あの死闘の後、私はストレッチャーで運ばれる際に意識を失い、目覚めるのに丸一日掛かった。限界を超えての戦闘や崩落した橋に巻き込まれ、かなりの重傷かと思われたが結果的には全身擦過傷で済んだ。私の考えでは魔術回路を開き、身体強化した際に身体の代謝も強化され、骨折や筋肉断裂などはその際に修復されたのだろう。冷静に考えてかなりの無茶をした訳だが、その代償は別の所に現れた。
「で、いろいろ聞きたいことはあるが……。まずは、タチコマを破壊したあの状態は何だ?君の体を再検査したが、あれは個性ではない。ならば一体何なのだ。あのような状態はどの資料にも載っていないんだ。君はあの状態を説明できるのか?」
「俺としては坊主が最後にぶっばなしたあの技の後、俺の作ったガンドレッドをお釈迦にしちまった際に見えたアレ。完全に人間の腕じゃなかった、あれはどっからどう見ても人工物だったが……。アレは一体何なんだ?」
「と、当方もタチコマの足を斬ったあの斬鉄剣の技術に大いに興味があります!」
「えーと……。」
私が目覚めた直後、レントンが私の体の検査を再度行い、その結果が出たので私に報告する流れになったのだが…。
レントンと俊英は今回のテストプレイに関しての詳細なデータを政府に提出する羽目になった。しかし、私が気絶した後から、私が目覚めるまでに起こった事象は今までの超常現象とは全く異なるファクターによって引き起こされたものであり、二人には初めて見る事例にいろいろと調べたらしいが、該当する事例は発見できなかった。
まぁ、当然と言えば当然だ。私が使ったのは過去に人類が科学主義に移りゆく中で排他していった。”魔法”を使うために一部の人間たちが情報を漏らさないように何百年もの長い歴史で築き上げた”魔術”なのだ。
歴史を勉強する上で、一般的に正しいとされる歴史以外に様々な文献を読み漁ったが、直接的な証拠は出なかったが、一つだけ気になるものを発見した。それは地方新聞の小さな記事で2015年頃、とある屋敷の土倉に”魔法陣”が描かれているという小さな悪戯を真面目に分析するという一種のジョーク記事だった。当時はミステリーサークルの亜種として面白おかしくい取り沙汰されていたが、当然誰もその記事の真実にはたどり着けず忘れ去られた。
しかし私はその記事に載っていた写真を見て驚いた。それはまさしく”聖杯戦争”における”サーヴァント召喚”のサークルだった。私はこの時、前世同様魔術がこの世界でも裏の世界で暗躍していたという証拠を見つけた。しかしながら、現代において魔術の痕跡は一つも出なかった。かつて日本のある土地に”大聖杯”があると聞いていたが、現在そこは更地になっておりビル群が建てられたと聞く。私の推測では超常発現により魔術の必要性が無くなったか、もしくは魔術の継承がすべて途切れてしまったか、どちらにしろ魔術は消えてしまったと考えた。もちろん、魔術の総本山である”時計塔”に行ったことがないのでこの仮説が正しいかどうかは分からない。ここまで長々と回想したが、つまり何を言いたいかと言うと…。
「(秘匿すべき魔術をここでしゃべっていいものか……。)」
超常発現により途絶えてしまった魔術も今の世界では魔術を凌ぐ超常も多く存在する。本来ならば表の世界に混乱を与えぬようにそれらすべては秘匿すべきが。
「(きっと私はこれからも魔術を行使するだろう。たとえ助けるべき人々に恐れられようとも。ノーマルヒーローとして生きる覚悟をしたんだ。使えるものは何だって使ってやる。)」
「三笠、君はあの力か何なのか知っているのかでも答えてくれないか。もし分からなければ、こちらとしても研究しなけれなならないんでね」
「透田さん、俊英さん、剣士君、私がこれから話すのはこの超常主義世界においてあまりにも非現実的で冗談に思えるものです。到底信じれるものではありません。作り話だと嘲笑しても構いません。でも私が話すことはすべて真実です。」
「坊主はあれが何なのかわかっているんだな……。まぁ、あの現象自体信じられないものだ今更何を言われたって信じられるよ。」
