アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

12 / 27
得るものの無い戦い

 

 

 

「撃て、撃てぇぇえええ!!」

「駄目だ、かすり傷にもなっていない!!接近戦で……がぁぁぁぁ!?」

「ひっ、な、こいつら、取り付いて……!?」

 

地上部隊に配備されたグレイズの部隊が街を破壊し地上本部の方向へと向かうプルーマやモビルアーマー、ハシュマル・フォールンに攻撃を仕掛けるも、その結果は悲惨な物となった。

 

射撃兵装で攻撃を仕掛けるも、プルーマが時間をかけてナノラミネート塗装を施し直したハシュマルの装甲には通る筈もなく、弾の無駄と判断して接近戦を仕掛けたグレイズはハシュマルの背部に搭載された超硬ワイヤーブレードにより簡単に両断され、その無残さから足を止めたグレイズはプルーマに組み付かれ、そのプルーマの自爆により粉砕されてしまった。

 

 

 

「ばっ、化け物めぇ!!よくも同僚達を!!」

「馬鹿、止めろ!!不用意に近づくんじゃない!!」

 

 

 

怒りに駆られて飛び出そうとする部下を静止するも、静止を無視して突貫したグレイズはプルーマの大群に組み付かれ、動けなくなってしまった。

 

 

「クソ、クソォォオ!!放しやがれ、この……お、おい、まさか……」

 

組み付いたプルーマはグレイズのコックピットをドリルでゆっくりと削っていく……

 

「やめ、やめろ、やめてくれー!!あっ」

 

グシャリ、という鈍い音とともにグレイズから力がぬけ、組み付いたプルーマが離れると力なくグレイズは倒れ伏した。

 

 

「……各員!!あれに接近しないようにしろ!!弾幕を切らすな!!少しでも進行を遅らせるんだ」

「りょ、了解!!」

「あんなもんにどうやって戦えって言うんだ……このままじゃ、俺達も……」

「弱音を吐くな!!あれが向かっている先には地上本部があるんだぞ!!」

 

 

 

明らかな劣勢であったが、彼らにも引けない理由があった。

この化け物はギャラルホルン地上本部である移動型海洋基地『ヴィーンゴールヴ』へと向かっている事。そして、その進行ルート上の民間人や建物をビーム兵器で焼き払いながら進んでいる為に、彼らがこうして妨害を行わなければ今避難を行っている者達が皆殺しにされてしまう事。

 

こうした事情により、小隊が丸々一つ全滅状態になるような大損害を既に受けていながらも彼らは引くに引けなかった。

 

(クソ、増援はまだなのか……!?)

 

近接戦闘が危険と判断した隊長機はグレイズの腰にマウントしたバズーカ砲を手に取り、撃とうとするも……次の瞬間、僚機のグレイズのコックピットと共に肩をハシュマルの放った槍のような形状の弾丸に刺し貫かれ、後方にあったビルに磔にされてしまった。

 

「ば、馬鹿な……MSの装甲を、こうも簡単に……」

 

 

ハシュマルの背部に増設された、ガンダムフラウロスの二門のレールガン……否、本来ならば対モビルアーマー用に開発された筈の禁止兵器ダインスレイヴを片門放ち、照準を合わせると後方で射撃支援を行っているグレイズにもう片方を発射した。

 

それによって崩れた部隊のスキをプルーマ達は見逃さなかった。搭載されたレールガンをばらまきながら前進し、グレイズを蹂躙していく。

 

 

そうして次のダインスレイヴ弾頭をハシュマルへプルーマが給弾し終わる頃には、全てのグレイズが破壊され、自身の進行を邪魔する相手が居なくなった事を確認するとハシュマルは頭部のビーム砲を撃ち払う。

MSというビーム兵器に対する防壁が消えた事によりビームの奔流はいともたやすく建物を蒸発させ、グレイズ隊の奮闘をあざ笑うかのように人々の命を消し去っていった。

 

 

 

 

 

『クソッ、一足遅かったか……マクギリスの言った通りグレイズでは手も足も出ないか。ならば仕方あるまい。石動と私であれを迎撃する!!お前達は、後方支援と子機の撃退を頼む!!』

『お前達、無理はするなよ』

『はっ!!』

 

 

 

ヴィダールがそう指示をすると、同行してきた部下のグレイズを残し石動と共に機体を前進させる。

 

 

