花騎士秋桜劇場   作:インティライミ

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花騎士公式生放送中に生まれた名(迷)言から書いてみようと思った話です
もしエノテラが傭兵団ではなくデンドロビウムに拾われてカトレアの姉になってたらという展開です
えのてらです。よろしくおねがいします。


花騎士秋桜劇場:エノテラは抱き心地のいい女

日が傾き掛けた頃、リリィウッドの貸し切られた酒場では大仕事を終えた人々が談笑したり、酒や料理の注文をしたり、トランプを使った賭け事を始めたりと自由に過ごしていた

 

「お疲れ様エノテラちゃん~♪はい、今回のエノテラちゃんの報酬~♪」

 

髪を短く切り揃えた黒髪の美女が大量の金貨入りの袋をエノテラと呼ばれた白く長い髪の少女に差し出す

 

「今回のエノテラちゃんの働き分はもちろん依頼延長になっちゃったお詫びの分も入ってるわ」

「そうですか。ではエノテラはこれで失礼します」

 

エノテラは袋を受け取ると席から立ち上がり、酒場を後にしようとする

 

「ちょ、ちょっと待ってよエノテラちゃん~!いつもみたいにワイン飲んで行かないの~?」

「急いで帰らなきゃいけない用事があるので。ワインは今度にします。ではまた」

 

引き留めようとする女性にエノテラは振り返り手を振ると酒場を出ていった

エノテラの去った入り口を見ながら肩を落とす女性に対して、周りに居た人々は笑い始める

 

「あーあ、隊長またフラれちゃいましたね~!」

「うるさいわね!」

 

顔を赤らめながらニヤニヤと笑う男に対して隊長と呼ばれた女性は不機嫌そうに頬を膨らませつつ席に座り込み、男の食べてたソーセージを奪い取り口に放り込む

 

「アレもコレもあの害虫共が予想よりも多く巣を作ってるのが悪いのよ!」

「調査依頼の延長に討伐依頼の追加、最終的に最初の予定から3日延びましたからねぇ⋯⋯その代わり報酬はたんまり貰えましたが」

「依頼延びなきゃエノテラちゃんとお酒飲めたのに~!⋯⋯はぁ⋯⋯エノテラちゃん、うちの子にしたいなぁ~」

 

テーブルに突っ伏した女性が願望を口にするが男は苦笑いしながら応える

 

「相手が悪すぎますよ隊長~。あの氷雪の悪魔に加えて、悪魔の愛娘まで敵に回したらうちの傭兵団なんて簡単に壊滅しちゃいますよ」

「うぅ~!!もうやってらんない!女将さん!ワイン一本頂戴!」

 

何年経っても諦めない傭兵団の女性隊長に呆れつつ、男もソーセージとビールのお代わりを注文するのであった

 

 

 

エノテラの乗ったウィンターローズ行きの貸し切り馬車がゆっくりと街道を進んでいく

馬車の中にはエノテラがお土産として買い込んだお菓子やワインの入った箱が複数置かれていた

気を抜くと一気に疲れがどっと溢れ、睡魔が押し寄せ、箱に寄り掛かるようにエノテラは眠りについた

 

「⋯⋯お母さん⋯⋯カトレア⋯⋯」

 

エノテラが眠りについてしばらくすると彼女の口から寝言が漏れ始めた

彼女が夢の中で見ていたものは自らの過去であった

物事付いた時には孤児であり、日々の辛い生活に絶望していた

ある日、街の中へと害虫が侵入してエノテラの目の前で暴れていた

エノテラは死ぬチャンスだと思い、フラフラと倒れそうになりながら害虫の目の前に立ち目を瞑り、最後の瞬間を待っていた

 

「危ないですよ」

 

突然柔らかく暖かなものに抱き寄せられると同時に打撃音が響き、目の前に居た筈の害虫の鳴き声が遠ざかっていく

エノテラが目を開けると笑顔を浮かべたツインテールの女性がエノテラを胸に抱き寄せながら右拳を振り抜いていた

 

「初めまして。デンドロビウムと申します。貴女のお名前は?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯エノテラ」

 

害虫を倒した後、抱き寄せていたエノテラを解放した女性は、自らをデンドロビウムと名乗った

彼女は孤児であったエノテラを自分が過ごしているお屋敷に来ないかと誘うように手を差し出してきた

躊躇いがちにおずおずと手を掴むと彼女はエノテラの身体を抱き抱え、静かに歩き始めた

場面が飛び、雪山の中に建てられた屋敷の中で燃え盛る炎を連想させるような真っ赤な髪の少女カトレアと出会い

そこからエノテラの新たな人生が始まるのであった

 

 

 

 

馬車がウィンターローズの駅に着いた頃には朝日が駅で荷物を卸す人々を照らし出していた

エノテラは駅の倉庫に預けていたソリを受け取る手続きを済ませ、載せた荷物を紐で固定する作業を済ませると雪山を目指して走り始めた

途中何度か休憩を兼ねて荷物を縛っている紐が緩んで居ないか確認しつつ雪山を登って行き、お昼頃には屋敷にたどり着いた

着ていた外套や荷物に着いた雪を払い落として、玄関に荷物を下ろした後入り口に付けられた呼び鈴を鳴らすエノテラ

しばらくすると歩く音が聞こえ、デンドロビウムが扉を開けエノテラを迎え入れた

 

「お帰りなさい、予定より遅かったですね」

「ただいまですお母さん。お土産たくさん買って来たので入れるの手伝って貰えませんか?」

 

両手を広げて抱擁してくるデンドロビウムに甘えるように抱き付いた後、二人で荷物を中へと運んでいく

 

