夜明けを歩むノーマルヒーロー   作:双星シグ

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理想への代償

― beep! beep! beep! ―

 

 

 

「何がどうなっている俊英!さっさとゲートを開けろ!!」

 

「今やってる!…ちっきしょ!主導権を持ってかれた!ハッキングされてる!!」

 

「何だと!?ここは政府指定の研究所だろ、セキュリティーに関しては政府のものと相違ないレベルだろう!」

 

「こいつはそれをいとも簡単に破りやがった!そして物凄いスピードで情報で書き換えられてる!AIや人の手じゃありえねぇ、何かしらの個性による攻撃だ!研究所総出で対応してるが尻尾すら掴めねぇよ!」

 

「情報系の個性でトップクラスの犯行…まさか国際指名手配レベルの犯行か!?」

 

「あぁ!それも複数でだ!確実にあの坊主を()るつもりだぞ。変人の多いハッカーが組むほど、あの坊主は何かに追われてるぞ」

 

「緊急停止は!それは別系統じゃないのか!!」

 

「もうとっくに押してる!!どうやったかわからんが、あれは独自のネットワークを構築して管理してる。直接本体に接続しない限り絶対にハッキングできるえわけがねぇ!!」

 

「驚天動地!この施設はゲートにDNAスキャンを行っています。登録しているDNA以外は決して入れない仕様です。初めて見学する方にもDNAの採取、登録を行っています。更には開始から様々なカメラで会場内を監視していますが、異常は全く観測されてません。この実験棟は何層にも隔離され、換気装置にさらセンサー等を配備されていますが。そこからも異常は発見されてません!」

 

モニター室は非常事態を伝えるハザードランプと警報がけたたましく鳴り響く。

モニターには人工知能搭載の多脚戦車、通称『タチコマ』が散弾銃を三笠に向けて放ち、三笠が吹き飛ばされる光景が映し出されていた。僕はその時点でテストプレイの中止を俊英に伝えようとしたが当の俊英は冷や汗をかき、必死の形相でキーボードを操作していた。僕が不信に思い俊英に訳を聞こうとしたとき、突如として警報が響き渡る。瞬時に異常事態と察した僕は救助に向かう為、俊英に強く檄を飛ばす。しかし、帰ってきたのは最悪の返答だった。事もあろうがこの研究所がハッキングされると言う事態だった。

僕はそっちの方面の知識はあまりないが、昔、俊英からこの研究所は政府の厳しい審査をクリアし行政府と同様のセキュリティを設けていると聞いたことがある。政府は情報系個性保持者を中心に情報系関連の資格者や詳しい人間で構成されたセキュリティチームでハッキング等の対策を行っている。この研究所も同様に情報系個性保持者を何名かハンティングを行い、研究所の職員全員に講習や資格取得などを義務化している。それゆえにこの研究所のセキュリティは堅牢だった。

 

― bang! ―

 

銃声が響き、僕は慌ててモニターを見る。そこには吹き飛ばされた先で立ち上がり、逃げようとする三笠の脇腹に弾丸が撃ち込まれる映像が映し出されていた。傷だらけの幼い体に追い打ちをかける様に撃ち出された弾丸は彼の体をいとも簡単に吹き飛ばしてしまう。倒れてしまった彼は意識はあるようだが、起き上がれず地面を這いながらも逃げる。限界が近いのだろう。このまま続ければ彼は本当に死んでしまう。

しかし現実は非常だ。タチコマは三笠の頭に銃口を向ける。このまま発射されればたとえプロのヒーローでも死んでしまう!

