ただ団長とウサギゴケがランチ食べに行く話です
私はウサギゴケと二人でブロッサムヒルの街中をパトロールしていた
数日前、リリィウッドにて何処からか侵入してきた小型害虫によって市民に負傷者が出た事をきっかけに市内のパトロールを強化せよとの指示が各国の全騎士団に送られてきた
その為私達も二人一組でパトロールを行うよう花騎士達に指示を出したのだが新入りのウサギゴケが余ってしまい私と組む事になってしまった
「団長、ウーちゃんと一緒に来てくれてありがとうなの」
「気にするな、私も事務仕事ばかりで気が滅入っていたからいい気晴らしになっているよ」
私は、私の右袖を掴み歩くウサギゴケの歩調に合わせながら街の様子を見渡す
特に異常は無いが此方に向けられた視線が痛い
幼い見た目の少女を連れ歩く全く少女に似ていない大人という事案を疑われてもおかしくない状況だ、私だって似たような状況を見たら怪しく思い大人の方に声を掛けるであろう
声を掛けられないで済んでいるのは制服の胸元に光る団長である事を示す勲章のお陰である
王家の紋章を掘られた勲章は身分証明によく使われている
紋章を細部まで偽造するのは難しい上に偽造だとバレた場合重い罪に問われてしまうのである
団長だと証明されても幼い少女を連れている事実には変わりない為、道行く人々から白い目を向けられている
向けられる視線に胃が痛む感覚を感じながら歩いていると、ふと美味しそうな匂いがしてきた
周囲を見てみると数軒先にレストランがあり、そこから匂いが漂って来ていた
すると隣から『くぅ~』とお腹の鳴る音が聞こえて来たのでウサギゴケを見てみると顔を俯かせていた
私はその場でしゃがみこみ、ウサギゴケの顔を覗き込んでみると彼女は必死に何かを我慢していた
「ウーちゃんお腹空いてないの、これくらい我慢出来るの。スラムに居た頃に比べたらお腹空いてるうちに入らないの」
ウサギゴケはロータスレイクのスラム出身者であり、常に飢えて病気や暴力に怯えながら過ごしてきた
今も仕事中だからと我慢しようとしているのだろう
「そうか、だが私もお腹が空いてきたしそろそろお昼だ。あそこのレストランで昼食にしよう」
そう提案するとウサギゴケは顔を挙げてこちらを見てくる
喜びと不安が入り交じった瞳に優しい笑いかけ、立ち上がってレストランへと向かった
「いらっしゃいませ!二名様ですね!こちらの席へどうぞ!」
笑顔の素敵な女性店員に案内され二人掛けのテーブル席へと座る
「こちらメニューとなります!御注文がお決まりになりましたらこちらのベルを鳴らしてお呼び下さい!今、お水をお持ちしますね」
「ありがとう」
「ありがとうなの」
差し出された二枚のメニューを開き、注文する料理を考える
ハンバーグ、エビフライ、オムライス、ナポリタンetc.・・・どれも心惹かれる料理ばかりであった
「どうだウサギゴケ、注文する料理は決まったか?」
「団長、ウーちゃんどの料理も食べた事無いから凄く悩んでるの・・・全部食べてみたいけどそんなに食べれないから頭ぐるぐるするの」
しまった・・・何気ない質問のつもりだったがウサギゴケにしてみれば初めての経験で混乱するのは仕方がない
私はウサギゴケが満足してくれそうな料理がないか必死にメニューを見ていると、メニューの裏に描かれたイラストに気がついた
「ウサギゴケ!みんな食べれるぴったりの料理があたぞ!私も決まったから呼び鈴を鳴らしてくれないか?」
「?団長がそう言うなら団長に任せるの」
チィーンと呼び鈴が鳴り、先ほどの女性店員がやって来る
「御注文はお決まりになりましたか?」
「ああ、お子さまランチと大人さまランチを一つずつで」
「ドリンクは如何いたしますか?」
