シークレット・スクワッド・ジャム   作:MN

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メンバー招集 2

 ポン、と軽快な音が聞こえた。

 数秒後、男たちのかわいそうな悲鳴が爆発音とともに聞こえ、撃破ログが流れた。

 それを無感動に指をスワイプして流したレンは相棒のフカ次郎を一瞥した。それはもう満足したようで肌がツヤツヤな小柄なキャラは、自慢のグレネードランチャーを撫で、ずれたヘルメットを直しながらへへんと鼻を鳴らした。

 

「やはり私の右太左子は実に優秀じゃのぅ……。これは褒美を遣わさねば……うん? もっとばかすこ撃ちたいから弾をくれ? いいとも! あ、でも一発一発が高いんだよなぁ……」

 

「…………」

 

「金欠? そそそそんなわけないし⁉ ほら、ちゃあんと今のでお金もゲッチュできたし……は? なにあいつら、全然お金持ってないじゃん。これじゃあ買えないじゃないかっ!」

 

「…………」

 

「ああっ! 右太っ! まだ目を閉じるな! 閉じると死ぬぞ! 誰かっ! 誰か右太に弾を分けてくれぇ!!」

 

「さっきからそのわざとらしい演技やめてくれないかな⁉」

 

 やたらとレンをちらりと窺っては大袈裟に演技をするフカ次郎についにしびれを切らしたレンは叫んだ。

 うるうると目尻に涙を浮かべるその様を見て、頑張ったら女優になれるのではないかという思いを抱かせる。

 ……いや、今はそんなことにかまっている余裕はないと首を振った。

 フカ次郎が金欠なのは、ここ数日の乱用が原因だ。装備を充実させるためと言って滝のようにお金を浪費しているのを真横で見ていたレンだからこそ確信できる。

 

「もう。自業自得でしょ? しばらくはコツコツと貯金することにしたら……およ?」

 

 ピロリンと、ベルの通知音がレンの説教に横槍を入れた。どうせいつものピトフーイからの粘着まがいのラブコールだろうと無視を決めつけたが、いつまでたっても追撃の嵐が来ることはなかった。

 もしやこれはピトフーイからではない?

 メニューを開いてメッセージボックスを確認したレンは思わず目を剥いてしまった。

 次のSJへの招待状。

 それも無条件の決勝進出確定の。

 これは実に嬉しい。フカ次郎を説教していたというのについつい口元が緩んでしまう。もちろん出る。出るに決まっている。この時をどれほど待ちわびたことか。

 メンバーは……フカ次郎、エム、ピトフーイ。レンの頭の中でチームが完成し、早速メッセージを飛ばすことにする。

 しぶしぶとグレランをアイテムポーチにしまったフカ次郎が膨れっ面でレンを睨みつけていた。金の亡者に与える慈悲はなし、だ。

 

「フカ、近々またSJが開催されるそうなんだけど、一緒に参加しない?」

 

「いいけど……リアル大丈夫? 私はSJのために予定を開ける覚悟あるけど」

 

「なんだかんだいって毎回参加してたでしょ。だからもちろん参加するよ。それに予選しなくていいみたいだし」

 

「だにぃ⁉」

 

 目をキラキラと輝かせたフカ次郎が、鼻息が顔に吹きかかるほど近づいて問い詰めた。

 最近はスリルが足りなくてご自慢の武器をぶっぱできていなかったのだ、フカ次郎はともかく、レンも持て余していた。

 ピトフーイはきっと何が何でも参加するし、となればエムはセットでついてくる。

 カ・ン・ペ・キ・だ!

 向かうところ敵無し。まさに無敵。鎧袖一触だ。

 あらゆる敵なぞ恐るるに足らず。

 たった数分でピトフーイから連絡が入り、『り』だけの一文字を見たレンは舞い上がった。

 時間があまりないため、すぐにでも作戦会議がしたいところだ。

 そしてまた連絡が届き、二時間後に酒場で落ち合うことになった。

 

「二時間か……」

 

 少し、暇だ。

 

「フカ、どうする?」

 

「一旦落ちようかと思ったんだけど……ちょいと資金調達したいのよね」

 

「でもそんなすぐにお金貯まるわけないじゃん……て、あ」

 