『しかし、とんだ初実戦となったものだな。君のリンカーも』

「ええ、マクギリス准将から託されたこの機体。扱いこなせるよう微力を尽くします……!」

『君の腕前なら不安はない……背中を預ける。行くぞ!!』

『はっ!!』

 

 

グリムゲルデを改修し、実在するヴァルキュリアフレーム機の形状へと偽装を施した機体であるヘルムヴィーゲ・リンカーと、同じくガンダムフレームであるものの元の機体が分からない程に改修を施したガンダムヴィダール。色味は違うものの奇しくも青い両機は、地上本部への進行を続けるハシュマル・フォールンへと戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ギャラルホルンの地上本部である海洋基地ヴィーンゴールヴは大混乱の最中であった。無理もない。突然ギャラルホルン管轄の領地からエイハブリアクター反応が出たと思ったら街や建物が焼き払われた挙句、その被害がギャラルホルンの最高決定機関であるセブンスターズの一つであるファルク家の屋敷にまで降り注ぎ、ファルク家当主と偶然招いていたバクラザン家の当主、そしてその家族らが共に音信不通であるという異常事態に加え、刻一刻と迫ってくるその原因。

 

更に出撃させた防衛隊は全機反応が途絶え、MIA判定が出てしまうという恐ろしい知らせに地上本部の司令本部は戦慄を隠せずに居た。

そんな頃であろうか。地上本部へ、数機のグレイズ・リッターが向かって来たのは。

 

 

「管制塔へ、緊急事態につき通達が無い事を失礼する!!こちら、マクギリス・ファリド准将!!地上本部に着陸許可を頂きたい!!」

「ファリド准将!?……りょ、了解しました。着陸許可を出します!!」

「承知した」

 

 

そう言うとマクギリスとその部下はグレイズ・リッターから地上本部に降り立ち、司令本部へと向かっていった。

 

 

 

「緊急事態につき通達が無い事を失礼する!!地上本部の指揮官は居るか!!」

「こ、これはファリド准将……何故こちらへ」

「偶然地上勤務中でな。騒ぎを聞きつけて慌ててこちらへ駆けつけてきたのだ。現在の状況がどうなっているか、把握しているか?」

「はい……未だ被害が増え続けている関係上正確な被害者数は分かりませんが……先程、ファルク家の屋敷からエレク・ファルク公とネモ・バクラザン公のご遺体が、ご家族と共に発見されたとの報告がございました……加えて、出撃させたMS防衛部隊は壊滅し、一機すら反応が帰って来ません……!!申し訳ありません准将……我々は地上本部を任されておきながら……何一つ、守ることも……!!」

「……思った以上に最悪の事態だな……先程、陸地側の基地のアリアドネから地球外縁統制統合艦、そして月外縁軌道統合艦隊へと応援を要請したが、これでは応援が来るまで持つかどうか……仕方あるまい。一つ、奴に対する対抗手段に心当たりがあるのだが、どうかその手段を私に預けてはくれないか?」

「そっ、そのようなものが、ここにあるというのですか!?それは一体……」

 

地上本部の指揮官は藁にも縋るような表情でマクギリスに思わず聞き返した。あの未曽有の災害をどうにかする手段が、まだ残されているとは思えなかったからだ。

 

「……伝説がただのお伽噺ではない事を証明するだけさ。これから地下へ向かう」

「なっ、ま、まさか……しかし、アレは……」

「最早、現状ではアレしか方法が無いのだよ。アレを動かした事に対する全責任は私が取る!どうか私に希望を託してはくれまいか……?」

「……了解しました准将。こちらが、宮殿に入る為のマスターキーであります。しかし、アレを動かすアテがあるのですか……?」

「無論、そうでなければ言っていないとも。協力に感謝する。お前達は先にグレイズに乗り込んで待っていてくれ。すぐに向かう」

「了解しました、准将!」

 

そう言うとマクギリスは地上本部の指揮官から地下にある宮殿へのマスターキーを受け取り、急ぎ地下への道を向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

(アレが本当に私の集めた情報通りの存在であるのであれば、なんともまあ皮肉な話だ。製造されて一度もモビルアーマーと戦ったことも無い偽りの悪魔王に、名も血も偽りである私が乗り込もうというのだから……いや。そもそもギャラルホルンの存在そのものが偽りであるのだから今更か)

 

 

歴史は勝者の為の物。そう、強者ではなく勝者の為の物なのだ。

思えば幼き日の私は何故それに気が付かなかったのだろうか。生まれた時から、強い者よりも狡猾な者の方が優位に立っていた世の中だというのに。

 

