インフィニット・ストラトス ―Last Ravens― 作:白林
そんなわけで第3話です。
今回は前回から時間が飛んでいますので、ご留意ください。
それでは、Last Ravens 第3話 始まります。
《side:ジナイーダ》
「合同展覧会?」
放課後の教室で私がした話に、彼はそう聞き返した。
ほとんどの生徒は既に帰宅しており、教室に残っているのは私とレアスの2人だけだ。
「ああ。噂くらい聞かなかったか?今度の日曜日に、幾つものIS関連企業が合同で自社の研究を一般に公開する大規模な展覧会を行うそうだ。会場は私たちの家の近所らしい。」
「へぇー。で、それを見に行かないかって?」
「そうだ。今の世界を席巻する兵器を身近に見られる機会なんてそうは無い。どうだ?」
「うーん。個人的な感情を言えば、何としても見たいんだが、ぶっちゃけ今の社会の風潮だと確実に面倒事をふっかけてくる奴がいるよなぁ。」
「だろうな…。場所が場所だけに、まず間違いなく。」
白騎士事件からはや8年。
あの日以来、世界は大きく変わり、8年の間に様々な物事が起こった。
アラスカ条約の締結。
それまで多大な発言力を有していた軍需産業の衰退と、それに変わるIS関連企業の台頭。
現在まで二度開催された、ISの世界大会「モンド・グロッソ」。
その他にも数え切れない程の変化が起きたが、最も一般人にも関わりのある変化こそが、女尊男卑の考え方が世界中に広まったことだ。
“ISは女性にしか動かせない”
初めてその事実を聞いた時は、思わず呆れてしまった。
兵器というものは、誰であっても扱えることに意味があると私は思う。
例えばAK-47というアサルトライフルは、その構造の簡素さに由来する、過酷な環境でも問題無く動作する頑丈さと扱い易さにより傑作と称されるようになった。
生まれ変わる前の世界において最強の兵器であったACは、搭乗者の操縦技術が伴っていることが条件となるが、それは戦闘機なども変わらない。
少なくとも、先天的な要因で扱えないなんてことはなかった。
だがISは、性別という自分ではどうにも出来ない事柄で扱えるか否かが決まってしまう。
兵器である以前に、人間が用いる道具として欠陥品だと言わざるを得ないものだ。
さて、そんなものにより席巻された世界はどうなったか。
「男性にはISを動かせない」というだけで、史上かつてない程の女尊男卑の社会が形成されてしまった。
彼らの名誉の為に言わせてもらうが、決して男性たちの能力が低いわけではない。
ただISに乗れないという一点。それだけの要因で、社会的に男性の価値は大きく下がってしまったのだ。
結果、自分はISに一切関係すらすらないにも関わらず、「男性は女性に従うもの」などという過激な思想を持つ女性が増大しており、特にIS推進派にはその傾向が顕著に表れている。
父から聞いた話では、各国の軍内部でも今まで国防を一手に担ってきた男性たちが追いやられ、ISを駆る女性を中心とした勢力が多大な影響力を有しているらしい。
(全く、想像以上に歪んだ世界になってしまったものだ。)
白騎士事件が起こったあの日、確かに世界は荒れるだろうと予想した。
だが、まさかここまで酷いことになるとはな。
自分では何の力も持っていないくせに、女性であるというだけで偉そうに振る舞っている連中を見るたびに、反吐が出そうになる。
そんなわけで、レアスが展覧会に行くのを渋っているのも、そこで余計なことに巻き込まれるのが面倒だからだ。
「でも、面倒事に巻き込まれかねないことを差し引いても、一回見てみたいんだよな。テレビや写真なんかじゃない、俺自身の目で、ISって奴がどんなものかを。」
「そうか。なら、行くんだな。」
「ああ。やっぱり実際に見なければ分からないことも多いからな。それに…。」
「それに?」
「よくよく考えてみりゃ、面倒事をふっかけられることなんざ俺たちにとって当たり前だったじゃないか。いちいち『面倒が嫌い』とか言ってたら、傭兵稼業はやってらんねーよ。」
「フッ、それもそうか。」
そう言われればその通りだ。
レイヴン、特に私やこいつのように特定の勢力に属していない人間には、大層面倒な依頼が舞い込むなんてことも珍しくはなかった。
依頼内容が実は真っ赤な嘘だった、なんてことも良くある。
今までの経験に比べれば、この世界で押しつけられそうな要求なぞ大したことはあるまい。