「少欲知足。当方もあの剣捌きの理由さえ聞ければそれでいいです。」
「まぁ少なくても僕と俊英が判断して、危険じゃなさそうならそのままでもいいから。話してごらんよ。」
「……では、結論として戦車を破壊したり、腕が機械のそれだったり、金属をぶった斬ったのは、すべて魔術によるものです。」
僕がそう言い放つと三人はぽかんと口を開けたまま固まる。まぁ、いきなりそう言われれば誰だって思考停止するだろう。
「透田さん、そこにあるりんごとコップを取ってもらってもいいですか?」
「ぁ、あぁ。」
「ありがとうございます。ではあの時の再現をしますね。」
「はぁ!?いまここでするのかよ!大丈夫か!?」
「まぁ、知らない力ではないので低出力ならコントロールもばっちりですよ。」
そう言って僕はレントンからりんごとガラスのコップを受け取り、胸の刻印が見えやすいように上半身裸になる。
「すぅー……『機関始動』」
― vrooooom! ―
詠唱を唱えると胸の刻印が光り、小さなエンジン音を響かせながら螺旋が渦巻き、そこから全身へ線が走る。私は左手でコップを掴みながら強化し、右手でりんごをゆっくりと絞る。滴り落ちる果汁はコップに溜まり、そのままジュースになる。絞りつくしたりんごを脇においてそのジュースをそのまま飲む。飲み干したコップを高く掲げ、ベットの手すりに思いっきり叩きつける。突然のことに三人はギョッとするもぶつかったコップは大きな金属音を鳴らすが割れや罅など全く見当たらなかった。
「これが魔術による『身体強化』と『物体強化』です。話を聞くより実際に見た方が早いと思いまして、実演させていただきました。」
「……いや!いきなりやるなよ!ビビったじゃねぇか!!」
「皆さんがあまりにもぽかんとしていたので、いい目覚ましにとおもいまして。」
「だぁーちくしょう!とりあえず、それが魔術ていう不思議な力だってことはわかったが、そんなもんどうやって覚えたんだよ。」
「まずは魔術について掻い摘んで紹介しましょう。本来魔術とは”魔法”を使うために、魔術師達が日夜研究を行い、そこに到達するための技術です。」
「ちょっと待て、”魔法”と”魔術”は別物なのか?」
「はい、魔法とは今ある科学や魔術では到底実現不可能な、所謂”神秘”と呼ばれる現象で、例を挙げれば、第三魔法『魂の物質化』は完全無欠の”不老不死”などのものがあります。」
「……不老不死、そんなものが実現できるのか?」
「並大抵のことでは難しいでしょう。けど話によれば実際に”魔法”を行使した事例はありますよ。私の聞いた話によれば、”キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ”と言う人物は第二魔法でパラレル世界における平行世界を自由に行き来していたといわれておりますよ。」
「奇々怪々、不老不死に平行世界への移動。とてもにわかには信じがたいものです。」
「話を戻しますが、そんな魔法を行使するために魔術師は結託し、日々研究を行っていました。それも紀元前も前から。」
「そんな昔から行っていたんなら、何故今まで表に情報が出なかったんだよ」
「それは魔術師たちが決めた掟の一つです。先ほど言っていた魔法は当然、魔術も超常以上の能力を持っています。もし表に出てその力が知られればその力を求めて多くの人間たちが何を仕出かすか分かったものじゃない。私が使う『強化』は初歩も初歩。並みの魔術師から見れば出来て当たり前な技術ですよ。」
「あれで初歩なのか…他にはどんなことができるんだ?」
「個人に寄りますよ。個人の持つ”属性”や自分を自分たらしめる”起源”、魔術を行使できる量容。そのものが信仰してるものや土地によっても千差万別です。例えば私なんかは属性は”無”起源は”花”ですので……。」
― SNAP! ―
私は右手を前に突き出し、指を鳴らす。するとその指先からだんだんと桜の花弁に変わっていき、開いていた窓へ花弁が風に乗って舞い散る。三人が呆気に取られているうちにどんどんと私の体は花弁に変化し。仕舞には全身が桜になりその場から消えてしまった。
