インフィニット・ストラトス ―Last Ravens―   作:白林

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皆様お久しぶりです。筆者の白林です。

前回の投稿よりずいぶんと時間が空いてしまい申し訳ありません。
本当はもっと早く続きを書けるはずでしたが、なんやかやでこんなに月日が経ってしまい……。
しかも想定以上に話が進まなかったという。
こんな筆者ですみません。

では、 Last Ravens 第5話、始まります。



第5話 オヤゴコロ、コゴコロ

《side:レアス》

 

(さて、どう説明するべきかねぇ。)

 

レインさんに家の近くまで送ってもらい、家へと向かう道中で俺はそんなことを考えていた。

言うまでもなく、今日あったことについてだ。

思えば、俺たちはかつてのように個々人で何でも決断しなくてはならない状態には置かれていない。

今は親の庇護の下で暮らすごく普通の中学生であり、ある程度以上の物事については両親の許可無しには決められない立場なのだ。

まして今回のような諸々の複雑な事情が絡む事態を自分たちの独断だけで決めることは出来ない。

こんな簡単な事柄さえ忘れるとは、我ながら情けない。

 

(色々と理屈をつけてみても、結局どこかでボロが出るのは目に見えているし……。あー、もう!面倒な!!)

 

隣にいるジナイーダが話しかけてこないあたり、あいつも同じようなことを考えているのだろう。が、今はそんなのはどうでもいい。

元々口が上手いわけではない人間であるのは前世から変わらない。

そんな自分が幾つもっともらしい理屈を並べても、言い訳にすらなるかどうか。

 

(いいや、ありのままを話すとしよう。今深く考えても、何が変わるわけでもないし。)

 

どうせ何と言われようが、一度出した答えを変えるつもりは毛頭ない。

ならば、わざわざ回りくどい言い方をせずとも良いだろう。

そう考えをまとめた時には、既に家の前に着いていた。

ジナイーダと別れ、家の中へと入る。

さて、これからが本番だ。

2人がどんな反応をするか、見せてもらおう!!

 

 

 

 

 

「まさかISを動かすなんて、流石俺の息子だ!早速祝わないとな。今日は盛大にパーティーでもするか!」

「本当に誇らしいわね。すぐに準備をしなきゃ!とりあえずお赤飯でも炊きましょうか!?」

「おいおい母さん、ここはアメリカだぞ?」

「あらやだ私ったら。」

 

 

 

………………ナニコレ。

事前にどんな反応が返ってくるか色々と予想はしてたけど、いや、正直この反応は完全に想定外だわ。

いきなりこんな話されたら、普通はもっと心配したり、反対するのが親ってものじゃないのか?

あ、今親父が棚の奥の方から引っ張り出してきたの、確か俺の生まれた年に仕込まれたって話のウィスキーじゃん。それは俺が成人した時に開けるって話じゃなかったのか。

 

「あのー、父さん、母さん。てっきり俺はもうちょっとこう、反対とか何か言われるのか思っていたんだけど……。」

「バッカお前、自分の息子が今まで誰も成し遂げなかった偉業を成し遂げたんだぞ?これを祝わない親がどこにいる。」

「お父さんの言う通りよ。あなたがやったのは、本当に凄いことなんだから。」

「いや、それはそうだけどさぁ……。」

「とにかく!今日は盛大に祝うからな!!」

「……ハイ、ワカリマシタ。」

 

今は何を言っても無駄のようだ。

仕方ない。まぁ、悪い気はしないし、ここは素直に祝われるとしますか。

 

「今日は祭りだ!派手に呑むぞぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

その後はまぁ、凄いことになった。

親父はウィスキーに飽きたらず、次々と酒を開け始めるし、それにつられた母さんも下戸であるにも関わらず強い酒を呑んで、今やすっかり酔いつぶれている。

しかも、酔った親父はまだ中学生の俺にまで酒を勧めだす始末。もちろん一滴たりとも飲んじゃいない。

 

「なぁ、レアス。」

 

これは後始末が大変になるな、と考えていると急に親父が話しかけてきた。

今までに聞いたことの無い、固く真剣な声色で。

 

「いきなりどうしたんだ?」

「お前は怖くないのか?自分がやったことが。」

 

怖い?

一体何がだ?