「決まりだな。なに、当日は少しくらい助け舟を出してやるさ。」
「そうしてもらえると助かる。なんだかんだ言っても、面倒事は少ないに限る。」
こうして、私たちは展覧会を訪ねることになった。
当日はISの実力を、存分に見極めさせてもらおうか。
日曜日になるのをどこか楽しみにしながら、帰宅の途についた。
《side:レアス》
「すっげぇ数の人。やっぱり皆同じことを考えるもんだな。」
日曜日、俺とジナイーダの2人は合同展覧会の会場に来ていた。
周りを見渡せば、会場を埋め尽くさんばかりに人が溢れている。
学生や親子連れから老人までと、来ている世代も幅広い。
来場者の比率を見るに、やはり女性の割合が多いが、少なからず男性が混ざっているのも確かだ。
(他企業の偵察か、それとも自国に導入するISの新装備の視察か。彼らの大抵はどっちかだろうな。)
ここにいる男性たちのほとんどはスーツを着込み、手元の資料にせわしなく目を通し、担当者から話を聞いては何かしらメモを取っているあたり、単なる野次馬である可能性はかなり低い。
そもそもISを研究・開発している企業は国家からバックアップを受けている場合がほとんどだ。
大方この展覧会の真の目的も、自社の、ひいては自国の技術力を社会に広くアピールすることなのだろう。
ふと頭上を見上げれば、数機のISが編隊飛行を行っている。
あれは確か、フランスのIS企業製の奴だったか。
自分の目で見ると、改めて性能の凄まじさが分かる。
戦闘機以上の機動力と歩兵のそれを大きく上回る火力を併せ持ち、単機で一個師団を壊滅させ得るような兵器だ。
仮にACがあったとしても、勝ち目は薄いだろう。
兵装の火力ではACに軍配が上がるが、当たらなくては意味が無い。
機動力に翻弄され、徐々に追い詰められるのが関の山だ。
(これが兵器じゃないって?冗談も程々にしろってんだ。)
開発者の篠ノ之博士曰わく、元々ISは宇宙開発用に作成されたと言う。
しかし、現状ISは間違いなく兵器として認識されている。
白騎士事件からそう時を置かずに主要国間で締結されたアラスカ条約では、ISの軍事利用を禁止している。が、現実では国防の名目の下に軍に次々とISが配備されており、風の噂では軍用ISなんてものも開発が進んでいると聞く。
これでもまだISが兵器でないと言い張れる人間がいるならば、ぜひ一度会って話しをしたいものだ。
「どうだ?実際にISを見てみての感想は。」
「率直に言って、恐ろしい。世界を変えてしまうのも正直納得するな。これがあれば、あの24時間だって乗り切れると思う。」
「そうか?私には、人が扱う道具として欠陥だらけの一品にしか考えられない。女性にしか動かせないというデメリットは、やはり致命的だ。」
「その欠点を考慮しても、兵器としてのISの性能は本物だ。少なくとも、昔の俺がISと戦って生き残れるとは思えない。実際、ISの登場で世界は変わっちまったんだ。」
「それはその通りだが…!」
互いの意見を交わしながら、会場を隅々まで歩き回る。
ISが発明されてからの8年間で、どの主要国もISの量産体制を整えたことが良く分かる。
ざっとパンフレットを見るだけで、アメリカにイギリス、ドイツ等々世界中の企業が参加している。
武器輸出3原則を掲げている日本ですら、《打鉄》という量産型ISを開発、この展覧会に出品しているのだ。
なお、ISの開発を始めると日本政府が発表した際に一部の国から批判されたが、JAXAを中心とした勢力により「これは我が国における宇宙開発の一環である」という主張により黙らざるを得なくなった、なんて話もあったりする。
閑話休題。
ジナイーダとの会話に思ったよりも気を取られていたようで、気づけば会場の中心部から随分と離れた場所まで来ていたようだ。
このあたりにも幾つか企業のブースがあるのだが、どれも名前に聞き覚えの無い企業ばかり。
どうも各国のIS関連企業の中でも、実績を残していないような企業がまとめてられているらしい。
世界的に有名で、今回もISの実物を持ってきた企業にどうしても人が集まっており、俺たち以外の人はいない。
「特にこれといったものはなさそうだな。戻ろ「待て。あの企業…。」ったく、何だよ。」
ジナイーダが指差す先にあったのは、別段他と違った様子の無い企業ブース。
えーと、パンフレットによるとあそこの企業は……『アライアンス』!?あの組織がなんでこの世界に!?