だが、それでも私は彼らへの憧れを捨てきる事が出来なかった。

 

 

(……さあ、いよいよご対面だな)

 

 

何重にも掛けられた防壁を解錠し、かつては何度も憧れ、それのみを心の支えとしてきた存在へと対面する。見た目も中身も、実物と同じように作られたガンダムバエルの写し身に。

しかし感傷は後だ。今こうしている間にもモビルアーマーは刻一刻とこちらへと突き進んでいる。

 

アレがこちらへ向かって来るのは当然の話だ。なにせヴィーンゴールヴはモビルアーマーが製造された場所を奪い取り、改造して作られた決戦の地なのだから。故に猶予は無い。

 

急いでコックピットに乗り込むと、私は上着を脱いでこれがギャラルホルンの者達の手によって動かなかった原因である阿頼耶識を接続し、機体を起動させた。

 

 

「お前もガンダムであるならば……一度も戦うことなく眠り続けるのには飽きてきた頃だろう?」

 

 

これはギャラルホルンにとっての表向きは錦の御旗といえる存在であり、同時に罪の象徴そのもの。失われたガンダムバエルの再生産機。

アグニカ・カイエルにされた者達が残した伝記を知る者にしか、最早知らないその本当の名前を私は知っている。

 

 

その名は、 ASW-G-01“R”ガンダムプルフラス。

 

 

本当の、ガンダムフレームの最終生産機だ。

 

 

 

「……こちら、マクギリス・ファリド准将。”ガンダムバエル“の起動に成功した!!これより、あの大型機動兵器の侵攻を阻止するべく出撃する!!」

 

 

ガンダムバエルの機能そのまま作られたが故に有する飛行能力を起動させ、地下から一気に地上へと飛び立つ。阿頼耶識にも問題ない。ナノマシンホルダーに充填されたナノマシンも問題なく稼働している。

 

そのまま広域回線へと繋ぐ。折れそうであった地上本部の士気を高める為に、一芝居打っておくとしよう。

 

「ギャラルホルンの勇士達よ、まだ終わってはいない!!確かに敵は強大だ。我々ギャラルホルンが戦わなければ、アレはすべてを焼き尽くす事だろう……だが、我々が怖気づいてどうする!!見よ、バエルはここに蘇った!!地球の危機に呼応するかのように、何者も動かせなかった筈のバエルがだ!!」

 

「さあ、今こそ反撃の時だ!!我々に不可能など無いと、あの血も涙もない殺戮兵器へと教えてやるのだ!!ガンダムバエル、出撃するぞ!!」

 

 

まるで道化だと内心思いながら、マクギリスは仮面を被り周りを鼓舞した。

 

何一つ、ここに本物は存在していない。しかし、それを知る者が居なければそれは本物なのだろう。

 

絶望的なムードであった司令本部から伝わる奮起の声を背に、マクギリスは友人の戦う戦場へと足を急がせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直、状況は芳しくない。偽装の為大幅に装備を対MS戦用に変更しているガンダムヴィダールには、はっきり言ってあのモビルアーマーに通用する武装が少ない為である。加えて唯一有効打を与えられそうな武装であるバーストサーベルはプルーマの大群への対応に追われ残り三本しか残って居なかった。

 

 

『石動、立て直せるか!』

「申し訳ありません。まさかあれ程規格外の存在とは……まだ、動けます!」

 

それを見てモビルアーマーへの対応を受け持とうとした石動のヘルムヴィーゲ・リンカーであったが、巨体でありながら機敏に動くモビルアーマーに翻弄され、その巨大な足で蹴飛ばされてしまっていた。何とかその大剣で受けた為に機体へのダメージは抑えられたものの、中身のパイロットまではそうはいかなかったようであり、負傷してしまった。

 

 

(俺ならあれの相手はできるが致命打が無く、石動のヴァルキュリアバスターソードなら当たりさえすれば致命打を与えられるがそもそも動きについて行けんか……よくもまあこんな化け物をかつてのガンダム・フレームの搭乗者達は何体も葬り去ったものだ。せめて槍があれば……)

 

しかしそんな泣き言は言っている暇は無い。陸地側の基地に配属されていたグレイズの部隊を率いて防衛網を敷いて入るが、ジリジリと地上本部側に押されつつあるからだ。

 

