インフィニット・ストラトス ―Last Ravens― 作:白林
白林です。
新年初投稿となります。
ろくな説明もされないまま、何やら面倒事に巻き込まれた2人。
彼らを待ち受ける出来事とは一体!
それでは Last Ravens 第4話、始まります。
《side:レアス》
レインさんが呼んだ車により、俺たちは展覧会の会場を後にした。
車を待っている間に聞いた話によると、アライアンス本社はここからさして遠くない場所にあるらしい。
…ってことは、我が家からもそんなに遠くない?
まさか近所にIS関連企業があったなんて思いもしていなかった。
実に世の中は狭いものだ。
アライアンスへと向かう車に揺られながら、そんなことを考える。
そうして気を紛らわせないとやっていられない。
ISを実際に見れさえすれば良かったのに、どうしてこんな面倒事に巻き込まれなければならないのか。
隣に座っているジナイーダも、どことなくウンザリしているようだった。
「どうぞ、到着致しました。」
物思いにふけっているうちに本社に着いていた。
外見はなかなか近代的なビル。
…なんとなく、レイヴンであったころ画像で見たクレスト本社ビルに似ているのは気のせいだろうか。
ええい、ここまで来たらなるようになれだ。
促されるまま社屋に入ると、既に話が通っていたのだろう、すぐさま最上階の役員室へ通された。
ただ、これだけ迅速な対応が成されるということは、即ち会社中の社員に様々な噂が広まっているということでもある。
社内にいた人々から好奇の視線を向けられるのは、あまり気分の良いものではない。
「もう少しどうにかならなかったのか?私たちは見せ物じゃないんだぞ。」
「その点は誠にすみません。ある程度手は打ったつもりだったのですが…。」
何か言おうかと考えていると、先にジナイーダが苦言を呈した。
表情にこそ出してはいないが、彼女も相当不愉快だったようで、纏う空気が重い。
目の前のレインさんが思わず冷や汗をかく程の威圧感を放つジナイーダに、小声で話しかける。
「おーい、感情が漏れてるぞ。」
「しかし、少しならまだしも、こうも晒し者にされては不愉快になるのも仕方あるまい。」
「だからって、殺気一歩手前の威圧感を出すなよ…。気持ちは分かるけど。」
あれやこれやと話すうちに怒りが静まってきたのか、なんとか威圧感を収めてくれた。
「こちらです。社長、失礼します。」
役員室の前に着き、レインさんが部屋の中にいるであろう相手に声をかける。
つーか社長って言ったよね、今。
もしかしなくても、とんでもない大事に巻き込まれたんじゃ…。
今更気づいても、生憎と時間は止まってはくれない。
役員室の中には3人の男女が俺たちを待っていた。
部屋に通され、相手の反応をうかがっていると、まず素人目に見ても上質なスーツを着込んだ男性が口を開いた。
「ようこそアライアンスへ。私はアライアンス社社長のクレイグ・ストナーです。」
「副社長のジュリー・ミラーと申します。以後お見知りおきを。」
「アライアンス開発部門総責任者のトシフミ・A・キサラギ。…そうか。へぇ、この子たちがねぇ。実に興味深い。」
クレイグと名乗った人物に続き、残りの2人も名乗る。
まさか本当に社長が出てくるとは。…本格的にマズいかも。
それはそうとして、相手が名乗ったというのにこちらが名乗らないのは失礼だ。
以前の世界から合計すれば既に30年以上生きているとはいえ、今は若干14歳のガキに過ぎないのだから尚更だ。
「申し遅れてすみません。僕はレアス・ハイネスといいます。」
「私はジナイーダ・ウラノワ。よろしくお願いします。」
「これはどうも。今回は突然呼び出してしまい、大層困惑してらっしゃることでしょう。」
「いえ。それよりも、何故僕たちがここに呼ばれた理由を詳しく説明していただきたいのですが。」
「そうですか。では、早速始めましょうか。キサラギ主任。」
主任と呼ばれた白衣を着た男性が一歩進み出る。
確か、開発部門の総責任者と称していたか。
「それでは説明させていただきます。我々が今回の展覧会に展示し、そして君たちが触れたモノは、既に気づかれているかもしれませんがレプリカではありません。正真正銘、本物のISコアです。」
やはりレプリカではなかったか。
しかし、ならば何故レプリカと偽ってあんな風に展示していたのだろう?
