昨日の戦いから夜が明けた。
とはいっても、戦闘が終わった時間は山頂の後ろが赤みがかった時だったため、太陽が顔を出すときに眠り、完全に東の空に明るい塊が出てきたときに目を覚ますという不健康まっしぐらな生活を強いられることになった。
学校をサボってしまおうかという欲求が頭のなかを駆け巡ったが、朝食を作って待っているザラのことを考え、重いからだを無理矢理起こし、布団から飛び出すような形で少しでも眠気を覚まそうと飛び出るかのようにベットから降りる。
そんなことをしても眠たいのはわかりきっているので、これでもかというくらい冷たい水で顔を洗ったりしたが効き目はなく寝ぼけた顔で椅子に座る。
(もっと寝ていれば良かっただろ……女に起こされて学校に行くなんて学生なら喜ぶ状況だろうに)
「お前わかっていってるだろ」
(わかってはいるが……年をくったらそんな生活はできないからな年の功というやつじゃないか?)
頭のなかに聞こえてくる教訓だかアホな考えだかわからない声にあきれながらザラが起こしに来る前に身支度を済ます。
時間にルーズだと、きちんとした生活をしろと怒ることが珍しい大激怒なザラさんを見ることができるが、そのあとが怖い。
毎日、生活習慣を正すため生活を共にすることになるならいいのだが、そんな甘いことはなく、彼女の神器である妖精さんが常に俺を見張っている状況になり、彼女が思う悪いことを行うと妖精さんに攻撃されるという常になにかに狙われながら生活をするはめになるからだ。
しかも、俺にはその妖精自体が見えないため、見ていない隙がわからないため禁が解かれるまでは油断がなにもできないところが特に質が悪い。
前に妖精に監視されたことがある身としては、あれだけはもう一度されたくないことなのでいつもと同じくらいの時間に身支度を整えて学校に向かう。
ドアを開けたら同じ音が二重に聞こえ、横を見てみるとザラがちょうど同じタイミングで部屋から出てくるところだった。
彼女はこちらを見て、朝の挨拶をかわし、ちょうどよかったのか一緒に学校へ向かうことになった。
そしてアパートの敷地を抜けたところで、昨日のことを聞いてきた。
「昨日は何時くらいまで戦っていたの?」
定期集会が解散した後、俺たちについてこなかったザラはなんだかんだで気になっていたことを投げかけてきた。
「いつもより、長かったかもしれない。気が付いたら朝焼けが見えかけてた」
「じゃあ、いつもより長く戦ってたんだ……よく起きてこれたわね」
「また、監視されるのは御免だからな……無理してでも起きなくちゃと朝は必至だったよ」
「さすがに戦闘後に遅刻する分にはそういうことするつもりはないけど……普段そういうことするのはだめだからね。 仕方なくやっていることなのよ」
「それをもっと早くいってほしかった……今から部屋に帰ろうかな……」
「残念。今までは不問にしようかなと思ってたけど……大丈夫そうだから今度からもきちんとした生活をしてね」
「全然大丈夫ではないんですけど……」
ザラからの鬼のような発言にあくびが出そうな口を押さえながら、彼女の言い分に反抗する小さな反抗隊かのようにボソッと声が出る。
そんな俺の声など聞こえてはいないかのように顔を笑顔にしながら、隣を歩くザラ。
ぐっすり眠ったのが見てわかる彼女と明らかに寝ていないかのようなやさぐれた顔をしている俺たちは回りから見たら対称的に見えているだろう。
そんな考えを尻目に前方を見てみると、ご機嫌な変態三人組の一人と残りの二人がわめきながら歩いているのが見えた。
その光景に既視間を覚えながら、時おり彼女の振ってくる話題に答えながら登校を続けているといつのまにか学校についていた。
そして、教室の自分の席についたときひとつの決心がついた。
今日の授業は睡眠学習を試してみようと
そう思って机に腕を枕にして突っ伏した。
眠っていると時がたつのは早いもので、いつのまにか午前中が終わっていた。
この学校の教師はなにを思っているかわからないが、一度も起きることがなく昼の時間になっていたことから、注意は一度もされなかったらしい。
もしかしたら、されていたかもしれないが熟睡していたために気がつかなかったのかも知れない。
そんな、授業に起きなかった理由をだれにも聞かせることなく自分のなかで説明していると、ポケットのなかに入れていたスマートフォンが震えた。
手に取り、画面を見てみるとただ一言「屋上」という文字が目に写る。
