涼を送っていったあと、夜の帳が完全に下りきる前に家に帰ろうと、風に乗りながら空の道を進んでいた。
まだ完全に真っ暗になっていなかったから誰かに見られる心配もあったが、早く帰りたい気持ちの方が勝り、空をかけることにした。
誰かに見つかることを避けるために全速力で進んでいると急に懐からあいつが顔を出した。
(……珍しいな、暗闇でもないのに空にいるなんて)
「こっちの方が地面をかけるよりも速いからな」
(……まぁ、どうでもいいが)
そっけない態度をとりながらも上空から下の景色を見ているこいつの顔は普段の仏頂面とは違って、少し表情が柔らかい。
俺が一人で空中にいるときは基本的に顔を出して景色を見ているから空から眺める景色が好きなんだろうが、こいつの考えていることは基本的によくわからない。
だけど、長い間一緒にいたからか好みなどは大体わかる。
俺と同じでよく顔に出るからだ。
そんなどうでもいいことを考えていると急に声が聞こえた。
(……そういえば、さっき送っていった女の近くに夕方見た人形はあったか?)
どうやら、夕方見かけた人形のことのようだった。
さっきまで気にも留めていなかったから、こいつに言われて思い出したが、記憶を思い返してみてもあの人形があったような記憶は全くなかった。
「いや、覚えている限りだとなかった気がするが、お前は見たのか?」
(……俺も外に出ていないから直接は見ていないが……一瞬だけ気配を感じた)
気配を感じたとは言われても、あの時に気配を感じるようなことはなかったし、そもそも人形に気配があるとは思えなかった。
「俺は全く分からなかったが……いつ気配を感じたんだ?」
(……あの女の手をつかんだ時だ……それ以外は何も感じなかった)
「でもそうなら、俺もさすがにわかると思うけどな……普通の奴よりは気配に敏感だと思ってはいるし」
(……女に気を取られて気が付かなかったんじゃないのか?)
確かにあの時は涼に気を取られていたが、さすがに何かの気配を察知することに関しては引けを取ることは、ほとんどない。
こいつの方がその点は優れているとは思うがそれでも、距離の差だけだと思う。
あの場面では、どちらも涼の近くにいたから感じることができなかったとしたら、存在自体が自然に溶け込んでいるとしか思えなかった。
俺は否定の言葉をかけてどこで気配がしたか聞いてみることにした。
「さすがにそれはない。 むしろどこでその気配を感じたんだ?」
(……あの女の足元だ)
そういわれて、意味が分からなくなる。
俺の気配察知の範囲外だったら俺もわからないから、察知ができなかったことに理解ができるが、あの時俺は涼の真横にいたのだから、実質すぐそばにいたことになる。
それなら、おそらく気が付けるはずだが……俺は全く気が付かなかった。
そうなると、あそこで見た人形は一体何だったんだろうと疑問に思ったが、考えてもわからなかった。
そうやって頭を悩ませていたら、また声がかかる。
(……あれがなんだかはわからないが……もしかしたら神器かもしれないな)
確かに神器だったら俺は気配を感じることができないが、その言葉にも俺は疑問が浮かんだ。
「確かにその可能性はあるかもしれないが、もしそうだったらお前が気配に気が付けてるのはおかしいだろ……今まで神器を持つ奴に気が付いたことなんてなかったはずだろ?」
こいつは、俺と同じで神器に気が付くことはできないはずだ。
気が付けるなら、ザラの神器である妖精に気が付くことができるはずだし……。
(……そうだったな……じゃあ、いったいあれは何だろうな……)
「わからないけど、お前が気配を感じるなら警戒をした方がいいんじゃないか?」
(……警戒をするつもりはないが……気が付いたら教える……害があるような感じじゃない)
「なんでわかる?」
(……お前の行動によって出てきた……そんな感じがしたからだ……)
直感かよ……とは思ったが俺よりも感覚が鋭いこいつが言うんならたぶん間違いはないんだろうなと思い反論の言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、そこまで警戒をしないもいいわけか……」
(……ああ……むしろあの悪魔になったやつの方を警戒した方がいい……)
確かに悪魔になった以上この町で何かが起こる可能性は十分に高い。
堕天使も生きているとしったならすぐにでも殺しに来るだろう。
悪魔や堕天使の行動には興味がないがこの場所で起きたことはきっちり情報を得ておかないとヴァーリやアザゼルに何を言われるかわからない。
そう考えると確かに兵藤や学園にいる悪魔たちに注意を向けていた方がいい。
胸の存在にぶっきらぼうに了解の返事をして移動スピードを上げる。
そこからは、一言も言葉を交わすことなく家に着くまでお互いに無言だった。