「手足の震えなし、顔色よし、目の焦点もよし、心拍数は少し高いが戦闘の前だ。当然、緊張はするだろう。よし、体調に問題はない。テストプレイに挑んでも問題はないが相手はロボットだ、手加減なしで君に攻撃をしてくるだろう。もう一度確認するが、本当にテストプレイに挑戦するかい?」
「はい、そのために今日まで出来ることをしてきました。今更引けませんよ、ヒーローになる為には。」
「おぉ、言うね。それならこっちも遠慮なしにやるぜ。今回の試作は過去のデータの中でもかなりの実力を持つヴィランを想定した戦闘プログラムを組んでる。並みのヒーローでもなかなかに苦戦するレベルだ。別にそれでもいいだろ?」
「はい、そうでなければ意味はありません。私が目指すのはさらに向こうですから。」
「とはいえ、こちらが危険と判断したら即刻中断するぞ。」
平和になったあの世界を見てから2週間後、つまりテストプレイ当日。私は朝から研究所の戦闘実験棟で戦闘前の準備を行っていた。あの光景を見てから私は何処か背負っていたものをようやく降ろせた感覚がした。私は無意識に未だに自分が死んでいると思っていたのだろう。しかしあの信陽の笑顔を見て、私は吹っ切れた。もうあの世界に後腐れはない。今はこの世界を懸命に生きよう。
そして今、テストプレイ前にレントンによるメディカルチェックを受ける。前日は鍛錬せず、調整をしたので体調面では問題ないが、どうやら柄にもなく緊張していたらしい。
「そういえば坊主、急ごしらえで用意したとはいえ何のギミックもない刀と腕と足の装備だけで大丈夫か?渡してたった一週間しかたっていないだろ。しっかりと扱えるのか?」
「それに関しては問題ないですよ。何の癖もないので、すんなり馴染んでます。グローブやブーツは軽いですがしっかりしていますし、刀も私の体格に合っていて、上等なものなので手早く馴染みましたよ。」
「そうか。手足の装備は俺が昔作ってもんだが、今でもしっかりと定期的に整備してるし、その刀は剣士が鍛えたもんだから。あいつは天性の鍛冶職人でな、個性云々に抜きにしてもいいもん作り上げるぜ。安心して使ってくれよ。」
「恐悦至極。三笠殿は刀剣の心得がおありなのでどんな刀でもすぐに使いこなしているからです。しかし今回の相手は機械です。至険至難。刀で斬るのは至難の業です。」
「そうだね。けれでも刀は攻撃だけじゃなくて防御や牽制にも活用できる。必ず役立てるよ。」
今回のテストプレイにおいては流石に生身では厳しいため、俊英から全身のプロテクターと手足の装備。俊英の子供の上杉剣士が鍛えた脇差を身に着けて挑む。前世で私が振っていた野太刀よりもはるかに短いが5歳にはちょうどいい。
― Jriririririri!! ―
しばらく四人で会話をしているとチャイムが鳴りだした。どうやら対戦相手の準備が終わったようだ。私は三人と別れ、ゲート前で待っていると耳の通信機から俊英の声が流れてきた。
「『聞こえているか坊主?もう一度ルールを伝えるぞ。制限時間は20分のサバイバル系式の実戦。お前は試作品についている停止ボタンを起動させて止めたら勝ちだ。そして戦闘不能になったりドクターストップがかかったら敗北だ。フィールドは被災した市街地。瓦礫や炎が上がっている箇所があるから地形を利用して戦うといい。
いいか、試作品は対ヴィラン戦を想定して攻撃してくる。機械だから精神的な揺さぶりも意味をなさない。だがな、俺は大人でも厳しいこの無理難題をお前なら超えられると思っている。頑張ってこい!』」
「当然ですよ。ヒーローになる為にはこんな所で立ち止まっている暇はありませんよ。常に一歩ずつ進んでいきます。」
「『へっ!そうこなくちゃな。それじゃ、準備はいいか?…ゲートオープン!幸運を祈っているぜ!』」
ゲートがゆっくりと上がっていく。実践を想定した市街戦、ノーマルの私に配慮した結果なのか小さな体を隠せる程の瓦礫が散乱している。相手がどんな形状、武器を持っているかわからない内は慎重な行動をとるべきだ。ほどなくして大きなゲートが上がり切り、ついに待ち望んだ戦闘が始まった。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
ゲートを潜り抜けた私は瓦礫に身を隠しながら、炎で赤く染まった市街地を進む。そして標的に注意しながら走り回り、街の地形を記憶していく。標的と対峙した際に少しでも地の利を得るためだ。そうして走り回っていると町の中央付近で標的と思われる物体を視認した。咄嗟に物影に隠れ、標的を確認する。
青い丸みのあるボディに四本の脚が生え、足先には車輪になっているが、障害物を乗り越えるために車輪が割れ、蜘蛛のように移動している。そして後ろには屈めば人一人入れそうなポットがついていた。
「……もしかしなくても”タチコマ”だよな…。」
そう、この研究所の試作品は私は前世で読んでいた作品”攻殻機動隊”に登場する人工知能多脚戦車、通称”タチコマ”と呼ばれているものに似通っていた。ただしこちらのタチコマの目は一つしかない。