 

「俊英ー!!!」

 

「こんにゃろ!間に合えー!!!」

 

僕は再度俊英に檄を飛ばす。それに答えるかのように俊英も叫び、ボタンを叩く。僕らの必死の願いは届いたのか、タチコマはガクッと全身の力が抜けた様に運転を停止した。三笠はそのチャンスを逃さぬように動かないはずの体を無理やり起こし、無人の病院へと逃げ込んだ。事前のブリーフィングではもしもの時に備えて病院に応急手当キットが配置されていると説明を受けていた。三笠にはこの一年間で応急手当の方法などは仕込んでいるので使い方がわからないということはないだろう。

 

「俊英、状況は?」

 

「なんとかタチコマの電源を落として止めたが、未だこの研究所はハッカーから攻撃を受けてる。今、外部と連絡を取り合って立て直している最中だ。それと警察にも通報してハッカーの位置を逆探知できないか試してもらっている。」

 

「警察に連絡しているということは今回のテストプレイのことも調べ上げられるが、研究所としてはそれはしっかりと対応しなければならない。万が一にも外部に情報が漏れるのは避けたいが…。」

 

「心配するな、通報と言ったが連絡先は口の固い知り合いの刑事だ。それに政府レベルのセキュリティが突破されましたなんて市民の不安を煽るようなことは警察も政府も漏らしたくねぇよ。」

 

俊英の言う通り、今回の事件は政府も警察もあまり波風を立てたくないだろう。責任者である僕や俊英に何らかの罰が下るだけで表立って公表する真似はしないだろうが…。自業自得とは言え、政府の役人から小言をこれでもかと言われる未来を予見してため息をつくしかなかった。

 

 

 

 それから数十分が経ったが、未だ俊英はハッカー達と攻防戦を繰り広げていた。何もできない僕はせめてもとモニターを監視を続けた。カメラをすべて病院の入り口を映していたが、依然として三笠の姿は見えない。あれだけの攻撃を近距離で喰らったんだ。たとえプロテクターを付けていたとしても、気絶しなかったのは称賛に値するだろう。恐らく病院内で体を休め、回復に専念しているのだろう。無線も砂嵐が流れ、声など届かないだろうが、三笠も異常事態だと理解しているはずだ。

ふと病院の大きな入り口を映したモニターに目をやると画面端に何かが横切る影が見えた。

 

「ん?…何だこれ。」

 

― beep! beep! beep! ―

 

「っ!?何が起きた!」

 

「き、吃驚仰天…!?主電源を落としたはずのタチコマが動いています!」

 

「馬鹿な!?エネルギー供給してないぞ!動くはずがない!!」

 

僕が画面端に映る影を見つけた瞬間、またしてもハザードランプと警報が鳴り響く。モニターに映っていたのは電源を入れていないはずのタチコマが動く姿だった。

 

「どうなってやがる!?絶対に動くはずがねぇ!!」

 

「外部との干渉がないはずが動いている…。俊英、タチコマに直接操縦できる機能はあるか?」

 

「…ある事にはあるがこの厳重のセキュリティで何も引っかからなかった。それにエネルギーの供給もしていない状態で動かすことはできない。人が操縦している可能性はありえない。」

 

「人でなくてもいい。何かを介して直接動かしている可能性もある。もう一度映像を洗い直すぞ」

 

「曇華一現!連絡橋に三笠殿の姿を確認!現在タチコマに追われていますが、無事です。」

 

僕と俊英は剣士の言葉に反応し、慌ててモニターを見る。そこには応急手当の包帯を巻いているものの、タチコマの銃弾から逃れる三笠の姿があった。僕たちは三笠が無事であることに安堵した瞬間…

 

 

― BOOOOOOMB!!! ―

 

 

油断したところに耳をつんざくような破壊音が鳴り響く。タチコマが三笠のいる連絡橋の支えを破壊し、橋を落としたのだ。三笠は急いで戻ろうとするが、間に合わず崩れ落ちる橋に巻き込まれてしまった。

その光景をば僕たちはただ呆然に見ることしかできなかった。

 

「俊英…AIはあそこまで複雑な行動ってできるものなのか?」

 

「学習次第ではできないこともないが、今回のものはそこまで学習させてねぇし、この短期間でそこまで学習できるはずがねぇ…。まず目標の確保を優先して真っ直ぐ動くことしかできねぇはずだ。あの動きは確実に人の手によるものだ!」

