もう家が見えるところまで来ていたので、ほとんど走る必要なく目的地についた。
敷地内に入り、自分の家があるマンションの2階を目指す。
ただ、マンションとは言ってもアザゼルが住んでいるような高級の高層マンションではなく、最高三階建てのマンションだけれども……。
マンションの階段を一段飛ばしながら進み三階の一番奥の部屋まで早足で歩いて自分の部屋の前まで来た。
あとは、鍵を開けて部屋に入るだけ……そんなことを思いながら、ポケットから部屋のカギを開けたと同時に、隣の部屋が開きザラが顔を出した。
「やっと帰ってきた……早く帰ってきてって言っておいたのに……」
言われた通りの時間にあまり到着できないことが多いため、いつものことだから仕方ないかと言わんばかりの顔でこちらを見てくる。
「……どうして帰ってきたと同時に部屋のドアを開けることができるんだよ……ずっと覗き穴を見ながら見張ってたのか?」
あまりにもタイミングよくドアが開いたので単純な疑問を問いかけながら彼女のほうを見る。
「ふふん……今日は妖精さんに私の部屋の入り口前に立っていてもらっていたの。凍夜が三階まで上がってくるのが見えたら、私に知らせるようにしてね」
そういわれて、家の前の塀の部分を見てみるが何かがいるような感じはしなかった。
「そりゃあ、こっちが驚かされるわけだ。俺が見えないものを使ってるんだし」
「まぁ、そうね……でも、れっきとした私の能力なんだから」
「それもそうか……」
少し得意げな顔になって、自分がずっとそこに立っていたかのように言うザラ。
そんな表情を横目に見ながら、これ以上何かを言われないように、会話を終わらせ自分の部屋に入ろうとすると、別の用事があったのか遅れたことの説教ではなく、ほかのことを話し始めた。
「いつも通り凍夜の部屋に集まるから着替えが終わったら私の部屋まで来てね」
「了解」
そういって、彼女は自分の部屋の中に戻っていった。
それを見届けた後に、自分の部屋のドアを開けて室内へと入る。
今夜は定期連絡を兼ねた食事会(主に姉さんがザラのご飯を食べたいがため)が行われる。
基本的に現在の堕天使の状況はどうなっているかとか、二人が探しているものは見つかったのかどうかなどの連絡だからメールや通話で話してもいいのだが、どんな様子なのかを見るためか、最低月に一回は俺たちのところへやってくる。
(あれだろ、お前はすぐひきこもるから様子見に来ないとやばいとか思ているんじゃないのか?)
どんな連絡が来るのだろうかと考えながら、着替えていると急に懐から声がしだした。
「急に声を出すなよ……驚くだろ……」
(いつものことだ……驚き飽きただろ……)
こいつはいつも急に声を出したり黙ったりするから少し困る。
予想もしていないときに声が聞こえてきたら何回やられてもビビるだろうが。
(仕方ないだろ……人がいるときは基本しゃべる気がしないからな……俺が
しゃべるときは誰もいないときだけだ)
「俺はいつ誰にしゃべられてもいいように構えてろってことかよ……」
(別にそんなことしなくていい……ただ慣れろ)
「相変わらず無茶ゆうなよ……」
(こっちは何度も言っているだろ。 慣れろって。)
何度か同じ会話をしているためかいつも通りの返答を繰り返した後、話の切れ目として首を縦に振りながら適当に返事をして、二人とも黙る。
そこからは、基本的に会話はないため、話が終わったと同時に着替え終わった俺はザラの部屋へと向かう。
隣の部屋で何度も入っているため、本人の許可もなく勝手に家に上がる。
さっき、部屋まで来いと言われたから、やっていることは夕飯を作っていることだとわかっていたからだ。
さすがに、何をやっているかわからないときは一応チャイムを鳴らすか、風を送る。
その応答によって、部屋に入るかどうかを決めている。
以前、何も考えず部屋に入ったとき、彼女が服を脱ぎ終えたところだったことがあり、その時に鬼が追っかけてくるのはまだましじゃないかというくらいの恐ろしい目に合わされたため、このような行動を始めることになった。
高校生だと当たり前のことだというのはわかっているけれど、昔からの癖で気にすることなくいろいろやってしまうため、よくお叱りを受ける。
「凍夜ー……こっちに来て早く料理運んでって」
彼女の部屋に入り靴を脱ぎだしたところで、扉の開く音で気が付いたのか、はたまた妖精に見張っていてもらっていたかわからないが、手伝いの催促をされた。
その声を聴いてからは自分のできる限り早くリビングに行き、手伝いをする。
とはいっても、彼女が作ってくれた料理をウェイターのように慣れた手つきで自分の部屋のリビングに運んでいくだけだが……。
ザラが作ってくれたパスタを盆の上に乗せ、うまく形作られた麺の渦を崩さないようにそーっと自分の部屋に運んでいく。
