かっちゃんが僕のノートを爆破し、それに怒った三笠君を止めた後、教室全体は混乱していた。あの三笠君が怒ったからだ。僕は過去に一度経験しているから何とか咄嗟に止めたけど、ほかの皆にはかなりの恐怖と驚きがあったみたいだ。あの後すぐに三浦先生がやってきて皆から事情を聞き、驚いた顔で二人を説教している。二人の顔は対照的だった。三笠は冷静になり、落ち着いているが、かっちゃんは憔悴した顔で上の空だった。三浦先生は周りに集まった生徒たちに帰る様に檄を飛ばす。僕は二人を名残惜しみながらもノートが落ちている校舎裏まで取りに行く。ノートは黒焦げで水路にあったが幸いにも焦げたのは表紙と端だけだし、水の上で浮かんでいたので濡れたのは裏表紙だけだった。
かっちゃんにいじめられるのはいつものことだけど、今回は僕の持ち物を爆破した。かっちゃんはどこかみみっちいところがあるから何かする時は証拠が残りづらい様に僕を間接的に攻撃したり脅したりするだけだったけど、今日は三浦先生が僕と三笠くんの志望校が雄英だったのをバラしてそれがよほど癪に触ったのだろう。…まぁ、こう言っちゃあ悪いけど自殺教唆紛いの脅しを三笠くんに咎められた時のはちょっとスカッとした。
それはまぁ無個性だけど僕だってヒーローを目指しているのだから雄英を志望校にしてもいいじゃないか。大体、僕の方に来て三笠くんのほうに行かないところがみみっちいだよな。
僕は家へ帰る中、そんなことを考えていた。すると後ろから何かが音を立てた。
「Mサイズの隠れ蓑!」
「っヴィラン!?…わっ!?」
悪臭漂わせ、僕の体にまとわりついたのはヘドロの様な体を持つヴィランだった。あまりに一瞬の出来事だったため、僕は反撃もできずに拘束される。
「だいじょーぶだ。苦しいのは45秒くらい、その後はすぐに楽になる。だからその体を乗っ取らせてもらうぜ!」
「(くっこいつ体の全部が液体状なのか!駄目だ呼吸がっ!)」
「はは!掴めるわけないだろ!流動的なんだから」
僕は必死に抵抗するが意思を持つ液体になす術もなく。次第に呼吸が出来なくなる。クソ!こんなところで僕は死ぬのか!?まだ夢も叶えてないのに!いやだ…イヤだ…嫌だ!!
― ガッコン!! ―
またしても後ろから今度は大きな音が響く。
「もう大丈夫だ少年‼︎私が来た!
『TEXAS…SMASH』!!!」
「なっ!?風圧で!?」
「(っ!?嘘!オール…マイ…ト?)」
そうして僕は意識を失った。
― ペチペチペチペチペチ ―
「ヘイ!…あ、良かった」
「う…うん?………トぁああああ!!」
「hahaha!元気があってよろしい!それにしてすまないね、ヴィラン退治に巻き込んでしまって!いつもはこんなミスはしないんだがね。しかし君のおかげで無事詰められた!ありがとう!」
ほ、本物だ!!本物のオールマイトだ!生で見ると画風が全然違う!