 PKしてもあまり稼ぐことができない。当たりは確かにあるが、それは施行回数で殴っている話だ。フカ次郎はそんな地道な作業を好むタイプではない。

 ぶわぁーっとどデカく稼ぐ方法といえば、あれしかレンには思い浮かばなかった。

 

「ふっふっふー。わかるかね相棒! 私が今、何を考えているのかっ!」

 

「あれでしょ? でも辞めといたほうがいいよ。沼を見る羽目になるから。それにまだひとりしかクリアしたことないしさ」

 

「──君は、やる前から諦めるのか?」

 

 脳内でいつでも『この人とはなんの関係もありません』アピールをするシミュレーションを数パターンにわたってテストしたレンは、まるでこの世に光を見出した青年のような輝きを放つフカ次郎に、ホームにジャンプしとある場所へと連れられた。

 そこは酒場の一角。見せしめ。もしくは公開処刑のために存在していると噂されるほどの、とあるゲーム。

 奥行き二十メートル。幅四メートル。奥には木彫りのガンマンが煽り文句を口にしながら挑戦者を待っていた。

 今もなお淡い希望を抱いた者の懐の悉くを絞り上げる、恐怖のギャンブル。

 一度破られたという事実が、俺もいけるのではという期待を抱かせるのだ。そして無事に泣きべそをかく。おかげさまでプールされている額は、許容量寸前だった。

 相変わらずの人気っぷりだ。どうせ無理なのに、と諦観を決めつけてメシウマを待っている者と挑戦する者の二極化している状態だ。

 

「レンはやらないの?」

 

「やらないよ。別にお金に困ってないし。それに言っておくけど、どうなっても知らないから」

 

 もはやフカ次郎の金は雀の涙。たった数回チャレンジするだけで本当の本当にどうしようもなくなるレベルでやばいのだ。

 

「……おい、その先は地獄だぞ」

 

「ああ、わかってる。でも私は……私の信念を貫く」

 

 フカ次郎の順番がやってきた。

 手をかざし、入門ゲートが開かれる。トドウジニフカ次郎は走り出した。まずはバレットラインが三本、脳天、膝、胸への直撃コースだ。するとフカ次郎はなんと糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

 その絶妙なタイミングで弾が放たれ、ギリギリ頭上を掠めた。

 

「おお……!」

 

 ここまでは普通だ。

 周りの観客達の様子も特にこれといった変化はない。この程度は誰にでもできると、沼にハマった経験のあるものはわかっているのだ。

 三発、また三発と絶え間なく撃たれた弾を、AGIにポイントをあまり振り分けていないのに、あの手この手で躱すフカ次郎のやり方は正直汚い。しかし着実に距離を詰めて来ているのを見て、周りの空気は確実に変わった。

 ガンマンが次弾装填する。「Go to hell!」というと同時に撃つ弾の数は、五発。

 死を告げる赤いラインが、直接フカ次郎の身体だけでなく、さらに回避するであろう先へと一本だけ伸びていた。

 さすがに反応の外を突かれたフカ次郎は、バランスを崩し、尻もちをついたところに腕と腹に二発被弾し、そこで強制終了させられた。

 わざとらしく銃口の煙を吹き、ドヤ顔で決めてくることろがまた頭にくる。

 

「あちゃあ……自信はあったんだけどなぁ……」

 

「でもすごいよフカ! よく避けれたね!」

 

「それはもちろん。何も策を持たずに突っ込むのは愚の骨頂だからな!」

 

 尻をさすりながら入門ゲートに戻っていったフカ次郎は、もう一度挑戦しようと周りを一旦見回した。

 フカ次郎以外に誰か挑戦者がいないかを確認するためだ。今すぐにでもあのガンマンを煽り返してやりたいが、それ以前に順番抜かしをするのは良くない。

 案の定、興味深そうに近くで眺めていた美青年がいた。ビギナー全開の薄い布の服装だ。銀色の胸当てだけが唯一自分で揃えた防具のようだ。

 肩まで短く切りそろえられたブロンドの髪。サファイアにも負けない蒼を放つ瞳にしばらく珍しく見惚れていたフカ次郎は我を取り戻した。

 さながら、絵本から出てきたような、夢の王子様。

 

「お兄さん、次やる?」

 

「私ですか? 少し……興味があります」

 

