夜明けを歩むノーマルヒーロー   作:双星シグ

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兵士の終戦

あの公園の事件から半年、つまり目覚めてから1年。レントンの出した条件である警備ロボとの戦闘の日が間近になっていた。その日に備え、今日も日課である鍛錬をしようとした矢先、レントンからこんなことを言われた。

 

「君の戸籍が出来た。晴れて君は”三笠 冬扇”として堂々と生きていける自由を得た。君のDNAから君の年齢がおおよそ5歳と証明され、拾われた4月1日を君の誕生日にすると、君はもうすぐ6歳になる。となれば法律に則って君は小学校に通わなければならない。これは日本で生活する人間の義務だからな。いくら君が大人の様な思考、知識を持っていても、こればかりはどうしようもない。そこでだ、今から入学に向けて色々準備をしなければならない。よって今日一日、一緒に準備をする。」

 

朝食の最後の一口を口に入れた瞬間。そう捲し立てられる。当然、口に物を入れているので反論はできない。

まぁ、学校に入るのは別に反対ではないが、そう重要事項をきちんと前もって知らせてくれないかな…。

それから小学校へ通うために必要なことはその日のうちに全て終わらせた。

それにしても学校指定のカバンがランドセルじゃなくて本当よかった。外見の年齢では違和感はないが、中身は前世で1000年以上は生きているから私としてはただの羞恥プレイにしかならないからな。

 

 

 

気づけばもうすぐ夕方に迫るほど時間が経っていた。レントンは寄り道をすると言い、診療所への帰り道とは反対の方向へ進んでいく。しばらくすると大きな産業道路沿いにあるとある研究所へ入っていった。

 

「透田さん、もしかしてここは…。」

 

「あぁそうだ。ここは君が二週間後に警備ロボのテスト実験を行う研究所だ。」

 

見たところ、その研究所はかなりの実績を収めてきたのか敷地は広く、従業員や研究者の数も多い。レントンが受付で誰かを呼び出している中、私はすぐ横にある展示品を見学して時間をつぶしていた。

 

「おぉ、久しぶりだな”スチールトン”。元気にしてたか!」

 

俊英(としひで)!僕はもうヒーローを引退した。いい加減ヒーロー名で呼ぶのはやめてくれ。」

 

「はっ!何馬鹿なことを言ってる。生粋のお人よしのお前がヒーローをやめたくらいでなんか変わると思ってんのか?現に今の医者っていう人を助ける立場にいるじゃないか。」

 

「うるさい。僕はそっちの方が都合がいいと考えたからだ。」

 

「あの…透田さんこの方は?」

 

「ん?まさかお前が今回のテストプレイに参加するっていう無個性のイカレ野郎か?…ははは!!なんだ随分とチビじゃないか!」

 

「俊英!はぁ……すまない冬扇。気に障ったのならこっちが謝ろう。」

 

「いえ、私が小さいのは事実ですし、気にしてませんよ。」

 

「ほう、最近のガキにしてはしっかりしてるじゃないか。遅れたが俺は上杉 俊英(うえすぎ としひで)、ここの研究者兼技術士だ。」

 

受付横のオートロックの自動ドアから出てきたのはボサボサの髪に無精髭を生やしてきれいな作業着をきちんと着た男性だった。会話から察するに二人は旧友の様で、目を合わした途端、すさまじい会話が繰り広げられてた。少し空気になった私が横から声を掛けると、俊英は私に目を向ける。

たしかにこの体(はつうめ)は同年代の体型と比較してもいくらか低いし、細い。それは度重なる虐待といじめで精神的にも肉体的にも危険な状態に陥っていた。この1年弱でいくらか改善したが、未だ(はつうめ)精神(わたし)のズレがあり、実質、半植物状態で無理やり体を動かしている状態だ。その反動で私の昼寝と夜9時からの睡眠が必要になる。このことはレントンには話していないのが、普通の子供の睡眠リズムとそんなに変わらないので気づかれていない。

 

「初めまして、今回のテストプレイに参加する三笠 冬扇です。」

 

「ふ~ん…坊主!ちょっと俺の作業場に来ないか。てか行こう。ほら!」

 

「へ?ちょ!?引っ張らないでください!」

 

「あきらめろ。そいつは常識が欠落しているからな。」

 

 

 

「……思った通り、身長や体形は平均より小さいがそれでもしっかりと鍛えられているな。成長を妨げない程度に筋肉を付けながらも子供特有のしなやかさは損なわれていねぇ。坊主、おめぇどこでこんな見事なトレーニング法を?レンが教えたわけじゃねぇだろ。」

