Fate/Crossing Peak   作:甘風

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誓いでもあり、呪いでもあるというお話。
よろしくお願いします。


月下にて誓うは

 

 白い月が、穏やかに眼前を照らしていた。

 その光は優しい陰影を落とし、清浄な空気さえ感じさせるもの。

 

 ある冬の日。時期を考えれば、相当に寒さの緩んでいる日だった。

 雲ひとつ無い空に無数の星々が冴え冴えと輝き、どこかからともなく虫の鳴く声が絶え間なく聞こえる、そんな心凪ぐ夜。

 俺と爺さん――衛宮切嗣は、屋敷の縁側に並んで腰掛け、高く昇った月を眺めていた。

 

 夜気を運ぶ涼風が頬を撫でる。浴衣からはみ出た手足が、その清涼な肌触りに喜んでいた。

 月を仰ぐ養父の醸す空気は枯れた老人のようであり、己が呼ぶ名の通りに、間違っても本来の年齢である三十路過ぎなどには見えない。

 苦労と、悲哀とを感じさせる皺。そして、柔和な目つきであってもどこか空虚に濁ったその瞳は、決して中年に差し掛かる男が持っていて良いようなものではなかった。

 

 虫の音を聞くばかりの縁側に、一条の強い風。その冷たさに目を細め、ちらと右を一瞥した。

 

 

「――僕はね、士郎。子供の頃――『正義の味方』に憧れていた」

 

 

 視線に応えたものであろうか、突然の告白。余りの唐突さに面食らうが、それ以上に内容が気になった。

 

「……憧れていたってことは、今じゃ諦めてんのかよ。爺さん」

 

 そんな自分の不平を告げる言葉に、当の本人は目尻を下げて微笑んだ。そんな笑みをしばらくこちらに向けていたかと思うと、ふと、月の方に向き直り、口を開く。

 

「うん、残念ながらね。正義の味方(ヒーロー)は期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。……そんな事、もっと早くに気付けば良かった」

 

 自嘲じみた様子で告げられたその言葉。言われて納得したが、口を衝いて出たのは、ふーん、と一種素っ気ない感想だった。

 

「そっか。それじゃしょうがないな」

 

「そうだね。……本当に、しょうがない」

 

 自嘲のように一拍、相槌の笑いを挟む切嗣。なんともなさを装って、その実憧憬を切り捨てるように溜め息を置いた。

 

 

「――うん。しょうがないから、俺が代わりになってやるよ」

 

 

 思いつくままに口に出した言葉。それに彼が見せたのは、ただただ驚いたような気色。

 その反応が気に入らなくて、知らぬ間に言葉を付け加えていた。

 

 

「爺さんは大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。任せろって、爺さんの夢は――」

 

 

 言葉が、途切れた。養父は何かを探すように、何かから逃げるように、両の瞳を揺らしていた。

 かぶりを振る。構わず、続けた。

 

 確かに、誓うように。

 

 

 

「――俺がちゃんと形にしてやるから」

 

 

 

 だから、安心してくれよ――。その(ごん)は風に乗って、遥か遠景まで届いた気がした。

 

 それほどの静寂。いつの間にか虫の音は止んでいた。しかし、その寂しく、恐ろしい冷たさの残響する静寂を吹き戻すように、生暖かい()()()風が庭を渡った。

 

 本人さえ知らず知らずの内。そういった風情で顔を強張らせていた切嗣は、苦笑と共に表情を緩めると、大きな手を俺の頭の上に置く。それからぽんぽんと跳ねさせるように軽く撫でると、その手を縁側から庭に投げ出した膝の上に乗せた。それから手遊びのように指を動かし、意味のないであろう緩い形を組む。

 

 

「そうだね。――そうしてくれると、嬉しい」

 

 

 穏やかな声音。緩やかな吐息と柔らかな瞳の輝きは、横顔からしか見えなかったけれど。

 

 だとしても、それでも。

 

 

 

 ――――とても、印象的なものだった。

 

 

 

 そのまま、再びの沈黙。

 月も幾らか動こうかというぐらいに時間が経った頃。爺さんは躊躇いながらも切り出した。

 

「これだけは、覚えておいてほしい」

 

