インフィニット・ストラトス ―Last Ravens― 作:白林
なんとか2話目が書き上げることが出来ました。
今回はついに2人が再会を果たします。
そして、世界を揺るがすあの事件が。
それでは、Last Ravens 第2話、始まります。
《side:レアス》
生まれ変わってから気づけば6年目を歳月が迎えていた。
俺はというと、将来に対する漠然とした不安を抱えつつもそれなりに楽しく日常を過ごしている。
変わり映えのしない日々と言ってしまえばそれまでだが、常に何者かからの襲撃に意識せねばならなかった頃に比べればずいぶんマシだ。
いや、変化ならあったか。
1ヶ月ほど前に、我が家の隣にロシアから引っ越してきた家族がいたな。
どうやら父親が外交官で、仕事の都合でこっちに越してきたらしい。
俺の父さんともウマが合うようで、いつの間にか家族ぐるみの付き合いとなっていた。
そこで、俺のとって気になる出来事があった。
俺の興味を惹いたのは彼らの一人娘だ。
“ジナイーダ”
あの世界で、最後のレイヴンとして死闘を繰り広げた人物と同じ名前。
俺の心に今でも深く刻みつけられている言葉を残し、爆炎の中に散っていった、顔も知らないレイヴン。
「ジナイーダ」という名前だけなら特にロシア語圏では珍しい名前ではないらしいので、少々過去を懐かしむ程度で済んだだろう。
だが、彼女を一目見た時に感じた感覚は、ただの気のせいとは思えなかった。
上手く言葉には出来ないが、あれは何というか……俺と似た匂いがした。
それに、あの眼差しには見覚えがある。
レイヴンであった頃、あんな目をした人間を何人も見てきた。
その経験から言って間違いなく、あれは戦場を知っている者の目だ。
以上のことから判断して、彼女は俺が知っているジナイーダである可能性がかなり高い。
とんでもなく突飛な考えだとは自分でも思う。
しかし、実際俺自身が「生まれ変わり」などという不可思議な現象を体験しているのだ。
自分以外にも1人くらい、生まれ変わっている人間がいても不思議じゃないのではないか。
とはいえ、これはあくまで全く持って根拠が無い推察に過ぎない。
なので、彼女に対しても近所の他の子供たちと同じように接していた。
(いやー、でもやっぱりアイツまで生まれ変わっているとか、ありえねーよなー。)
そんなことを考えながら、俺は隣の家へと向かっていた。
今日はジナイーダのお母さんがお茶会をやるということで、そこに母さんと共に呼ばれたのだ。
ちなみに、ジナイーダの家は俺の家よりやや大きい。
やはりごく普通の会社員の収入と政府の外交官の収入とでは、差が出るものなのだろう。
「お邪魔しまーす。」
「よく来たわね。レアス君も元気?」
「うん。元気だよ!」
「それは良かった。さあ、早く上がって。」
玄関で軽く挨拶を済ませると、リビングへと通される。
そこには既にお茶菓子が準備されており、ジナイーダも席についていた。
「こんにちは、ジナイーダさん。」
「こんにちは。」
もし本当に目の前の女の子が“あの”ジナイーダだとしたら、こんな会話をしていること自体信じられない。
かつての彼女をそこまで詳しく知っているわけではないが、少なくともこんなキャラじゃない。
大方、本当の自分を隠す仮面でもかぶっているのだろう。
(っと、危ない危ない。決めつけるのは良くないことだ。)
考えを顔には出さずに、一言二言他愛のない会話を交わす。
彼女が本当に生まれ変わったジナイーダかどうかは、まだ分からないのだ。
万に一つも、あの世界について口を滑らすわけにはいかない。
うっかり話してしまえば、色々なものを失いかねない。
「あら、待たせちゃったかしら。紅茶がはいったわよ。」
「全員紅茶は注がれた?じゃあ、始めましょうか。」
ジナイーダと話してたりしているうちに、今までキッチンで紅茶をいれていた母さんたちがリビングへとやってきた。
カップに注がれた温かい紅茶を一口飲む。
いい茶葉を使っているらしく、我が家で飲む紅茶よりも風味が素晴らしい。
天然食材を使った飲食物を口に出来るようになったのも、この世界に生まれ変わってからのことだ。
あの世界では特攻兵器の影響で、まともに農作を行うのが可能な土地すらほとんどなく、必然的に合成食材を食べざるを得なかった。
俺はレイヴンとしてそこそこの収入はあったので十分な量の食材を手に入れること出来たが、満足するまで食べられない人も多かったのだ。
その名残だろうか、どうも生まれ変わってから昔よりも食欲が増した気がする。
気づけば、あらかじめ置かれていたお茶菓子はすっかり無くなっていた。
(あれ?いくらなんでも無くなるのが早くないか?)