そうして、四人分運び終え、全員分のフォークやコップを出していると料理を作り終えて、あらかたの作業が終わったザラが部屋にやってきた。
「お疲れさん」
自分も食事の準備を終えて、ねぎらいの言葉をかけながら椅子に座った。
「ええ、……凍夜も手伝ってくれてありがとね」
彼女も俺に感謝の言葉を述べながら、席に着くと、ちょうど部屋の隅が光りはじめ、いつの間にか金髪と銀髪の二人が立っていた。
見慣れた光景にいまさら驚くこともせず、普段通りに無言でテーブルに座ってくる二人。
頬杖を突きながら彼らに目をやりながら、声をかける。
「相変わらずだな……ヴァーリ。 何かしゃべって入って来いよ」
「いつものことだからな……声をかける必要もないだろ」
椅子をひきながら、口を動かし自分の部屋にいるかのように椅子に座った。
一緒に来ていた姉さんをもヴァーリを見ている間に椅子に座り、コップを片手に水を飲んでいた。
各々自由に行動していたが食事をとり始めると、少しずつ情報交換が始まる。
それがわかっていたので、宴の挨拶ではないが、食べる前の一声をかけてザラの料理をたべはじめた。
「やはり、ザラの料理はいいな。 普段の食事が美味しくないわけではないが、この料理は格別に思える」
彼女の作った料理を食べて、舌鼓を打っていると姉さんが感想を述べ、それに反応したザラがお礼を言う。
そのやり取りが終わった辺りで、本題にはいるかのようにヴァーリが口を開いた。
「最近のこの辺りの様子はどうなっている?」
「どうもなにもいつも通りだ……前にヴァーリが来たときとほとんど変わってはいないはずだ」
「ほとんど……ということは気がついているんだろう?」
口だけを笑顔にしながらこちらを見たヴァーリに昨日感じた違和感を伝える。
「昨日だか、結界の感覚と堕天使の気配を感じた……俺たち二人がいるって言うのにどう言うことなんだ?」
「どうも、したっぱの堕天使どもがアザゼルに認めてもらいたいのか、何かをたくらんでいるらしい……とはいっても何したいのかはさっぱりだが」
「それは首を突っ込んだ方がいいことなのか?」
「その必要はないだろうな……この土地を牛耳っている悪魔どもの反応が見られるだろうから俺たちが首を突っ込んで悪魔が気つく前にことが終わってしまってもアザゼルが困るだろう」
「なるほど……グラーフ姉さんの方はどうだった? 例の神器は見つかったのか?」
ヴァーリとの会話を終えて、食後のコーヒーを飲んでいた姉さんに話を振る。
姉さんは満足そうに顔を緩めてたが、俺が話を振るや否や、すぐに真面目な顔になり、話を紡いだ。
「いや、全く手がかりがない。 やはり天界が所有している神器がなければ見つけるのは厳しいのかもしれないな。 運がいいのは悪魔の駒を持っている悪魔たちが例の神器の所有者を下僕にしていないことだな。 あいつらがもし、例の神器を所有していたら私たちのような神器を持っているものたちはほとんど悪魔陣営に強制参加させられているだろうからな」
「そうか……ザラ、こっちはどうなっているんだ?」
例の神器の所有者である、ザラに問いかける。
俺は見ることができない妖精という存在が例の神器の所有者の近くには存在しているらしい。
なので、それを見ることができないものは、例の神器を探すことができないのだ。
「んー……最近の感じだと変わりはないと思う。見てる限りだと妖精さんはいないもの」
「それなら、お互いに手がかりなしか……最近何にも変わらないな。」
「確かに進展はないけど目に見えているところで他の勢力の進展がないことがわかるから駒王に通ってる私たちの情報が変わらないのはいいことだとは思うけどね」
確かにそうかもしれないが、こうもなにもないとすくなからず退屈なのは間違いない。
その感じが目に写ったのかヴァーリがフッと笑いながら口を開く。
「退屈そうな顔をしているが、これから下っ端たちが起こすことによっては退屈しなくなるかもしれない。目を離さずいることだな」
「それはそれで面倒なんだよ」
「まぁ、退屈しているなら今から手合わせをしようか……ここに通っていてなまっていても困る」
「マジかよ……仕方ないな」
お互いに椅子から立ち上がり玄関に向かう。
いつものことなので抵抗もせずヴァーリについて行く。
「禁手化はなしにしてくれよ……疲れるから」
「馬鹿を言うな。戦闘は本気でやらなければ面白くないだろう」
早々に終わらせようとしたら殺すといっているかのような目でこちらを見る。
こいつと手合わせするときは本気を出さないと本気で殺されるだろうから手加減などしたことがない。
疲れること覚悟の上でいつも以上に頑張ろうと気合いを入れ、戦闘時の服装を能力で出す。
ヴァーリもいつのまにか翼をだし準備を終わらしていた。
お互い戦闘の体制になったことを確認してから転移魔法で誰も人目のつかない場所に消えていった。