ハイスクールK×D   作:海降雪

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真夜中の面被り
始まりの朝


長い年月が過ぎた。

子供だった頃はとっくに過ぎ、のちに、ある出会いから俺は三大勢力の堕天使側に就くことになった。

そして、現在アザゼルの頼みで駒王学園の学生として生活をしている。まぁ、頼みというのは建前で、年齢に応じた生活をしてほしいということで、学生生活を送っているようなものだ。

 学生生活も最初は慣れなかったものだが、最初の数か月を過ぎるとだんだんと慣れてきて、いつの間にか一年がたった。まぁ、1年を無事に過ごせたのも一緒に生活を送っている堕天使側の人間の助けも大きかった。ただ、1年間なかなか大変なこともあったが……

 

(お前は基本的に大変なことなんてなかっただろうが……むしろ大変だったのはザラの方だろ)

 

「いや、大変だった。アザゼルへの定期連絡や部活や趣味を両立させるのが特に大変だった」

 

(定期連絡以外のことは大体、学生を謳歌してるだろ……ザラに同情するぜ)

 

確かにザラにはだいぶ迷惑をかけている気がする。炊事洗濯は基本的にやってもらっているし、朝起こしてもらわなければ遅刻は三日に一回はしているだろう。

「家事とか全部任せているのは申し訳ないけどさ……少しは手伝おうと思って帰宅部をしようと思ったのに、部活に入れって言ったのはお前じゃないか。

 

(後に、必要になるんじゃないかと思って入れといったんだ。しかも、部活やってなくても絶対何もしないだろお前)

 

「いや、たぶんやると思う。暇だからやるだろうな。うん」

 

(いや、絶対にやらん)

 

何年も一緒にいるからか行動が読まれてる。

「昔はこんな辛辣じゃなかったのに……」

 

(お前が昔のままだったら俺も変わらんかっただろうに……自分を恨め)

 

ほんとに辛辣だな……こいつは、昔、寂れた神社で出会った妖精みたいなものだ。

どういうわけか俺以外の人にはほとんど見ることができない。一応、隠しているから確認したことはないが、たぶんザラにも見えるだろう。あいつの近くにこいつと同じような妖精があるいているのを見たことがあるからだ。

ちなみに、ザラは堕天使側についている俺の仲間で、昔各地を修行している際に出会うことになった。

こちらもアザゼルに「年齢的には学生なんだからその年齢で学生を謳歌してこい。俺みたいに歳食ってから学生やっても青春なんてできんだろうからな」とか言われて一緒に学生をやっている。

 

(学生が本分というよりはお前の世話の方が本分な気がするがな……そうこうしているうちにやってきたぞ。ちなみに俺は隠れる)

 

(あながち間違ってない気がするから何にも言えない……)

あいつの人が近づいてくる気配に対する感覚はどうなっているのだろうか。

今まで一緒にいる中で、誰か近づいてくるときや近くに人がいたりするときに必ず姿を隠している。

どうして、そこまで人に姿を見せたくないのかがよくわからないが聞いても答えてはくれないのでいつものように考えるのをやめた。

そして、だんだんと近づいてくる足音の方向に顔を向ける。

 

「ねぇ凍野、今日はいつも通り部活してくるのよね?」

放課後になって、少し時間がたち人数の減った教室でザラが聞いてくる。

 

「あぁ、大体いつもの時間になるんじゃないかと思うけど……何かあったのか」

 

「それならいいわ。今日はヴァ―リがこっちに来るらしいの。理由はわからないけど、さっき連絡があったの。たぶん、あなたに会いに来るんじゃない?」

 

「それほんとか?あいついつも俺に直接連絡寄越すのに……珍しい」

 

「ヴァーリからの連絡じゃないの。グラーフが連絡してくれたのよ。

今日は私たちのところに来るからご飯を作っておいてくれって言う内容でね。」

 

「なるほど……グラーフ姉さんの連絡か……」

グラーフ姉さんも堕天使の仲間の一人で世界中にいる妖精がみえる人を探す役割を担っている。今のところ何年かに一人の割合くらいで見つけているようだが、「神の子を見張る者」で会ったことがあるのは一人なので、妖精が見える人を探すのがどれだけ大変なのか詳しい結果を知らなくても伝わってくる。

 

「それで、ザラも部活をして帰るのか?」

 

「いいえ、ザラはこれから来る二人のために夕飯を作らなくちゃいけないからすぐに家に戻るわ。グラーフにご飯よろしくって頼まれちゃって……だから勝手にあなたの部屋に入って準備するつもりよ」

 

「了解……終わったらすぐに帰るから夕飯頼むわ。」

 

「ええ、任せて。でも部活がきちんと終わってから帰ってきてね。あと片付けを他の人に任せて帰ってこないでね……それじゃあ後でね」

そういって彼女は教室から出ていった。

それを見送りながら自分も教室からでる準備をし始める。

 

(さっさと準備をし終えた方がいいぞ……そうじゃないと部活の方でまた文句を言われるからな。まぁ、そっちの方が俺は面白いんだけどな)

