あの子を観察し始めて一月半ほど経った日
その日、ボクはベッドの上で大好きな絵本を読んでいた、タイトルは『名探偵ホウレンソウ対怪盗マロン』という絵本である
内容は意地悪な商人の家で事件が起こり探偵が向かうと怪盗と遭遇して逮捕する、しかし怪盗は商人が悪いことをしており、その悪事を止めるために事件を装い懲らしめに来たという
その後は探偵と怪盗によって商人の悪事は潰され、互いをライバルと認めあった二人は別れていくという流れである
ボクはこの本を読んで探偵に憧れていたが、体力が無く外に出られないボクは探偵ホウレンソウみたいにはなれないなと思っていた
絵本を閉じて仕舞い、窓の方を見ようとすると黒く見慣れない物がもごもごと窓の近くにある木に登っていた
よく見ると隣の子供が黒いマントや帽子を被っていた
木に登り終わり、こちらの居る窓の方を向くと、決めポーズをしながら叫んできた
「ハッハッハッ!あたしはかいとうワルナスビだ!あなたのえがおをぬすみにきたよ!」
舌ったらずな可愛い声で、こちらに自己紹介をしてきたようだ…怪盗ワルナスビって…
「ねぇねぇ、まどあけてちょうだい!…のぼってみたのはいいけどおりれないの…」
なんともマヌケな怪盗だろう、仕方がないので中に入れる事にした…別に友達になるチャンスだとか思ってないよ
「ふふふ、わがかいとうみょうぎをとくとみよ!…よいしょよいしょ…」
いちいち決めポーズを決めなければいけないようでポーズを決めた後、木の枝を伝って窓へ近付き、部屋の中へと入ってきた
「あ、ちょっとまってて…くつにどろがついてるからおとしてから…あっ!」
靴に付いた泥を落とそうとして、靴ごと落としてしまう
「あ~どうしよ~!あ、おじいちゃん!くつとって!」
どうやら下に居たお祖父さんが靴を取ってくれたようだがどうするのだろうか?
「え?おうちのひとにあいさつしていなさい?わかった!」
窓から飛び降りて、ボクの部屋に入ると、こちらを見て話しかけてきた
「えーと…はじめまして!あたしはワルナスビ!あなたのおなまえは?」
挨拶をされたのでボクはストレプトカーパス、みんなカーパスと呼ぶと返事をした
「ストレートカルピス?ストライクカルパス?むずかしいなまえだからカーちゃんってよぶね!あたしのことはワーちゃんってよんで!」
それがボクとワルナスビが出会い、友達になった瞬間だった
「おじいちゃんがいえのひとにあいさつしなさいっていってたから、カーちゃんのおとうさんやおかあさんにもあいさつするね!」
そう言って部屋の外に行こうとするが、ボクは必死に止めた、両親だって驚くだろう
そうやってドタバタしていると、お母様が階段を登って来た、物音がしたので心配してボクを見に来たようだ
「あら?貴方は隣の家の子?」
「こんにちは!あたしはかいとうワルナスビ!カーちゃんのえがおをぬすみにきたんだ!」
決めポーズを決めて、自己紹介をするワーちゃん
「あらあら、可愛らしい怪盗さんね!でもカーパスの笑顔を盗まれちゃったら困るからジュースとおやつを持ってくるわね?あ、あと貴方のお祖父様から靴を預かってるから帰る時は教えてね?」
そう言ってお母様は下へ降りていった、どうやら先にお祖父さんが両親と話をつけていたようた
「わーい、おやつ~!あまいおやつだといいなぁ~!ところでカーちゃんはふだんどんなあそびしてるの?」
コロコロと表情が変わるワーちゃんに気圧されながらも、お気に入りの絵本を見せる
「あ、おじいちゃんのほんだ!」
一体どういう事なのだろう?
「おじいちゃんはね、むかしわるいひとたちからおたからをぬすんで、まずしいひとにくばっていたせいぎのかいとうなんだ!」
ワーちゃんのお祖父さんは怪盗マロンのモデルになった人らしい、なら探偵ホウレンソウも実在した人物と言うことになる!
「え?たんてい?うん、たまにおじいちゃんにあいにくるけどあたしはにがて…だっておじいちゃんをひとりじめするんだもん!」
一人で一日中遊んで居る日はお祖父さんに誰か訪ねて来た日だったのだろう
「やっぱりかいとうがいちばんかっこいいよね!あたしはしょうらいおじいちゃんみたいなだいかいとうになるのがゆめなんだ!」
聞き捨てならない言葉だった、怪盗より探偵の方が格好いいに決まっている
「むぅ…かいとうのほうがかっこいいの!かいとう!かいとう!」
いや探偵の方がかっこいい!探偵!探偵!
あわや取っ組み合いに成りかけた時にお母様がおやつを持って部屋に入ってきた
「あらあら、二人ともケンカはダメよ?ケンカする悪い子にはおやつ抜きよ~!」
それは困るので、言い争いをやめて向き直り謝る
「カーちゃん、ごめんなさい」
「いい子達にはおやつをあげなきゃね♪私は正義の怪盗も正義の探偵も格好いいと思うわよ?どちらも格好良くて、二人が協力しあえば無敵でしょ?」
笑顔でボクたちを仲裁してくれるお母様に感謝しつつ、おやつのクッキーとミルクをワーちゃんと食べていく
「クッキーあまくてサクサクでおいしい!」
小さな両手でマグカップを持ち、チビチビとミルクを飲んだり、リスみたいにクッキーを食べるワーちゃんはとても可愛らしかった
ボク達は絵本を読んだり、お母様が持ってきたボードゲームをやったりしているうちに日が暮れて夕方となっていた
「あ、そろそろかえらないと」
ワーちゃんが窓の外を見て呟く、そんなに夢中になって遊んで居たようだ
帰りにお母様に靴を渡してもらおうとワーちゃんと一緒に下に降りて、お母様に話しかける
「あら、帰るのね?ワルナスビちゃん、カーパスと遊んでくれてありがとうね?」
「おやつありがとうございました!じゃあね、カーちゃん!またあした!」
靴を履いたワーちゃんが玄関で手を振りながらまたねと言ってきた、その表情は笑顔だった
ボクも笑顔でまたねと手を振り返すと満足そうにワーちゃんは家へと帰って行った
「ふふ、最後の最後でカーパスの笑顔盗まれちゃったわね♪」
ワーちゃんが見えなくなるまで手を振るボクの隣で、お母様はとても嬉しそうに呟いていた
ワルナスビ…この時、君はボクの大切な物を盗んで行ったんだ
ボクのつまらなかった世界を壊して、隠されていたボクの幸せな笑顔を盗んでいったんだ