これからもちょっと空くかもしれません。
「これより、対転生者対策会議を始める」
最初の会議はステアの古い知人である占い屋から得た情報の共有が主な目的だ。
「ばぁさんによると、魔力量は比較的小規模、典型的な転生者らしい」
「…魔法適正はやはりわからないのでしょうか」
聞いたのはアリスだ。
魔法適正とはこの世界の五色魔法のうち、どの色の系統魔法に適性があるか、ということである。
五色魔法のうち、基本は五色のうちの四色だ。
赤は炎、青は水、緑は森、黄は雷。
たいていの魔術士はこの四色に分類される。
「今回もわからないそうだ」
「そうですか…」
魔法にも相性というものがある。
実力が同じ程度だったとき、相性の優劣が勝敗を決することは少なくないのだ。
つまり最初から相手の系統を知っていればある程度有利にことを進められるということになる。
そんな常識を己の実力だけで乗り越えてきた金髪のフランツが口を挟む。
「アリス嬢、魔法系統なんぞわからなくとも問題ないではないか」
フフン、とフランツが笑う。
このフランツという男は「黄金雷霆」と呼ばれる黄系統の魔術士である。
普段の自信過剰とも取れる言動から才能だけで苦労もせずに生きてきたと思われがちであるが、実のところそうではない。
血がにじむような努力と研究、そして勝利という栄光の数を圧倒的に上回る敗北の屈辱。
そうして地道に強くなってきたからこそ、彼は知っているのだ。
『フランツ・フラネットは強い』と。
「どのような敵であろうと、私の剣で地獄に送り返して見せましょう」
相性が良かろうが悪かろうが、最終的に立っているものは意志の強いものなのですから、と締める。
確かにそうである。
魔力量やその出力に精神的な面が関係しないとわけではなく、むしろ精神状態によって術者が使う魔法に大きな影響が出る場合もある。
そうでなくとも、戦闘において確固たる意思を持った者とそうでない者との差は明らかだ。
一時会議が止まる。
スッ…とそれまで聞き役に徹していたクオリアスが手を挙げる。
「なんだクォーク」
ステアが聞くと、
「いや、大したことじゃないんだがね。系統魔法の相性について…まあフランツの言い分も分からないでもない。精神論と言われるかもしれないが、意志の強さが相性を凌駕することは少なくない」
フランツは「そうだろうそうだろう」と満足げに頷いている。
クオリアスはしかしだ、と続ける。
「しかし…その意思の強弱をも凌駕する物が転生者であり、それに打ち勝つための一つの足がかりが相性であることもまた事実だ。そうだろう?」
「…まあ、そうだな」
フランツが納得する。
クオリアス・クォークは最年長の32歳。
一般的に見れば低いと感じられるが、その兵歴は実に27年にも及ぶ。
幼い頃からの魔法の才能。
一人での戦闘得意とするそのスタイル。
ユーリが配属される前から転生者を殺してきた実力者だ。
「さァ、長引いてもいかんだろう。ステア殿、作戦を」
「あぁ」
クオリアスが進行を促す。
会議において進行や作戦立案を担当するのは、もっぱらステアとクオリアスだ。
「初回はこれまで通り、フランツが切り込み隊長だ」
「了解した」
「次にアリスと…今はいないがアンジェはフランツに合わせて攻撃してくれ」
「承りました」
「クォークは後方で援護」
「お任せを」
「ユーリは…」
毎回、ステアはユーリに指示を出すときに少し考える。
どう言ったら良いのか、分からないのだ。
ユーリの特殊魔法は転生者掃討において要となるものだ。
しかしそれでも、命じられない。
「ユーリは、そうだな。お前に任せる。お前が一番やりやすいようにやってくれていい」
結局、責任逃れのようなことを言ってしまうのだ。
お前に任せる、なんて。
ステアは机の下で手の平に爪を食い込ませる。
「分かりました。好きにやらせてもらいます」
転生者が顕現するとき、必ず特殊な魔力が検知される。
その時点で11兵団の任務が始まるのだ。
「ユーリ、『アンカー』を」
「わっかりましたぁ…っと」
ユーリは首にかけた小さなクリスタルを握ると、呪文の詠唱を開始した。たいていの魔法はその術名を口にすることで発動するのだが、ユーリのものはその限りではない。
詠唱が必要な魔法は少なく、固有の物が多い。
「我は生者にして死者、我は生きながらにして死せる者。
鼓動は動けど血は巡らす、眼開けど映すものなし。
生は死、死は生。
それは時の巡りに逆らうが如し。
ここに楔を打ち付ける。
この身が真に滅びるとき、我をここへと運び給え…」
青く光出したクリスタルを、そっと落とす。
本来床に転がるはずのクリスタルは床へと、まるで水に入れるときのように入っていった。
「…では解散だ。各自、顕現にそなえておけ」
フランツ、クォーク、アリスの順に部屋を出る。
しかしユーリは部屋を出ようとはしなかった。
「…?先輩、どうしました?」
アリスが聞くと
「なんてもありません、少し先に行っててください」
とユーリが返す。
「はぁ…」と少し心配そうにアリスが出ていくのを見て、ユーリが話し始める。
「ステアさん、お願いがあるんですけど」
「なんだ、聞いてやろう」
ステアとユーリは結構長い付き合いになる。
ステアはユーリの弟のように心配し、想う。
ユーリはステアを姉のように尊敬していた。
だからこそ、ステアはなんとなくユーリの『お願い』を分かっていた。
「今は大丈夫ですけど、俺がもし、死ぬのを怖がって逃げるようなことがあれば、そのときは…」
ユーリはその先を言わなかった。
殺してくれ、なんて。
ステアを姉のように想っている。
ステアが自分を弟のように想ってくれているのを知っている。
彼女には頼みたくなかったことだが、
彼女以外には頼みたくなかったことである。
「…お前は酷いやつだよ」
「自覚してます」
ステアは少し汚れた天井を見上げため息をつく。
少し間をおいて
「分かった、できるだけ苦しまないようにしてやろう」
「ありがとう、ステアさん」
「だが…そうだな。作戦が終わったら酒くらい奢れよ?」
必ず叶う願い。
必ず、この作戦は成功する。
何人かのユーリを犠牲にして。
だからステアは、生き残ったユーリを、自分が忘れてしまった数々のユーリを想っているのだった。
「…俺まだ16ですよ」
「細かいことはいいんだよ。ベロベロに酔わせて襲ってやるから覚悟しておくんだな」
「わー盛ってるぅー…」
「あんだと!?」
「わー…」
そんな作戦前でもこんなくだらない会話をできることに感謝しながら、ユーリは覚悟を決めるのであった。
長くなってしまった…。
最後の方読みづらかったも思います。ごめんなさい。
次回もよろしくお願いします。