……いささか水明の話が長かったでしょうか。不安。
二人が出会う話。その冒頭をどうぞ。
……そう、そんないつかの日のこと。
母をとうに亡くした俺が、約束と共に父の最期に立ち会い、終末を謳う理不尽に叫んだあの日。
その時に立てた誓いを、あれからただの一度だって間違いたと考えたことはなかった。走ってきた道を顧みることはあれど、後悔することなどなく。ただ、前を向いて駆け抜け続けた。
――だから今、神秘を目指した自分がいる。
――だから今、盟主の理念を追う自分がいる。
――――『救われない誰かを、確かに救うために』――――――。
例え終わってしまったことの後追いでも。
それでも、この世に救われぬ者などいないのだと証明できたなら。
――きっと二人の歩いてきた道も、無駄ではないのだと証を立てることができるから。
そんな、青臭い話。
現実味は欠片もなく、叶う見通しもまるでない。世のほとんどの人にとっては、きっと単なる荒唐無稽なお伽噺でしかない。
現実の白日の下に晒すにはあまりに脆く、幻想の月光の下でしか見ることを許されないくらい儚いもの。無闇に夜陰に紛れてしまえば、いずれはその輪郭を溶かしてしまいそうなものだった。
だとしても。
――叶えたい、夢だった。
そう。
――――叶えてやりたい、夢だった。
* * *
竜の討伐、赤竜事変と名付けられた神秘災害の終結から二ヶ月。
事件の後始末も、父の葬式も終えた自分は託された命題を追って、結社の悲願を叶える可能性を持つ街――冬木を訪れていた。
今の季節の名を冠するこの街は、それに因んだかのように思わせるほどに深まる寒さを感じさせてくる。新都のビル群を抜けて吹く風の冷たさに、コートの襟を寄せて思わず身を震わせた。
雪空の下、真新しい町並みを抜けて橋を渡る。目的地は深山町の、とある武家屋敷。
「ここか」
しばらく歩けば到着した。そこは事前に調べた情報通り。
情報の鮮度が悪いため、最悪の場合引き払われてもぬけの殻という事態も想定していたが、杞憂で良さそう。外から見ても人が住んでいる形跡があった。
それにしてもと、実家とは全く違う純和風の建物に驚嘆の息が漏れる。
「凄いな」
独り言が零れた。――それは緊張のため。
深呼吸を一つして気持ちを落ち着ける。気合を入れて踏み出した。
門を通る時、ぴりと首筋に微弱な電流のような刺激が走る。――結界、か。
……これでこの屋敷が魔術師の住処であることは確定。ならば、一層気を引き締めなくては。
――――。そこまで考えて、周囲から受ける感覚に違和感を抱く。
「……これは、排除の機能がないな? ――開かれた結界か」
非常に珍しく、何よりも奇特な結界。その事実に目を丸くし、多少の安堵の息を吐いた。
――最終的に決裂するかもしれないが、とりあえず話は通じそうだな。
そんな感想を懐いて、インターホンを押す。心の用意は大丈夫。
若干間を置いて「はーい」と、若い男の声が聞こえる。――若いというよりかは、幼い、か?
少年を思わせる声に疑問はあっても、ここまで来て特に何ができるでもなく。ただ平静を心掛けて、待つしかなかった。
「はい、どちら様ですか?」
顔を出したのは、声の通りに若い男だった。むしろ自分と同じ年頃に見える子供。写真で見た目当ての男とは似ても似つかないから、その息子ではないだろう。
日本人には珍しい、赤い髪と琥珀色の光が差す瞳が印象的だった。
そんな少年が何故、この家にいるのか。そんな疑問は棚上げにして、笑みを作る。
「初めまして。私は、八鍵水明と申します。不躾ながら、所用があって直接お宅に参りました。――衛宮切嗣さんはご在宅でしょうか?」
この直接の続きの話は一章十七話にて。
次より時間軸は四年後に一気に飛び、士郎視点でのスタートになります。