 言葉と共に、酷く真剣な眼差しでこちらを見てくる。それに応じてこちらも態度を正した。

 彼はそれを確かめると、深く頷いてから話し始める。――それは、いつかも聞いたこと。

 

 

「誰かを助けるということは、誰かを助けないということ。正義の味方っていうのは、とんでもないエゴイストなんだ。……それを忘れては、ならないんだ」

 

 

 含蓄なのか、諦念と決意の混在する不思議な響き。それを噛み締めて、正面から見返した。

 

 そして、確かに。

 

 

 

「――大丈夫。それでも俺は正義の味方になって、夢を叶えるよ」

 

 

 

 確かに、そう、宣った。

 

 親父は俺の瞳を覗き込んで、そうしながらまた両目を揺らして、果てに何か納得したように、理解したように息を漏らしながら頷くと――微笑んだ。

 

 

「そうか。ああ――――安心した」

 

 

 そう言い、瞼を落として浮かべた笑みは、全ての葉を枯れ落ちさせた大樹のように力強く。

 

 

 だけど。

 

 

 ――――酷く、物寂しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い月が、天高くに妖しく輝いていた。

 満天の星を映す夜空。その星々までもが染まってしまいそうなくらいに紅い。

 

 その天の真紅が地に降り注いで、凝縮し形を成したような存在があった。

 それは、西洋における邪悪の象徴――赤竜(レッドドラゴン)

 奴は醜悪な笑みを浮かべ、縦に裂けた暗い翠緑の虹彩を宿す金色の瞳でこちらを見下ろしている。

 

 

 ――スペイン、アンダルシアのとある港町。

 街を見下ろせる小高い丘で、()()は起きていた。

 吹き荒れる風に揺れる背の低い草原を見回せば、視界の奥に見える建物も含めてあちこちが燃えている。

 ……街の人間の避難は間に合わず、既に全てが死に絶えていた。

 

 終末事象(トワイライトシンドローム)

 その一つの在り方――終末のケ物。その甲種として人々の恐怖の幻想を結実させ、この丘に顕現した赤竜は、その存在をもってどこまでも悪辣に世界の終焉を加速させていた。

 

 奴の眼前でその巨体を見上げ、迎え撃つのは総勢二十人に満たない魔術師達。

 スーツを基調とした魔術礼装で身を固めた俺と、同じ様な格好に身を包んだ父。彼は普段使っている車椅子には乗らず、代わりに堅木で拵えられた品の良い杖を支えに、その両脚で立っていた。

 そんな俺らの前に立つのは、黒いイブニングドレスに双身を包んだ千夜会の執行総代。フーメルクルス・カトライヤとその妹ゼアルキス。そして千夜会の名の下に招集された十数人の到達者(グランド)級や偉業者(ハイグランド)級に相当する百戦錬磨の戦闘者達。

 

 その中では唯一未だ哲学者(フィロソフィアス)級でしか無い自分の存在は、とても場違いに感じられる。

 外縁にはアトラス院や千夜会執行局の人員が配置され、支援体制を整えていた。

 

 

 どこからか聞こえる、息を呑む音や唾を飲み込む音。呼気は荒くなっても、咳払いはおろか呻きさえ許されないほど緊張の高まった場で、皆今か今かと攻撃の機会を窺っていた。

 自身は魔力炉心を既に解放済み。負荷起動まで終えている。

 

 

 

 ならば、あとは――戦うのみ。

 

 

 そんな覚悟に割り込んで。

 

 

 

 ――――戦端を告げる号砲が如く、竜の咆哮が轟いた。

 

 

 

 

 

  *   *   *

 

 

 

 

 

「――竜種、ですか」

 

 四年前、十三歳の秋。この数日の暖かさが嘘のように消え、急に夜風に寒さが紛れ込んできた日。薄寒さに震えながらリビングの暖炉に火を入れ、二人して温まりながらくつろいで居た時。

 唐突とも言えるタイミングで父の八鍵(やかぎ)風光(かざみつ)に、その幻想種について知っているか尋ねられた。

 

 

