花騎士秋桜劇場   作:インティライミ

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極貧アイビーを見守るパン屋の夫婦の話です
こんな人達に守られながら成長したねではという秋桜ですので、矛盾が有ってもお許し下さい


花騎士秋桜劇場:アイビーと優しいパン屋

私は街の小さなパン屋の店主である

妻と二人で毎日パンを焼き、店に来た客と話ながらパンを売るごく普通の人生を送っている

三人の子供達は既に一人立ちし、妻と二人このまま何も無く静かに暮らせると思っていた

そう、あのクリスマスの日が来なければ

 

 

 

ある年のクリスマス、街中に害虫が現れた

地下から侵入してきた害虫は花騎士達が来るまで暴れまわり、運悪く近くに居た貴族の夫婦や他の市民を負傷・殺害した

噂ではこの貴族の夫婦は娘さんの為にプレゼントを買いに来た所、害虫に出会い殺された、娘は使用人に引き取られたと囁かれていた

痛ましい事故ではあるが、このスプリングガーデンでは良くある話である

 

 

 

その一年後、クリスマスが近づきパンよりシュトーレンが売れていく時期、店の前で小柄でくすんだ金髪の少女が店に並ぶパンを見ていた

着ている服は継ぎはぎだらけで、あまり良い生活を送っているとは思えぬ少女を見て、私は声をかける事にした

 

「お嬢ちゃん、パンを買いに来たのか?」

「…違うわ、眺めてるだけ。パンを買うお金ないもの」

 

少女は俯いて、囁くように答えた

近くで見ると顔立ちは良く、継ぎはぎの服も元は良い生地を使っていたと思われ、没落した貴族の娘かとなんとなく思った

 

「そうか、ならパンの耳でもやるか。ちょっと待ってろ」

「えっ…!?でも…」

 

少女が戸惑っているうちに、私は使用済みの小麦粉の袋に切ったパンの耳を入れて、少女の元へと戻った

 

「うちで出たパンの耳だ、少しだが持って行くと良い」

「でもお金無いよ…」

「今回はタダでいいよ、なんならまた今度来たときにパンの耳買って行ってくれ、そうだな…一袋30ゴールドでどうだ?」

「…うん、分かったわ…ありがとうおじさん」

 

そう言って少女は私に笑顔を見せてくれた

その笑顔は可愛らしく、暖かな気持ちになる笑顔だった

パン耳の入った袋を持ち、少女は走って帰って行った、途中こちらを振り返り手を振り再び走り出していった

 

「あらあら、あなたってば相変わらず小さな子供に優しいわね」

「あんな細い娘見てると心配になるんだよ」

「そうね、また来てくれると良いわね」

 

後ろから話しかけてきた妻と店の中へと戻り、再びパンを焼く

次に少女が来たのは三週間後だった

 

 

 

パン耳を買いにくる少女の名はアイビーと言い、両親は他界、今は元使用人と暮らしているらしい

うちにパン耳を買いに来るようになり半年は経っただろう

大分打ち解けて来たのか、店に来る度に笑顔を向けて私達に話しかけてきた

そんなアイビーを私達も姪のように可愛がった

 

「おじさん、おばさんこんにちは!今日もパン耳買いに来たわ!」

「おや、アイビーいらっしゃい。ちょっと待っててくれ、今準備するからな」

 

私はパン耳を用意しながら新しいパンを二枚用意してそれにパン耳に届くまでまでイチゴジャムを塗り、パン耳を切り落として袋に加える

 

「ほい、パンの耳一袋30ゴールドだよ」

「はい、30ゴールド!…わぁ!ジャム付きのパンの耳も入ってる!いいの!?」

「あら、あなたってば…いいのよアイビーちゃん、たまたまジャム塗ったパンの耳を切り落としたらジャムがついてただけ、だから遠慮しなくて良いわよ」

「ありがとう!じゃあまたね!」

 

アイビーは嬉しそうに手を振り走っていった

途中スキップし始めたりと、余程嬉しかったのだろう

また来た時にジャムを塗ってあげよう、そう心に誓った

しかしその後アイビーはうちに来なくなってしまった…

 

 

 

「はぁ…昨日も来なかったな」

「あなた、気持ちは分かるけどアイビーちゃんにも事情が有るのよ。ほら今日もパンを作りましょ」

 

アイビーが来なくなり半年近くになるクリスマスの日の朝、私はアイビーに会えぬ寂しさに沈んでいた

アイビーは私達にとって可愛い自分の娘のような存在になっていた為に会えない寂しさは降り積もるばかりだった

ドアが開き客が入ってきた、気持ちを切り替えて対応しなければ

「いらっしゃい…ってアイビーか!?」

「おはようおじさん、おばさん!…久しぶりかな?」

「あらあら、アイビーちゃん!久しぶりねぇ!前より美人になったわね!最近どうしてたの?」

 

入ってきた客はアイビーだった

久しぶりにやってきたアイビーは以前より血色や肉付きが良くなり、髪もくすんだ金髪から綺麗なサラサラの金髪になっていた

身につけている服は継ぎはぎの服ではなく…これは花騎士学校の制服!?