 低い声かと思えば真逆で、まだ声変わりすらしていないのではと疑うほど声だった。

 もしかするとリアルはまだ中学生くらいだろうか。背伸びをしてGGOにログインして、運良くいいアバターをゲットできた、みたいな。

 

「やらないんならまた私がやるけど」

 

「そうですね……」

 

 ガンマンが向こうでまだかまだかとカタカタと口を開閉させて次のカモを待っている。

 

「──いいんじゃないか、アリス。俺も最初はそんな理由だったし」

 

 悩んでいた彼の肩を叩いたのは、ひとりの女だった。

 その姿を目に焼き付けて数秒後、フカ次郎が口をあんぐりと開けてフリーズしてしまった。

 長い黒髪。真っ黒な防具に見を包み、腰にフォトン・ソードの柄を差した女、もとい男。

 GGOでこの男を知らぬ者などいないと言わしめるほどの有名人だ。

 ……その名も。

 

「キリト、さん⁉」

 

「ああそうだ。アリスが迷惑かけてしまったのならすまない」

 

「そんなことないです! 嘘、やべ、私は今、歴史的瞬間を経験してるのか⁉」

 

「いや、そこまで大袈裟にとらえなくていいんじゃないか……?」

 

 興奮の絶頂に達したフカ次郎が一歩寄っては離れを繰り返し、キリトの周りを一周した。

 つい無意識にレンもキリトに近寄り、女顔負けの御尊顔を拝む。

 

「そういう君たちだって知ってるぞ……SJでずいぶんと名の知れたプレイヤーだよな? レンと……フカ次郎だったか? 俺の方こそ、GGOのトッププレイヤーに会えて嬉しいよ」

 

「あわわわ」

 

 すごい人に出会った衝撃でそれ以上何もできず、結局そのまま終わってしまいそうな状態のレンをフカ次郎を満たすアリスが口を挟んだ。

 

「キリト、この子たちは興奮しすぎて会話すら難しいのではないですか?」

 

「そのようだな。ふたりとも、そんなに驚く必要はないぞ。気軽に接してほしい。敬語なんて抜きにしてさ」

 

「じゃあ……えっと、そのアリスさんとはどういう関係で?」

 

 レンが尋ねる。

 時々GGOに顔を出すキリトは、その目撃情報が錯綜するのだ。その要因は、間違いなくその可愛らしい女性のような容姿にある。そしていつもならシノンかもしくは栗色の髪の女の人を連れているはずなのだが、この男は初めて見る。

 

「アリスとは最近友達になった人だ。ネトゲにはあまり詳しくないから、そこんところもよろしく頼む」

 

「失礼ですね、キリト。私だってちゃんと勉強していますよ」

 

 不服そうなアリスがキリトの脇腹を膝でつつく。その様を見ながら、レンの脳裏にとあることがふとちらついた。

 アリス……アリス。聞いたことがある。少し前にとてつもないニュースになっていたことがある。その中心がアリスという名の、レンはAIに詳しくない為よくわからないが、トップダウン型人工知能が誕生したと報道していた。

 機械の身体だが、考えること、思うことは人間と何一つ変わらないAI。しゃくしゃくとアイスを食べながらその記者会見を見ていたレンは、「凛々しい声だなぁ」とまったく見当違いな感想を朽ちにしていた。

 今一度アリスを見る。髪が短いのはランダムで与えられるアバターの仕様だ。しかしそれ以外は記憶の中のアリス像とだいたい一致するではないか。

 

 ──まさか、あの、アリス!!

 

「……ああ、あああああ!!」

 

「落ち着くんだレン! まだ発狂する時間じゃない!!」

 

「違うよフカ⁉ そうじゃなくて、ほら、アリスさんってもしかして、AIのあれのあれじゃないの⁉」

 

 ついに知能レベルまで低下したレンは、拙い言葉で必死に確信にすら近い考えを伝えようとするがうまくいかない。

 リアルでは大学生なのに、残念な語彙力である。

 

「ええ、私はアンダーワールドから来ました。GGOは正直苦手ですが……色々あって、SJに参加することにしました」

 

「ほぇー。で、神様、どこまでが私の夢だい?」

 

 完全に許容量を超えたフカ次郎が空を見上げて支離滅裂な発言をし始める。

 