こちらがプルーマのみを相手にしようとすればモビルアーマーは何処からそんなに持ってきたのかと言いたくなるダインスレイヴを撃ってくる。非人道的な威力を誇る為、生産や使用にギャラルホルンでも制限がかけられている禁止兵器であるというのに、そんな事は知ったことではないと言わんばかりに相手は撃ってくるのである。そのせいで連れてきたグレイズが二機ほど行動不能に陥ってしまった。

 

幸い、その性質上装填は単騎では行えない上に時間がかかる為、何とか近接戦闘に対応できる俺や石動でモビルアーマーを抑えていたが……このままでは埒が空かん。

 

 

『……やむを得ん。リミッターを解除する!!石動、周囲のプルーマの相手を任せた!!』

「了解……!」

 

 

阿頼耶識で機体にアクセスし、ガンダムフレームの全力稼働の為のリミッターを解除する。

ナノマシンホルダーに充填されたナノマシンが光り輝き、ガンダムヴィダールの目が赤く輝きを変えた。

 

『グウッ……おおおおおおお!!』

 

身体が軋む音が聞こえる。阿頼耶識と機体を全力で稼働させ動くのだから、当然体に掛かるGも並大抵の物では無い。

しかしその搭乗者と機体への消耗を代償に、尋常ではない機動力と加速による破壊力を与えるのがガンダムフレームの全力稼働である。

 

その勢いでモビルアーマーへと飛び掛り、脚部に搭載されたブレードでその背部を蹴り飛ばす。このブレードは装甲を『割る』為の物である為刃はついていないが、それによって厚く蒸着されたナノラミネートの下の機構が現れた。

 

 

それを見逃さず、推進剤を使って無理やり空中で体勢を立て直すと、全力稼働する阿頼耶識により加速した思考の中で刃が通りそうな部分に片手で持ったバーストセイバーを突き刺した。狙ったのはダインスレイヴを発射する砲の接続部だ。

 

 

 

そのままバーストセイバーの刃と柄の接続を外し、五本目のバーストセイバーをストックから接続しつつ、離脱する。

 

そのままUターンして、次の攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、機体の脚部が粘性のあるワイヤーで絡めとられた。

 

 

『しまった!?だが、今のタイミングなら!!』

 

先程刺したバーストセイバーには爆薬が仕込んであり、刺した刃を内部から爆発させるという試作兵器である。

コストの問題で正式採用は見送られたもの、その威力は折り紙付きだ。それにより砲身との接続部を爆発させられたモビルアーマーはのけぞり、一瞬ワイヤーへの給電が止まったのか粘性が無くなったのをみて、無理やり解いて脱出する。

 

そのまま着地し、モビルアーマーを睨んだまま五本目のバーストセイバーを引き抜いた。

先ほどの爆発により、左側の砲身が吹き飛んだようである。ようやく目に見えるダメージを与えられたものの、余裕など一切沸かなかった。

 

(ダインスレイヴを片方封じられたのは良いが……思ったよりも浅かったか!!弱点は何処だ……っ!?)

 

 

モビルアーマーの頭部から閃光が走る。

それを見て咄嗟に回避出来たものの、放たれた閃光は後ろの建物を蹂躙し、焼き払っていく。ビーム兵器だ。MSにはナノラミネートアーマーによって効果は薄いものの、それでも当たっていい物という訳ではない。

 

 

『この……!!』

 

間合いを詰めて、バーストセイバーを突き刺そうとするも……狙いを外して装甲で弾かれた。

その隙をついてモビルアーマーはワイヤーの先端に装着したブレードを飛ばしてくる。

 

バーストセイバーを持っていない方の腕でハンドガンを引き抜き、回避しながらワイヤーとブレードの接続部に対して数発叩き込む事で刃の軌道を逸らす。普段ならこんな曲芸じみた射撃は出来ないが、ナノマシンによって構築された副脳によって大幅に引き上げられた知覚時間がそれを可能とした。

 

そのまま一気に前進して、脚部に内蔵された銃身を向けてくるモビルアーマーに対し、その銃身にバーストセイバーを突き刺した。

急いでバーストセイバーの接続を外し、最後のバーストセイバーを引き抜くと推進剤を吹かして離脱する。

 

 

爆発音と共に、地面に倒れこんだモビルアーマーを見て好機と判断し突撃する。狙いは頭部。あれだけのエネルギーを放出する兵器を内蔵している部分だ。内部を爆発させればただでは済まない筈と考えた。

 

『これで……!!なっ!?』

 

