「そんな、私なんかで、いいんですか…?」
目に涙を溜めて、こちらを見上げる
その声は、自分たち ──サクラ、BB、アーチャー、岸波白野── 以外には
確かに、彼女は自分たちを月の裏側に閉じ込めた元凶であり、誅すべき敵だ。
それでも、自分は彼女を助けたいと思った。
彼女を敵として見れなかった。
暴走したAIにも見えなかった。
ただ一人の、自分と同じ人間に思えたのだ。
そして、自分を守るために、今まで戦ってきたもう一人の”サクラ”を放っておけるわけがない。
自分と過ごしたという69日の思い出を抱えて、たった一人孤独に走ってきた彼女を捨て置けるわけがない。
方法がどうあれ、自分を一途に思ってくれた彼女を選ぶことに、後悔なんてあるわけがない。
その思いを、彼女に伝えた。
「…。私を選んだら黒い方が消えて、綺麗なサクラだけが残る、なんてオチはありませんよ?」
そんなオチ、なくてよい。いやむしろあってはいけない。
何がどうあれ、自分はBBを選んだのだから。
「嫉妬深くて、ワガママで、
世話好きで情が深くて、
ずるくて、
うんうん。…うん?
「自分で言いますけどめんどくさいですから!
色んなものがこじれて大変です!もうぎゅうぎゅうに束縛します!
わかっていても、センパイが大好きです!
こんな私でも、あなたは好きでいてくれるんですか?!
叫ぶようにBBは自分の思いを全て吐露する。
そんなことわかりきってる。それがいいんだ。
それに、BBの性格なんてもうイヤというほどわかってる。
それでも自分はBBが好きだ。
だから、ムーンセルから離れてほしい。
その行為はBBを壊すだけだ。自分が好きになった少女を目の前で失いたくない。
そう告げようとBBの元に行こうとした。
─行こうとしたその時、何かのプログラムが作動した。
何が起こったのか、皆目見当がつかない。
唯一わかったことは、
一抹の不安を感じつつ、アーチャーに振り向こうとしても、動かない。
こうして動くのは体内と思考と口だけ。
それ以外のあらゆる動きは阻害されている。
それはアーチャーも同じであった。
「これは…まさか…!」
まるで、自分が抱いていた予感が的中したかのように、驚愕と焦りの声を上げるアーチャー。
未だ事態を把握しきれておらず、目を丸くしたまま静止しているBB。
自分の横にいるサクラも同じ心境だろう。
ただ立ち尽くしている。
誰一人として事態を把握しきれずにいる中、まるでそれを嘲笑うかのように天女の微笑が聞こえる。
──それは、本来いないはずの人間から漏れ出た笑み。
メルトリリスに体を分かたれ、死亡したはずの人間。
振る舞いは聖女そのものでありながら、どこか淫蕩を感じさせる立ち姿。
見間違えるはずもない。見間違えるべくもない。
あぁ、間違いない。あの天女は、彼女は、間違いなく────。