「お二方とも不思議そうな顔をしていますね?まあそれも当然でしょう。なにせ、今のご時世ISコアは企業にとって何よりも価値を持つモノ。あんな場所に裸で置いて良いモノで無いのは、我々とて十二分に承知しています。これには深~~~い理由があるのですよ。」
いよいよ核心に迫る。
俺もジナイーダも、無意識のうちに姿勢を正す。
「それは…………どういうことか、あの2つのISコアは誰であっても反応を示さなかったのです。」
「反応…しなかった……!?」
俺か、ジナイーダか。
どちらかは分からないが、自然と声が漏れていた。
誰にも反応しないコア?そんなことがありえるのか?
適性の高低は有れど、ISコアは女性ならば誰でも最低限反応はするものではないのか?
「ええ。全く困りましたよ。私たちのような新興企業に2つとはいえISコアが割り当てられたのは、正直言って奇跡です。それなのに、その2つとも誰にも反応してくれなかった。社内中の女性社員に始まり、家族、知人。色々試しました。しかし、以前ISに触れたことのある人間であっても、この2つのコアは反応しなかったのです。」
「あの時は会社中で大混乱が起きましたね。これからどうするんだ、と。」
「ああ。出来れば思い出したくないな。社長である私に責任を取れ、と迫ってくる連中もいた。」
「いくら合併前から培った開発ノウハウがあるとはいえ、肝心のコアが反応してくれなければ開発すら出来ません。ですが、実績を出していない我が社に新たなISコアを手に入れることは不可能です。そこで我々は考えました。もしかしたら、このISコアに適合する人間がいるかもしれない。それをどうしたら効率良く探すことが出来るのかを。会議では様々な意見が交わされました。紆余曲折の末に辿り着いたのが、2つのISコアをレプリカとして展覧会の場などに展示し、少しでも多くの人間に触れてもらうという方法でした。」
「しかし、その方法でさえなかなか効果は上がらなかった。」
キサラギ主任の言葉を引き継いだミラーさんが、苦々しい顔で呟く。
「今まで幾度もコアの展示を行い、数え切れない程の人々が触れましたが、それでも反応を示すことは一度たりともありませんでした。駄目で元々とは承知の上でやってきましたが、一方で僅かな希望をかけていたのも事実なのですから。我々はそんな希望を展覧会のたびに抱き、そして毎度脆くも崩されてきた。社内でも『これ以上は無駄だ』『もっと別の方面に時間と資金を費やした方がよっぽど建設的』などの反対意見が日増しに強くなり、今日の展覧会への展示をもって今までの試みにピリオドを打つ予定だったのです。」
「そこに、僕たちが現れた。そういうことですね?」
「その通り。レインからの報告を受けた時には、思わず小躍りしてしまいそうになりましたよ!なにせ我々が何よりも待ち望んだ、コアと適合する人間の発見!これを喜ばずして、何を喜べば良いのでしょう!!!」
話しているうちに言葉が熱を帯び、凄まじい目つきでこちらに詰め寄って来るキサラギ主任。
俺の戦場で培った直感が告げている。この人とあまりに深く関わるべきじゃない。
そのまま1人でヒートアップし続ける主任を無視して、今まで黙っていた社長が言葉を紡ぐ。
「君たちをここまで呼び出した経緯は、今までの説明通りです。そして、ここからは提案となります。君たち2人に、我が社のISのテストパイロットとなっていただきたい。」
「私たちをテストパイロットに?」
「はい。君たちはこちらとしては、やっとのことで見つけ出した適合者。我が社のことを考えて、また私個人の感情としても、この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないのです。」
これで、やっと今回の真相が明らかになった。
目の前の彼らが渇望し、ついに掘り当てた存在。
それが他でもない俺たち2人だったのだ。
おかげで納得した。道理で道中嫌に丁寧に扱われたわけだよ。
ならば、今回俺たちは相手の口車に乗せられて本社まで誘い込まれてしまったということか!
不覚。今まで意識する機会も無かったが、我ながら随分と平和ボケしちまったもんだ。
おそらく、彼らはこちらが断るのを許しはしないだろう。
どんな手段を使ってでも、首を縦に振らせようとするはずだ。
「一応聞きたいのですが、それは今決めなくてはなりませんか?」
「ああ、いやいや。そんな今すぐ決めろとは言わないよ。突然のことで気持ちの整理がついていないだろうし、親御さんとも相談して決めたいだろう。考えた結果に断ってくれても、無論構わない。私たちは、子供に無理強いしてまで業績を挙げたいわけじゃないからね。」
口ではこう言っているが、腹の内では何を考えていることやら。
もしかしたら言葉に他意は無いのかもしれない。
いや、おそらくこちらのことを想っての言葉であろうことは、目を見れば分かる。
だが、あの世界で生きていた身としては、いきなり現れた人間の言葉を全て信じるのは未だに難しい。
「少し、2人で話がしたいので、別室を使ってもよろしいですか?」
そう言って別室を用意してもらい、俺たちは一旦役員室を後にした。
《side:ジナイーダ》
アライアンスから成された説明は、私を驚かせるには十分だった。
今まで誰にも反応しなかったISコア。
たまたま立ち寄った場所でそれに触れ、適合した自分たち。
これが単なる偶然か?
