肉の焼き方云々はイメージです…詳しい方が居ましたらご指摘頂けたら修正致します
「おい!まずは火の通り難い野菜から焼け!あ、豚トロを先に置くな!火力が強まって焦がすだる」
「豚トロ好きなんだよ!先に焼いても良いだろ!」
「いや焼く順番と言うものがな!あ、こら!たれ付きの肉と塩の肉を近くで焼くな!混ざるだろ!」
私達は肉の焼く順番で言い合いながらも焼き肉を続けていた
「お、ホルモン良さそうだな!」
「待て、よく見ろ!確かに中心に近い方は焼けているが、端の方は火の通りが甘い!ホルモンはしっかり焼け!」
「これくらいなら大丈夫だ…」
「いやダメだ!ホルモンは少腸!生で焼くと腹痛なんかを起こしやすいんだ!お前は団長なんだから気を付けるべきだろ!」
「なんだ、心配してしっかり焼けと言ってたのか…ハハハハハハ!?」
「………何がおかしい!?」
こちらが腹痛を起こす事を心配してしっかり焼けと言ってるのに気がついた団長が笑い始めた
「いやいや、俺の事を心配してたのが可笑しくてな」
「…心配して悪いか」
「いや有り難いよ、でも前までは敵対してた奴と焼き肉食ってたり、生焼けで当たらないように心配されてる現状を改めて考えると可笑しくて、ついな…」
確かに私達は敵対していた
水影の力で産み出した花騎士と団長率いる花騎士を戦わせ、情報を集めて塔の上で戦い、私は負けた
「あの戦いで消え行く運命だった私の手を掴み、まだ消えるのは早いだろと言ったのは何処のどいつだ?」
「お前には色々聞きたい事が有ったからな」
「それなら拘束したり、拷問したり、監禁したりと色々有っただろ」
騎士団に連れられた私は最初の一月は水辺から離された牢に入れられ、色々制限されながら連日聴取を受けていたが…
「あの日、突然外に出ろと言われたら驚くだろ…しかも…」
「しかも自分を倒した団長の騎士団に連れてかれてだろ?」
今でもあの日の事を鮮明に思い出せる
「朝か…今日も聴取だろうな…もう聞く事もないだろうに」
独房の外に有る窓から朝日が差し込んできた
日が開けて、新しい朝を迎えたのだ
連日の聴取で私は飽き飽きしていた
突然、看守が私の独房の前まで走ってきた、何かかなり慌てている様子だった
「おい、貴様!釈放だ!支度をしろ!」
突然の出来事に一瞬思考が止まった
動かない私を看守が急かすように格子を叩き、音を鳴らす
私はベッドに置いていた帽子を掴み立ち上がる
そして開かれた独房の扉に近づき、両手に手錠を掛けられながら外へと向かった
独房の外に出て、面会室の前まで行くと、あの団長が立っていた
「ようラエヴァ、久しぶりだな」
「貴様は…何故此処に居る?」
「そりゃお前を受け取りに来たんだよ」
目の前の男の発言がよく理解出来ない、敵を迎えに来たと言う…つまり聴取で聞き出せない事を騎士団に連れていき無理矢理聞き出そうという魂胆だろう
私は諦めながら団長に従う事にした
「私は負けて囚われた身、好きにしろ」
「そうか、なら手錠外して着いてきてくれ。外に馬車を用意してるんだ」
看守によって手錠を外された私は、団長に着いていき監獄の外に出た
私達は監獄の入り口で待機している四人乗りの馬車に乗り込んだ
中には二人の少女が座っており、私の隣に金髪ツインテールの少女、向かいに座る団長の隣にピンクツインテールの少女が座り、こちらを警戒していた
「そんな心配はないと思っているが一応忠告だ。ラエヴァ、お前が何かしらの不穏な動きを見せれば隣のアブラナがお前の身体を突き刺し、向かいのイチゴがお前の頭を射ぬく、だから怪しい動きをしないでくれ」
「こんな狭い中で動けるのか?」
「馬鹿にしないで、こっちにはこの日に向けて色々準備してきたの」
私の問いかけに隣に座るアブラナが反応してきた
つまりこの移送自体、急に決まった事ではなく前から予定されていたと推測出来る
「あ、アブラナちゃん!それ言ったらまずいよ!」
「いやイチゴ、気にしなくていい。いずれバレる事だしな。アブラナやイチゴの言うとおり、お前の移送は前々から計画されていた」
「騎士団に連れていき、拷問か…貴様はいい趣味しているな」