 もちろん、最低限の知識は持っている。

 まず、それらは爬虫類をベースにした、堅い鱗と鋭い牙と爪をもつ幻想の中の生き物であるということ。ものによっては巨大な体躯と天を舞うことを表す翼を持ち、毒や炎を代表とする息吹(ブレス)を吐く超越種(モンスター)であるということ。

 

 加えて東洋と西洋、そしてある宗教での扱い。

 東洋では龍と呼ばれ、善や叡智、富と繁栄、権威と自然の威容の象徴とされているが、西洋では竜と言えば悪や邪智、強欲と無慈悲、軍事と自然の猛威の代名詞のような存在である。その強大さから力や権勢を謳うシンボルであることは洋の東西を問わず同じだが、その意味合いはだいぶ異なっている。畏怖の対象、敬い奉る存在が龍とすれば、恐怖の対象としてその暴性と強勢にあやかるのが竜なのだ。

 

 そんな竜のイメージは、爬虫類的な特徴からも分かる通りに()が大本にある。この世界において最大の版図を持つある宗教の経典には、蛇を原初の人間二人を唆した罪悪、つまり悪とする記述があった。現在、竜に悪性を信じる人が多い理由には、その宗教が蛇を悪の存在とするイメージを西洋の文化圏に広めた部分が大きいだろう。

 その宗教が広まったのは人理の基点周辺の時代。つまり人にとって竜は古の頃から、あるいはそもそもからして人間の敵として描かれ、悪とされてきたのだ。

 

 

 そこまで考えるが、師たる風光が満足するような返答をできるとも思えず。ただ、首を横に振るしかなかった。

 彼はそんな俺の仕草を不審そうに見るが、かぶりを振ってそれを排し口を開く。

 

「――竜種は一般の歴史書や文献には伝説としてその形跡を残すが、その存在はないものとされている。もっと言えば、魔術師の中でもおおむね秘匿されているものでもある」

 

「……間違いなく、()()はされていますね」

 

 アクセントを置いて含みをもたせた己の(ごん)に、親父は満足そうに息を漏らした。

 

「そうだ、秘匿はされている。――公然の秘密という形でな」

 

 そこまで言うと指を立て、下の方――地面に向けた。

 

「倫敦の地下迷宮――霊墓アルビオン。それそのものとも、最深部にあるとも言われる白竜の骸は時計塔、もとい秘骸解剖局によって管理と独占がされているが、表向きは隠匿されている。……実際、ほとんどの魔術師はその通りだと思っていて、真実は奴らの意図通り闇に葬られている」

 

 ここまでの情報は知っていた。そのため、首を縦に振る。

 

「三十年前までならまだ生きた竜が居たのだがな。それは、私達結社が滅ぼした」

 

「――父さん達が、ですか。……それは、良かったのですか」

 

 初めて聞く話に驚きで目を見開きながら、「自分に話しても良かったのか」「その竜を討ってしまったのは良かったのか」――そんな意味を込めた言葉を告げる。けれどもこちらの思いに反して、然程思うことがないかのようにこともなげに応じられた。

 

「あぁ、それは問題ない。……あれはどうしようもなかった」

 

 そこまで言うと、打って変わって重々しい雰囲気で目を伏せた。

 

「……あれは中国の奥地のある山に棲む、水利に関わる龍だった。人が際限なく山を穢したために、誇り高き豊穣の山の神が悪神に――恨みと憎しみに囚われた邪龍に堕ちてしまっていてな。人のためなら、――なにより、かつての()の龍を思うなら、殺すしか無かったのだ」

 

 まぁ、この話はもういいだろう。そう言って、彼は瞼を閉じた。

 迂闊なことを訊いてしまったことへの後悔。苦い後味が口を埋める。何か言おうとするが、肝心の中身が思いつかず、口を開け閉めするばかり。結局、黙り込んだ。

 

 

 そんな風に落ち込んだ様子を見せる息子に、親は半笑いのような間の抜けた空気を含む息を漏らしたが、しかし。表情は変えないままに、突拍子もなく切り出した。

 

「水明、コーヒーを入れてくれ」

 

「……随分と突然ですね」

 

 そうは言うが、ありがたくもある。たぶん、この親なりの気遣いなのだろう。

 