(私たちが生まれ変わった存在であるのと何か関係が…?)
考えれば考えるほどに疑問は深まる。
駄目だ、今の段階じゃ判断するには情報が足りな過ぎる。
今はそれよりも、奴らの問いに対する答えを考えねば。
とはいえ、私の答えは既に決まっている。
企業に縛られるなど、私には耐えられない。
あれから多くを考えたがやはり、企業に肩入れし、結局その企業に殉じたあの人のような生き方は、私には出来そうもない。
「あー、もう!!なんで生まれ変わっても面倒事に巻き込まれるかな!しかも超ド級の!!」
部屋に入るなりレアスは頭を抱えて叫んでいる。
気持ちは分からないでもないが、正直五月蝿い。
「少し黙れ。巻き込まれてしまったものは仕方あるまい。そんなことより、今は考えることがあるだろうが。」
「そんなことって…。いや、まあその通りなんだけど。で、どうする?さっきの話を受けるか断るか。」
「私は断固拒否する。企業に縛られるなど了承出来るか。」
「そうか…。俺はこの話、受けようかと思う。」
「…は?」
今こいつは何と言った?
先ほどの提案を受ける?
気づけば、私はあいつに掴みかかっていた。
「何故だっ!?お前は誰よりも自分が縛られることを嫌っていたはずだ!そう思っていたから私はお前こそレイヴンだと称えた!あれは偽りだったのか!?」
感情を吐き出しながら、壁にまで押しつける。
突然のことに動揺しているようだが知ったことか。
私としては、こいつにまで裏切られたように感じたのだから。
「ちょっ、待て!ストップ、ストーップ!話を聞けっての!!」
何やら言おうとしているので、腕に込めた力を緩める。
自分が思っていたより力が入っていたのか、離された時に咳き込みながら口を開いた。
「別にお前を裏切ろうとか、そういうつもりはねーよ。それに、今でも縛られるのはまっぴら御免だ。それが何であってもな。」
「ならば、何故テストパイロットの話を受けようとする?」
「それに答える前に1つ聞きたい。ジナイーダ、お前は今の世界をどう思う?」
いきなりこの男は何を言っているんだ?
しかしまあ、聞かれたなら答えよう。それが最低限の礼儀だ。
「そうだな……歪んでいる、としか言いようがないな。それも、白騎士事件が起きたあの日に予想したよりも遥かに酷く。私はそう思う。」
「そう。この世界は白騎士事件を境に酷く歪んじまった。こんな歪んだ秩序に支配された世界なら、俺はかつての争いに満ちた世界の方がマシじゃないかと感じるくらいだ。」
淡々と語るのをじっと聞く。
冷静に考えてみれば、こいつが今回の話を受けるのには何かしらの考えがあるはずだ。
考え無しに動くような人間じゃないのは、今までの付き合いの中で良く知っている。
「ぶっちゃけ、ここ数年俺はずっと不安に思っていた。もしかしたら、この歪みに俺も呑み込まれてしまうんじゃないかってな。しかも、昔と違って今の俺にはそれに抗う『力』が無い。それがずっと嫌だった。」
「じゃあ、お前が今回の話を受ける気になったのは…。」
「あいつらにとって俺たちが待ち望んだ存在なのと同じように、俺にとっても今回は『力』を手に入れられる二度と無い好機なのさ。このままじゃ、何も変えられない。何物にも縛られずに生きるのが俺の望みだ。それは今も変わらない!でもそれを成す為には『力』が要る。あの社長や秘書や主任が何を考えていようか知ったこっちゃあるか。俺は『俺』であることを貫き通す為に、この機会をモノにしたいんだよ。それに、俺がたかが一企業に飼い殺されるように見えるか?俺はレイヴン。無理に縛り付けようとするなら、逆に食い殺すまでだ。」
全くもって笑わせる。一体今まで私は何を見てきたのか。
やはりこいつは私の知る“レイヴン”だった。
こいつが鳥かごで飼われ続けるような男じゃないのは、お互いの生死を賭けた戦いの末に見極めたはずだろうが。
「フフッ、やはりお前は変わらないな。」
「それはどーも。そんなわけで、俺はアライアンスの提案を受ける。それで、だ。ジナイーダ、俺からお前に1つ依頼をしたい。」
「依頼…?とりあえず聞くだけ聞いてやる。」
「さっきも言ったが、俺はアライアンスだろうが縛られてやるつもりは一切無い。そうなると、必要最低限以上の支援を受けるのは難しくなるだろう。まあ、こちらとしてもISの整備関連さえ支援してもらえれば十分なんだが。つまり、アライアンスは俺にとって味方にはならない可能性が高いってわけだ。」