「サインは君のノートにしておいたぞ!何があったかは知らないが、ボロボロになっても持ち続けるなんて物持ちがいいな!それじゃ、そろそろ時間だ。私はそろそろ行くよ。」
「えっ…もう……まだ何も…」
「ヒーローはいつもヴィランか時間との戦いさそれじゃ………。」
「(待って!まだ聞きたいことが!)」
気を失った僕はオールマイトに起こされると言う夢のような光景で目を覚ます。僕を襲ったヴィランはオールマイトの持っていたペットボトルに詰められていた。そのあと僕はオールマイトにある質問をしようと思ったが、オールマイトはすぐさま立ち去ろうとしていた。このままじゃあ聞けないと思った僕は咄嗟に跳ぼうとしているオールマイトの足にしがみ付いた。
「………ってコラコラ!放しなさい!危ないから!」
「今、放したら…死んでしまいます!僕、あなたに直接!色々聞きたいことが!」
「わかったから、目と口を閉じてしっかり捕まっていなさい。」
正直こんな脅迫紛いでオールマイトを引き止めるのは心苦しいけど、僕もどうしても聞きたいことがあるため、湧き上がる罪悪感を押し殺してオールマイトに懇願する。僕の行動に観念したオールマイトは、呆れながらも僕の要望を聞き入れた。
― Whaaam!!! ―
オールマイトはビルの屋上に着地し僕を降した。初めて経験する空中飛行で僕はいくらか寿命が縮んだ気がする。僕の無事を確認したオールマイトはすぐさま飛び立とうとするのを僕は止める。しかし、オールマイトは止まらない。僕はそのまま長年思っていた疑問をぶつける。
「“個性”がなくてもヒーローになれますか?個性がない人間でも!あなたみたいなヒーローになれますか!?」
「個性が……っ!?」
「個性がないせいで、僕は今までいろんな人に馬鹿にされてきました。ヒーローになると言う夢を笑われた来ました。でも僕はそれでも諦めきれませんでした。あなたの様になる為、日々体を鍛えて、色んな人を助けて、時には誰かの盾になりました。だって人を助けるのってめちゃくちゃかっこいいと思うんです。僕はあなたがデビューしたあの光景を見て、ヒーローを志して来ました。」
― hissssssssssss ―
「僕も恐れ知らずの笑顔で助けてくれるあなたみたいな最高なヒーローに………ぃぃいいああああああああ!!!???」
「…私はオールマイトさ。」
「嘘だ!!!」
僕は目を伏せながらオールマイトに長年の疑問をぶつけた。その途中、何か音がしていたが、僕は気にせず話し続ける。最後にばっと顔を上げると、そこにはオールマイトではなく、細身の男性が煙を出しながら立っていた。僕が混乱していると彼は自分を“オールマイト”だと言った。
「恐れ知らずの笑顔ね…少年、見られたついでだ。間違っても言いふらすなよ。」
オールマイトは未だ混乱している僕を他所に座り込み、そう告げる。彼はシャツを捲るとそこには痛ましい手術跡があった。僕は思わず、悲鳴を上げる。オールマイトは傷を負った経緯を話す。
「5年前、敵の襲撃で負った傷だ。呼吸器官半壊、胃袋全摘、度重なる手術と後遺症で憔悴してしまった私のヒーローとしての活動時間は今や約3時間ほどしかない。このことは世間には公表してない。私がそう頼んだからさ。人々を笑顔で救い出す“平和の象徴”は決して悪に屈してはいけないのさ。いいかい少年、私が笑うのはヒーローとしての重圧と恐怖から自分を欺くためさ。ヒーローはいつだって命懸けだ、間違っても個性がなくてもとは口にできない。」
「っ!?はぁ………。」
「夢を見るのは悪い事じゃないが、現実もしっかり見なければならないよ少年。」
そう言ってオールマイトは階段から帰って行った。僕はオールマイトの言葉に打ちひしがれながら返事をする。僕がショックを受けたのは憧れのヒーローが弱っていたからではなく、強大なヴィランに恐怖してたのではなく、オールマイトにすら夢を否定されたことだ。なんで…なんでなんだ。何故こんなにも無個性に厳しいのか!前例がないから!?力不足だから!?なら…。
「三笠くんならヒーローになれるだろうか……。」
学校からの帰り道、HR後から俺の機嫌はすこぶる悪い。理由はあの無個性の二人だ。小心者のデクはまだいい、問題はあの男女だ!思えばあいつとは出会った時から俺を見下していた。公園で蹴りを入れられた時も、個性で捻じ伏せようと放課後にタイマンを張った時も、あいつは俺のことをまるで見ていねぇ!!ふざけんなよ!なんで俺が石ころに見下されなければなんねぇ!半端に夢見ているデクに現実を教えてやった。そうだよ!本来、無個性は何もできずに下を向いていればいい!そう思っている所に…。
「『爆豪……お前、少しは自分の言動に気を付けろと言っただろう。』」
「チッ!クソが!!!」
― Bomb! ―
いらねぇとこまで思い出しちまった。俺はムシャクシャして小石を蹴っ飛ばし、空き缶を思いっきり爆破する。突然の爆破音に周りは驚くがイライラして俺は気にも留めない。そのせいか爆破音にかき消され、背後に迫る影に気付けなかった。
「イイ”個性”の隠れ蓑!!」
「っ!?何だテメェ!!」
何か悪臭漂う液体状の物体が俺にまとわりつく。俺は個性で引きはがそうとするが、相手は無理やり爆破の方を変える。チックショーが!!今日はとんだ厄日だ!!