 

― riririririririring! ―

 

「っ!?…あぁ俺だ。何……?そうか、助かった。」

 

「俊英、誰からの電話だ?」

 

「件の刑事からだ。ハッカー達の逆探知が成功したらしい。今、世界中のヒーローや警察と協力して一斉検挙することになった。物の数十分もすれば攻撃もやむだろうが……未だこっちの謎が解けてない。今タチコマがどうやって、誰に操作されているか探し出さないとあの坊主は未だ危険な状態だ。」

 

三笠の無事をできた直後にまた見えなくなってしまった。しかも今度は橋の崩落に巻き込まれるという生きているのかも分からない状況だ。助けるべき人がいるのにも関わらずただ祈ることしかできない。それは元ヒーローだった僕にとって何よりも耐えられない屈辱だった。

 

― Whiiiiiiiiizz! ―

 

モニターに映る落ちた連絡橋は未だ土煙を轟々と上げる中、突如として何かがタチコマに物凄いスピードで向かっていく。それはタチコマのボディに当たるとボディを凹ませた。タチコマを急いで右手の機関銃を次々に投げられる物体をに向け撃ち落としていく。

 

「これは三笠が…?」

 

「あの橋から瓦礫が投げられてんだ。そんな奴、坊主以外に誰が出来やがる。」

 

「唖然失笑…。これは人が投げられる速度のものなのですか?タチコマが処理しきれないほどの数ですよ!」

 

「見ろ!一発がカメラに当たるぞ!」

 

土煙から放たれる瓦礫の弾丸はとても人間が投げれるスピードと物量とは思えないものでタチコマを圧倒してゆく。タチコマも応戦するが開始から何発も機関銃を撃っていたため、残段数も残りわずかになっているのだろう。一つの瓦礫に対し一発ずつ撃ち落としているため、時間が掛かり、撃ち漏らしが何か所もボディに当たりタチコマを破壊してゆく。それも相まってか、戦闘において重要ともいえるメインカメラへ向かう瓦礫を撃ち漏らしてしまった。しかし…。

 

「っ!?こいつまたあり得ない動きを!」

 

あろうことかタチコマは向かってきた瓦礫を体をずらすことでカメラへの衝突を掠る程度に流したのだ。やっと訪れたチャンスも潰えてしまったと思ったその時。

 

「『その首もらった!!』」

 

タチコマのカメラは瓦礫を避ける為にそれに視線を追っていた。その瓦礫の陰から現れたのは所々に血を流す三笠だった。陰から突如現れた三笠にタチコマは対応できずにそのままメインカメラに刀を突きたてられる。

カメラをやられたタチコマは混乱したかのように体を振り三笠を落とすも、三笠はタイミングを見計らい突き刺した刀を持ってタチコマから離脱する。

 

「『くっ!』」

 

しかし崩落に巻き込まれた傷が痛むのか、三笠はそのまま地面に膝を付く。

 

― beep! ゲートロック解除 ゲート開きます ―

 

「『上杉さん!こちらセキュリティ班、施設のコントロール権の奪取に成功!今、実験棟に救助隊が入っていきます!』」

 

「よくやった!早く坊主の元に向え!重症だ!」

 

「よし!俊英、応急処置ができる部屋があるか!こっちで粗方処置を行う!」

 

「っ!?タチコマが再び動き出しました!!」

 

さっきまでノイズしか流れなかったインカムに機械音が響き、そののち研究員らしき音声が流れる。その内容はハッカーから制御権を勝ち取り、コントロールが戻ったと言う吉報だった。私はいち早く三笠の処置を行うため、俊英にどこが処置を行える場所を聞こうとするが、またしてもタチコマが動き出してしまった。

 

「三笠!聞こえるか!今すぐにそこから離れろ!!」

 

「まさか、まだセンサーの一部が動いているのか!?坊主!いいからそこから逃げろ!!」

 

「『ハァ……ハァ……ハァ……うご…けっ!

