやらかんちゃんは吹き飛ばされた時に気絶したらしく、おとなしく抱きかかえられていた。突然のことにいじめっ子のふたりも泣いていた子も、もちろん僕も口を開けたまま驚いていた。彼がかっちゃんをゆっくりと地面に降ろす。そこでようやくいじめっ子が反応した。
「だっ!誰だお前は!?」
「ノーマルヒーロー…君たちにわかりやすく言えば
「なっ!?無個性だと!無個性は無個性らしくしやがれよ!」
指を伸ばす個性の子が指を伸ばして両手で彼を捕まえようとするも、彼は簡単にその子の脇を抜けてそのまま肘鉄を腹に喰らわして、その子は気を失ってしまった。倒れるその子を彼は先程と同じように倒れないように支え、ゆっくりと地面に降ろす。そして彼はゆっくりと立ち上がり、残りの一人に顔を向ける。
「ひっ!?…ふ、ふん俺は空を飛べるんだ!当てられはずがいない!」
「空を飛べるからなんだというんだ。お前を倒すのに何の問題はない。」
背中に翼を生やしたその子は助けに来た子が届かない高さまで飛んでいる。たしかに普通なら攻撃は当てられないが、その子はそんなこと知らないという風に一歩一歩翼の子に近づく。
「っ!?うわー!!」
「『クラップ』!!」
― Clap! ―
翼の子は近づく彼に怯えながらも、大声を出し突進する。同年代よりも大きな体格の翼の子の突進は重力を伴って速さを増していく。このままでは二人とも無事じゃすまない。僕は思わず悲鳴をあげるが、彼はいきなり翼の子に向かって手を叩く。するとどうだろう、翼の子の体が一瞬痙攣し、失速する。それを彼は地面に落ちないように受け止め、地面に降ろす。
す…すごい!僕と同じ無個性なのに皆をあっという間に倒しちゃった。僕は口を開けたまま驚いていると、彼が声を掛けてきた。
「君、急に横から入ったけど大丈夫だった?」
「う、うん!僕は大丈夫。けどこの子は肘を怪我してる。」
「そうか、ちょっと見せてくれないか。」
彼は話しながら僕といじめられていた子の怪我を診る。僕はそんなに怪我をしていなかったけど、いじめられていた子は突き飛ばされたか肘から血を流していた。彼はその子を連れて水場まで行き、傷口を洗い流す。そして腰に着けていたバックから消毒液とガーゼと大きな絆創膏を取り出す。消毒液を浸み込ませたガーゼで傷口を消毒し、絆創膏を貼る。その手際はしっかりしていて、僕は夢中になって見ていた。そうして手当てを終えると、彼はいじめられっ子にバックから取り出した飴玉を渡す。すっかり元気になったその子は笑顔を浮かべて受け取り、帰っていった。その背中を見送った後、僕は彼に聞きたかったことを尋ねる。
「ねぇ!君すごく強いんだね!一瞬で三人も無傷で倒して。それにさっきの手当てもすごい手際だったよ。」
「ん?あぁ、私はヒーローになる為に鍛えているからな。ちょっとやそっとじゃ負けない自信はあるよ。」
「…………一つ聞いていいかな。君は無個性なんだよね、無個性でもヒーローになれるかな?」
僕はこれまでいろいろな人に否定さてた夢を彼に問いかける。たとえ無個性でもヒーローになれると言い張ってきた僕だけど、心の何処かでは不安があった。無個性は決して個性を持つ者に勝てない。今日だって彼がいなければ僕はかっちゃんたちにボコボコにされていただろう。でも彼なら。無個性でも個性持ちに勝てた彼ならきっと否定しないでくれる!
「テレビやネットで話題になるきらびやかで輝く様なヒーローになる為にはもちろんそれ相応の力と覚悟がいる。彼らのようになるには簡単にはいかない。」
っ!?
あぁ!やっぱり、やっぱり!結局は君も否定するんだ!こんなにヒーロー然とした君でも、なれないってわかっているんだ!
今まで僕の夢を否定してきた人たちと同じような言葉を口にした彼に愕然とする。結局どんなに努力しようとも個性がなければヒーローにはなれないんだ。そう思うと僕の気持ちはだんだんと沈んでいく。つかの間の希望が今、潰えた。耐えきれなくなった僕は静かに涙を流す。どうしよう、このまま帰りたい。僕は顔を俯かせたまま、その場を去ろうとする。
「でもね、たとえ力がなくてもヒーローになれると私は思うんだ。」
帰ろうとしたとき、ふわりと頭を撫でられる。ふと顔を上げると、彼は少し笑いながら僕の頭に手を乗せ、そう言った。
「私はね、ヒーローとは色々な形があってもいいと思うんだ。例えば警察や消防隊、医者なんかは普段表立って活躍することはないけど、事件が起こったときは先頭に立ってヒーローが到着するまで人々を助けたり、避難させたり、命の危機から救っている。それはさ、ヒーローと何ら変わらないと思うんだ。私はね、全世界の人間がその人を否定してもたった一人、ヒーローと呼んでくれるならその人はもう立派なヒーローだと思うんだ。100人救うヒーローも一人しか救えない人間もなんも違いはない。重要なのは困っている人を助けようとする意志と行動だ。」
彼は僕の頭を撫でながらそう言った。彼の言葉と手はとても暖かく、沈んでいた僕を温めてくれた。
僕はずっとオールマイトの憧れ、ヒーローを夢見てきた。けどあの時病院で”無個性”と言われた時から、僕は未来に希望を持てなくなった。それでも、こんな僕でもヒーローになれるとがむしゃらに信じてきた。彼の言葉は、行動はそんな僕を認めてくれた様な気がした。
「僕でも……オールマイトの様なヒーローになれるかな?」
「なれるさ、その勇気を持って夢に向かって努力し続ければ。たとえなれなくても、私がノーマルでもヒーローになれると証明しよう。」
彼は僕が一番に言ってほしかった言葉を掛けてくれた。
「(お母さん、あの時僕が言ってほしかったのは………………。)」
「誰もが!誰かにとってのヒーローになれる!!」
僕はまた涙を流す。けど今度のは悲しみじゃなくて喜びを含んだ涙だった。僕の凍っていた心は彼によって温められ、溶けだした水が涙として流れる。
彼はすでにヒーローだった。だってこんな僕を救ってくれたんだ。
この日、憧れのヒーローの一人に、名前も知らない夜明けみたく明るく闇を照らしてくれる光の様な彼が加わった。