「「おおおぉぉぉぉ!!!!!」」
あれから何分が経っただろうが、俺はヘドロ野郎に飲み込まれないように必死に抵抗する。とっくのとうにヒーローたちは駆けつけてきたが、俺の個性とヘドロ野郎の液状の体では並のヒーローでは太刀打ちできずにいる。クソが!こんなドブ男に俺は飲み込まれるのか!!?
「「大当たりだぜ!!この力があらばあいつに仕返しできるぜ!!」」
「ゼェ…ゼェ…ゼェ…(あの時か!あの時少年にしがみつかれた時に落としたのか!少年を諭しておいてこのざまかっ!情けない………情けない!!)」
「ハァー……………。」
ショックで落ち込んでいた僕はやっとのことで落ち着きを取り戻し、家へ帰る。その間にも僕はどうにかしてヒーローになれないかを模索する。しかし浮かんでくるのはあまりいい案ではない。そして今日言われたことが頭の中で反芻する。
「『夢を見るのは悪い事じゃないが、現実もしっかり見なければならないよ』」
「『かわいそうに中三になっても現実が見えていないんです』」
「『お前らも三年ということで、本格的に将来を考えていく時期だ!』」
「(他人言われたから夢を諦める?冗談じゃない!なんで僕の夢を他人に指図されなければいけないんだ!)」
ふと横を向くと商店街に人だかりと火事が見え、爆破音が聞こえる。またヴィランが暴れているのか。僕は自然とそこに足が向かう。行ったところで何ができる?中途半端な力しか持たない僕が行ったところで何か変わるか?そんな客観視する心の声に聞こえないふりをして歩く。
「え!?なんで!?」
あいつは僕を襲ったヴィラン!オールマイトに捕まったはずじゃ………っ!?あの時!僕がオールマイトに捕まった時に落ちたのか!それじゃあこの惨状は僕のせい!?
「おいおいヒーローたちは何やってんだよ」
「なんでも中学生が人質にされてるんだと。迂闊に手ぇだせねぇんじゃね?」
っ!?あぁ!なんてことだ!僕はヒーローになるどころか!誰かが苦しんでいる原因を作ってしまった!僕はいてもたってもいられず、人込みをかき分け、前に進む。そうしなければ僕は罪悪感に押しつぶされ様な感覚になる。
「(行ったところで君に何ができる。)」
うるさい…。
「(君のその行動はただの自己満足だよ。)」
うるさい。
「(君はただ罪悪感から逃げようとしているだけなんだよ。)」
うるさい!!!
