閑話についてです。
こちらが用意している展開が設定と矛盾しないか等々の確認が時間かかるので、楽しみにして下さる方々を待たせないためにも閑話は入れていきます。
それでも設定矛盾などありましたらご報告ください。
本編だけ読みたいという方には申し訳ないです。
一度投稿したものでもちょこちょこ文章とか変えてます。
追記【5/21 16:20】
タイトルを書き忘れるというポカをやってしまいましたのでタイトルつけました。
──
凛はそう告げた。迷宮に幽閉されているであろう、とも。
ならば、彼女が保健室にも生徒会室にもいなかったのには説明がつく。
「おそらく、いえ、十中八九BBの仕業ね。」
BBが…。
一番考えたくない予想だった。
今までの彼女なら、これに考えられないという言葉も入っただろう。
彼女はサクラを特別視していたからだ。
表面上では嫌悪していたが、内面ではそうではなかったと思う。
メルトリリスの言葉を借りるなら、BBは
なので、以前の彼女ならば、そのようなことをするはずがないのだ。
しかし、BBがそのような行為に及んだとなると、やはりBBは以前とは違っているようだ。
あの悪性情報が原因だろう。
BBは中枢で、悪性情報に呑まれていた。
悪性情報とは、人間のあらゆる悪性のことだ。
そんなものに呑まれて正気でいられるはずがない。
益々不安に駆られる。
BBが何を目的としてサクラを手元に置いているかはわからないが、それが余計に始末が悪い。
今のBBは、目的を果たすためならサクラを殺すことさえ厭わないだろう。
──夢で視た、あのBBを思い出す。
見るものを吸い込むような赤い瞳。
生者ではなく死者を思わせる青白い肌。
人間以上に人間であったBBはもういなくなった。
今のBBは、敵対するモノならば何の感慨もなく処理するだろう。
そんな事実が重くのしかかる。
救わなくてはならない人を救えなかった悔恨。
しかし、それを受け止めて進まなければならない。
立ち止まるのは岸波白野の性分ではない。
ただひたすらに、進むことが自分のできる唯一のことだ。
そういえば凛は、サクラが迷宮のどこかに幽閉されていると言った。
つまり、サクラの生存が判明しているということだ。
何故わかったのだろうか。
「あぁ、それはサクラがこの校舎に貼っているプロテクトね。」
プロテクト…。
以前レオはワクテカ画面でこの月の裏側を自分に解説してくれた。
それによると、月の裏側は悪性情報の海であるという。
であるならば、そこに存在が確立されているこの旧校舎は、悪性情報という海を漂う潜水艦のようなものだ。
この旧校舎を潜水艦たらしめているのが、サクラのプロテクトであり、旧校舎の存在を確立させているモノ。
ということか。
「要はそういうこと。
これがないとこの校舎は悪性情報に捕らわれてしまうし、迷宮からのエネミーの侵入を防げなくなるの。
そして、このプロテクトはサクラの存在で成り立っているわ。
だから、プロテクトが働いている今、逆説的にサクラの存在は立証されるってワケ。」
…なるほど。自身の存在をプロテクトと同期させたのか。
それならば、自分という存在が消えない限り、つまり死なない限り旧校舎をプロテクトで保護できる。
メルトリリスはレリーフ内で、迷宮にいる生命体はサクラに手が出せないと言っていた。
サクラがそれを知っていたかは不明だが、それなら自身の存在と同期したプロテクトというのは実に強固な防壁となる。
「このプロテクト自体は、サクラのお手製なんだけどね。
なんでもこの旧校舎に残っていた霊子ソースを使って作ったみたい。
この校舎も、いつかの聖杯戦争で使われたものだったからそんなプロテクトを貼れるだけのリソースが残っていたのかもね。」
では、サクラは今は無事ということか。
「えぇ、そういうこと。それだけは保障できる。
…まぁその保障がいつまで続くかはわからないけどね。」
と、苦笑しながら凛は語る。
「だから今、生徒会のリソースを使って簡易的なプロテクトを作ってるんだけど…。
