アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

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厄祭の再演

 

 

危うい事態であったが、運良くモビルアーマーを再起動させずにギャラルホルン、それもセブンスターズに引き渡す事に成功したジャスレイは脇目も振らずにとっとと地球から出て、黄金のジャスレイ号に帰ると自室に入り、思いっきり息を吐いた。

アレをコンテナに詰めて大型シャトルに乗せて、地球に降りてクジャン家の領地まで運んでいくというなんの罰なのかと言いたくなるような大仕事を終えてきたのである。はっきり言って帰ってくるまで生きた心地がしなかった。その存在を知っていればどれ程アレが危険物であるかなんて簡単に察しがつく。主電源が壊れているので動かないと分かっていたとしても、運んでる途中で何かの拍子で動き出したとしたらひとたまりも無い。

 

しかしここで危険だからと自分が行かない訳にも行かない。なにせ会う相手が相手だ。あくまでも持っていたコネはジャスレイ自身の物である為直接顔を出さない訳にもいかなかった。

 

(……だがっ!!その分たんまり代金ふんだくったぞコンチキショウ!!流石セブンスターズだけはある。たんまり金持ってやがるんだからよぉ……今回の一件でそれなりに顔つなぎも出来た。また先代と同じような商売が出来るならいいが……)

 

 

そんな皮算用をしながらも、ジャスレイは部下に命じて圏外圏へと船を向かわせた。普段ならば輸出した事で空いたスペースに輸入品などを詰めて行くが今回はやばいブツを運んだ後である。そんな悠長な事をするよりとっとと圏外圏へと雲隠れした方が良いという長年の経験から来る自身の勘に従った結果の行動であった。

 

 

(流石にセブンスターズなんていうモビルアーマーを倒した奴等の子孫なんだからアレの危険性についてはよく分かってるだろうし、渡したんだからもう問題は起こらねーだろ……はあ、疲れた……今日はもう寝ちまおう……)

 

 

どっと疲れが出てきたジャスレイは自室のベットに横になると、そのままぐっすり眠りについた。

 

 

この後、まさかと思っていた事が起きてしまう事を今のジャスレイはまだ知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

「クジャン公、受け取った例の遺物でありますが、どういたしますか?」

「うむ、父が行っていたように蔵にしまいこんでおけば良いだろう!同じ場所に纏めておいてくれ!!」

「かしこまりました。それでは失礼します」

 

 

 

イオク・クジャンはセブンスターズの七大家の1席であるクジャン家の現在の当主である。名君であった父が急に亡くなった事で当主となり、その際に色々と手助けをしてくれた事と自分に何かあれば頼るようにと父に言われたことから同じ七大家の当主であるラスタル・エリオンの派閥に所属しており、若いものの父の実績から来る人望と期待を家臣達から持たれている。

 

しかし同時に、あまりにも急に当主の座を受け取った為にちゃんとした当主としての教育を受け切っておらず、世間知らずの面が目立つ未熟な存在であった。

 

そんな彼が父が禁止兵器の類を集めて管理していた事など知る由もなく、そのような取引をしていた事など初めは嘘だと思ったほどであった。

 

しかし、的外れな行動を取るものの基本的には善意で動くこの男は連絡をしてした相手が本気で困っているという空気を感じ取り、更に父がそれらを集めていたのは自身の管理下に置くことでそう言った禁止兵器を世に出さない為であるということを聞いた為、自身もそれを行わねばという意欲を出してしまい……感謝料としてその圏外圏の商人に対してクジャン家として恥ずかしくない額を渡し、彼はその禁止兵器であるという発掘品を受け取ったのであった。

そして、それを受け取った当初はどんなものかと気になっていたイオクもただの廃品の機械と見ると次第に興味を失い、父親が居なくなった後放置され続けているクジャン家の蔵へとしまいこんで、自身は所属する月外縁軌道統合艦隊アリアンロッドへと帰ってしまった。

 

 

