二巻発売から3年ぐらい経ってません…?
生徒会室からの呼び出し音で目が覚める。
マイルームは外からの観測を一切排した完全な私室だが、生徒会室からの呼び出しはこのように普通にかかる。
「あぁ、おはようマスター。
どうだ?一晩で気力は十分養えたか?」
そう問いかけるアーチャー。
彼は相変わらず早起きだ。
自分もおはよう、とアーチャーに返す。
気力については心配ない。一晩寝て回復した。
それに、今日から迷宮探索が再開されるのだから気合は入れていかないと。
ベッドから立ち上がり、いつも通り上着に袖を通し、迷宮探索の準備をする。
マイルームを出て生徒会室に向かう。
今日は迷宮に向かう前にブリーフィングを行うと凛が言っていた。
大方、今日の予定を確認するのだろう。
生徒会室に入る。
入ってきた自分に、凛とラ二が思い思いの言葉をかける。
「おはよう。いい顔をしてるわね。」
「おはようございます。よく眠れたようですね。」
彼女たちに挨拶を返しつつ席に座る。
自分の定位置は、扉から近い場所のイスだ。
いわゆる下座の位置にある。
…決して自分が下っ端というわけではない。
「まずは、今日やることの確認をしましょう。
今日はサクラ迷宮7階から9階の調査ね。
今のあなたたちなら問題はないと思うけど、用心してね。」
あぁ、わかってる。
いくら二回目の迷宮探索とはいえ、迷宮も変わっているのなら気は抜けない。
いつも以上に用心しなければ。
そう思っているとラニが口を開いた。
「それともう一つ懸念事項があるのですが。
9階に留まっている生命体がいます。
観測する限りではこちらに害を為すかは不明ですが、どういう存在かも未確定です。
こちらでモニターはしておきますが、注意してください。」
9階に何者かがいる…?
それは、攻性プログラムといったエネミーではなくて?
「いえ、違います。
そういった攻性プログラムは基本、一定周期で動きます。
ですが、この生命体の行動は不定期なのです。」
なるほど…。
ということは、それがサクラである可能性も?
「その可能性は否定できません。
サクラの示す生命反応と近しいものが観測されているからです。」
なら、この探索でサクラの救出を果たせるかもしれないのか。
それなら良いが…。
「よし、これで今日やることはわかったわね。
質問がないようならブリーフィングは終わるけど、なにかある?」
これといって質問はない。
サクラを助けられるかもしれないとわかったので、一刻も早く迷宮に向かいたいぐらいだ。
「じゃあ、ブリーフィングは終わりっと。
迷宮探索、気をつけるのよ。」
「どうか、お気をつけて。」
彼女たちの応援を背に、生徒会室を出る。
アイテムや礼装等の準備は既にできているので購買部を素通りしそのまま校舎を出て、校庭に向かう。
ふと、空を見上げる。
以前見た赤紫色の空。それが今日はより濃く見える。
不吉な予感さえさせる色だ。
校庭にある桜の樹。
それはサクラ迷宮への入り口である。
迷宮に向かうときには樹木が上昇し、根元に埋め込まれた昇降機が姿を現す。
それに乗り、降りることで迷宮へと移動できる。
サクラ迷宮7階に到達したようだ。
…空気が重い。
少なくとも、歓迎する意思はなさそうだ。
侵入者を排斥するような雰囲気を醸し出している。
「これは、ひどい空気だな…。
以前の迷宮とは比べ物にならん。」
そうアーチャーが告白するほどこの空気は異質だ。
一体迷宮自体に何があったのか…。
この迷宮の空気に圧倒され、逡巡していると生徒会室から通信が入る。
「気をつけて白野!9階から一気に駆け上がってきてる奴がいる!」
な…?!
いきなりのことに頭が回らない。
そもそも、自分がこの迷宮に足を踏み入れてから10分と経ってないはずだ。
そんな短時間で、こちらの気配を察知し、接近してくる何者かがいる…?!
しかし、9階…。
ということは、ブリーフィングで報告があった、サクラに近しい何かということか…?!
「はい、そう断言します。
しかし、この生命体。行動がとても乱雑です。
目に入るもの全てを壊しながら進んでいるような印象を受けます。
──と、そちらに到着するまであと2分。」
2分?!