「っ!?坊主!どういうことだ!?消えちまったぞ!!」
「神出鬼没!まるでぬらりひょんの様に目の前で消えてしまった!」
「…これも魔術の一部なのか?こんなことも可能なのか」
― SNAP! ―
「度々驚かしてすいません。これは一種の幻覚で『有幻覚』と言います。」
「有幻覚?何だそりゃ」
「実態をもった幻覚。嘘を本当に見せかけるもので、私が作り上げた幻覚ですが、現実として攻撃もできるものですよ。」
「つまり、突拍子もない化け物を生み出して、それで攻撃することもできるということか?」
「まぁ、相手の心理状態に付け込んで発動するのでそこまで万能ではないんですが、一瞬でも隙を作れるので対人戦においてなかなかに重宝しますよ。……この様に魔術とはこの世界の常識を大きく壊すほどの力を有しています。そしてその能力は素質さえあれば誰にでも使えるようになります。私も今までは使えずにいましたが、あの死闘の最中、私は夢を見ていました。前世と言ったらいいんでしょうか、魔術に関する知識が一気に頭の中に入り込んで来たんです。そしてこれまでの人生を思い返して、私はこのままで終わってたまるかと言う気持ちが引き金になって撃たれる寸前に突如として発現したんです。」
私は困ったような表情でそう告げる。実際にはあの火災から私が初梅の体に憑依し発動できるようにいろいろと試した結果なのだが、これ以上話すのは得策ではない。まるであの死闘があったからこそ覚醒した事にしておく。
私がこれ以上話すことはないという雰囲気を出すと、三人はあっさりと引き下がってくれた。
「……三笠、最後に質問だがこれからどうするつもりだ。」
「どうするも何も、私はヒーローを目指しますよ。どんなことをしても。何を犠牲にしても。魔術もその手段の一つですよ。」
そうだ。私はあの死闘でいろいろと変わってしまった。まずは髪、初梅の金髪はほとんどが白くなり、前髪の一房だけ紫に。目は紫色になってしまった。幸いにも四股の黒い義体は元の肉体に戻ったのだが、私がこの体とシンクロすればするほど、どんどんと前世の体になっていくだろう。しかし、あの死闘はあくまでも私がヒーローが目指す為の一歩。この先どんなことが起ころうとも私はこのスタンスを保っていくだろう。ノーマルでもヒーローになれるんだと証明できるまでは。
一週間後、レントンが出した報告書に書かれた魔術について詳しいことを調べる為に政府から呼び出しをもらった。やはり超常の力以外の存在に懐疑的な考えを持つ人が多く、実際にこの目で見たいと言う声が多かった結果、今回は政府内の特殊な室内グラウンドで実際に測定を行う。その測定方法は意外にも”体力テスト”の8競技で測るらしい。
「ヒーローのイレイザーヘッド、本名は相澤 消太だ。よろしく。」
「三笠 冬扇です。よろしくお願いします。」
「簡潔でよろしい。今日は君の言う”魔術”がどんなものかを測定する。あらかじめこのフィールドには体力テストの準備がしてある。この場において、君と俺しかいない。君は気にせず思いっきり力を使ってテストに臨んでくれ。」
「はい!」
政府が用意したフィールドは室内と言うことを除けば至って普通なグラウンドだ。僕は担当の消太という黒いつなぎの様なスーツに白の帯のようなものを首に巻いたヒーローと紹介がなければ受信者に見間違う風貌の男性だった。
私は今回の測定で自分がどの程度動けるのか見極めるつもりでいる。退院してからなかなか強化状態での鍛錬もできず、自分の実力を知れなかったのでこの機会に一つ大暴れでもしようかと考えている。今回は私と担当のマンツーマンだ。周りに誰もいないから気兼ねなく力を使える。
「各測定の説明は個々に行う。まずは”魔術”とやらを見せてくれるか?」
「はい!すぅー……『
深呼吸をしてから詠唱を行う。一度、目覚めれば魔術回路はすぐに発動できる。詠唱後、1秒くらいで魔術回路は全身を巡り、その直後身体強化を行う。
「…その魔術の発動に言葉を発する必要はあるのか?」