それがどれ程危険な行為であるかも知りもしないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが目覚めたのは地中から掘り起こされてすぐであった。しかし動力源のエイハブリアクターの接続部を破壊され、地中に埋れていた間に侵食した劣化により主電源を動かせなくなっていたそれは最優先命令の一つである人類抹殺を行えず掘り起こした人間になすがままにされるしか無かった。修復しようと子機を動かそうとしても予備電源ではそれ本体に近づかなければ

給電する事も困難であり、分厚い層をもつコンテナに収められたそれは動く事もままならなかった。

 

しかし、運ばれて行った先で転機が訪れた。火星から地球へと運び出されたそれはコンテナごと運び出され、大小様々な兵器や機械が収められた巨大な倉庫の中へと収納されると、その扉を閉められたのであった。

 

人一人居ないその巨大な倉庫の中に、子機をそれの隣に並べて置いた状態で。

 

そうなれば、予備電源であろうともそれは行動を可能とした。そもそもこの予備電源は本体が稼働出来なくなった場合に備え、本体を修復する為の子機に給電を行う為の電力を確保する為の物である。

 

そうして子機は動き出した。一機、また一機と給電がされたそれらは親機であるそれの修復の為に倉庫内の兵器や機械を漁り、分解しては使えるパーツを取り出して加工を施していく。

 

深々と突き刺さった槍のような弾丸を引き抜き、内部機構を治そうと子機が動くも今度は修復する為のパーツが足りなくなる。しかしそれを解決する為に必要な物もその弾丸に張り付いていた。大きさの関係で出力は本来のものよりも少し劣る物の、彼らにとって敵対者であるそれらの動力もまたエイハブリアクターである事は変わりない。

 

必要のない部分を削ぎ落とし、ツインエイハブリアクターの部分のみを親機に繋ぎ合わせ、子機がそれを溶接していく。

 

だがそれに搭載されたAIの自己判断はかつての敗北を理由に親機の修復をそれだけに留めず、敵対者を対処する為のプランを提案、それを実行した。

 

 

ここはクジャン家が管理するギャラルホルンにとっての禁止兵器が収められた巨大な蔵である。それ故に、対MS用に重大な効果を発揮する武装の類も大量に保管されていた。かつてそれを刺し貫き、敗北へと追いやったダインスレイヴなどもある。

 

 

故に主電源は回復したが、あえてそれを稼働させずにそれはこの潤沢な材料を活かし力を取り込む選択肢を選んだ。

今度こそ自身に下された最上位命令を果たす為に。自身と、それを支援するプルーマの生産と改造を行える限りし続けた。

 

そして、蔵の中からそれらを行う為のパーツを使い切ると同時にそれは主電源となった敵対者のものであったツインエイハブリアクターを稼働させ、頭部に搭載されたビーム兵器を使用し蔵の壁を破壊し、勢いよく浮遊し子機プルーマと共に飛び出していった。

 

かつて人類を滅亡寸前まで追い込んだ無人兵器、モビルアーマー『ハシュマル』……否、個体名『ハシュマル・フォールン』は敵対者であった悪魔の心臓……ガンダムフレームのツインエイハブリアクターとその武装すら取り込み、再び地球へと蘇った。

 

全ては自らの製造された意義を果たす為に。

 

ハシュマル・フォールンは産声を上げ、目についた人間たちをビーム兵器で焼き払っていく。そして、外に出て初めてハシュマルは自身が今何処に居るのか把握し、それによって目的地も切り替わった。

 

切り替わったその場所の名は海上拠点『ヴィーンゴールヴ』

 

今はギャラルホルンの地球本部となっているその場所へと、ハシュマルは帰還を果たす為に最上位命令を果たしながら、進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は死んだ筈の人間だ。事実、戸籍上では既に死んだとして扱われ、父と妹によって空の棺を使った葬儀が行われてしまった後である。

 

しかし事実は違う。忘れもしない二年前のあの日、俺は病院のベットで目を覚ました。そして、俺を殺した筈の男と話をした。

 

親友だと信じていたその男に。裏切られたと感じて突っかかろうとしたが、半死人の俺にそのようなことが出来るはずも無く、振り上げようとした手は宙を舞った。

 

確かに自分を殺しかけた事に怒りを感じてもいた。しかし一番許せなかったのは、共通の友人であった筈の彼女……カルタ・イシューを利用し、その結果彼女は死に絶えた事。そして自分の部下であったアインを利用した事だった。