っ!?………………うぁ!!』」

 

しかし、度重なる負傷に三笠の体は限界を迎えてしまった。インカムから聞こえるのは今にも消え入りそうな呼吸と声がそれを物語っている。そして動き出したタチコマは三笠目掛けアームを振りかざし、三笠を掴み上げると思いっきり叩きつける。そうして再度三笠を掴み上げると……。

 

― BAANG!!!!! ―

 

今度は至近距離で散弾銃を三笠に向け発砲し、崩れた連絡橋の瓦礫へ吹き飛ばす。散弾銃の至近距離による発砲とその勢いのまま瓦礫に叩きつけられる衝撃で三笠は気を失ってしまった。そして今度こそ三笠の息の根を止める為、タチコマは傷ついたボディを引きずりながら三笠の元まで寄り、その頭に銃口を突きつけた。

 

「起きろー!!!三笠!!!!」

 

 

 

 

 

― Baaaaang!!!!!! ―

 

僕の怒号にも近い叫びは三笠の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体が悲鳴を上げている。とてつもない痛みが体を走る。目の前は白黒に点滅し、意識は曖昧に堕ちる。

瓦礫に巻き込まれながら落ちた際、私はあの日の”あいつ”と対峙したときと同じ感覚がした。それはここで死んでたまるかと言う動物本来がもつ生存本能、生き残るための最期の力。私はそれを持ってあの戦車に瓦礫弾を投げ、その陰に潜み、戦車の目を破壊した。しかしこの小さすぎる体は地面に着地した途端、その力が底を突いてしまった。そこから猛烈な痛みと倦怠感、そして体と心の剥離。インカムから聞こえる声も何を言っているのかわからない。

すると不意に体が宙に浮く。言うことを聞かない体を無理やり動かし後ろに目をやると、そこには戦車が私の体を持ち上げていた。そして思いっきり振り下ろされ、地面に叩きつけられる。全身走る衝撃と痛みが更に上乗せされる。ついに動かなくなった体はまたしても宙に浮く。全身の力が抜けてしまった私は何もできずにただぼんやりと空に視線を向ける。次の瞬間、これまでよりも強い衝撃が私の体に放たれる。そうして私はそのまま吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられる。焦点が定まらない目で最後に見えたのは、一歩ずつ歩む戦車だった。

 

「(私はこのまま死ぬのか?約束も守れるまま死ぬのか?駄目だ意識が遠のく……。)」

 

精神世界に海に落ちる私。水面に映る光がどんどん遠くなる。私は裸のまま暗い海の底に沈んでゆく。

 

 

 

 

 

 思い出して提督…

 

         声が聞こえる

 

     思い出せ主…

 

           懐かしい声が聞こえる

 

      思い出してください…

 

                優しい声に包まれる

 

    『私たちは今も貴女の中にいて、貴女を支えています』

 

『だって、痛いのはいやじゃん?…ラブ アーンド ピースだ』

 

『人は弱い

その弱さ故に時に矜持を捨てた行動をとる事もあるだろう

だがそれが何だと言うのだ。例え千の挫折を突きつけられようとも生き方を曲げる理由にはならない…光に向かって一歩でも進もうとしている限り人間の魂が真に敗北する事など断じて無い。』

 

『世界は光と闇でできている。切り離せないんだ』

 

『闇じゃない!心は弱いかもしれない。闇に負けるときだってある。でも、闇の奥には光があるんだ…心は怒りや憎しみだけじゃない。いろんなものがつまってるんだ』

 

『化物を打ち倒すのはいつだって人間だ』

 

『人間が人間たらしめている物はただ一つ己の意志だ…人間は魂の 心の 意志の生き物だ』

 

『背中の傷は剣士の恥だ…生き恥をさらすぐらいなら死んだ方がいい…世間で どう言われてるかは知らんが おれは おれの信念に後悔するような事は何一つやっちゃいねェ! これからもそうだ』

 