「はい、魔術はその力は強大ですが、その代わりに発動の鍵となる言葉や行動が必要です。パソコンなんかで特定のファイルを開くのにパスワードや承認が必要なのと一緒で、技術の乱用や誤爆を伏せくためにそうなっています。本来この身体強化も長い詠唱が必要でしたが、一度発動すればその後は一秒以内に発動できるようになります。」
「そうか、それはとても合理的だな。ではまず50m走からだ。」
それから私は次々にテストを受けていく。結果的には。
50m走 :5.74秒
握力 :90kgw
立ち幅跳び:300cm
反復横跳び:70回
ボール投げ:54.864m
上体起こし:50回
長座体前屈:26cm
持久走 :5.00分
と長座体前屈以外は小学生どころか高校、大学に匹敵、または凌駕する数値だ。とは言え、体も技術も未だ成長期。これからさらなる数値をたたき出す事になるだろう。
始めにこのが依頼が来たときは何かの冗談かと思っていた。 雄英高校を卒業してから事務所も持たずに個人で活動し、それなりに経験を積んでいた矢先。学生時代にインターンでお世話になっていた助田先生から連絡が入った。
透田先生は俺と同じく直接的なヒーロー活動において有利な個性ではない、人の体を透かしてみるというレントゲンの様な個性でヴィランの弱点や体の構造を分析しながらの戦闘や怪我人等の負傷箇所を把握し、適切に処置を行うなど前衛、後衛両方で活躍していた。俺は戦闘におけるいろはを学ぶために、学生時代にインターンで透田先生の事務所に伺った。……まぁ初めは事務所が診療所だったと知ったときは驚いたが、透田先生のコネクションで俺に合う装備を作ってもらったのには本当に感謝している。
そんな透田先生が引退し、医者として生活を送っていたと聞いていたが先日、透田先生から政府関連の仕事の依頼が来た。先生には学生時代にお世話になった恩があったのと、この仕事で政府にコネクションができると考え、承諾した。
今となってはしっかりと依頼の内容を確認しておくべきだと後悔する羽目になった。
「無個性の子供の……体力テスト、ですか?」
「そうだ、しかし普通の子供じゃない。本人の言葉を借りれば”魔術”、を行使する。」
「…魔術ですか……。」
「信じられないのもわかるが、僕はこの目でその現象を観測している。検査は何度も行ったがどれも無個性だと判断せざるおえない結果だった。」
「診断結果が出ているならそれまでの話ではないのですか?」
「あぁ…。政府は僕の報告書にケチをつけたのさ。”魔術”なんて言う馬鹿げたものなんて認められるかと。で、実際に見てもらおうと分かりやすい体力テストを企画したんだ。」
「では私の仕事はその子の監督役兼測定員ってことですか。」
「それで合ってるよ。まぁ、その子は大人みたいな子供だからそんなに手間はかからないと思うけどね。頼むよ、僕じゃ何か細工しているんじゃないかって言われかねないからね。」
「はぁ……。」
そして当日、俺は政府の役人と挨拶を交わし、今回のテストの説明を透田先生と共に行い、担当する子供がいるフィールドに向かう。
三笠 冬扇……。体格は透田先生いわく相当鍛えているため引き締まっているらしい体と白の中に紫が一房だけ色づいている髪を除けばそこらへんにいる小学生と何も変わりない。一目見てもとても規格外な力を持っているようには見えないが……。
「ヒーローのイレイザーヘッド、本名は相澤 消太だ。よろしく。」
「三笠 冬扇です。よろしくお願いします。」
互いに挨拶を交わし、今回のテストの説明を行う。確かにこの年齢にしてはとても大人びいている。大まかな説明を終え三笠に”魔術”を見せる様に頼むと、彼は一つ返事で承諾する。
三笠は返事をした後、深呼吸をし、一言呟く。すると彼の体からエンジン音が上がる。そして体中に緑の線が走り、輝く。全身にその線が廻った後、彼は俺へ目線を向ける。
「…その魔術の発動に言葉を発する必要はあるのか?」
「はい、魔術はその力は強大ですが、その代わりに発動の鍵となる言葉や行動が必要です。パソコンなんかで特定のファイルを開くのにパスワードや承認が必要なのと一緒で、技術の乱用や誤爆を伏せくためにそうなっています。本来この身体強化も長い詠唱が必要でしたが、一度発動すればその後は一秒以内に発動できるようになります。」