…いやしかし、その何者かが危険とは限らない。もしや味方…という可能性は無きにしも非ずだ。
ならばこちらで待ち構えて、敵と判断すれば交戦。
味方でありそうなら話し合おう。
生徒会室にその旨を伝える。
自分の案に好感を示した。
いつでも強制退出ができるよう準備をして待っているという。
自分は、アーチャーと共に戦闘態勢を整えながら待機する。
張り詰めた空気が自分とアーチャーの間に漂う。
時間にしておおよそ2分後。
張り詰めた空気を打ち砕くかのようにソレは現れた。
──黄金色の
それを支える華奢な体。
赤紫色の長い髪。
ソレはこちらを認識すると、一気に距離を詰めてきた。
その正体を今、確信した。
彼女なら、サクラに近い生命反応を発するのも頷ける。
愛憎の化身。BBによって生み出されたBBの
間違いない。彼女は…
「気を引き締めろ、マスター!
彼女は前とは違っている!話し合いなど通じんぞ!」
彼女は、パッションリップ。
以前このサクラ迷宮7階で出会い、自分が打倒していった者だ。
そんな彼女は
「────ァ、アァ。
アアアアアアアアアアアア!!」
声にならない声を上げこちらに向かう。
その速度は、その体からはおおよそ考えつかない。
その絶叫は迷宮中に木霊した。
振り下ろされる黄金の左爪。
それを受け止める番の双剣。
僅か2秒にも満たないその攻防の間、自分はその圧力に屈し、何もできずにいた。
何故彼女が?どうして?
今思案しても無意味な疑問ばかりが頭に浮かぶ。
情けないことに、この状況を打開するような思考は一つもない。
「ぐっ…気を立て直せ!
ここで萎えるのはまだ早いぞ!」
アーチャーの叱咤で目が覚める。
慌てて戦況を確認する。
振り下ろされた爪を双剣で受け止めるアーチャー。
しかし、それも長くは続かないだろう。
アーチャーが圧されている。
パッションリップは規格外の重量をもつ。
そのすべてを一振りの攻撃に込めたのなら、それはどのようなサーヴァントであっても手に余るものとなる。
礼装に魔力を通し、アーチャーに筋力強化のコードキャストを送る。
それに効果があるかはわからないが、それでもないよりはマシなはずだ。
「くそ、中々に辛いな…!
このままでは圧し負けるか…!」
アーチャーは戦法を切り替えた。
圧し止めるのではなく、いなす。
剛で勝る相手に剛で挑むなど勝てるはずもなし。
であれば、柔をもって剛を制す。
双剣で流すように左爪をそらす。
そらすと同時にパッションリップの懐に入る。
重心をアーチャーに傾け過ぎていた代償に、パッションリップは体勢を崩す。
しかし、倒れ際にパッションリップはもう片方の爪を振る。
さしものアーチャーもこれは予想していなかったのか、咄嗟に双剣で防衛の構えを作る。
突貫の守りで防げるはずもなく、アーチャーは右方に吹き飛ばされる。
この場にいるのは自分と体勢を崩したパッションリップのみ。
アーチャーは体勢こそ立て直したものの、ダメージが大きいのか、こちらにすぐ駆けつける余裕はない。
死の存在が目前にある今、アーチャーの元に駆けねば。
さもなければその爪の一振りで自分はそれこそあっさりと死ぬだろう。
アーチャーの元に走る。
パッションリップに阻まれることを危惧したが、それはなかった。
大丈夫か。そう問うと低く呻りながらアーチャーは言葉を紡ぐ。
「全く…なんという馬鹿力だ。
たった一合打ち合うだけで私の双剣を砕くとは…。」
この状況下では防衛戦すら不利であろう。
早々に撤退したいが…。」
それはおそらくできないだろう、とアーチャーは続けた。
アルターエゴが同じ階層にいると、強制退出を行いにくくなる。
なので、ここで逃走の機会を窺いながら防戦をするしかないのだが…。
「まぁなんとかマスターだけでも返すようにはするさ。
安心したまえ。」
不安に駆られるこちらを気遣ってくれた。
しかし、それではダメだ。
アーチャーだけ置いていくことはできない。
なんとか、アーチャーとともに離脱せねば──!
あれこれと思案しているうちに生徒会室から連絡が入る。
思えば、パッションリップがこちらを襲撃して以来、連絡が何もなかった。
「そっちは大丈夫?!モニターできないけど、まだ生きてるわよね?!」
そう心配する凛。
大丈夫だ。かろうじて生きている。
「良かった…!回線が切れたからどうなることかと思ったわ…。」
回線が切れていたのか。
ならば連絡が来ないのも道理だ。
「ってそれどころじゃなかった!
そちらも大変だろうけど、こっちもまずいわ!」
いつも以上に焦る凛に動揺する。
旧校舎側では一体何があるというのか…!
「サクラのプロテクトがどんどん弱まってる!
これじゃあもう3分もしないうちに消える!」
満を持して(?)パッションリップ、登場です。
なんというか…。
CCCコラボでの初期状態だと思ってくだされば幸いです。
センチネルになってるときの。