 

「怖いって……。別に怖がることなんて何もないじゃん。」

「……お前がやったのはとんでもないことだ。世界の常識を丸ごと覆したんだ。それを分かっているのか?」

「当然さ。今まで誰も出来なかったことを、今回俺はやった。それは十分理解しているつもりだよ。」

「それなら!!!」

 

そう言うと同時に、親父は勢いよく立ち上がった。

酔った顔を一層赤く染め、しかし目は俺を正面から見据えて揺るがない。

 

「なんでお前はそんなに平然としていられるんだ!?俺なら怖い。いいか!この世界はな、お前が思っているほど優しくなんかない!!」

「本当にどうしたんだよ。それも含めて分かっているって。」

「いいや分かってない!!お前はまだ子供だから、世界の暗い部分を見たことないからそんな風に言い切れるんだ。」

「それは……。」

「もしISを動かした男がいるなんて知ったら、誘拐してでも実験体にしようと考える輩がごまんといる。世界ってのはドス黒い悪意に満ちているものだ!万が一お前がそれに巻き込まれていなくなってしまったら、俺は、俺たちはっ…………!!」

 

ああ、そうか。

親父は、目の前のこの人は、心から俺のことを心配してくれているんだ。

俺の何倍も生きてきた自分の経験上、いかに世界に悪意が溢れているか知っているのだろう。

それの怖さを理解しているから、こうも必死に心配して、引き止めようとしている。

 

(嬉しいなぁ。)

 

心の底からそう思う。

前の世界では、こんな風に俺を想ってくれる人などいなかったし、それゆえにこうも想われる経験は一度たりともなかった。

本当に、良い両親に恵まれた。

 

(……だけど)

 

心配してもらうのは嬉しいし、とてもありがたい。

しかし、今回ばかりは自分の選択を曲げることは出来ないのだ。

 

「ありがとう、父さん。本当に俺のことを心配してくれているんだね。」

「そうだよ。お前は俺と母さんの大切な一人息子だ。だから、なんとしてもお前を失いたくない。頼む、分かってくれ。」

「……父さんの言うことはもっともだ。俺はガキだし、そんな俺には想像もつかない悪意ってのが世界には存在しているのも、多分本当なんだろう。」

「なら……!」

「でもね、俺は今回だけは、自分の決めたことを貫きたい。わがままだってことは十分分かっている。それでもやってみたいんだ。」

「ここまで言って、お前自身もそこまで分かっていて、なんでお前はそうも……!!」

「だって、実際に触れてしまったから。」

「っ!?」

「男性どころか、今までどんな女性にも反応しなかったものが、俺にだけは反応した。ありふれた言い方かもしれないけど、これが運命って奴なのかもしれない。きっと俺にISが反応したことには、何か意味があるんじゃないかと思うんだ。」

「そんな運命なんて不確かなもので簡単に決めていいことじゃないだろう!」

「いや、これはどう足掻いても逃れられない運命だよ。それに、もう今からじゃどの道引けないんだ。」

 

俺の一言に、親父の顔から血の気が引く。

 

「引けないって……どういうことだ…………?」

「俺のことは世間に与える影響を考えてまだ一般には公表されてない。でも、既に一握りの政府関係者には、もう連絡がいっているんだよ。アメリカとしては、俺というイレギュラーを逃したくはないだろうし、仮にアライアンスからの誘いを断っても、たぶんもう逃げ切れはしない。むしろ、もっと危険な手に出る輩まで出てくるかもしれない。今回の話を受けるのが、俺にとっても最善の方法なんだ。」

 

そう言ったのを聞いて、親父は顔を伏せて考え事を始めた。

正直、酷いことを言ったと思う。しかし、今言ったことが真実なのも確かなのだ。

もし今の段階でISを動かせる男がいるなどと世に知れたら、それこそ大変なことになるのは目に見えている上に、俺自身の身も危ない。

故に、企業の後ろ盾を得て守ってもらう必要がある。少なくとも、今は。

 

「……アライアンスは何と言っているんだ?」

「俺の存在は世間には公表せず、非公式のテストパイロットとして扱うと。俺の身の安全は社の威信をかけて最大限確保するって言ってくれている。」

「そうか…………。レアス、もう一度聞きたい。」

「なんだい、父さん。」

「お前自身、この話を断るつもりは無いんだな。」

「はい。」

「この選択を後悔しないか?」

「当然。覚悟は出来ているさ。」

「分かった。なら、やれるだけやってこい!」

 

言い終わった親父の顔は、まるで憑き物が落ちたかのようにすっきりとしていた。

親父も、腹を括ったらしい。

 