「ほう、それで?」
「いくら俺があの24時間を生き抜いた人間とはいえ、1人じゃどうにもならないことも、これから先には必ずある。単刀直入に言おう。お前には俺の味方になってもらいたい。」
「つまり私にも奴らの提案を受けろと?それは無理な相談だ。」
「いや、そうじゃない。テストパイロットは俺1人でやる。俺が欲しいのは、信頼出来る人間だよ。腕が立ち、誰よりも信頼出来る人間。この世界において、それに当てはまるのはお前しかいない。ああ、勿論タダとは言わないぞ。それなりに報酬は考えるし、お前の意志や行動を縛るつもりも無い。悪い話じゃないと思うが。」
「なるほど。面白そうだ。しかし、いくら私が腕が立つと言っても、それはレイヴンであった頃の話だ。今の私に『力』は無いぞ?」
「そんなことは承知している。とりあえず前金として、お前にもISを寄越すようにする。これで文句あるまい?」
「たかが私1人の為にお前はそこまでするか?」
「お前を味方に出来るなら、そこまでする価値があると考えているんだが。」
「つくづく面白い人間だよ、お前は。いいだろう。その依頼、受けさせてもらう。」
「契約成立だな。くれぐれも裏切ってくれるなよ?」
「おや、私が今まで一度も依頼を反故にしたことが無いという噂くらい、お前の耳には届いていたと思っていたのだがな。」
「冗談だよ。じゃあ、決まりだな。」
私たちはこうして人知れず契約を交わした。
さぁ、レアス。まずは貴様の交渉を見せてもらおうか。
《side:レアス》
あー、良かった。
何とかジナイーダを味方にすることが出来た。
正直断られたらどうしようかと思っていたから、これは大きい。
とりあえず問題の1つはこれで解決っと。
正念場はこれから先だ。
如何にこちらの要求を通すか、アライアンス側と交渉せねば。
交渉事は苦手だが、やるしかあるまい。
「相談は済みましたか?」
役員室に戻ると、社長が声をかけてくる。
よし、始めよう。
俺たちのこれからを決める
「はい、おかげさまで。少々揉めましたが、答えは決まりました。」
「そうですか。では、答えを聞かせてもらいましょう。」
「先ほどの問い、突然のことで驚いたのは確かです。しかし、落ち着いて考えてみると、僕にとっても悪い話ではないと思ったのです。」
「!! では……!」
「ただし、こちらからも幾つか条件を付けさせてもらう。」
言葉を放つと同時に、纏う空気を切り替える。
幾多の死線を越えた、冷たく鋭いレイヴンのそれへと。
途端に、目の前の3人が身じろぎするのが分かる。
すまないな、悪いが一歩たりとも譲ってはやれないのだよ。
動揺している相手をよそに、たたみかけるように言葉を紡ぐ。
「まず1つ。この話を受けるのはあくまで俺だけだ。ジナイーダはテストパイロットにはならない。」
「え?あ、はあ…。」
「2つ目。テストパイロットこそ引き受けるが、俺はあんたらに縛られるつもりは無い。ISを口実にして必要以上に俺の行動を制限するのは止めてもらおう。」
「……他には?」
「3つ目。俺のことは一切他へ漏らすな。本来ISを動かせるはずのない男性がISを動かしたなんて知れたら、厄介なことになるのは目に見えている。お互いの為にも、その方が良いと思うが。」
「まあ、その通りですね。」
「4つ目。整備等を始めとするIS関連のバックアップは万全に行うこと。」
「了解しました。それ以外に何か?」
「次で最後だ。ジナイーダにも俺と同等の扱いでISを渡してもらう。無論、こいつの機体からデータを取るのは禁止だ。」
「そんな!そんなことが許されるとでも!?」
秘書が口を挟んでくるが、それを黙殺する。
今譲歩してしまっては、確実に今後自由に動きにくくなる。
「条件は以上。どれか1つでも呑めないなら、俺は話を受けない。ああそうだ、タダ働きするつもりもないから、金銭的な報酬もいただこうか。これは、そこまで高額でなくて結構だが。」
「……あまりにも我々にとって旨みが少ないのではないでしょうか?特に最後の条件は企業としては了承しかねます。」