「(無個性がこの世界を変えれるわけがないだろう!!!)」
「くっ!!」
僕は最前列まで行きそこで足が止まる。心の声がうるさく頭の中に響く。どうにか無視しようにも、最後の言葉に僕は奥歯を噛みしめ、立ち止まってしまった。そうだ、僕は今認めてしまった。今までの努力はすべて無駄だったと悟ってしまった。結局僕は何も変われない。この一歩が踏み出せないのだから。
「(ごめんなさい。でも…きっと…ヒーローの誰かが助けに来てくれるからっ!)」
僕は心の中で相手に謝罪した。その瞬間、捕らわれている中学生の顔が見えた。それはかっちゃんだった。いつもみたく自信満々の表情ではなく、悲しげで、助けを求めている顔をしていた。
「「「「「!?」」」」」
「馬鹿野郎!!!止まれ!!!」
何で出た!?何してんだ!?何で!?
「「爆死だ!!」」
思考を止めるな!頭を回せ!!
僕は相手に向かってチャックを開けたリュックを投げる。当然中身は飛び出すが、予想だにしない行動に相手は怯む。その隙に僕はかっちゃんの腕を掴む。
「何でテメェが!!」
「わからない!わからないけど…ただ、君が助けを求める顔をしていた!!」
「邪魔するな!!!」
「止めろ!!無駄死にするぞ!!!」
「よく言った!!『ヒュンケ・ファウスト』!!!!!」
― Boooooom!!!!! ―
やっちまったなー…。なんだよいきなりキレて机叩き割るって。なんだかこっちに来てから怒りっぽくなっていないか?
私は三浦先生から説教と反省文の提出を告げられた後、叩き割った机の後片づけをし、学校を後にする。すでに皆下校しているので生徒で残っているのは私だけだろう。日はまだそんなに落ちていないから、私は急いである人物の元へ向かう。
― Boooooooomb!!! ―
「っ!?爆発音!?商店街の方からか!」
まさかこんなところでヴィランが暴れまわっているなんて!私は首のチョーカーに付けられたGPSの緊急装置を起動し、政府に戦闘許可が下りるのを待つ。その間に、身バレ防止の偏光レンズのゴーグルと鼻まで覆う黒い金属製のドクロマスクを着ける。しかし、やけに許可が下りない。恐らく現場にすでに何人ものヒーローがいるからだろう。許可が下りていない状態では緊急時を除き、私は戦闘行為を許されていない。それはあの時の体力テストで私の力に危機感を持った政府が、せめて仮免を取得するでは監視を行っているからだ。もしそれを破れば私は政府から何かしらの処理がされ、ヒーローとしての道を歩めなくなる。ヒーローになるなら規則に則って活動しなければならない。歯がゆいが、私は承認が下りたら即行為できるように待機する。しかし、待っている間にも現場からは情けない声が聞こえる。
「それまで被害を抑えよう!すぐに誰か来るさ!あの子には悪いがもう少し耐えてもらおう!」
「…………ふざけているのか?『耐えてもらおう』?耐えれる確証もないのにか?」
― bleep! 戦闘行為承認 ―
「『
― Vrooom! ―
チョーカーから音声が流れたと同時に私は体を強化し上に飛ぶ。そしてヴィラン目掛けて拳を構える。すると一人の少年が人質へと駆ける。あの緑色のもじゃもじゃは…出久!