確かに自分の席の前には空けられたお菓子の袋が積み重なっている。
しかし、流石に俺1人で用意されたお菓子がこうも消えるとは、到底思えない。
ならば、他に誰かお菓子をいっぱい食べた人間がいる以外の可能性は無い。
隣に座っている母さんは……違う。
何杯も紅茶をおかわりしてはいるが、そこまで茶菓子に手をつけてはいない。
はす向かいに座っているアグラーヤさんは……これも違う。
どうやら彼女なりのこだわりがあるらしく、座っている席の前には一切お菓子のゴミは無い。
では、残るのは1人しかいない。
正面に座っているジナイーダへ目を向けると、俺と同じように多くの茶菓子に手を伸ばした形跡があった。
当の本人はと言えば、どうもこちらと目を合わせようとはしないが。
(…やっぱり生まれ変わったのかなぁ。)
当時の食事事情に関しては、おそらく自分と大差は無かったと思われるので、同じような状況になっていてもおかしくない。
ささいな事柄ではあるが、彼女が“レイヴン・ジナイーダ”ではないかという疑いはますます強まった。
「あらあら、子供たちはよく食べるわね。やっぱり成長期かしら。」
「どうしましょう?買ってこないともうお菓子無いわよ。」
「うーん。でも、まだお開きにするには少し早くないかな?さっくと行って来ちゃいましょうよ。」
「そうね。じゃあ悪いけどお留守番しといてくれる?知らない人が来ても、ドア開けちゃダメよ。」
そう言い残して、母さんたちは買い物をしに出て行った。
2人がいないうちにあんなことが起こるなんて、この時は誰も予想していないかった。
《side:ジナイーダ》
(調子に乗って食べ過ぎた……。)
目の前に座っている男の子に目線を向けられて、初めて自分が想像以上に菓子を手に取っていたことに気がついた。
食事をしていると、つい以前の世界での食事が思い出され、多めに食べてしまう。
この前も気を払わねば、と決心したばかりだというのに、我ながら全く…。
いくら私でも、最低限の恥じらいはあるのだ。
失態を無理やりにでも振り払い、正面の彼を見つめる。
幸い、テレビを見ていてこちらの視線には気づいていないようだ。
(やはり気のせいじゃない。こいつは同類だ、私と。)
初めて会った時からずっと引っかかっていた。
基本的に隠してはいるようだが、まず間違いない。
時折にじみ出る雰囲気は、目の前の男が見た目通りの人物ではないのを伝えてくる。
何より、ふとした時にまとう空気。
数々の死線をくぐり抜け、戦場を生き残ってきた人間のみが醸し出す空気の余波のようなものを、彼からは感じられる。
おそらくあの24時間を戦った私だからこそ感づけるような、表面には決して表れない余韻に過ぎないが、それだけで同類だと確信するには十分過ぎる。
問題は、
(だが、彼の名前に聞き覚えは無い。こいつは一体誰なんだ?)
彼からは、なんとも言えない既視感のようなものを覚える。
まるで、今まで何度も会ったことがあるような……。
ならば誰かは分かるはずなのだが、「レアス」などというレイヴンは聞いたことが無い。
生まれ変わった際に名前が変わったかもしれない、という考えに思い当たるが、即座にそれを否定する。
もしそうなら、私自身「ジナイーダ」として生まれ変わってはいないと思うからだ。
まして別人とはいえ、「ジノーヴィー」も「アグラーヤ」もいて今更名前が変わるとは想像出来ない。
前述の雰囲気を感じさせ、かつ明確な名前が知られていない人物。
そんな男に心当たりなど…………いや、もしや!