この世界で目覚めた際、勉強だけではなく他に私や人理のようにこの世界に渡ってきた物や人がいないか情報を収集していたが、結果は芳しくなく、歴史上の分岐点では異なる人物が同様な事件や作品を残しているだけで、ことSFやファンタジーなどのジャンルも作品は超常の力の出現により衰退し、数は激減した。実際にこの世界に来た際、パソコンで”NARUTO”と検索してみたが、ヒットしたのは鳴門巻きや鳴門海峡に関するものだけだった。今まで私の世界の痕跡などこれまでなかったはずだが、急にここで出てきたことに私は驚いていた。しかしいくら形状が似通っていても行動まで同じとは限らない。私は思考を切り替え、物影から戦車の行動パターンを観察する。
しばらくして戦車の大まかな行動パターンを掴んだ。戦車は一定間隔で止まっては動き、止まっては動きを繰り返していた。おそらく標的である私を索敵するための行動だろう。そうして戦車はだんだんと私のいる建物付近まで近づいてきた。私は物音を立てぬようゆっくり身を屈めて息を潜める。おそらくばれるだろうが、威嚇射撃程度の攻撃なら躱してから近づいて目を破壊すればいい。
「…スキャン開始……10時の方向にターゲット発見。砲撃開始!」
「っ!?マジかよ!!」
なんと戦車はいきなり、砲撃をためらいもなしに私のいる瓦礫向かってに撃ってきた。砲弾の威力が不明のため私は全速力で物影から向かいのビルへ走り出す。
― BOMB!!! ―
後ろから凄まじい爆音が響き渡る。ちらっと後ろを振り向けば、私がいた辺りは破壊され、砂煙が立ち上っていた。とんでもない。いくらヴィラン相手立ちはいえ、初弾から殺しにかかるのはありえない。
「ターゲット確認。機関銃、掃射。」
まんまと物影から引きずり出された私に向け、こちらが本命と言わんばかりに機関銃を撃ち込まれる。事前のブリーフィングでは使用する弾丸はゴム弾だといわれていたが、いくらプロテクターを装備していても命中すれば悶絶、当たり所が悪ければ命を落としかねない。とにかく私は掃射される攻撃から全速力で躱し、ビル影へ。幸いゴム弾に瓦礫を破壊するほどの威力はなく、怖いのはあの徹甲弾だけだ。私は戦車に見つからないように二階に上がり戦車の斜め後ろにあたる窓から標的を確認する。
砲撃と機関銃による砂煙で見えにくくなってはいるが、なぜか戦車はその場から動かずにいた。私は周りを確認し、反対方向に看板を見つけると、野球ボール大の瓦礫を手に取り、その看板目掛け思いっきり投げる。そして同時に窓から見えないよう屈みながら走る。
― カン! ―
投げた瓦礫はそのまま看板に当たり、金属音を響かせる。戦車は即座に音が鳴った方に車体を向けると、機関銃を発砲する。結果的に私は戦車の後ろにいて、更に発砲音が響き渡って周りの音は聞こえにくくなっていた。
絶好のチャンス!私はそのまま窓に足を掛け、戦車目掛け飛び降りる。狙うはメインカメラ。手始めにそこを破壊すればいくらかこちらに勝機が見えるだろう。脇差を抜き、切っ先を下に向け、左手で柄を握り、重力を利用してしっかりと貫けるよう右手のひらを柄頭に当てる。
目標まで残り僅かといったところで戦車は突然、発砲を中断し、車体を横へ躱した後、左腕を私に向ける。
「しまっ!?」
― BANG!!! ―
戦車の左手の中央には右手の機関銃よりも大きな銃口があった。私は咄嗟に頭と胸部を腕で守る。一発の銃声が響いた瞬間、全身に強い衝撃が走った。
「(散弾銃かっ!?)」
空中で、しかも近距離で散弾を食らった私はそのまま後方へ飛ばされ、そのまま瓦礫にぶつかる。ゴム弾といえどあくまで殺傷能力を下げるためのもので、いくらプロテクターを装備し、両腕で顔や胸を守れても、散弾と瓦礫に叩きつけられたおかげで全身に激痛が走る。
更に戦車は追撃をするためこちらに近づく。私は全身の痛みを無視して立ち上がるが、当然、戦車の方が速度が上の為、すぐに追いつかれる。
「(さっきと同じ速さで走れば抜けられる。今は痛みを無視しろ!何とか立て直すんだ!)」
機関銃による攻撃が始まる前に、私は死に物狂いで走る。
― bang! ―
「かはっ!?(機関銃をセミオートで偏差射撃だと!?こいつ学習している!)」
現実は無情にも私の覚悟をあざ笑う。戦車から放たれた一発の弾丸は寸分の狂いもなく私の脇腹に直撃した。私は肺の空気を吐かされ、倒れこむ。今度こそ終わりだ、もう体は動かない。目の前が白黒に点滅し、意識は混濁する。そんな状態の私に戦車は近づき、私の頭に銃口を向ける。
「(…っ!ここで終わってたまるか!ここで死んだら信陽との誓いが果たせないだろう!!)」
私の意志とは裏腹に体は動かない。それでも勝機を見出すためには地を這いながらも、前に進むしかない。
愚かだろう。滑稽だろう。だが、今の私は弱者だ。あの時と同じ様に思い出せ!弱者の武器は何だ。愚者の武器は何だ。諦めずにただ進むことだろう!