「ただし、一つだけ必ず守ってもらう条件がある。」

「え、条件って!?」

「『どこに行っても、必ず無事に私たちの前に帰ってくること』。これだけは、何としても守れ。」

「うん、絶対この約束は守る。何があっても、絶対に。」

 

やっぱり俺は、本当に良い両親に恵まれた。

改めてそう思う。

だから、今の約束(いらい)は何をおいても守ろう。

こんな自分を心の底から想ってくれる、かけがえのない2人の為に。

 

「やれやれ、話し込んでいるうちにすっかり酔いが醒めちまった。呑みなおすとするか。」

「……俺も付き合うよ。」

「お!流石俺の自慢の息子、話が分かるな。よーし、今日は朝まで呑むぞぉぉぉぉぉ!!!」

 

親子の腹を割った宴会は、結局夜が明けるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

《side:ジナイーダ》

 

「いきなりそんなこと言われて、賛成出来るわけないじゃない!」

(やはり反対されるか。)

 

父さんが帰ってくるのを待って話を切り出したものの、事前に考えていた通り反対された。

特に母さんからの反対が激しい。

一方の父さんはと言うと、腕を組み、目を閉じてじっと私の話を聞いている。

 

「ジナ、お母さんが言いたいことは分かるわよね?」

「それは分かっています。でも私は…「だったら!」っ……!?」

「お母さんはね、貴方に穏やかに生きてもらいたいの。ISに乗れば、いずれ必ず荒事に巻き込まれる日がくる。そんなのに貴方が関わって欲しくないの。」

「そう言われても、私は自分の決めたことを曲げたくない。それに、もう了承はしてしまったから、今から断ればその人たちにも迷惑がかかる。」

「そうだとしても、逆に今断らないと手遅れになる!『親に反対された』と言えば、その人たちも納得してくれるでしょう。私も一緒に説明してあげるから、すぐに断りなさい!!」

 

元を辿れば偶然手には入った機会だが、今回の話はまたとないチャンスだ。

あいつからの依頼の為にも、モノに出来るなら是非掴みたいのだが……。

 

「普段は良い子なのに、なんで今日はこんなに聞き分けが悪いの!?ジノーヴィー、貴方も何か言ってよ!」

「……………………。」

 

怒りが収まらない母さんは、じっと黙っていた父さんへ同意を求める。

それを受け、父さんは今まで閉じていた目を開き、

 

「お前は、お前自身はどうしたい?」

 

そう一言だけ、尋ねてきた。

もっと違うことを言われるかと思っていたので、一瞬拍子抜けしたが、すぐに表情を引き締め直し答える。

 

「私は、ISに乗りたい。自分だけのISが手に入るこの機会を逃したくないんだ!」

「そうか。なら、やってみるといい。」

「えっ!?」

「ジノーヴィー!?」

 

思ったことをそのまま口にしたら、あっさりと了承された。思わず呆けた声が漏れる。

と、同時に、母さんが父さんに非難の声を上げた。

 

「何を言っているの!?この子には危険な物事とは無縁の、平穏な一生を送って欲しい。貴方は昔からそう言っていたじゃない!」

「それは今でも変わらん。だがな、私はこの子が見せた『意志』を尊重したい。」

「『意志』……?」

「今までこの子は、全くと言っていいほどわがままを言ったり、私たちに反抗するようなことが無かった。そんな子が、初めて私たちの反対を押し切ってでも貫きたいことがあると言っているんだ。」

 

嬉しそうに微笑みながら、父さんは言葉を続ける。

 

「この子は頭の良い子だ。きっと、私たちが思っている以上に。少なくとも、その場の感情だけで何の考えも無しに今回のことを決めたんじゃないだろう。」

「でも……、でもやっぱり私は「なあ、アグラーヤ。」……何?」

「ジナイーダのことを信じてやろう。この子は、私たちの自慢の娘だろう?世界の荒波にだって、そう簡単に負けはしない。私はそう思う。」

「ジノーヴィー…………。」

 

母さんと言葉を交わした後、父さんはこちらへ向き直り、真剣な目で私を見つめる。

 

「さっきも言った通り、私はお前を信じる。だが、世界はお前が思っているより遥かに厳しいものだ。それは分かるな?」

「……言われるまでも無く分かっています。」

「本当に?」

 

元々鋭い目つきが一段と鋭くなる。

今まで一度も見たことの無い、研ぎ澄まされたナイフを思わせる冷たく鋭い視線が私を射抜くが、私もそれに気圧されることなく真っ直ぐ見つめ返す。

 