「飲みたくなったんだ。仕方ないだろう。息子にコーヒーを淹れさせるのは親の特権だ」

 

「どんな特権だよ。……インスタントでいいですか」

 

 言いながら立ち上がった。リビングを抜けキッチンに向かう。

 

「構わない。だが――」

 

「ブラック、ですね。分かってますよ」

 

 笑みと共に言った。父が首肯する。

 

「お前も飲むか?」

 

「ミルクとシロップを入れてなら」

 

 子供口なのがちょっぴり恥ずかしく、バツが悪いのも隠したくて。たっぷりの茶目っ気を乗せた軽口を返した。それに応じる親父。

 

「お前も早くブラックを飲めるようになれ」

 

「いつかね」

 

 おどけて言葉を濁すが、風光はそれに肩をすくめるばかり。

 表情こそ普段と変わり映えしないが、それでも決して感情がないわけではなく、単に表に出てこないだけ。だからこそこの様に気遣ったり、軽口を言ったり、おどけた言い回しに応じたりするのだ。見た目ほど厳しくも気難しくもなく、気さくな人柄なのである。

 

 尤も、その性質を表に出されるのも、それが分かるのも、彼に近しい者だけなのだが。

 

 

「――で、竜がどうされたのですか」

 

 マグカップを父親の前のテーブルに置きながら尋ねた。

 

「曲がりなりにも魔術世界でも秘匿されてきたお話なんでしょう? それを今、俺に話すということはそれなりの理由があると察しますが」

 

「そうだ。秘匿されてきたのは、知る者は一握りでいいからだ。しかし、今となってはそういう訳にもいかなくなった」

 

 魔術の師は自分の淹れたコーヒーに口をつけ、喉を潤してから続ける。

 

 

 

 

「――――千夜会(せんやかい)の『光を告げるもの(アカシックセイヤー)』が、ヨーロッパでの竜の現界を導き出した。……人理以降、ありえない――ありえなかった規模の、神秘災害としてな」

 

 

 

 

 飛び込んできた言葉に、耳を疑う。

 

「――――っっ! それは……」

 

 驚愕と、動揺と。それによって疑問が口許で立ち消えた。

 

 

 光を告げるもの、アカシックセイヤー。

 それは、全ての神秘の管理組織たる千夜会の所有する事象予測器だ。遍在する小事象から、稀有な大事象を予測する演算の魔術具――否、魔法級の神秘の遺物。有り体に言えば未来予知を可能とするそれは、千夜会が魔術協会の完全な独立を許さないでいられる大きな理由でもある。

 本質は未来の予知などといったものとはだいぶ違うが、大抵の使い方、少なくとも今まで使われてきた事柄に関しては、おおよそ似たようなものだ。

 

 

 気を取り直して、再び訊ねる。

 

「――それは、どういった形で? それに、何故私に?」

 

「……他の魔術師に知られるのも、時間の問題だからだ。これまでにありえなかった規模、とは形容としては曖昧だが、それ故に秘匿性など至極どうでもいい話になる。――あぁ、もちろん先程言ったように本物はもう居ない。竜種の生き残りは先の中国の彼奴が最後だ。だから、本物の竜は二度と生まれない」

 

 矢継ぎ早の質問への答は、多分に言外の意を含んでいた。

 

 ――そこから、ある一つの想像をする。

 

 何か理解した様子の俺を見て、親父が満足そうに、けれど深刻そうに、神妙に頷いた。

 

 

 

「そう、終末事象――トワイライトシンドロームの形で、だ」

 

 

 

 ――――。予想と同じ解。しかし、言葉を失った。

 

「先日、スペインに大規模な因果律の乱れの発生を観測し、千夜会がアカシックセイヤーを使用した。その予知の結果として、終末のケ物の甲種として赤竜――正確には竜の姿と性質を持った災害が顕現することが判明したのだ」

 

「……ケ物、ですか」

 

 ケ物。終末のケ物たちと呼ばれる、終末事象(トワイライトシンドローム)の一種。世界に定められた終末という終焉(おわり)を加速させるために、世にいるあらゆる生物を滅ぼすとされる事象が、『生き物を襲う怪物』という形をとった概念的な存在。まだ詳細な解明には至ってはいないが、それは外宇宙からの侵攻者とも、外殻世界よりの降臨者、あるいはその端末とも言われる。極端な話、地球という星(ガイア)自死因子(アポトーシス)――抑止力の一形態であるという予測さえあるのだ。