1人だけ、いる。全ての条件に当てはまるレイヴンが。
大人たちがいない隙に一か八か確かめようとして、しかしその言葉は、不意に放たれた一言で遮られた。
「おい、ちょっと待て。何だと……!!」
今まで彼といた時には、一度も聞いたことの無い口調。
声色はひどく張り詰めており、嫌でも緊張を煽られる。
彼が食い入るように見つめているテレビ画面に目を向け、思わず目を見開いた。
『臨時ニュースです。本国全土の軍事施設が突如謎の勢力によるハッキングを受け、多数のミサイルが発射された模様です。政府は原因を究明していますが、現状では状況は芳しくないとのことです。なお、他の各国でも同様の事態が発生しており、総数2341発、その全てが日本を標的としているとの分析が入ってきました。繰り返します………。』
「この世界のセキュリティーはどうなっている!?」
画面を睨みつけながら叫ぶ。
世界中の軍事施設が一斉にハッキングを受け、何者かに乗っ取られるなど、かつての世界ですら無かったことだ。
あの世界より技術レベルがやや低いのは承知していたが、ここまで脆弱だとは。
それとも、ハッキングを仕掛けた誰かがあまりにも常識離れした化け物なのだろうか。
「クソが。悪戯じゃ済まねーぞ。」
彼も相当頭にきているらしい。
どんな思惑があってこんなことを仕掛けるのか。
一つ確実なのは、実行した奴はイカれた思考回路を持っているということだ。
(ACがあれば!)
今ほど力が欲しいと思ったのも、ジノーヴィーの一件があった時以来のことだ。
ACがあれば、ファシネイターに乗れれば、少なくとも大幅に損害を軽減することが出来るはずだ。
力が無い自分が非常に恨めしい。
画面を見ていることしか出来ず、歯噛みしていると、突然画面がどこかの海上を映し出し始めた。
他のチャンネルに変えても、どこも全く同じ光景を放送している。
「放送電波まで乗っ取られたのか!」
「おい、画面の中央に何かいるぞ!」
レアスが指差すところには、確かに何かがいた。
よくよく見ると、それは人間の形をしていた。
全身を純白の装甲で覆われ、大きさはだいたい2m程度に見える。
パワードスーツだろうか…?
しかし、あんなものでこれを止めるつもりなのか?
どう見ても防げるとは思えない。
パワードスーツらしき何かは、どうやらミサイルに立ち塞がるように飛行しているらしい。
ミサイルが人型の何かへ向けて殺到する。
すると、パワードスーツはミサイルへとスラスターを吹かし突撃した。速い!
そのまますれ違い様に、手にした大剣を一閃。
複数のミサイルを一振りで破壊した。
その後テレビを通じて伝えられる光景は、かつての経験を加味しても凄まじいものだった。
大剣を振るい、片腕に装備されたエネルギー砲らしきもので次々とミサイルを撃墜していく。
「…凄ぇな。」
「ああ、全くだ。あんな兵器は初めて見た。」
「飛行にブースターを使っている様子が無い。フロート脚の反重力システムのようなもんか?」
「かもな。あのスラスターの加速力も恐ろしい。しかもずいぶんと小回りも効くようだ。」
「腕のあれ。エネルギーを収束しているようには見えないな。レーザー弾でも、パルス弾でも、プラズマ弾でも無い。どういう仕組みなんだ。」
「見た所、ACのレールキャノンと似ている気がする。恐らく類似した兵装だろう。」
「はー。つくづく恐ろしいな。AC乗ってても絶対相手したくないな。」
「私もだ。そもそも、ACとアレでは相性が悪いだろう。あの大きさだ。こちらは攻撃を当てるだけでも難しい。」
テレビの中の光景に対し、2人で思い思いの感想を述べていく。
……ん?
私の気のせいでなければ、今目の前の男は「AC」と言っていなかったか?