 

その元凶が自らであると言い、戦場でMSの剣を振り下ろしてきたのが……マクギリス・ファリドであった。

 

 

何故俺を殺していないのか俺は問いただした。そして奴はこう言った。

 

 

「……ここでなら、全てを話せる。アインについては残念であったが……私の目的を果たす為に、『公的に』お前達には死んでもらう必要があった」

「ちょっと待て。公、的に?意味が分からない……まるで、彼女が、カルタが実際には死んでないような事を……っ!?」

「気が付いたか。ここは、ファリド家ではなく私が私的に所有している医療施設でね。お前のような、表向きには出来ない患者を収容している場所だ」

 

俺のベットの隣の場所に、誰かが眠らされている事に気が付いた。生命維持装置に繋がれ、体中チューブだらけの痛々しい姿であったが彼女は確かに呼吸し生きていた。

 

俺の操るキマリスの手の中で確かに、息を引き取った筈のカルタ・イシューが。

 

「死んだという診断をくだしたのは『私達』の息の掛かった医師でね。極秘裏に、ここで彼女を匿ったという訳だ」

「……どういうことか説明しろマクギリス!!なんでこんな事をした!!お前は、一体何を……」

 

そう言うと、マクギリスは『俺に目を向けた』

 

今まで一度も見た事もないような、感情の篭った目で。

 

「全てを話す。この話を聞いた上で、お前に判断してほしい」

 

 

そして俺は、マクギリスから想像を絶する『真実』を聞いた。そして、俺が下した選択は……

仮面を被り、マクギリスと共に戦う選択肢を選んだ。

 

正直、まだ許せない部分もある。しかしそれ以上に、コイツを一人にしてはならないという情が湧いてしまった。

 

俺が隣に立とうとしなければ、コイツはたった一人で世界に喧嘩を売ろうとしていた大馬鹿者で、それでいて俺やカルタといった親しい人間を最後の最後で切り捨てる事ができなかったどうしょうもない欲張りな奴だ。

加えて、俺が隣に立って戦う選択肢を選んだら、もしも自分が道を踏み外した時の事を話した上で自分を撃つ為の拳銃を渡してくるんだから溜まったもんじゃない。俺にだから頼めるって、お前は俺の事をなんだと思っているんだか。

 

 

そうしてガエリオ・ボードウィンは死に、今は仮面の男ヴィダールがここに立っている。

妹や父に背を向けてでも、こいつの隣でやらなければならないと思った事があった。セブンスターズの血を引く、俺だからこそ。

 

 

 

「ヴィダール、エリオン公の動向をどう見る?例の奴の配下と思わしき傭兵はどうやらアーブラウには干渉できないと悟ったのだろう。今はアーブラウと同じように独自の戦力を備えようという動きが盛んなSAUの方面に飛んだようだが……」

『おいおい、俺が諜報の類が苦手であるのはお前が一番良く知っているだろう? だが、そうだな……SAUはアーブラウほど防衛部隊の構築が上手く行っていないからな。付け入るスキがあるとしたら……』

 

 

地球での勤務中に、マクギリスと共に執務室で現在の情勢について話し合っていると、けたたましいアラート音が鳴り響いた。緊急事態を知らせる為のアラートである。

それを聞くとマクギリスはすぐさま通信を繋げ部下に何事かを問いただした

 

「何が起こった!直ちに説明せよ!」

『じゅ、准将!緊急事態です!!謎の大型機動兵器とその大型機動兵器に付き従うMWのようなものが、突然エイハブリアクター反応と共にギャラルホルンの私有地から現れました!!街や人々を焼き払いながら現在、補給の為に陸地の近くに停泊中の地上本部の方向に進行中であります!!』

「何……!?」

 

 

映像が映し出されると、マクギリスは戦慄した表情でその映像に映し出された兵器を睨んだ。

 

 

「馬鹿な……何故モビルアーマーがあんな所に存在している!?あれは、『地球上の物は』全て破壊された筈だぞ!?」

『モビルアーマーだと……!?』

 