 

「急がせるつもりがあるなら普通の忠告をしてくれよ……」

 

(いつものことだろ……さっさとしろ。そろそろ迎えが来るぞ)

 

「迎え?そんなの来ないだろ。小学生でもあるまいし一人でいけるっつーの」

 

どうでもいいことを話ながら帰りの支度を整え終えて、教室を出ようと椅子から立ち上がったところで、閉まっていた教室のドアが大きな音をたてて開いた。

「ちょっと凍夜」 

 

(ほら来た……)

 

開いた扉から足音が近づいてくるたびに大地が揺れているのかと錯覚してしまうほど重みがある足取りで、机に近づいてくる影が一つある。

机に置いてあるカバンに手を取り、影が近づいてくる前に教室にあるもう一つの扉から退散しようと、一歩踏み出したところで肩をつかまれ、動くのを止めざるを得なかった……

「どこに行くのかしら……と、う、や、君」

 

「いやこれから部活に行こうとしていたところです。だからドアのほうへ向かっていた……」

 

言葉を発している最中に顔を彼女のほうに向けられしゃっべっていることを中断させられる。

「私が来たのに何でこっちを一変たりとも見ないで別のドアのほうに行くのよ……しかも明らかに私から逃げようとしてたでしょ」

 

「そんなことないです。教室じゃ迷惑になると思ったので、いち早く廊下に出るために動き出そうとしただけです」

 

「その時点でおかしいでしょ。私は今日ホームルームが終わり次第速やかに部室に来なさいって言ったわよね?」

 

「だから、終わり次第すぐ向かおうとしてました」

 

「私のクラスのホームルームが終わるのとあなたのクラスから人が出てくるのが同時だったんだから、そんなわけないじゃない」

 

「……」

 

「というよりも、早くいかないと……先輩に怒られるの私なんだから」

 

「……それなら、先に行けばよかったのでは?」

 

「先輩に凍夜を連れてきなさいって言われてたの。あなたの遅刻癖は部活メンバーの

中では周知だから」

 

「まじかよ……じゃあさっさと行くか……」

 

教室の中での会話を止め、俺たちは人の多い廊下をすり抜けながら通り、部室棟へと向かう。

さっきの会話には疑問が残るが自分の所為で彼女が起こられるのは忍びないため、早歩きになりながら、放課後でにぎわっている運動部員の横を抜け他の部室とは少し離れた学校の端にひっそりとたたずむ部室についた。

そこにはすでに多くの部員が集まっており、部活を行う場所へ移動をしようとしていた。

「まぁ、ぎりぎり間に合ったから良しとしましょう……早く着替えてさっさと道場に行くわよ」

 

その声に首を縦に振って返事をすると着替えるためか部室を半分に仕切るカーテンの中に彼女は消えていった。

この部室は男女共同なために、女子は着替えるときはカーテンに入りその中で着替える。

多くの部活は男子と女子の部室が分かれているが、部室が分けられていると、この学園に一年前に入学した通称変態三人組に目を付けられる可能性があるため、一部の女子からは安全な部室なためにうらやましがられている。

(さっさと準備したほうがいいぞ……またどやされるからな)

 

頭の中で声がして、手を動かし始める。

ただ、準備といっても運動しやすい格好……下をジャージに着替え、上に胴着を着れば終わるため、一瞬で準備は終わる。

男子の着替えや準備に時間がかかることはほぼない

だから、俺なんておいてさっさと行けばよかったと思ってしまう。

誰かと一緒に行くのも悪くはないが、催促されていくよりも自分から行動を起こしたほうが何となくいいのではないかと思ってしまうからだ。

(そんなことはないだろ……むしろお前は催促されたほうがやる気が出ている)

 

(そんなもんかね。自分の感覚ではそう思うけど……端から見たら違く見えているのか?)

 

(長い間いた奴ほどそいつの本質が見えてくる……そういうことだ)

 

心の中でどういうことだよという突っ込みをいれつつ彼女が出てくるまで時間を持て余す。

女子のほうが、時間がかかることは一年間ここでやってきてわかっているので、気長に待っていると部室の入り口が開いた。

「こんにちは。遠野君。ぱっと見て準備が終わっているように見えるけど……道場にはいかないの?」

 

「鶴野か……まぁ、ちょっとな……それにしても、いつもに比べて遅いけど、何かあったのか? 普段終わり次第すぐにこっちに来てるような気がするけど」

 

「今日はちょっと生徒会に呼ばれていて、そのせいです。遠野君は……そういうことですか。

じゃあ、私も準備をしてきますね」

 

俺が部室の半分に目をやると察したのか、横を通ってカーテンの中へ入っていった。

その直後に、部屋の中に小さな声が聞こえ始め、5分もたたないうちに二人は出てきた。

「お待たせ。さぁ、さっさと行きましょ」

 

彼女の第一声に軽い返事をしながら、腰を上げ歩いている彼女の後にお供のようについていった。

 


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