誰か別の人が見たら、なにかをやらかして人目のないところで脅されるかのような文章だが、いつものことだったため気にせずポケットの中に手に持っていたものを入れ、朝、ザラからもらった昼食を持って教室をでる。
(いつも思うが、あいつはもっと文字を打つべきだろ……)
簡易チャットに文章を送ってきた彼女のことを考えながら、急ぎ足に階段を上がる。
屋上へと向かう階段を上がっていく度にだんだん人気が減っていき、屋上へと上がる最後の階層を上がるところで自分以外の人はいなくなった。
普段から立ち入り禁止になっている屋上の周辺には人気はなくいつものように静かだった。
その階段を上がり屋上への扉を開くと扉に背を向けながら座っている一人の生徒がいた。
校舎の中でも一番に高いところに吹き抜ける風が長い髪を揺らし、照らす太陽が白い肌をよりいっそう白く輝かしていた。
後ろを向いた彼女は屋上の扉が開いた音でこちらを振り向き、人形のように無表情だった顔は俺を見ながら少しずつ口元が上がっていった……とはいっても微笑み程度だったが……。
「遅いですね……」
「涼が早すぎるんだよ……まだ授業が終わってから十分もたってないのに」
「授業が終わってから、まっすぐここに来ればもう少し早くこれたのではないでしょうか」
「確かにそうだが……俺にも用事というものがあってだな……」
「用事とは授業中に眠ることに加えて、昼食時も眠ることでしょうか……」
俺が午前中にやっていたことがバレているせいか、遅れたことを攻められる。
「確かに、授業中俺は眠ってたかもしれないがきちんと起きた。 しかも、遅れも十分だ。
なのにこの言われようはおかしい……俺より遅いやつがいるんだぞ」
「遠野君の場合は、いろいろと助けがあったからでしょう……授業が延びたとかではないのに遅れているのになにいっているんですか…」
どうやっていっても攻められることは変わらなさそうなので、矛先を変えようといつものことについて聞いてみる。
「それよりも、あいつらはどうしてる? 今日みたいに晴れてたらここから見渡せる位置にはいそうなもんだけど……」
「今日は特になにも起こっていませんよ。 朝聞いた噂が本当のことなら三人でいつも行動してるので……少し私たちの仕事は減りそうですけど……」
「あぁ……昨日の夕方聞いた噂か……本当だとはにわかに信じがたいけどな」
「確かに、この学園にいる人がもし件の人の彼女であるならあまり信じることはできませんが……そういうことはよくわからないので、そういうこともあるかもしれないですね」
「正直、騙されてる方が可能性高い気がするけどな……」
噂の話をしながら昼食を食べるために準備をしていると屋上のドアがゆっくりと開いた。
蓋を開けた弁当箱を地面におきながらドアの方を二人で向くと、彼女はちょうど扉を閉めながらこちらに歩きだしてくるところだった。
「今日はやけに遅かったな……何かあったのか?」
「いえ、特になにもなかったけれど、噂の話を聞いたから今日はさすがになにもしないんじゃないかと思って教室で少しゆっくりしていたの……あなたたち二人が真面目に見張ってくれてると思っていたから」
「涼さん聞きましたか今の言葉……なにか言わないんですか?」
「あなたよりいい理由なので特には……」
「俺にキツすぎじゃないか……」
「そんなことはありません」
「あぁ、そういうことね……また寝ていたんでしょ」
「その通りです……困ったものですね」
「仕方ないわ……そういうとこはあったときから変わってないもの」
「人はそんなにすぐには変わりませんからね……なにかきっかけがあれば別でしょうけど……」
涼のいった言葉にコロはうなずきながら俺たちの近くにすわり昼食を取り出した。
そんな光景を見ながら見張りのために校内を見渡しているとふとある疑問がわいた。
「しっかし、もしあいつらがいつものような変態行為をしなくなったら、この屋上組はどうなるんかね……」
俺が発した疑問に二人はなにも言わなかった。
この屋上組は、学校に認められていないが生徒会には認められている非公認同好会みたいなもので、学校に入学した次の日に校則を破って屋上に入った三人がここにいる。
本来ならば、生徒会に怒られ立ち入り禁止になっているはずだったのだが、たまたま変態三人組が覗きをしている現場を屋上から見てしまい、三人でそれを止めたところ、生徒会からの感謝のつもりなのか、屋上への立ち入りが不問にしてもらったに加えて、屋上への立ち入りが許可された。
それだと、俺たちだけ特別扱いされているように聞こえるが、実際はそうじゃなかった。