「そういえばカトレアは出迎えてくれないんですか?シクシク、エノテラ寂しいです」

「ふふっ、あの娘なら手形が届いてから拗ねてずっと部屋に閉じ籠ってますよ」

「そうですか⋯⋯」

 

数日前に予定より遅くなると書いた手紙を送ってからほとんどの時間を部屋に籠って過ごしていると言われ、エノテラは表情は変わらないが声色が少し下がる

 

「そろそろお昼ですからお昼ご飯持って行ってあげてくださいね。頼みましたよ、お姉ちゃん」

「わかりました、エノテラに任せてください。やる気の炎がメラメラです」

 

デンドロビウムが温めたスープを器に注ぎ、パンと一緒におぼんに載せ溢さぬようにカトレアの部屋まで運ぶエノテラ

 

「カトレア居ますか?お姉ちゃんが帰って来ましたよ」

「⋯⋯」

 

カトレアの部屋の扉をノックするが反応が無い

 

「居ないんですか?ご飯冷めますよ」

「⋯⋯」

「それともお姉ちゃんと話したくないんですか?しくしく、エノテラ寂しくて泣いちゃいます」

 

部屋の前でエノテラが色々声を掛けていると扉の前まで歩いてくる音が響く

 

「⋯⋯ご飯そこに置いといて」

「一緒に食べませんか?」

「嫌」

 

強い拒絶の声と共に部屋の奥へと離れていく足音にため息をつきつつ扉の前におぼんを置いてデンドロビウムの待つキッチンへと歩いていくエノテラ

 

「⋯⋯⋯⋯早く帰ってくるって言ってたのに⋯⋯嘘つき⋯⋯」

 

カトレアの漏らした声はエノテラに聞こえる事はなかった

 

 

 

 

昼食を済ませてからお土産を整理したり、デンドロビウムと今回の傭兵団の仕事や傭兵団の皆の様子を話す内にいつの間にか日が傾いていた

夕食の時になるとカトレアも部屋を出て来て久しぶりに三人での食事となったがエノテラが何度話し掛けてもカトレアは無視し続け、食事を終えると食器を片付けすぐに部屋に籠ってしまった

 

「オロオロ、お母さんエノテラはどうしたらいいんでしょうか」

 

幼い頃に自分を拾ってから様々な事を教えて貰った義母に今回も助けを求めるエノテラ

 

「今回もいつものように時間が解決してくれますよ」

「⋯⋯わかりました、お母さんがそう言うなら⋯⋯」

 

しかし義母は優しく微笑むが具体的な助言は無く、静観する姿勢を見せた

エノテラも食器を片付け、自室に入ると机に置かれたランプに火を点け、ぼんやりと街でお土産のついでに買ってきた古い戦術書を読みながら昔の事を思い出し始めた

エノテラが屋敷に来て数ヶ月はカトレアの事を同じ屋根の下に住むだけの他人と考えていた

しかしある日エノテラがカトレアの側に居てもカトレアの持つ膨大な魔力に当てられても魔力酔いを起こさない高い耐性を持つ事に気がついたデンドロビウムは、エノテラにカトレアの姉になってくれないかと頼み込んできた

自分に暖かな食事や家を与えてくれた恩人に応えようと決意したエノテラはデンドロビウムの頼みを受け入れ、カトレアの姉になった

初めは他人との接し方が分からず喧嘩をしたり、カトレアに触れられて軽い魔力酔いで倒れ込んだりとトラブルも起きたが次第に打ち解け仲の良い姉妹へと変化していった

その後、成長したエノテラが自分でお金を稼ぎたいと考えるようになりデンドロビウムが縁のある傭兵団を紹介して貰い、仕事を請け負うようになった

その頃からカトレアとの距離が少しずつ離れていき、仕事を終えて帰ってくるとカトレアが不機嫌そうにエノテラを迎え、時には喧嘩をするのが日常となっていた

 

「今日はこれくらいにして寝ましょうか」

 

戦術書に栞を挟み、ランプの火を消してベッドへと入り込むエノテラ

寝付こうとした時に部屋の扉が開き廊下から光が差し込み、エノテラの眠気を覚ました

 

「⋯⋯起きてる?」

「どうしたんですかカトレア?エノテラは眠いんですが」

 

部屋の入り口からカトレアの声が聞こえて来たがエノテラはカトレアを見ないよう身体を横にしながら応える

カトレアはゆっくりとベッドに近付いてきて、ギシリと音を立てながらベッドに潜り込んで来てエノテラに抱き付いてきた

 

「どうしたんですか?寂しくてお姉ちゃんに甘えにきたんですか?」

「違うわよ⋯⋯あんたが居ない間に枕がボロボロになって捨てたのよ。知ってるでしょ、私が枕が変わったら眠れないって。デンドロビウムが新しい枕買ってくるまであんた抱き枕代わりするってだけ」

 

急に抱き付いてきた義妹にわざとらしく訊ねると言い訳するように早口で反論してくるカトレア

そんなカトレアの腕にエノテラは自らの手を重ねる

 

「知ってます。エノテラのカトレアのお姉ちゃんですから。かわいいかわいいカトレアの為に抱き枕になったり、なんなら腕枕もしてあげますよ」

「いらないわよ、あんたは黙って抱き枕になってればいいのよ。あんたはあの枕と同じ様に抱き心地がいい女だから抱き枕にするの。本当にそれだけなんだから⋯⋯バカ⋯⋯心配したんだから⋯⋯」

(身体ばかりおっきくなって中身は昔のまま甘えたがりのかわいい義妹ですね)

 

不安だった気持ちを誤魔化すようにギュッと抱き締めてくるカトレアの腕を優しく擦りながら、暖かな温もりに溶け込むようにエノテラは深い眠りへと沈んでいくのであった

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