 

「まさかアイビー、花騎士学校に入ったのか!?」

「ふふん、気がついた!?私、花騎士を目指すことにしたの!しばらく花騎士学校の寮生活だったから来れなくてごめんなさい…」

「良いのよ、気にしないで…それよりも花騎士学校に入るなんて立派じゃない!」

 

アイビーがしばらく来なかった理由が花騎士学校への入学とは…寂しさは吹き飛び、おめでたい気持ちで心が満たされていく

 

「あの…実はその…おじさん、おばさん!今日1日夜まで働かせて下さい!」

「「えっ!?」」

 

アイビーが突然うちで働かせて欲しいと行ってきた、クリスマスの日は忙しい為、人手が有れば助かる

 

「じつはお義母さん…私を引き取ってくれた使用人さんが夜まで仕事だから一人になっちゃって…クリスマスに一人で居るの怖くて」

「…さぁアイビーおいで、働くなら手を洗ってエプロンを着なさい」

「えっ!?働かせて貰っていいの!?」

「何を言ってるの、私達は大歓迎だよ!ほら奥で着替えてきなさい」

 

妻がアイビーを奥に連れていき、エプロンに着替えさせる

今日は忙しくなりそうだ

 

 

「い、いらっしゃいませ!」

「ん?おい店主、いつからこんな可愛い店員雇ったんだ?」

「今日1日だけだ、アイビーに変な事をしたらお前の顔をパンみたいに膨らませてやるからな」

「ハハハ、そんな事しないさ!あ、アイビーちゃんだっけ、ハムサンド2つ、タマゴサンドとレタスサンドを一つずつ包んでくれる?」

「はい!ただいま!」

 

馴染みの客がアイビーを見て驚いていた

アイビーは働き者で不器用ながらもきちんと仕事をこなしていた

 

「はい、どうぞ!全部でえーと…」

「ハムサンド150ゴールド、タマゴサンド160ゴールド、レタスサンド140ゴールドだぞ」

「えーと、えーと…全部で600ゴールドになります!」

「はいよ、600ゴールド…いやぁアイビーちゃんみたいなかわいい娘が店員ならおじさん毎日通っちゃうね、ハハハ」

「こら、アイビーを困らせるな。アイビー、奥の倉庫からちょっと食材さがしてきてくれ、探すのはこれにメモしてるから」

 

アイビーは花騎士学校に行ってる為か、読み書きや計算なとも任せて大丈夫だった

アイビーが奥に行くと同時に客が話しかけてきた

 

「なぁあの娘、二年前のクリスマスに有った害虫事故の被害者の娘じゃないのか?」

「さあな、私達は何も聞いてないが聞いた所で変わらないさ。今あの娘は花騎士学校に通って花騎士を目指してる、私達はそれを応援しながらパン耳をあの娘に売るだけだよ」

「そうか…じゃあまた来るよ、メリークリスマス」

「メリークリスマス」

 

客は手を振りながら出ていった

その後も客足は途絶えず、夜までほとんど休み無く仕事して貰ったがアイビーは常に楽しそうだった

 

「日が暮れてきたな…アイビー、そろそろ仕事終わりにしていいよ」

「え?まだ夜じゃないけど良いの?」

「夜まで少し休んでいきなさいな、ほら奥に行って待ってて」

 

夕方、アイビーに仕事を終わりにして奥の部屋で休むよう伝える

アイビーは戸惑ったが折れて、奥の椅子に腰かけた

 

「ささやかなものだけど、はいうちで作ったシュトーレン食べてみて♪」

「えっ!?そんな!食べれないわ!」

「いいんだ、まかないみたいなものだよ」

「じゃあ頂きます」

 

遠慮していたアイビーを、シュトーレンを食べるように説得すると食べ始めた

無言で黙々と食べ進めるアイビー、だが徐々に食べるスピードが遅くなり、ポロポロと涙がこぼれだした

 

「美味しい…グスッ…美味しいよぉ…お父さん…お母さん…また一緒にシュトーレン食べたかったよぉ…」

 

シュトーレンを食べながら亡くなった両親を思い出してしまったらしい

妻がアイビーを優しく抱き締めて頭を撫でる

アイビーはその温もりを感じながら黙々と食べ続けた

 

「ごちそうさまでした…美味しかったわ…ありがとうおじさん、おばさん」

「気にしないで、ほらハンカチで顔拭きなさいな!可愛らしいお顔がグショグショよ」

 

ハンカチを受け取り目尻の涙を拭き取るアイビー

私は袋を持ってアイビーに渡した

 

「今日のお給料だ、持って帰りなさい」

「え?これって…」

「うち特製のスイートロールだ、クリスマスケーキは作れないから代わりにこれで我慢してくれ」

「ううん!我慢なんて!ありがとうおじさん!おばさんもありがとう!」

「いいのよ、お義母さんと仲良く食べてね」

「ありがとう!またね…メリークリスマス!」

「「メリークリスマス!」」

 

いつもと変わらぬ笑顔を浮かべてアイビーは帰っていった

その後、クリスマスの時期になるとアイビーが働きに来て、スイートロールをお土産に渡すという習慣が出来たのだった

 

 

 

 

あれから何年経っただろうか

アイビーが花騎士学校を卒業し、無事花騎士に成れた事を報告しにきたり、憧れの花騎士みたいになるためカラーコンタクトを付けるようにした事、憧れの花騎士サクラの所属する騎士団に配属された事、騎士団で活躍し誉められた事…

うちに来る度に沢山の事を話してくれた

そして今日も…

 

「いらっしゃい…おやアイビーか、そちらの方は?」

「こんにちはおじさん!団長さん、この人が前に話したパン屋のおじさん!おじさん、この人が私の団長さん!」

 

団長と呼ばれた青年は20代後半、いや30代に成り立て位の年齢だった

活躍は聞いており、話に聞いた通りの好青年なようだ

 

「おじさん、いまから孤児院に行くから差し入れ用のパンいっぱい買うわ!」

「そうかい、じゃんじゃん注文してくれ」

「じゃあハムサンド、タマゴサンド、ツナサンド、ベーコンレタスサンド、レタスサンド…あとパンの耳も!!」

 

私達はこの先もこの街の小さなパン屋を続けるだろう

パン屋を続けながらアイビーの成長を見守り続けるつもりである

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