「本当にそうかね?世界初の男性適合者を、他の企業にもどこの国家にも邪魔されることなく抱えておけるってことは、何にも勝るメリットだと思うが?それに、先の条件さえ呑んでもらえれば、全身全霊を持って協力する。いくらでもデータを取ればいい。俺1人分の稼働データでも、この会社の研究・開発は大きく発展を遂げるはずだ。」
「しかし……。少し…考えさせてください。」
そう言って、社長たちは部屋を出ていった。
さて、俺たちが望むことは伝えた。あとはどう転ぶかだな。
《side:クレイグ》
「社長、どうします?」
ジュリー君が話しかけてくるが、私はそれどころではなかった。
率直に言って、やられた。
ただの中学生と思っていたが、どうやら誤りだったようだ。
あれは一般人が出せる威圧感じゃない。
とんでもないモノに手を出してしまった。
その考えで、頭の中がいっぱいになっている。
「「社長!」」
2人に声をかけられ、やっと正気に帰る。
そうだ、今は何より目の前の問題に対処せねば。
「すまない、少し混乱していた。それで、君たちはどう思う。」
「私は反対です。あんな条件、呑めるわけがないでしょう。こちらが下手に出れば、全く調子に乗って…!」
「うむ。主任は?」
「そうですねぇ…。私は条件を呑んででも研究を進めるべきだと思います。先ほども述べましたが、今回のは待ちに待ったチャンスなのですよ。停滞した研究を進めないことには、我が社に未来はありません。」
「主任はそんなこと言って、本心ではただ自分のやりたいように研究したいだけでしょう!」
「ええ、それが何か?ただでさえ現場では研究員たちの不満が溜まっています。いい加減抑え込むのも限界なんですよ。ずっとオフィスにいる社長秘書の貴方には分からないかもしれませんがね。」
「なんですって!」
ジュリー君とキサラギ主任の意見は、それぞれ正しい。
会社としては呑み難い条件でありながら、呑まなければ会社自体の運営が苦しくなる現実。
未だかつて無い程困難な二択を、私は決断せねばならない。
悩み苦しんだ末に出した結論は…………。
《side:レアス》
しばらくして、社長たちが戻ってきた。
答えは2つに1つ。さあ、どう出てくる。
「では、答えを聞かせてもらおう。」
相当悩んだのだろう、相手の表現には苦々しさが浮かんでいる。
何度か口を開こうとしては止める、というのを繰り返し、やがて腹をくくったように真っ直ぐこちらを見据えて答えを返した。
「先ほどの条件、全て呑ませていただきます。なので、テストパイロットの件、よろしくお願い致します。」
計画通り。
まさかここまで上手くいくとは自分でも思っていなかったので、内心驚いた。
要求を通したので、纏っていた威圧感を消し、態度を改める。
「無理な要求を通していただき、ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。」
その後も色々と話し合い、これからの事は後日連絡してもらうということで、今回はお開きになった。
家の近所まで車で送っていってくれると言うので、素直に好意に甘えることにする。
その車内にて。
「いやぁ、連れて来られた時は何事かと思ったが、結果的に俺たちにとって嬉しい出来事になったな。」
「そうだな。だが、あそこまで言って本当に良かったのか?いくら有利な条件を呑ませたとはいえ、縛られる可能性が0になったわけじゃないんだぞ。」
「もし契約を反故にするようなら、その時は相応の対応を取るのみさ。今は、新たな『力』が手に入るメドがついたのを喜ぶとしよう。」
「そういえば、今回勝手に決めてしまったが、両親には何と説明するつもりだ?一切説明せずに了承してもらえるとは思っていまい?」
「…………やっべえ。考えてなかった。」
「全く、お前という奴は……。」
今日の出来事に対する対応やら交渉やらに気を取られて、家族への説明なんてすっかり忘れてた…。
“一難去ってまた一難”。
不意にそんな言葉が思い浮かんで、車の窓の外に見える夕焼けを眺めながら、深いため息をついた。
いかがだったでしょうか。
慣れない交渉を何とか乗り切ったと思ったら、身近な問題がまだ残っていたという。
レアス君が無能なんじゃないです。やり慣れないことを一生懸命やろうとしたら、詰めが甘くなっただけです。
そして、地味にジナイーダのフルネームが明らかになったり。
テストやレポートの合間を縫って、出来る限り早く更新したいと思いますので、これからもよろしくお願い致します。