『"最強の剣"とは…守りたいものを守り 斬りたいものを斬る力 触れるものみな傷つける様な剣は私はね…"剣"だとは思わない…

いいかい 世の中にはね何も斬らない事ができる剣士がいるんだ』

 

『だいじなのはぎりのにじである。しぬべきにあたってそのしをかえりみず、いきるみちにおいてそのめいをまっとうし、しゅじんにさきだつ、これこそもののふのほんいである。…わたくしはくにをとるかんがえではなく、のちのしょうりもかんがえない。さしあたってのいっせんにかつことをこころがけている。』

 

『ワシのこの肩に、罪も希望も乗せて歩もう…かつて一人の臣が、その肩に仔を乗せたように!…三河の小さな子がここまで育ったように、人よ絆をあびて大きくなれっ』

 

『復讐に心を奪われた者には 見えなくなるものがあります。それがこの結果につながっただけですよ。

正しき道とは、誰かが作った道です。その賢人の道に答えが無いのなら自ら作ればいいのではありませんか?』

 

『僕に挑むなんて、英雄にでもなるつもりかい?

でもね、英雄とはただなら無い逆境の中で、事態を打開する者を指すけれど、

そもそもその環境自体を未然に防ぐことが理想であって、

本質的な世界の総意は英雄の出現そのものを否定することにあるんだ。

事後の英雄に万劫の価値があると思わないことだね。』

 

『立って歩け…前へ進め…あんたには立派な足がついてるじゃないか。

オレたちは、悪魔でもましたや神でもない。人間なんだよ…たった一人の女の子さえ助けてやれないちっぽけな人間なんだ‼』

 

『うろたえるな!思考を止めるな!生きることを諦めるな!… 世界は不完全だ…だから美しい…。 理想とか綺麗事と言うが…それを成しとげた時それはただの”可能な事”になり下がる…理想を語れよ…理想を語れなくなったら人間の進化は止まるぞ…。』

 

『大切なのは力なんかじゃない…もっと大切な…誇り高き魂だ!

人を助けるのに理由がいるのか?』

 

『力なくては何も守れはしない……自分の身さえもな

悪いが俺の魂はこう言っている…もっと力を』

 

『斬れぬものなど、あんまり無い!

空気を斬れる様になるには五十年は掛かると言う。雨を斬れる様になるには三十年は掛かると言う。時を斬れる様になるには二百年は掛かると言う。……先は長いなぁ。』

 

『真の自分と対話し和解すること。これが今の貴方が積める善行よ。

任務だったから。は罪の免罪符にはならないのよ。

 

 

 

『君に名前を贈ろう。姓は私で、名は君の部下たちからだ。この名前にはここにいる者たちの祈りが込められている。それは必ず君を守護し、進むべき道に導くだろう。この名が君の宝となるように…君は”三笠 冬扇”

沢山の仲間に囲まれ祝福された唯の人間だよ』

 

『これまでの道は決して無駄ではなかった。その轍は俺が人として生ける証だ…これは俺の真だ!』

 

『まだ足搔くか…何度でも倒そう、そして証明しよう俺こそが金城”@@”であると!』

 

『そうだ、”お前は”金城”@@”だ…しかし金城”@@”はあの時死んだ!”兄”を切ったその時に!目の前にいるお前はただの亡霊だ!俺は多くの縁を結んだ。敵も味方も友も…そのすべてが俺を俺たらしめる!俺の名は”三笠冬扇”!ただの人間だ!』

 

『だからおねがい…ぼくのそんざいしょうめいを……”こんなぼく(無個性)”でも…だれかをすくえたあかしをっ!』

 

 

 

「…懐かしい声だ……。前世の、私を導いてくれ者たちの言葉……半身である金城”@@”の怒り………自分自身で建てた誓い…………そして

涙を流す信陽の願い…。

 

 

ここで折れる訳にはいかないだろう!

ここで終わる訳にはいかないだろう!!