 

「透田さんには一応体のチェックはしてもらっていますが、主に本などで情報を集めて自分なりにトレーニングをしています。」

 

「ほう…素晴らしいな。レンの言うと通りとても5歳とは思えない考え方してんなぁ。こいつならテストプレイしてもいいだろ!」

 

俊英に腕を引かれ、たどり着いたのは彼の作業場だった。彼は着くなり私に上着を脱ぐように指示する。私は混乱しながらも上着を脱ぎ、上半身裸になる。そして彼は私の体を調べ始める。どうやら彼は私の体型があまりにも小さいことに不安を感じたのか、テストプレイの前に僕を調べてみたかったらしい。しばらく私の体を調べて会話をしていく内にそんな不安は消え去り、テストプレイを受けさせてくれる資格をもらった。服を着た私に俊英はテストを行うロボットを見せようとしたが、私はそれを断った。戦闘において情報とは勝敗を左右する重要な要素だが、私はどこか今回の戦闘を純粋に楽しみたいという気持ちがあった。その旨を伝えると彼は何処か嬉しそうに矢継ぎ早に他の発明品の説明をしていく。

しばらくして、帰ろうとしたところに作業場のドアが開かれる。そうして現れたのはおそらく私と同じくらいのとても中性的な子だった。

 

「父上、そろそろ夕餉時だ。不妄語戒。母上の雷を受けたくいないのなら……これは失礼しました。来客がいらっしゃったのですね。すみませんが、夕餉の時間なので父上を迎えに上がりました。上杉 剣士(うえすぎ けんし)と申します。」

 

「おぉ、剣士か。もうそんな時間か…。それじゃあ俺も帰るとするか。坊主、テストの日を楽しみにしてるぞ。」

 

「はいこちらこそ。」

 

俊英と剣士に挨拶をし、私とレントンも研究上を出る。外はもうすっかり暗くなっていた。

 

 

 

診療所に戻った私たちは、お昼に購入したものを整理していく。ふと思い返せば、私は前世では正式に学校に通っていた記憶がない。まぁそれもそうだろう。私は小学校に上がる前に家族で海外旅行をしている途中、乗っていた飛行機をテロ組織に撃墜された。奇跡的に生き残った私たちはそのままテロ組織の拠点に連れていかれ、兵士や慰み者にされた。特に年端もいかぬ男の子はその両方をさせられた。そして私も…。どうにかして拠点から脱出したけれども、待っていたのは人理率いる傭兵隊による殲滅だった。テロ組織はもちろん、私たち人質も皆殺しにされた。人理に名前を奪われ、記憶が半分ほど欠落しているが、それでも残っている中には()()()()()()父親の額に銃を突き付けている光景や、墜落した飛行機で炎に焼かれる母親とその臭い。脱出に成功し喜んだのもつかの間、森を抜けた先に広がる死体と踏みしめた肉の感触。私もあの場所が死に場所かと悟ったが、何を思ったのか人理は私を傭兵団に引き入れた。

私は人理を憎んだ。平和な世界へ帰れる、もう人を殺さずに済むと思っていた矢先、再び戦場(じごく)に引き戻された。傭兵隊に入った私はそれからも人殺しの技術、工作員や衛生兵としての知識と技術、そして人理と殺し合いでは常に私は負け、腕を折られ、そのまま犯される。恥辱や憤怒は憎悪に変わり、それを戦場で発散していた。その結果、私はあの戦争で大虐殺をし、罪人として処刑された。その後は生きながらも死んでいるような化け物……いや、最初から私は()()()()()()()()()だったな。私は幼少期は死臭と硝煙に包まれていた。

だからかこんな私が平和に学校に行けることにどことなく感傷的になる。ヴィランがいる中で真の平和とは言いずらいが、私が前世で望んだ

泰平の世を実際に体験できるんだ。それは私にとってとても喜ばしいことだ。

私がそんな感傷に浸っているとキッチンからレントンの呼ぶ声が聞こえ、私はふと意識を戻す。まだ整理が途中だったが、時計を見ればもう夕飯には丁度いい頃合いだった。私は一度作業を中断し、夕食を取る。

 

夕食を終え、その後入浴し、整理を明日に回した私は重たくなった瞼に従い、ベットに入る。今日はそんなに体を動かしてはいないが、睡魔が強烈に襲ってきたので、すぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