「『わからない!わからないけど…ただ、君が助けを求める顔をしていた!!』」
「(出久!やっぱりお前は!)よく言った!!『ヒュンケ・ファウスト』!!!!!」
私は地面に向かって拳を叩きつける。コンクリートを破壊しないように威力を調整したがインパクトの瞬間に発生した風圧は、液状のヴィランを吹き飛ばす。もちろん人質と出久が飛ばされないように掴んでおく。突然の乱入者に一同は静まりかえる。私はそんなこともお構いなしに二人の安否を確認する。どうやら捕まっていたのは勝己だったようだ。無事二人とも怪我はなく、少し汚れている程度だ。
これで一件落着だが、腹の虫が治まらない私は未だ呆然と突っ立てるヒーローたちへ静かに檄を飛ばす。
「…これだけのヒーローが居て子供一人まともに救えないのか!何が『耐えてもらおう』だ!この子が途中で力尽きて死んでいた可能性だってあったんだぞ!!あらゆる可能性を想定して動くのがヒーローだろ!何故突っ立っていたんだ!閃光弾で目を奪うことや誰かがヘイトを稼いで死角から人質を引っ張り上げること立ってできただろう!お前らはここにいるただの少年にできたことがなぜできない!!できない理由より何か策を探せよ!!ヴィランや災害は容赦なく牙を剥く、なら私たちは命を懸けてそれに立ち向かわなければならないだろ!!何年ヒーローやってんだよ!!!もしここでこの子が本当に死んだら?一体誰が両親に報告するんだ?一体なんて言うんだ?『ヴィランのと相性が悪くて誰も彼を助けられず、死なせてしまいました。』と正直に言えるのかよ!!」
私の言葉に何人かはムッとして私を睨むが私が勝己がもしも死んだときのことを言えば全員がバツが悪そうに視線を背ける。…そんなに自分の行動に後悔するんだったらさっさと勝己を助け出せばよかったのだ。そうやって言い訳をして予防線を張り、自分の心を欺いても、真実は容赦なくそれを突きつけてくる。やらないで後悔するよりもやって後悔した方がいくらかマシだ。私は依然として意気消沈するヒーローたちを見渡す。すると人だかりの方から私に声が掛けられる。
「確かにヒーローは命懸けで助けを求めている人を救い、脅威に立ち向かわなければならない。我々はそれを失念していた。…まったく、私は自分自身が情けなく思うよ。わかっていながらも己が実践しないなんて…。少年たちよ、本当にすまなかった!!!」
そこに現れたのはかの有名なNo,1ヒーローであるオールマイトだった。彼は人混みを掻き分けて私たちの前まで来ると、勝己、出久、そして私に対して深く頭を下げ、謝罪する。…………多くの報道陣や野次馬がいる中で彼が頭を下げる。それはとてつもなく大事だ。この場にいる全員が彼の行動に驚く。これだけのことをすれば私は矛を下さなければならないが、それでも最後に一つ小言をオールマイトだけに聞こえる声量でこぼす。
「……No.1ヒーローが頭を下げているのにもかかわらず、未だヒーローたちは頭を下げない。オールマイトさん、これが今のヒーローの現状です。」
そう言って私は駆けつけていた警察に報告する為、現場を後にする。
彼が去った後の雰囲気は一言でいえば最低だった。突然空から現れた彼は僕とかっちゃんを助けると、ヒーローたちに檄を飛ばした。彼の言い分は尤もで、正論だった。誰一人として反論の声すら上げられなかった。するとそこにオールマイトがやってきて、驚くことに僕らに頭を下げたのだ。ヒーローではない少年三人にNo.1ヒーローが頭を下げる。あまりの出来事に彼とオールマイト以外は固まってしまっていた。彼はその後ため息を一つ吐き、オールマイトに何か話しかけた後、去っていった。
その後、オールマイトの掛け声で意識を戻したヒーロー達はそれぞれの仕事に戻る。僕は当然叱られ、かっちゃんは褒められていたが、その声に覇気はない。だってそうだろう。手をこまねいていたヒーローではく、顔を隠した学生服の少年がこの事件を解決したのだ。皆、ヒーローとしてのプライドはズタズタだろう。
その後、警察の事情聴取を受け、解放されたのは日がだいぶ傾いた時刻だった。帰ろうとする僕に後ろからかっちゃんが怒鳴る。事件後で襲われたというのに、物凄いタフネスさにびっくりしながらも僕はこれからのことについて考える。あの時、聞こえた声は間違えなく自分の心の奥底にあったものだろう。いくらヒーローになると言っても、心の底ではなれないと思ってしまっている。その気持ちのズレはとても大きくて、だからと言ってそう簡単に夢を諦めきれない。結局、時間を掛けてかんがえるしかないのだろうか。将来の為に現実をみなければならないのだろうか。そう思うとひどく自分がみじめに思えてしまう。込み上げる涙を堪えていると、目の前の曲がり角からオールマイトが現れた。
「っ!?オールマイト!なぜここに!?」
「HAHAHA!少年、私は君に伝えなければならないことがある!君の過去を知らなければ私はただの口先だけのヒーローになるところだった!ありがとう!」
「…でも結局僕は無個性で何もできず、ただあの少年に助けられるがままでした。」
「そうさ!ほかの誰でもない”無個性”の君だったからこそ!私は思い直した!」
っ!