ここで死んでしまう訳にはいかないだろう!!!」

 

湧き上がるのは自分への怒り。込み上げるのは自分の不甲斐無さへの悔しみ。この体に力を与えるのは今まで支えてくれた者達からの激励。そしてこの背中を押すのは助けを求める者達の声。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

湧き上がる力は全身へと巡ってゆく。剥離していた体と心が強く結びついていく。

 

「戦場の 海を進むは 三笠の(ふね) 我が心臓は 消して潰えぬエンジンなり!

機関始動(エンジン・オン)』!!

 

心臓がある位置の左胸から緑の線が放射線状に走る。それはまるで電子回路のよう何十本も枝分かれし全身へと張り巡る。そして線の始点から黒一片の五弁桜が咲く。起源である花に大切な部下を象徴する桜。そして黒くなった一片は復讐者である私自身を表す。これは私が前世で持っていた魔術刻印。私は即座に全身に肉体強化の魔術を掛け、意識を浮上させる。

 

 

 

― Baaaaang!!!!!! ―

 

目を覚ました途端に、耳に響くのはけたたましい銃声音。瞼を開けると戦車が私の頭目掛けて発砲していた。

しかし、魔術によって強化された私の体ではゴム弾程度では全く歯が立たなかった。ゆっくりと起き上がる私。戦車は私に何発も発砲するが、びくともしない。

やがて生き物の様に戦車は距離を取ると大砲を私に向け発射した。しかし私は向かってくる大砲に左腕を向ける。

 

― BOOOMB!!! ―

 

大きく爆発する砲弾。しかし、私にはまったく響かない。

私は戦車に向かってゆっくり歩いて行く。その間にも戦車は両腕の銃で私を攻撃するが、私は歩みを止めない。

やがて全ての弾を撃つ尽くしたのか発砲は止み、虚しいくも空を切るハンマー音だけが鳴る。戦車はそれを確認するとまたもや私から距離を取ろうとした。しかし私はボロボロになってしまった刀で戦車の前足二本を切り落とす。

動けなくなった戦車に私は左手を伸ばし手のひらを向ける。

 

「左脚で支え……右脚をトリガーに見立て……左腕のハンマーでもって…右拳の弾丸を撃つ………。

 

『ヒュンケ・ファウスト』!!!!!

 

― BOOOOOOOOOOM!!!!! ―

 

振り下ろすように放った砲撃は戦車を地面へと叩き込んだ。ボディは潰れ、地面はくぼみ、一目でわかるように撃沈していた。

 

ポツンッと一滴の水が顔を打つ。そこから次第に水が雨のように優しく降り注いだ。

 

「すぅー……ぅおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!

 

私は大きく息を吸い込み空に向け勝鬨の雄叫びを上げた。それはまるで艦の汽笛のように大きく響き渡った。

 

「『機関停止(エンジン・オフ)』」

 

叫び終えた私は魔術回路を止める為、詠唱を呟く。体中に走っていた線は途端に消えるが、私の胸には未だ桜の刻印が黒く刺青のように残ってしまった。

しばらくすると救助隊が到着し、私をストレッチャーに乗せる。救助隊は私を見るなり、困惑と恐怖が混じった顔をしていた。無理もない、ノーマルである私がまるでミサイルが撃ち込まれたかのようなクレーターを生み出したなんて、今までの常識を遥かに超越した事象の不可解さを目の当たりにして恐怖しない人間はいない。”わからない”は人間の原初の恐怖なのだから。

ストレッチャーで運ばれる際、私はふと右腕を見る。俊英から借りたガンドレッドは見るも無残に壊れてしまい、私の腕が露出していた。その腕はなんと黒くも金属のように輝きを持ち、一目で義手だということが分かる。私はこの義手に見覚えがある。これは前世で私が艦娘化の実験をされた際に四股を切り落とされ、艤装の為につけられたものだ。超強化カーボン合金で本物の腕以上に戦闘用にうってつけな兵器だ。こんなものが私、いや信陽の体についてしまっている。

ハハハ……これではまるで。

 

「理想の為の代償にこの体を差し出せと言わんばかりではないか…」

 

 

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