今までに見たことのない現象に驚くしかなかった俺は簡素な疑問を彼に問いかける。それを彼は何の気負いもなく答える。彼の目はまるでこのテストが楽しみでたまらないと言う風に目を輝かせている。
俺は気持ちを切り替えてテストを進める。
始めは50m走。フィールドの端に真っ直ぐ敷かれたコースに向かい、彼にテストの説明を行った後、測定を始める。
「それでは、俺がピストルを鳴らしたらゴールまで走ってくれ。」
「はい!」
「よーい……。」
― pop! ―
― BOOOM!! ―
「っ!?」
ピストルを鳴らした瞬間、スタート位置から轟音を立てて三笠が跳んでくる。彼は一歩で50mの半分まで進み、そのままゴールする。驚きながらも手元の測定機に目を向ける。
「ご…5.74秒……。」
「よし!いい結果がでました!」
その速さは個性を使用した高校生と相違ないものだった。俺は無邪気にはしゃぐ彼を見る。彼はまだ小学生、当然この先体格も技術も成長する。そうなればこの記録も当然上がる。俺はこの力をたかが小学生が持つことに背筋が凍り付く思いをしながらも、このまま測定を進めていった。
― ガコン! ―
「缶コーヒー、微糖でよかったか?」
「ありがとうございます。大丈夫です。」
測定も終わり、政府の役人が全て帰った後、俺が休憩室の長椅子で休んでいるところに透田先生が缶コーヒーを持って現れた。今日の出来事はおそらくこれからの人生の中でも忘れられないものになる。それほどに強烈だった。疲れ果てた俺は少しでも回復する為に缶コーヒーを開け飲み込む。普段から飲んでいるはずのコーヒーはいつもより甘い味がした。
「人はね、精神的ストレスを受けると大脳が混乱して苦みを感じにくくなるんだ。すると普段より甘みが強く感じることがある。」
「……。」
「顔を見たらわかる。君にとって今日の出来事はとてつもなく強烈な体験だっただろう。僕もここの所、ずっとそうだよ。」
透田先生の手を見ると先生の手にあったのはガムシロップだった。先生は蓋を開けると、それを一気に飲み干す。先生は特に顔色を変えることもなく、空になった容器を握りつぶす。そしてまるで懺悔するように頭を下ろし、両手を頭につけ、疲れ切ったように口を開く。
「…………初めはただの子供かと思ったんだ。僕の信条でね、目の前の患者から必ず助けるようにしているのは知っているよね。あの隣町のショッピングモールの爆破事件、僕は医者として負傷者の手当ての応援に向かう途中だった。医学に心得のあるヒーローは珍しいから。そうして車で向かってくる途中に彼が倒れていた。疑問に思ったが、おそらくあのモールから逃げてきたと思って保護したんだ。彼自身物凄い重体だったからね、結局僕は診療所に引き返して彼の手当てに当たった。酷いものだったよ。彼は全身の至る処に擦り傷や切り傷、火傷に筋肉の断裂まで起きていた。すぐさま手術を施す事になった。施術後、彼が目覚めたのは3日目の事だった。僕が起き上がった彼に声を掛けたその時…。」
『っ!?誰だ!』
「僕は彼に尋常ではないほどの殺気をぶつけられた。その時のことは今でも鮮明に思い出せる。あれは……唯の子供なんかじゃない。子供の皮をかぶった何かだ。そしてその思考は確信に変わった。あの日…あの事故の時だ。」
「『ヒュンケ・ファウスト』!!!!!」
― BOOOOOOOOOOM!!!!! ―
「『……ぅおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』」
「モニターに映るそれは……怪物となら変わらなかったっ!」
透田先生の体はその光景が目の前に映っているかのように震え、冷や汗をかき、恐怖していた。
「……彼は絶対にこの世界を破壊する。それがヒーロー側なのか、ヴィラン側なのか、それは僕たちの選択次第で変わってしまうかもしれない。僕は彼がヴィランに堕ちてしまうのが、ただただ怖いんだ!」
俺はもう一度コーヒーを飲み込む。その味はさっきよりも甘い味がした。