屋上の立ち入りには変態の動向を探り、事が起こる前に止めることを条件として出されたため、生徒会の手伝いとして許可を出されたのだ。
常に何か起こるかを監視しなければならないため、普通の生徒はそんなことをしたくないと、屋上に来ることはなく、俺たちも正直そんなことはやりたくなかったが、校則を破ったのも事実だったので、しぶしぶ承諾し、かれこれ一年近くたったことになる。
昔を思い返していると、涼もコロも同じことを考えていたのか、晴れた天気とは反対に少し暗い雰囲気が表れはじめた。
まだ決まったわけではないが、なんだかんだで仲良くやってきた三人なのでこの場所が使えなくなるのは寂しく感じる。
「まだ……どうなるかわかりませんし、生徒会の皆さんに何か言われるまでは、今まで通り、凍夜君とコロラドさんの三人で学校の秩序を守りましょう……」
「そうね」
「そうだな……すぐに三人組になるかもしれないし、二人組でもやってくるかもしれないしな」
「あの三人ならだれが付き合ったとしてもすぐにふられそうだものね。可能性は高いわ」
「さすがにひどくありませんか……」
「そういわれても仕方ないことはしているもの……それとも、涼から見たらいいところがあるの?」
「ありませんね……」
「でしょ……彼らに比べたら凍夜が誰かと付き合ってるほうがよっぽどあり得るわね。」
「そうですね……」
「俺にもなかなかひどいこと言ってるって二人とも気が付いてる?」
俺の返答に二人とも即首を縦に振った。
いつものことなので、あまり気にもせずため息をつきながら周りを見渡す。
特に異常は見られず、やることもなかったので横になり眠る体制に移る。
「あら、さぼってもいいのかしら」
「今日くらいはいいだろ……眠らせてくれ……寝足りないんだ……」
「……まあ、いいですよ。起こしませんけど」
「コロ、目覚ましの用意と寝起きのコーヒーの準備を寝ている間に頼む」
「……起こすのはいいけど、家じゃないんだからコーヒー何て用意できるわけないじゃな―—」
そこで意識が途切れたのか、後に聞こえてくる言葉は頭が理解してはくれず、何を言っているかわからなくなった。
「私がしゃべっている途中で眠ったみたいね……どれだけ眠たかったのかしら」
「昨日、ほとんど眠っていないと思いますよ。午前の授業中全部寝ていたので」
「夜更かしして、何をやっていたのかしらね」
「まあ、凍夜君ですから遊んでいたんじゃないでしょうか……一ヶ月に一度くらいこういう日がありますし」
「あら、よく覚えているわね。月に一回のことなんて興味がないと覚えてなんていられないおもうわ」
「さぁ、何ででしょうか。 興味があるわけではないですけど、三人でいることが多かったのか私たちのことはよく覚えていますよ」
「よく覚えているのなら、興味があるんじゃない?」
「そうなのかもしれないですね。 それでも、彼にはあまり興味はないですけど」
「そんなこと言っても頭は正直ね。記憶に残っているならよく見ている証拠よ」
「……そんなことありません」
「どうせ、さっきの話でここがなくなることでも考えたんでしょう。 もしそうなっても、また、一緒にどこかで会えばいいじゃない。」
「……」
「それとも、ここじゃないとダメなの?」
「……別に会わなくったって問題ありませんし……それにここがなくなることなんて考えていませんよ」
「あら、ここにきたときいつもとは違う感じがしたからてっきり何かあったのかと思っていたけれど……悲しんでいたわけじゃないのね」
「まだわからないことをいちいち考えたりはしていません。ただ……」
「ただ……どうしたの?」
「急に話が変わりますが、最近妙なものがみえるんです」
「唐突ね……何が見えるの?」
「……ロボットです」
「……それは誰にも言わないほうがいいわ……いっても私たちだけにしておいたほうがいいわよ」
「……私を痛い子みたいな目で見るのはやめてください」
「そういわれても仕方ないことを言ったわよ」
「やっぱりですか……すみません、忘れてください」
「そうそう、忘れられるようなことではないけれど……わかったわ」
「……ありがとうございます」
「そろそろ、凍夜を起こしてあげましょう。 もう少しでお昼休みも終わるわ」
「そうですね……ここでさぼられても困りますし」
「凍夜の所為で、ここが使えなくなっても嫌だしね」
屋上の風が心地よく春のポカポカとした気温の中では熟睡するに時間はかからなかった。
そのため、涼に耳元で大音量のスマホの目覚ましを食らい、午後の授業の十分くらいを耳のマヒで無駄に過ごす羽目になり、今度は子守唄なしに眠りに落ちてしまった。