 現出するほとんどのケ物は、乙種と呼ばれる狼と犬の中間のような姿をした異形の怪物である。だが、稀に現れる甲種と呼ばれる存在は時々によってその姿形を変え、人間が生理的に怖れを抱く姿を取るという。

 それが、ヨーロッパの人々の思想に根付く悪の象徴――竜と重なったのだろう。

 

「ですがそんなものが世に出ることになれば――」

 

「――ヨーロッパに甚大な被害……いや、恐らくはそれだけに留まらないだろうな」

 

 人理以降、最大規模。そんな形容の上に竜種の姿形や特性を持つとなれば、歴史に記され、後世に伝えられるような偉人――英雄や聖人と言われるような者達がいなければ、倒すことは成し得ないかもしれない。

 だが、現代には伝説になるような竜殺しなどは存在しないのだ。父達はかつて為したようだが、それをもう一度できるかと言われると、安易にそうだと答えることはできないであろう。それだけ竜を討つということは難しい。伝承に残る英雄であるシグルズやジークフリード、教会の謳う聖人である聖ゲオルギウスや聖女マルタなどは、それだけの偉業を成したのである。

 

 対処を誤れば、世界が滅ぶ可能性すらある。だというのに、必ずできるという確証はない。

 つまり、これは決して負けられない戦いであるということ。

 

 ――ならば。

 

 東洋最高とさえ称される魔術師である()が参戦することは、当然考えうることだった。

 

 

「――では、父さんも?」

 

「ああ、その通りだ。私にも召集がかかった。今回の竜討伐に選ばれた魔術師は二十人ほど。明確な人の世の危機であるからか、応援として巨人の穴蔵の連中――アトラス院も動くが、基本は少数精鋭で倒しに行くことになる」

 

「主導は?」

 

「当然、千夜会だ。今回ばかりは他には委託できないと踏んだらしい。統括はカトライア家の長女、千夜会執行総代フーメルクルス。統括補佐はその妹、ゼアルキスだ」

 

「歴代の執行官最強のお二人が総指揮ですか。――凄まじい面子ですね」

 

「名目上はな。実際に現地で各魔術師を動かすのは、他の者の役目になるだろうが」

 

 ――()の竜との戦いでは彼女達が主力になるだろうがな、と静かに続ける風光。

 

 父が名前を挙げた二人、カトライア姉妹は現在の千夜会執行局の力の象徴だ。両者とも時間と空間を操作する魔術を扱い、戦闘では無類の強さを誇り、魔術協会の追随を許さない成果を上げ続けてきた。

 だが、今回は二人共まだ二十代前半という若さがために、旗頭ではあっても現地では場数を踏んだ魔術師に指揮を譲るという形になるのだろう。

 

 まだ哲学者(フィロソフィアス)級でしかない自分にとっては、全く次元違いの話ではあるが。

 

「最大級の終末災害、古の赤竜、執行局の頂点。凄まじいお話ですね。……ヨーロッパにはよく行きますが、随分と遠いものに感じられます」

 

 恐ろしさに身を強張らせながら、この親なら大丈夫だろうという一種の楽観をもって他人事心地に言葉を紡ぐ。

 しかし、それは否定された。

 

「……いや、お前にもこれは他人事ではないのだ」

 

 父の言葉の意味が上手く呑み込めず、一瞬理解が滞った。

 

「は? 他人事じゃないって――」

 

 問いに割り入る声。

 

「――今回の予知に際し、アカシックセイヤーはいくつもの可能性を弾き出した。竜種の発生、ヨーロッパの壊滅、ある者の覚醒(めざめ)、多くの死、終末化の加速。……無論、それらは可能性故に、変えることもできる」

 

 そんなもって回った物言いの後に、核心を口にする。

 

 

 

 

「――――そして事象予測器が最後に求めた、我らを導くとされた答えは――()()。お前をこの戦いに必ず連れて行くことだ」

 

 

 

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