モビルアーマー。それは自分の先祖であるセブンスターズが『倒したということになっている』厄祭戦の元凶であり、人類抹殺の為の無人兵器である。

しかし地球上の物はマクギリスの言うとおり全て破壊されており、存在しているはずの無い亡霊であった。

 

 

「エイハブリアクターの周波数は?!」

『そ、それが……可笑しいのです准将!?あの機体、MSでないはずなのにMSの周波数が登録されております!!【ASW-G-64 ガンダム・フラウロス】と、何度やっても出てくるのです!!』

「……総員、第一戦闘配備!!繰り返す、総員、第一戦闘配備!!これより周辺のMS部隊で防衛戦を行う!地球外縁軌道統制統合艦隊に連絡を繋げ!非常事態につき地球へ降下し、敵大型機動兵器を撃破せよと伝えよ!!アリアンロッド艦隊にも連絡を繋げ!!これはギャラルホルン、ひいては地球圏存亡の危機である!!」

『りょ、了解しました!!』

 

 

マクギリスは指示を出し終えるとこちらを向き、普段のポーカーフェイスからは想像もつかない焦った顔をこちらへと向けた。

 

「……すまないが頼みがある。アレがもしも、本当にモビルアーマーであるのだとしたら……おそらく、今まともに相手出来るのは君だけだ」

『何?あの巨体であるなら、いくらでもやりようはある筈では……』

「あれはな、今よりも技術が発展していた厄祭戦以前の時代の人類を滅ぼしかけた存在だ。少なくとも現在の対人用の装備のMSでは太刀打ち出来んだろう。倒すのであればガンダムフレームの、リミッターを外して動ける阿頼耶識使いや、禁止兵器のダインスレイヴ等の並外れた力が必要だ」

 

ガンダムフレームのリミッターは、本来コックピット内に充填されたナノマシンによって副脳が構築された状態でなければ外す事は出来ない。そうしなければ圧倒的な情報量に阿頼耶識で繋がった脳が焼かれてしまい、様々な障害を引き起こす為だ。

 

現在ギャラルホルンが運用しているガンダムフレームでそれが搭載されているのはとある例外を除けばヴィダールの操るガンダム・ヴィダールのみとなる。

 

 

『そうか、俺が率先してアレを止めに行かなければ被害者は増えるばかりか』

「そうなるな……一つ策がある。君は石動と共に先に戦場へ向かってくれ。私は地上本部へ行ってくる」

『……おいおい、まさかあの骨董品を引っ張りだす気か?!』

「ああ、確かにあれは贋作だが、本物と同様に作られた事には違いあるまい?」

『しかしアレを引っ張りだすとしたら、他のセブンスターズが黙っていないぞ?』

 

その質問を言った所で再び緊急回線がこちらへと飛んできた。

 

『緊急時につき失礼いたします!!あの機動兵器によってファルク家の屋敷の全焼が確認!!確認を取った所、本日はバクラザン家のご当主を招き入れていたとの情報が入っており、ファルク家のご当主と共にその安否を確認中であるとのことです!ファリド准将!!早くご指示をお願いします!!』

「今すぐそちらに向かう!……そんな事を言ってる場合では無くなってきたな、これは」

『……そうだな。戦力になる物を出し惜しみしてる場合ではないな』

 

 

そう言うと俺達は部屋から出て駆け出した。

この時点でギャラルホルン始まって以来の大惨事である。とにかく今はアレを止めなくては何も始まらないと現実逃避しつつも、マクギリスを司令室に送った後すぐに格納庫に眠る自らの愛機へと駆け出し、乗り込んだ。

 

 

『ガンダム・ヴィダール、出るぞ!!各員、目標はあの大型機動兵器だ!!』

 

俺は街や建物を破壊し、本部へと向かっていくモビルアーマーに対し防衛部隊を率いて向かっていった。

 

 

 

 




シリアスな空気となりつつあるから自重したけどサブタイを『ヨクバリス・ファリド』か『ホシガリス・ファリド』にしようか悩んだのは内緒()
ここのマッキーはある意味一番設定変更食らってます。バエルじゃ彼の欲望を抑えることすら出来ぬ……!!()

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