皮肉を言ってみるが団長はにやけたままだった
その後は無言のまま、騎士団まで送られていった
騎士団に着いたのか馬車が止まる、団長が扉を開けて降りるよう促してくる
馬車を降りると目の前に広がる光景に圧倒された
騎士団の正門から玄関までの道の両方に花騎士達が整列してこちらを見ていた
そしてその列の先頭に居た何故かパンツの見えている白いドレスを着た女性がこちらに話しかけてきた
「お帰りなさいませ団長様!そしていらっしゃいませラエヴァさん!花騎士一同、お二人の帰還をお待ちしておりました!」
そう言って私達に背を向け、玄関へと向かい歩き始めた
団長に背を押され、ナズナに着いていくように歩き始める
その後ろにアブラナとイチゴが続いた
並んでいる花騎士達は様々な反応を見せた
私を強く睨む者、興味深そうに見つめる者、退屈そうにしている者、立ちながらこっくりこっくりと頭を揺らしながら寝ている者、地面に枕を置いて寝始めた者、犬のようにお座りしている者等様々な花騎士達が居た
玄関に着くと団長は振り返り花騎士達に向けて叫んだ
「よし!全員解散!事前に伝えた者は執務室に来るように!」
団長の指示で花騎士達が蜘蛛の子を散らしたように一斉に動き始める
その様子を見てから団長は室内へと入り、執務室を目指した
執務室に着くと既に室内に人が居た
「お待ちしておりました、私はアイリスと申します。本日よりラエヴァさんの補佐及び監視役をさせていただきます」
メガネを掛けた金髪の有能秘書のような雰囲気を醸し出す女性が私に告げた言葉に疑問を覚える
「補佐?私に拷問したりするのではないのか?」
「いやいやいや!そんなことしないぞ!」
団長は慌てて私の想像を否定する
そして執務机の上に置いていた書類を持ち、私に渡してくる
書類には任命状と書かれていた
「あ~、うん…ラエヴァ、お前…じゃなくて君には本日よりこの騎士団の事務管理をしてもらう事になった」
「…は?貴様はバカなのか?敵に事務仕事を任せる?様々な情報を盗まれたり、改竄されるかもしれないのにか?」
「その辺はアイリスに任せている、君は本日より罪を償う為の奉公という形でうちの騎士団の仕事をしてもらう!ようこそ、俺達の騎士団へ!」
そう言って団長はてを差し出して来た
手を払う事も考えたが、私は今のまま事情聴取の続く毎日より少しでも変化を求めてしまった
差し出された手を掴み、握り返す
「仕方ないな、よろしく頼む」
今でもあの手の暖かさと団長の笑顔は鮮明に思い出せる
あの日の決断を後悔した事はない
「あれから半年以上一緒に仕事してれば、多少関係も変わるさ」
「それもそうか……ん、互いに飲み物も無くなってきたな…そろそろ良い酒でも飲まないか?」
そう言って団長は呼び鈴を鳴らす
するとオミナエシがやってきた
「ご注文をどうぞ」
「梅酒をロックで…ラエヴァ、お前はどうする?」
「なら私も梅酒のロックを頼む」
「梅酒ロック2つですね、少々お待ちを。空いた皿を片付けますね」
皿を持ってオミナエシが居なくなる
数分待つと梅酒と氷の入ったグラスを2つ、おぼんに乗せて表れた
「梅酒ロックです、ごゆっくりどうぞ」
再びワームホールに消えていくオミナエシを見送り、グラスを掴む
「もう一度乾杯するか…今後とも友好な関係が続くよう願って…」
「これからの幸福を願って…」
「「乾杯」」
互いのグラスを当てて、梅酒を口に含む
梅の香りと甘みが口の中に広がり、後からアルコールの苦味を感じる
「美味い酒だ…何杯でもいけそうだな」
「やめとけって、割りと度数高いから少しずつ飲まなきゃすぐに酔うぞ…それより…そのな…大事なはな……ある……」
美味しくて、こくこくと梅酒を半分ほど飲むと体がふわふわポカポカしてきた
なんだか気分が良いが団長が何か言っているが聞き取れない…ん?おかしい…団長が複数人にぶれて見える
「おい!ラエヴァ……夫か!…事し…!オミ………水…」
団長が慌てているようだが何を慌てているのだろうか
落ち着かせようと手を伸ばすよう身体に力を入れようとするが力が入らず、逆に前に倒れ込んでしまう
そのまま私の意識は闇に飲み込まれて行った
続く