いや、違うのは分かっているのだけど、それでも一瞬焦らされるね。
確かこの国、つまりアメリカのIS関連企業だったか。
ISの登場により経営不振に陥った軍事企業を中心に、その他の企業が合併してISの開発に乗り出したものの、未だめぼしい業績はあげられていないようだ。
「おいおい、あんな所に何かあるってのか?」
「ブースの前に掲げてある看板をよく見ろ。少しは面白そうじゃないか?」
そう言われて看板を見る。
看板に書かれていたのは、“ISコアのレプリカ展示中”の文字だった。
なるほど、これは少々興味を惹かれる。
文字通りISの中心たるISコアは、この8年間でもテレビなどで映された記憶が一切無く、どんな形をしているのか知らない。
今回の展覧会でも、ISを見せこそすれ流石にコアまで展示している所は見当たらず、どこか残念に感じていたのだ。
レプリカとはいえ、それが見られるというならば行ってみる価値はあるだろう。
俺たちは、『アライアンス』のブースへ向け歩を進めた。
「これがISコア…。」
テント状に設営されたブースの奥、人目につかない所にひっそりとそれはあった。
形状は漆黒の球体で、大きさはすっぽりと手のひらに収まるくらいだろうか、思っていたよりも小さい。
これがあれほどの兵器の中枢を成しているとは、到底信じられない。
「小さいな。実物もこんなものなのか?」
「実物大と書いてあるから、おそらくそうなのだろう。すいません、これ触っても大丈夫ですか?」
近くにいた担当者の人に尋ねると、問題ないとの答えが返ってくる。
せっかくの機会だ、レプリカであっても触っておいて損はあるまい。
ちょうど2つあったので、向かって右の方に俺が、もう一方にジナイーダが手を伸ばし、レプリカに触れようとした。
伸ばした手の指先がレプリカに触れた、瞬間。
「っ!!なんだ!?」
触れた瞬間、ナニカが頭の中に直接流れ込んでくるような感覚がし、思わず手を引っ込めてしまった。
隣のジナイーダも同じようで、驚いた顔をしている。
「レアス、触った時に何かおかしな感覚がしなかったか?」
「お前もか。ああ、した。」
これはどういうことだろう。
今触ったのは、レプリカじゃないのか?
もう一度、今度は確かめるように手を伸ばす。
触れるとやはり、頭にナニカが流れ込むような感覚があるが、今度は手を離さずに、流れ込んでくるものを見極める。
ナニカが流れ込んできて、自分と溶け合っていくような感覚。
不思議と嫌な感じはしない。
少しの間、目を閉じてナニカを受け止める。
流れ込む感覚が収まってから目を開くと、右手に握られたコアが淡い光を放っていた。
「そんな!?なんで
近くにいたアライアンスの担当者の人が驚いている。
俺に続いてジナイーダも、再びレプリカのコアに手を触れる。
すると、同じように光り始めたではないか。
「あのう、このコアはレプリカなんじゃないんですか?」
「それは、あの…………。と、とにかく本社に連絡を!!」
担当者のうろたえ様を見るに、どうやらただ事ではないらしい。
ここで待っているよう言われ、どこかへ連絡を取り始めた。
不穏な空気を感じながらも、とりあえず言われた通りにしておく。
「一体何なんだろうな、今の状況は。よく出来たイタズラ?」
「そうだったなら最高だろうが、残念ながら違うとしか思えないな。」
「やっぱり?うわぁ…。」
その後もあーだこーだ言い合っていると、担当者が戻ってきた。どうやら「本社への連絡」とやらは終わったらしい。
「突然すいません。私はアライアンスのレイン・マイヤーズと申します。いきなりで申し訳ないのですが、至急我が社に来ていただけませんか?」
「何故です?私たちはただISコアのレプリカを触っただけなのですが。理由を説明していただけなければ、こちらも納得出来ません。」
「戸惑われるのは重々承知しています。ですが、ここで詳しい説明をするわけにはいかないのです。どうか、お越しください。」
「…どうする。」
「行くしかねーだろ。どっちみち、何かしらの説明はしてもらわないと、俺も納得は無理だ。」
こうして俺たちは、アライアンスの本社へ行くことになった。
たまたま寄った場所で、面倒事に巻き込まれるなんて不幸だ、なんてことを思いながら。
この一件で、俺たちの日常が一変するなんて、この時は考えもしていなかった。
いかがだったでしょうか。
アライアンスに連れて行かれてしまった2人の運命やいかに!
まあ、察しの良い方ならすぐ予想出来るような駄展開ですが。
1月の間は個人的な事情により、少々更新が遅れると思います。
ええ、全部レポートやテストって奴が悪いんです。
出来るだけ早く更新出来るよう頑張りますので、よろしくお願いします。