「軍に所属していた関係で、私は他の人たちより世界の陰の部分を知っている。政治家と癒着した軍高官、自身の戦歴を粉飾する軍人、新兵器の導入における企業との裏取引……。他にもここじゃ言えないようなモノや、腐り果てた連中を何度も見てきた。ISに関わるということは、そういう奴らの思惑や策略が渦巻く世界に身を置くことでもある。それでも、ISに乗ろうと思うか?」

「まだ私には見えないものがあるのは承知しています。ISに乗れば、誰かしらの思惑に組み込まれることも。だが、それを恐れてばかりでは前には進めない。

父さんの言うことも、母さんが心配することも十分起こり得るものでしょうが、それでも私は、この機会を掴みたい。今を逃せば、次は無いのだから。」

 

問いへの答えを一息に言い切った。

あの世界と今の世界が違う以上、いくらレイヴンとして過ごした経験があるとは言え油断は出来ない。

この世界の方が遥かに歪んでいて、危険な思惑が入り混じっているかもしれないのだ。

しかし、それがなんだ。

その程度でしり込みするほど弱くなったつもりはない。

その上自分だけならまだしも、今回はレアスという信頼に足る人物が居る。

ならば、警戒はすれど恐れる理由などありはしない。

 

「最後に確認しておきたい。これからお前が歩むであろう道は決して甘くない。引き返すなら今のうちだ。」

「仮に茨の道だとしても、それはそれで進み甲斐がある。あまりに簡単な道では、逆につまらないでしょう?それに、今更引き返す理由はありません。」

「フッ……、お前は私たちに似たな。一度決めたことは貫き通そうとするその姿勢、若い頃の私を思い出す。確固たる意志を秘めた真っ直ぐな瞳も、アグラーヤそっくりだ。」

 

優しく微笑んで父さんは告げる。

私のわがままを聞き入れ、心から信じてくれているのだ。これに応えずにはいられない。

 

「私はジナイーダを信じる。アグラーヤ、何か言いたいことはあるか?」

「……やっぱりこの子は貴方の子供ね。“これ”と決めたら、何を言っても聞き入れやしない。全く、変な所まで似ちゃって……。仕方がない、精一杯やってみなさい。」

 

母さんも何か諦めたような様子で、苦笑いしながら了承してくれた。

これで心置きなくISに乗ることが出来る。

 

「父さん、母さん。本当にありがとう。」

「礼なんていい。お前が無事に、自分のやりたいことをやり通しさえしてくれれば、私はそれで十分だ。」

「もし何か辛いことがあったら、すぐに私たちを頼りなさい。辞めたくなったら、その時は辞めても構わない。私とジノーヴィーは、いつでもジナの味方だからね。」

「はい、はいっ……!」

 

父さんと母さんにISに乗るのを認めてもらい、温かい言葉をかけてもらった途端、急に涙がこぼれてくる。

生まれ変わった私の両親が、かつてその背中を追いかけた誇り高い2人と同じ顔をしていたことに、運命を呪った時もあった。

家族として共に過ごす年を重ねるにつれ、少しずつ割り切っていったつもりではあったが、自分でも意識していない所で未だに過去を引きずっている部分があり、故に完全には気許さない自分がいたのかもしれない。

そんな私のことを、2人はこうも信じ、心配し、愛してくれていた。

今更ながらそれに気づかされ、自分の浅ましさと家族の温かさに触れたことが、不意に涙が流れさせた。

こんなことはあの世界の頃から考えても初めてのことだが、断じて嫌なものではない。

むしろ非常に心地良い、そんな涙だった。

 

強く気高い父さん。

優しさの中に芯の強さを感じさせる母さん。

かけがえのない2人からの期待と信頼を、私は一身に受けている。

それだけで私は、更に強くいられる気がする。

今日の話し合いを通して、また一つ何かを得ることが出来た。

 

(誰かに大切に想われるというのは、こんなに素晴らしいことだったのだな。)

 

まだ止まらない涙を拭いながら、心の中でそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーレアス・ジナイーダの両名にアライアンスより『IS完成』の連絡が入るのは、この数日後のことである。




いかがだったでしょうか。

レアス君はまだしも、ジナイーダは書いている自分でも「これってジナイーダっぽくないかなぁ……。」と疑問を感じていた部分もあります。
しかし、これもまた一つのジナイーダ像ということでどうかご容赦を……。

次回は遂に2人のISが登場します。
出来るだけ早く投稿するよう善処しますので、よろしくお願い致します。

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