やっぱりサクラが作ったものには劣るわ。」
簡易的なプロテクト、それは万が一を想定したものだろう。
想像したくはないが、もしサクラが消滅してしまったらどうするか、という話だ。
旧校舎を覆うプロテクトは消え、悪性情報にこの校舎ごと呑まれてしまう。
そうなると自分たちは表側へ帰還することができなくなる。
──常に一手先を読み、迅速に事を為す。やはり彼女たちは優秀だ。
「それで、その簡易的なプロテクトなんだけど…。
どう、ラ二?まだ完成しない?」
「いえ、まだですね。
一部ならまだしも、この校舎を覆うほどのプロテクトを作るには時間がかかります。」
「やっぱりそうかぁ…。
となると、サクラのプロテクトが機能しているうちに手を打つべきね。」
「はい。私もそれに異論はありません。
すぐに取り掛かるべき案件でしょう。」
手を打つ…となると、やはり──
「えぇ。サクラの救出ね。
旧校舎の安泰のためにも最初にすべきことよ。」
確かにそれはすぐ行うべきことだ。
しかし、サクラの居場所はわかるのだろうか。
「それは現時点では不明です。
ですが、この月の裏側で生命体が活動できるのはこの校舎とサクラ迷宮、そして中枢のみです。
なので、ミスター白野とアーチャーには再び迷宮を探索してもらい、そこで得られた情報でサクラの居場所を特定したいと思います。」
な、なるほど。迷宮探索か。
一度迷宮は全て探索し終えているとはいえ、少し緊張する。
「今のあなたとアーチャーのレベルなら心配はいらないわ。
有象無象のエネミーには負けないでしょう。」
「ですが、探索には細心の注意を。
中枢での一件以来、迷宮に変化が生じています。
油断せず、冷静沈着に対応することを推奨します。」
迷宮に変化…。
当然と言えば当然だ。
迷宮の主であったBBが変質した今、迷宮も変化しない方がおかしい。
「しかし、ある程度の絞り込みはできているのかね。
1階から全ての階を探索するのは時間の無駄だ。
目星を付けてから探索に挑んだ方が良い。」
実体化したアーチャーがそう忠告する。
確かに、アーチャーの言うことには一理ある。
1階から20階全てを探索すると、時間もかかる。
それに、危険地帯には長居したくないのが本音だ。変化した迷宮であるなら、尚更のこと。
「その点は心配いらないわ。
ある程度の目安は付けてる。」
「はい。二人にはまず、パッションリップがいた階層に行ってもらいます。
つまり7階ですね。
理由としては、そうですね。
迷宮の変化が他の階層に比べて著しいからです。」
「そ。BBがどんな形でサクラを手元に置いてるかはわからないけど、何かしらの独房なりを作ったなら迷宮のどこかが大きく変化する。
なら、その階層を調べれば何かわかるかもしれないってワケ。
運が良ければサクラも見つけられるかもしれない。」
「なるほど、既に答えを出していたか。
なら、私が君たちに言うことももうない。
おとなしく、迷宮探索に勤しむこととしよう。
マスターもそれでいいか?」
無論、構わない。
一刻も早くサクラを救出できるのなら願ったり叶ったりだ。
「覚悟は…いや、そんなこと訊かなくていいか。顔に出てるしね。
実行は明日にしましょう。今日はこれで終わり。
あなたも病み上がりだし、無理は良くない。
明日はここでブリーフィングをするから、寝坊しないように。
はい、解散!」
彼女たちに就寝の挨拶をし、そのままマイルームへ向かう。
マイルームは校舎2階の右奥だ。
マイルームとは文字通り、自分とアーチャーだけの部屋だ。
外からは観測できず、干渉もほぼできない。
マイルームの前に立ち、扉を開ける。
いつもと何一つ変わっていないマイルーム。
そんなマイルームにあるベッドに腰を掛ける。
そのとき、ふと睡魔に見舞われた。どうやらまだ疲れが抜けきってなかったらしい。
なので、そのままベッドに横たわり、瞼を閉じる。
──迷宮探索の再開。
それを思うと、不安と緊張に駆られる。
しかし、それでも前に進まなければならない。
たとえ、どのような悲劇が起ころうとも。