お付き合いください。
「ふぅ…」
朝8時30分。
俺はキッチンの手前にある椅子に座り、コーヒーの芳醇な香りを楽しんでいた。
酸味とコクのバランスが素晴らしい。
やはり目覚めの一杯はこれに限る。
「あんた…そろそろ怒るわよ…」
テーブルを挟んで向かいの椅子に座っているアンジェリカがプルプル震えていた。
なにがそろそろなのか、来たときから現在にかけて怒ってなかったときなんてなかったように思えるのだが。
ユーリは、はぁ…とこれみよがしなため息をつく。
「分かってねぇなぁ…アンデュークのお嬢様たるものが情けない」
「…」
この無言は怒りで声がでない、という意味なのだが、ユーリは気づかない。
「人生短いんだ、その時々を大事にしてかなきゃならねぇ。例えばこのコーヒーの一杯にしたってそうだ。この一杯が今日という一日を素晴らしいものにする。俺の師匠もいつかいっていた…優雅たれ、と」
そこが限界だった。キレているときにその原因からご高説賜っていられるほどアンジェリカは大人ではない。
「あんたに師匠なんていないでしょうがぁ!!!」
「だ ば だっ!?」
ユーリの脳天にアンジェリカの踵が刺さる。
アンジェリカはまた下着を見せてしまったことに気付かない。
「もういい!先行くからね!」
アンジェリカは来たときと同じように荒っぽく扉を閉めていった。
しばらくしてむくりとユーリが起き上がる。
「こうなるって分かってんだ、アンリのやつ来なきゃいいのにさ」
ぼーっと、ユーリはアンジェリカのことを考える。
アンジェリカ・アンデューク。
16歳。王都セントラル魔法学校高等部二年。
緋色のショートヘアとボッキュッポンを体現したボディラインが印象的。
抜群の身体能力と魔法のセンスで前年度の魔法競技大会実戦の部において準優勝という好成績を収めている。
得意魔法は赤もとい火系統。
通り名は「緋色のヴァルキュリア」
実家であるアンデューク家は王都でも有数の貴族であり、正真正銘のお嬢様である。
そんなファンタジーな子が
「…やっぱ黒レースが合うと思うんだよな」
こんなやつの幼馴染であることは、あまり知られていない。
そんなことを思いながらユーリもユーリで支度を始める。
魔法学校の制服が白を基調としたコートであるのに対し、今ユーリが羽織ったのは黒っぽい、どこか不気味さすら感じさせるコートだ。
ユーリ・ユークスはアンジェリカの幼馴染、16歳。
普通の魔法士なら魔法学校の高等部二年にいる歳だ。
しかし、ユーリは特別な事情もあって学校には行っていない。
というより学校に籍がない。
「これでよしっと…」
手袋をして、長い前髪をオールバックで固める。
それなりに整った顔立ちをしたユーリであるが、その鋭い目つきとその経歴による威圧感から弱冠16歳とは思えないような危険なオーラを発している。
ユーリ的にはバッチリ「キメて」いる。
こんなにもユーリがキメているかというと、それなりに理由があった。
「そろそろかな」
トントンッと扉を叩く音がする。
ユーリの家は一軒家の一人暮らしであり、交友関係も非常に狭いため訪ねてくる相手はおおよそ二人に絞られる。
一人目はアンジェリカ。招かれざる客である。
しかし二人目は違う。
ユーリは笑いすぎず笑わなすぎず、微笑というのを意識して、できるだけ爽やかに挨拶。
「おはようございます、アリスさん」
黒い長髪、黒い瞳、おしとやかで清純な雰囲気。
「おはようございます、先輩」
花のように微笑む彼女の名はアリス・レーヴ。
ユーリの好みどストライクの後輩であった。
アリスちゃん登場です。
好みどストライクアリスちゃん。
この世界は西洋っぽい感じを想定してるので和風の名前を使えないことにモヤモヤしながら名付けました。
ちゃんと理由はあるんですよ?
…適当じゃないです。ホントです。
次の話はユーリの職場(?)とか魔法とかに関してです。
お付き合いください。