「なんか、すごいテンションが高いんだな、フカ次郎は。アリスは結局どうするんだ? やってみるか?」

 

「……一度だけ、やってみます。フカ次郎、次譲っていただけますか?」

 

「やべぇよ……死期がすぐそこまで来てるのか?」

 

「ご、ごめんなさいアリスさん。フカ次郎は放っておいていいので挑戦してください!」

 

 上の空を肩を揺さぶって生きていることを確認したレンはアリスに順番を譲った。

 お互い苦労しますね、とレンに声をかけたアリスは入門ゲートに立った。そのすぐ脇にキリトが立ってアドバイスする。

 

「さっきも言ったが、これは弾道予測線……赤い線を避けるゲームじゃない。予測線を予測するゲームだ。初めの数メートルは見てからでもいけるけど、最後になると、見てからじゃ間に合わないと思ったほうがいい」

 

「わかりました」

 

 ガンマンの煽り文句が、アリスが手をかざした瞬間より一層激しくなる。饒舌な英語で言われたそれを理解したアリスは、腰を低く落として、ただ一言だけ。

 

「言ってなさい」

 

 と口にして、それと同時にカウントダウンが終わってゲートが開いた。

 一直線にガンマンに接近すると思いきや、不規則な動きで照準を合わせにくくする作戦に出た。しかしそんな作戦はいくらでも見てきた。眼球が動き、正確にアリスの動きを分析し、撃ち込みべき場所に赤い線が伸びる。

 キリトのアドバイスを胸に。『こうくるであろう』線を予測していたアリスは第一波を何とかよけて見せた。

 不規則な動きによるガンマンの判断遅延がアリスをさらに前に進ませる。

 

「Die!」

 

 避けて、避ける。

 フカ次郎とは全く違った方法。どの動きにも無駄がなく、かつ華麗だ。あの回避はステータスに頼ったものではない。きっと彼……彼女自身の運動能力が圧倒的なのだ。リアルでは機械の身体という制約を受けているが、仮想世界ではそんなもの存在しない。だから存分に発揮できるのだ。

 だが予測線を予測しようと意識しすぎた結果、しだいに積極性が削がれていき、やがて……。

 

「あうっ……」

 

 不意を突かれた弾丸に腕を抜かれて、その場で終了となってしまった。残り数メートル、フカ次郎よりも接近できていた。

 強気に出たのに、惨敗してしまったアリスは相当落ち込んでいるようだ。しかし自分の両頬をパチンと叩いたアリスは再び手をかざして挑戦しようとした。

 

「あの男はとても頭にきました。必ずぎゃふんと言わせてみせます」

 

「待て待て! 一旦落ち着こうじゃないか⁉」

 

「何ですか! 邪魔しないでくださいキリト! お前はは負けたままで悔しくないのですか⁉」

 

 まるでキリトが負けたような口ぶりに変化している。

 そんな、沼にハマりかけたアリスの足元を救ったのはキリトだった。

 アリスの腕を引き、頭に軽くチョップをして説教を始めた。

 まだ興奮が収まらないアリスは「騎士としてここで敗走は一生の恥! 止めないでください!」とキリトに猛抗議するが、もう一発チョップを喰らい、ようやく押し黙った。

 ネトゲに疎いとはわかったが、まさかここまでとは思っていなかったレンは、保護者キリトに一生懸命『沼』について聞かせられているアリスがなんだか可愛らしく思った。

 アリスがひとりだけでネトゲを楽しめる日が来るのはまだしばらく先かもしれない。それほどアリスはピュアすぎるのだ。

 

「あのな、確かに金は機関から降りてるものの、使いすぎは良くないのはアリスにもわかるだろ? 金銭感覚というのを学んだほうがいい。その辺は……エギルあたりが一番詳しいから今度教えてもらうこと。わかったか?」

 

「はい……わかり、ました」

 

 しゅん、と項垂れたアリスを連れてキリトが戻ってくる。

 ようやく我に戻ったフカ次郎を介護しながら椅子でふたりを待っていたレンにキリトがさも当然のように話を切り出した。

 

「……で、レンはやらないのか?」

 

「……へ?」

 

 ……思わぬ勧めに、レンは呆けた声を出してしまった。




もうしばらく……もうしばらくだけこんな感じです……!

レンチーム:【フカ次郎】【ピトフーイ】【エム】
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