「オレンジジュースとコーヒー、食前でお願いします」
「承りました!お子さまランチ・オレンジジュースと大人さまランチ・コーヒー、飲み物は食前ですね!少々お待ち下さい!」
メニューを復唱した女性店員が厨房の方へと向かっていく
ウサギゴケはその姿を見て何かを思い出してるように見えた
「ウサギゴケ?どうかしたか?」
「なんでも無いの・・・・・・スラムに居た頃を思い出してただけなの・・・・・・」
そう言ってウサギゴケはポツポツと過去の話をし始めた
ウサギゴケ回想
あの日もウーちゃんは空腹に耐えながら食べ物探してたの
裏道を歩いてたら美味しそうな匂いがしたから行ってみたの
匂いの出所はスラムの酒場からでお店の裏口から店員さんがゴミ箱に残飯とか生ゴミを捨てていたの
ウーちゃんがゴミ箱の中身を漁ろうとしたら他の大人の人達がウーちゃんの服掴んで放り投げられたの
「あっご飯なの・・・食べ・・・えっ!?・・・・・・痛いの」
「邪魔だガキ!こいつは俺らの飯だ!ガキはその辺の木でも噛ってな!」
「へっへっへ、美味そうな飯だ!ヒャッハー!」
ウーちゃん諦めれなかったからこっそり残飯手に入れようとしたの、でも見つかっちゃったの
「やめて欲しいの!離して欲しいの!」
「ちっ!メンドクセェガキだな、おい!どっか行きやがれ!」
「ガッ!・・・ゲホッゲホッ!」
大人の人の一人にウーちゃん思いっきりお腹蹴り飛ばされたの
「兄貴、流石にやりすぎですよ・・・おいガキ!こいつやるからどっか行け!」
他の大人の人が肉の端っこ投げて来たけど近くに居た野良犬に盗られちゃったの
結局何も食べれずにその日は寝床に帰ったの
次の日こそ残飯手に入れようと思って行ってみたら、人だかりが出来てたの
見てみると昨日残飯食べてた人達や野良犬がそのお店の近くの道端で色々吐き散らして倒れてたの
もう死んでたみたいで身ぐるみ剥がされてたの
その人だかりの中にあの時、残飯捨てに出て来てた店員も居たの・・・・・・とても歪んだ笑顔だったの
その日以降そのお店に近寄らなかったの
「だから店員さんの笑顔ってなんだか落ち着かないの」
「そうか・・・・・・もしかしたらその人達は病気だったかもしれないし、捨てられた食材が痛んでたのかもしれないな」
私はウサギゴケの過去に何とも言えない気持ちになっていた
本当に店員が残飯に毒か何かを仕込んでいたとして、その店に行っても勘違いだろうと流されてしまうだろう
今の私に出来る事は何もない、だが目の前の少女の不安を和らげる事は出来るだろう
私はウサギゴケの頭に手を伸ばし優しく頭を撫でた
「団長?どうして頭を撫でるの?」
「なんでだろうな、ただウサギゴケが生きててくれて、今この瞬間私の前に居てくれる事が嬉しくてな。あとあの店員は昔からの知り合いだ、変な事はしないよ」
「変な団長なの・・・・・でもなんだか懐かしい感覚なの、花騎士のお姉さんを思い出すの」
ウサギゴケが花騎士になるきっかけを作った花騎士
彼女のお陰でウサギゴケはここに居る事を私は深く感謝した、ありがとう名も知らぬ花騎士よ
「お待たせしました、お先にコーヒーとオレンジジュースになります!お料理の方も直ぐにお持ちしますね!」
随分と話混んでしまっていたようだ
運ばれてきたオレンジジュースをストローで一口飲んだウサギゴケの瞳が、キラキラと輝き始めた
「団長!これ酸っぱくて甘くてとても美味しいの!」
「そうかそうか!ならもっともっと驚くぞ、美味しい物が沢山来るからな」
ソワソワし始めたウサギゴケを見ていたら、自然と頬が緩んでいた
早く料理が来ないかと年甲斐もなくソワソワしているのに自分自身気がついて居なかった
今年ももう少しで終わりですね
あと一つ位投稿出来るよう頑張ります