「眩しい…もう朝か?やけに早い気がするが……………っ!?ここは!?」

 

朝日が目に降り注ぎ、その眩しさで目を覚ます。私はたまらず手で光を遮り、目を開けるとそこは私の自室ではなく、草原が生い茂る海に臨む美しい海岸だった。突然のことに思わずポカンとする私だが、すぐさま周りを確認する。するとあることに気付く。

 

「この体は……前世の?なぜだ、ここは現実じゃないのか。」

 

そう私の姿は前世のしかも死ぬ間際の姿をしていた。軍服はボロボロで、胸には穴が開いており、愛刀と愛銃もない。しばらく周りを観察するとどこか見覚えがある気がしてきた。……私の記憶違いじゃなかったらここは私が死んだ場所である。最後の人理との戦いに勝利した私だがその代わりに負った傷が大きすぎた。なんとか終戦から30日くらいは復興のために尽力していたが、日に日に鈍くなっていく感覚に死期を実感し、そして最期の日には今日死ぬと悟った。そして私はあの世界の信陽に支えられながら、ここに来た。最期に私が帰るべき場所は海だと思ったからだ。

ようやくここかどこか思い出した私は何か手掛かりがあると思い、あの崖を目指す。すると、記憶の中では一面草原だったはずが道が出来ていた。その道に沿って私は進む。次第に白い百合がちらほらと咲いているのが見える。足元からふと顔を上げるとそこには錨を模した墓石があり、数えきれないくらいの白百合が供えられていた。私は墓石に書かれている文字を読む。そこには驚くべきことに日本語でこう書かれていた。

 

「『人類史最後の英雄そして新類史最初の英雄として三笠 冬扇ここに眠る。』……これは私の墓なのか?」

 

私が疑問に思っていると後ろから足音が聞こえる。油断していた私は警戒しながら後ろを向く。そこには白髪が所々目立つ少し草臥れた壮年の男性が花束を抱えて歩いてきた。どうも危害を加える様子のない雰囲気の男性に私は少し呆けた後、姿勢を正し、彼に声を掛ける。しかし、私の声が聞こえないのか男性は私の横を素通りする。あまりにも行動に私は彼の肩に触れるが、その手は彼をすり抜けた。

 

「(っ!?………まさか今の私は霊体なのか!)」

 

この体が霊体ならば、彼が私を無視していたのではなく、初めから見えていなかったのだろう。彼は慣れた手つきで花を供え、手を合わせる。実感はないが自分の墓に目の前で手を合わせられるとは何とも奇妙な気持ちになる。まぁ、確かにこの体の私は死んでいるのだから間違いではないのだが……。彼の黙祷を横から見る。長い祈りの末、彼は目を開けて墓に独り言をこぼす。

 

「お久しぶりです三笠さん。あの聖戦から随分と長い時間が経ちましたが今でも空の上から私たちを見守ってくれているでしょうか。あなたは否定するでしょうが、あの戦いで私たちの為に戦ってくれてましたね。そして戦いの後も私たちの為に新たなる国の再建の手助けもしてくれました。そのおかけで私たち新類は新たなる歩みを進めることが出来ました。そしてあなたが亡くなってから20年余りを掛けて、ようやく平和な世界を築くことが出来ました。これもあの時、あなたの言葉が行動が、皆の心を動かしたからです。本当に感謝します。

私はこの通りもう老けてしまいましたが、皆に支えられて今は総統としてすべての新類を導いています。正直、未だ何が正しいかわからない未熟者ではありますが、あなたのように皆の支えになれるような存在になれたらっと思っています。………やはりだめですな、未だに泣き虫は治りません。」

 

「おとーさん!はやいよー!」

 

「あぁすまないね、小春。」

 

「あなた、先立つのも分かりますが、せめてあなたの恩師への挨拶は家族全員ちゃんとしなければ。」

 

「そうだなぁ………では改めて、三笠さんありがとうございました。」

 

「ありがとうございます!」

 

「ふふふ、元気がいいわね。今日の夕飯は小春の大好きなハンバーグにしましょうか。」

 

「ハンバーグ!?やったー!おとーさん!おかーさん!早く行こう!」

 

「こらこら、ゆっくりと歩きなさい。まったく……………。三笠さん、あなたの夢見た泰平は今目の前にあります。これからもこの平和は保ち続けますのでどうか見守っていてください。それでは。」

 

 

 

「ありがとう………そしてさようなら、初梅 信陽。」

 

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