どうやら向こうも私の発言に気がついたらしい。
お互い顔を見合わせて、同時に口を開いた。
「「なんで、お前がACを知っている!?」」
《side:レアス》
うん、待て。一旦落ち着こう。
AMIDAが一匹、AMIDAが二匹、AMIDAが三匹……よし、落ち着いた。
「まさか、本当に“あの”ジナイーダなのか?」
「…何が言いたい。」
「ジナイーダ。中量二脚AC《ファシネイター》を駆るレイヴン。それが、お前だな?」
「…ああ、お前が言っているジナイーダとは、確かに私のことだ。ならこちらからも質問させてもらおう。そういうお前こそ誰だ?私が知る限り、レアスなどという名のレイヴンはいないのだが。」
まさかここまで想像通りとは。
しかし、やっぱり俺のことは分からないか。
「知らないのは当たり前だ。今の名前は、生まれ変わってからこの世界での両親に貰った名前だからな。」
「そうか。では改めて聞こう。お前は一体何者だ?」
何者か、ね…。
生憎、名乗るような名はかつての自分には無い。
強いて言うのであれば、
「レイヴン。俺はそれ以上でもそれ以下でもない。それに…。」
「何だ?」
「『その称号は、お前にこそふさわしい』と言ってくれたのは、お前だろう?ジナイーダ。」
「…!!やはり、お前だったのか。」
「気づいていたのか?」
「あれほどの雰囲気を発し、かつ明確に名が知られていない存在。そんなレイヴンは、お前以外に思い当たらなかったものでな。」
どうやら俺の正体についても感づかれていたらしい。
それが分かった途端、唐突に笑いがこみ上げてきた。
「くくくくく…。」
「いきなり笑いだしてどうした。気味が悪い。」
「いや、済まない。まさか俺以外に生まれ変わった奴が本当にいるとは思わなくてな。」
「それは私のセリフだ。しかも、よりによってお前とはな。」
「…もしかして恨んでる?」
「フッ、それこそまさか。あの戦いの結末については、一片の悔いも有りはしないさ。」
「なら良かった。」
万が一再開した暁には、一言ぐらい恨み言を言われるかと思っていたから、正直驚いた。
それから、俺たちは改めてお互いのことを話し合った。
あの世界でのこと。戦いの記憶。生まれ変わったからのことなどなど、色々な物事を話した。
ジナイーダとの戦いの直後にパルヴァライザーに襲われ、なんとかそれをも退けたことを話したら、驚きすら通り越して呆れられたが。
「レアス。この世界はこれからどうなると思う。」
割と柔らかい雰囲気で話していたジナイーダが、一転して真剣な表情で問いかけてきた。
「間違いなく、荒れるだろうな。」
「やはり、そう思うか。」
「あんな強大な兵器を見せつけられて、ほっとく奴はまずいない。かつてのACをも上回っているかもしれない性能だ、仮にアレが量産されれば、今の世界情勢が崩れるのは確実だろうな。」
「違いない。あの世界ほど混迷した状況にまではならなくても、今までのようにはいかなくなる。」
ジナイーダも、俺と大差無い展望を描いているようだ。
しかし、AC以上の性能を誇る兵器か。
アレを見た時、レイヴンであった頃の血が騒いだのも事実だ。
全く、争いなど望まないというのに。
(俺は、生まれ変わっても戦場からは逃れられないのか?)
そんな疑問が頭に浮かぶ。
画面の中の何かは、どうやら全てのミサイルを撃墜したらしい。
本当に恐ろしい兵器だ。
その後、母さんたちが帰ってくるまで俺たち2人は議論を続けていた。
母さんたちは帰ってきて、初めて事件を知ったらしく、たいそう驚いていた。
お茶会が終わり、家に帰った後にニュースで伝えられた続報によれば、アレに接触しようと各国が送り出した戦闘機や巡洋艦、空母、果ては監視衛星までもが幾つも破壊され、一層その凄まじい性能を世界に知らしめた。一切の人命を奪っていないということが、更にその評価を押し上げた。
その後発表された篠ノ之束博士からの声明により、あの兵器が「インフィニット・ストラトス(IS)」ということ、「ISを倒せるのはISだけ」という言葉と事実は、一夜にして世界中の知る所となり、最強の機動兵器として認識されることとなった。
後世に「白騎士事件」の名で永遠に語り継がれることになる日は、俺にとってもう一つ重大な発見があった日となった。
俺と同じく生まれ変わった人間がいて、しかもそれがジナイーダであったのは、幸運と言って差し支えあるまい。
つき合いは長くないが、あいつなら信頼出来る。
彼女の存在は、何かにつけて必ずプラスに働くはずだ。
一方で、これから世界がどう変わるかという懸念はより増した。
別に世界の行く末なぞに興味はない。
だが、ISの登場は間違いなく世界の構造を大きく変える。
そうなれば、俺が生きる日々にも影響が出ないはずがない。
今まで存在していた秩序が壊され、新たな世界が訪れる気配を感じながら、俺は眠りについたのだった。
いかがだったでしょうか。
あまりの衝撃に思わず2人とも素が出てしまったようで。
ISという存在と出会い、これから彼らはどうするのでしょうか。
次回も書け次第投稿したいと思います。
あと、恐らく次回は今話の内容からだいぶ時間が飛ぶ予定なのでご留意ください。
これからも、よろしくお願いします。