奇跡をねだるな。勝ち取れ。さすれば与えられん!
― ガクン! ―
命を懸けた戦いにおいて力の優劣をひっくり返すことができる要素がある。それは運だ。元寇の戦いにおいて二度も神風によって元軍が撤退したのも。舩坂弘軍曹が重傷を負いながらも蘇生し、米軍の弾薬庫を爆破できたのも。一言でまとめるにはあまりにも暴論だが、その者が持つ運によって奇跡とも言える事象が起こった。
そしてそれは今、この場で起こった。突如として戦車が動きを止めたのだ。足を四方に広げ、両腕はだらんと下がっている。見るからに何らかのトラブルにより電源が落ちた状態だ。
チャンスだ!私は戦車が再び動き出す前に悲鳴を上げる体に鞭を打ち、連絡橋の架かった病院跡へ逃げ込んだ。
しばらく病院内を探索して応急処置キットを発見した私は傷がひどい箇所を手早く手当てしていく。プロテクターのおかげで大きな怪我はないが最後に撃たれた脇腹の内出血がひどい。キットに入っていた薬品を塗り、包帯で覆う。処置が一段落したら状況を整理する。
前世とは違い生身の体の為、正確ではないが制限時間の20分は優に超えているはずだ。そうじゃないしてもレントンから中断せざるを得ないと判断する場面はいくつもあった。しかし通信機からは連絡はなく。こちらからかけても砂嵐しか聞こえない。明らかに異常事態が起きている。この研究所を陥れるためなら情報でも抜き取り、公表すればいいだけの話。考えられる可能性として、どうしても私を殺害したい人物の犯行…。
「(
私の脳裏に一人の男の顔が浮かび上がる。あいつは人の心を掴み、味方につけるのが得意だった。すでに何人かを引き入れ、この研究所をハッキングしている可能性は十分にある。戦車の動きが止まったのは本当に奇跡だった。あのまま撃たれていれば私は死んでいただろう。
………このままここで考えても仕方がない。ようはあの戦車を破壊すればいい。十分に休息をとった私は周りを警戒しながら外を目指す。
「ターゲット発見。砲弾発射。」
「チッ!玄関に陣取られていたら世話ねぇな!!」
エントランスホールに差し掛かった瞬間、外から機械特有の音声が聞こえてきた。出入口に視線を向けると、あの戦車がこちらに向けて徹甲弾を撃ってきていた。私は爆破に巻き込まれないように連絡橋へ走る。とにかくまた戦車の裏を取らなければ勝機はない。しかしこのまま近づけばカウンターを食らうしかない。今はただ逃げながら戦車の攻略法を考えなければならない。
「装填完了。目標、連絡橋支柱。砲弾発射。」
しかし、戦車はこうなることを初めからわかっていたかのように連絡橋の支えを破壊した。私は慌ててUターンしようとするが、橋の崩落の方が早く、私はそのままあっけなく落ちていった。
上杉 俊英 Uesugi Toshihide
性別:男性
年齢:40代
身体:イメージモデル『キングダムハーツ』版シド
個性:収納
備考:国営のサポート品研究所の職員。かなりの変人。
上杉 剣士 Uesugi Kenshi
性別;不明
年齢:5歳
身体:瞳は蒼 イメージモデル『ペルソナ4』白鐘直斗
個性:鍛冶屋
備考:三笠と同年代の性別不詳。性別を聞かれても微笑むだけ。