「トップヒーローの多くが口を揃えてこう言っている。『考えるより先に体が動いていた』!!」
あぁ…。
「君もそうだったのだろ!!」
あぁ。
「君はヒーローになれる!!!」
あぁ!!!
お母さん、僕は本当はね。ただ意地を張っていたのかもしれない。彼に認めてもらいながらも無力の僕が許せなかったのかもしれない。でも!僕は憧れの人たちに認めてもらえた!もしどこかで諦めていれば決して叶わなかったのだろう。でも意地を張りながらも、傷つきながらも僕はここまでやってきた。それが報われた!あぁ…これ以上に嬉しいことはない。
「………どうやら、杞憂だったようだな。」
私が下校して探していた人物、それは出久だった。普段の彼は極度の小心者で私はあの騒動は出久にとってそうとうショックなものだっただろう。私は彼が落ち込んでいたらフォローするつもりで彼を探していたが、先の通り、ちょっとした騒動でそちらに意識を割けなければならなくた。まぁ、その騒動の中心人物が出久だったのは些か驚いたが。警察と政府への報告も終わり、出久を探し回っていた私は途中、オールマイトと会話している出久を発見した。そのまま声を掛けようとしたが、オールマイトのあまりの変貌にサッと身を隠してしまった。それから成り行きをなんとなくに覗いていたが。そうか、出久はやっと夢を叶えるチャンスを掴んだのか。
小学生のころ、出久とあの公園で再会したときに彼から強くしてくれと頼まれたが、その頃の私はすでに政府の監視下にいてあまり自由が利かなかった。その際に出久の申し出を断ってしまったのだが、あの時の出久の絶望したときの顔と彼の漏れ出した本心を聞いて、私はただ謝ることしかできなかった。だが、もう彼は嘆くことなく自分の夢を叶えていくだろう。それは本当に…。
「お前は恵まれているよ、緑谷。」
本当に恵まれている。数あるノーマルの中でもあのオールマイトに選ばれ、その力を継承できる。ただでさえ力を欲するノーマルはたくさんいる中で、オールマイトと言う一等星に見初められた。他のノーマルから見れば血涙を流す思いだろう。だが、力を手にするというのは、責任と代償が発生する。その力を正しく振るう責任とこれから降りかかるであろう厄災。出久、お前はその恐怖に打ち勝つことができるだろうか?
私は二人に背を向け帰路に就く。
ふと気配がして目線を下に向ける。そこには白く白骨化した小さな骸骨の上半身が三体ほど顔を出していた。いやいやいやいや!?なんでこいつらがここに!?そんな馬鹿なこいつらは!?
「ナーヤムの使者達!?なぜここに!」
私が驚いていると、後ろから足を何かに掴まれる。振り向けばいつの間にやら大勢の使者が私の足を押さえていた。
ゾクッ!!
背筋に凍るような悪寒が走る。私は視線を正面に戻す。
………目と鼻の先にあのほおずきが全ての目で私を見つめていた。私の意思に反して硬直する体。ほおずきに口はないがまるで話しかけられたかのように”声”が聞こえる。
『狩人様、オ待ちしてオりました。間もなく夜アけ…夜と夢のオわりです。月見だイにて、彼女がオ待ちです。さァ此方エ。』
そして私は頭を掴まれ、その瞳に目を合わせられる。すると次第に意識が遠のき、ブラックアウトする。