大地を蹴り、思いっきり踏み込んだ上で推進剤を全力で吹かして飛びかかった。しかし次の瞬間、凄まじい衝撃と共に俺とガンダムヴィダールは吹き飛ばされてしまった。

もう片方の砲身に残っていたダインスレイヴを、至近距離で発射されたのだ。

 

 

『ぐぅ……』

 

(右肩と一緒にバーストセイバーが吹き飛ばされてしまった……!対抗手段がこれで無くなったか)

 

加えて、推進剤ももうほとんど残っていない。リミッターを解除するのを躊躇ったのはこの為だ。ガンダムフレームの全力稼働は確かに強力だが、推進剤の量は有限である為に大幅に稼働時間を減らす諸刃の剣である。

 

『ヴィダール殿!?この……』

 

石動がなんとかこちらに来ようと足掻くも、ヴィダールの分プルーマを相手にしている為に近づく事が出来ない。

 

万事休すか。そうは思ったが、まだ諦める訳にはいかなかった。

 

『悪いがこんな所でまだ死んでやれんのだよ、俺は!!』

 

残った左腕でハンドガンを引き抜いて射撃するも、全く歯が立たない。そうして足掻いていると、ワイヤーブレードで脚部を切断され、ガンダムヴィダールは地に伏した。

 

 

絶対絶命。そんな状況で、俺は空を眺めた。

 

モビルアーマーの被害による停電 により星が見える夜空の中で、一筋の流星が見えた気がした。

 

そうして、命を失うと思った次の瞬間、モビルアーマーのテイルブレードのワイヤー部は切り裂かれた。

 

「すまない、待たせた!!」

『……遅いぞ、マクギリス!!』

 

 

 

二本の黄金の剣。翼を思わせる一対のスラスターユニット。白を基調に青を散りばめた雄々しくも何処か凶暴さを秘めたその姿は、まさしく伝承の通り。

ギャラルホルンの伝える歴史そのままのガンダムバエルが、そこにいた。

 

 

「さあ、伝承までもが偽りでは無いことを証明しようではないか……!」

 

 

そうして、マクギリスは阿頼耶識のリミッターを解除した。

 

ガンダムバエルの設計はシンプルだ。

推進剤によらない、空を自在に飛び回るほどの推力。理論上折れることのない程に強靭な二本の剣。牽制用の対空砲。これだけだ。だが、それで十分であった。

 

これにより、ガンダムバエルはパイロットの体力が許す限り『阿頼耶識のリミッターを外し続けて稼働することが出来る』のである。このモビルアーマーに対する継戦能力の高さこそが、ガンダムバエルを厄祭戦における最強の機体としてモビルアーマーを最も多く狩り続けられた理由なのであった。

 

そしてそれをそのまま再生産されたガンダムプルフラスの力もまた、バエルと同等の力を持っていた。そんなものに、MSパイロットとして最高クラスの力をもつマクギリス・ファリドが乗り込んだ場合どうなるか?

 

その答えは、すぐに分かった。

 

 

「これがバエル……いや、プルフラスか。悪くないな。気に入った」

 

 

ヴィダールとの戦闘で深く損傷し、武装の大半を失った今のハシュマル・フォールンが敵う筈もなく。

 

 

ビーム兵器を放とうとした頭部をすれ違いざまに切り捨てられ、スラスターユニットを使い高く飛び上がり、急降下した上で唐竹割りで真っ二つにされ、あっさりとその機能を停止した。

 

 

「怪我はないか、ヴィダール?」

『ああ……大事は無い。機体は見ての通り大破したがな。それよりも、この後の後始末をどうするか今から頭が痛いな……』

「全くもって同感だな……どうしたものか」

 

 

ハシュマルが破壊されたことで子機であるプルーマも静止し、戦闘は終わった。

しかし、喜ぶ事は出来なかった。あまりにも被害が大きすぎた事からマクギリスとヴィダールは今後の後始末のためにしなければならない事に対して頭が痛くなった。

 

 

この戦いで、ギャラルホルンが得たものなど何一つ無いのだから。

 

 

 

 




機体設定

ASW-G-01“R” ガンダムプルフラス


ガンダムバエルの再生産機。オリジナルのガンダムバエルは厄祭戦中既に失われており、ギャラルホルンの元となった組織が都合の良い伝承を本来の歴史であるとする為にガンダムフレームの製造元を脅して作らさせた偽りのガンダムバエル。しかしながら製作元は同じである為性能はオリジナルのガンダムバエルと同等。
錦の御旗として祀られているものの、同時にギャラルホルンの黒い部分を象徴するような存在である。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。