アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

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反撃のジャスレイ -Operation BITTER CHOCOLATE-

 

放たれた弾丸はジャスレイの頭を貫く事無く、その頬を掠める形で通り抜けて行った。

 

 

「良いだろう。ビビらず動かなかったそのクソ度胸に免じて命だけは取らないでおいてやる」

「お、親父……」

「……もう盃を割っちまった以上、俺はお前の親父じゃねぇよ馬鹿野郎。ああ、だがな、このままだとジャスレイ・ドノミコルスとしては生きて返す訳にはいかんのも事実だ……そうだなジャスレイ。俺ァ今いい手が思いついたんだが、それを言う前に一つ聞くぞ……悔しいとは思わねぇか?」

「へっ?……そ、そりゃぁ……悔しいっすよ……!!悔しくねぇ訳がねぇ!!俺の人生、あのクソボンクラのせいで全部オジャンだ!!」

「だよなぁ。お前さんの対応は何一つ間違っちゃ居なかったってぇのに、誰よりもモビルアーマーに対する対処方法を知ってなきゃいけない奴がそれを知らなかったせいで全て台無しだ……正直な、俺も心底そのボンクラのセブンスターズに対して腸煮えくり返ってる。優秀な部下を泣く泣く切り捨てなきゃならねぇ状況にろくでもねぇ理由で追い込まれたからな。だからよジャスレイ、ちょっとした博打を打たねぇか?」

「博打……?」

「ああ、掛け金はジャスレイ・ドノミコルスとしての資産全部。つっても、お前の部下や社員の退職金とお前が最低限やり直す為に必要なもんは支払った上で、って形になるがな。ああ、無論勝っても負けてもお前の部下の命も再就職先も保証してやる。どうするジャスレイ?上手く行けば、少なくともあのボンクラが二度と表舞台に立てなくなる程度の仕返しが出来るぞ?」

「……乗った!!そこまでアンタにお膳立てされて、ここで怖気づいたら男が廃るってもんだ!!どうせ、こうなった以上ここで断っても俺の資産なんてアンタの胸先三寸次第で差し押さえられちまうんだ!!あの野郎だけは絶対許さねぇ……!!」

「よく言った!よし、手筈はこうだ……」

 

 

そうしてマクマードは不敵な笑みを浮かべながらジャスレイに自身が思いついた作戦を説明していった。そうして、マクマードはその作戦を決行するために必要な人手と物を集めそれを決行した。

 

 

 

 

 

悲報を聞いた名瀬は急いで歳星へと飛んできた。ジャスレイが拳銃自殺を行ったという非常事態が起こったからである。

 

 

「親父、ジャスレイの旦那が亡くなったってのは本当なんですか?!それも、自殺って……」

「ああ、しっかり遺書まで残しやがって……話を聞いた上で事実を確認したが、あいつ自身はやれる事をしっかりやっただけなのにな……だが流石に被害が被害だ。何せ百万人以上の被害者を出しちまったんだ。今後一生後ろ指刺され続けて追われ続ける人生を歩む事になるのは嫌だったんだろうよ。たく、まだ何処のどいつがアレを持ち込んだのかバレちゃいねぇから盃割って追い出す形で木星圏へ逃してやろうって準備をしてたのが全部パァだ……あの、馬鹿息子が……!!」

 

そう言ってマクマードは手に取っていた一枚の紙を名瀬に渡した。ジャスレイの『遺書』である。何度か書類で見たことのあるジャスレイ本人の筆跡と、最後に血判が押されていた。

 

「奴の葬式はやるが、内々でやる事になるだろうな。それよりも先に、急いでやってやらなきゃならねぇ事があるからな……奴の最後のテイワズへの奉公だ。報いてやらなきゃならねぇ」

「……これは……そうか、ジャスレイの旦那は、そこまで考えて……」

「ああ、そしてこの策は手早く打てば打つほど効果的な策だ。だからお前を呼んだんだよ名瀬。お前ならアーヴラウ経由の地球への正式な航路が使えるからな……準備は済ませてある。ジャスレイが所有していた輸送船に必要なもんは全部詰め込んだ。急な話で悪いが、俺の名代として地球へ向かってくれると助かる」

「……分かりました。名瀬・タービン、テイワズの一員として故人の意思に従い、この話をお受け致します」

「ああ……任せたぞ名瀬」

 

 

そう言って名瀬はマクマードの部屋から出ていった。

 

「さて……次はマスコミに対して行う会見の準備だな。圏外圏で俺が最も恐れられた理由を、たっぷりと教えてやろうじゃねぇか」

 

 

材料はジャスレイの資金と事実。それとほんの少しだけの大法螺。

金は力だ。故に切り時と言うものがある。マクマード・バリストンという男が一代でテイワズを築き上げる事ができた理由、その一つとしてそう言った金を切るタイミングを見切る才覚がマクマードには備わっていたことが挙げられた。

 

場合によってはテイワズの看板に深い傷をつけかねないこの事態に、彼は凄みを持った笑みを浮かべながら対応した。古くからテイワズに居る古参の幹部がこの姿を見れば戦慄を隠せなかったかもしれない。

 

 

彼がこういう表情をしている時は彼を誰かが本気で怒らせた時であり、その対象は皆恐ろしい末路を遂げているのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「圏外圏の企業から、被災地へ支援物資が届いただと?」

「はい、それも食料品から衣類に毛布、更には組み立て式の簡易住居の詰め合わせまで、膨大な量の支援物資が送られてきたそうです」

「何故だ……?いや、おかしい話ではないが……送り元の企業の名は?」

「木星圏を中心に活動しているテイワズという企業だそうでして……最近ではアーヴラウとの交易もよく行っている為か、その為の航路を使ってそれらを運んできたそうです。それについての説明と会見を、これからテイワズの代表直々に行うという話も来ています」

(テイワズ……ああ、あのアーヴラウにMSのフレームを販売しているというあの企業か。慈善事業のつもりか……?まあいいだろう、そういうつもりなら受け取る事にするか)

 

 

目に隈を浮かべながらラスタル・エリオンは疲れきった思考の中で安直にそれを受け取った。既にあの事件から一週間が過ぎたものの事件の後始末はまだまだ終わっておらず、被災地に居る被害者達に対する物資も当然足りていなかった為そう言った支援は喉から手が出る程ほしいのも事実であった。

 

「分かった。有難く受け取ると伝えてくれ。さて、次の案件だが……」

 

 

普段ならばもっと疑って行動するラスタルであるが、既に僅かな仮眠を除くと七徹目に突入するコンディションの悪さが影響して安易にそれを受け取ってしまった事を、後に後悔する事となる……

 

 

それはギャラルホルンにとって甘く、とてつもない苦さを持った贈り物であったのだ。

 

 

 

 

 

「本日はお忙しい中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます」

 

マスコミの集まる中、マクマードは毅然とした態度で言葉を走らせた。

 

「今回、我々は事実をお伝えする為この場を設けて頂きました。先日の痛々しい『事故』についてです。モビルアーマーの暴走……その事件の真相について」

 

思いもよらぬマクマードのその言葉にマスコミは騒然となった。その声を押さえると、マクマードは続きを語っていく。

 

語っていくのは文字通りの事実だ。テイワズの一員であるジャスレイ・ドノミコルスが件のモビルアーマーを発見し、どういった対応を取ったのかという事の説明。

 

その上で地球へと持ち込んだ、モビルアーマーを封入するために使った特注品のコンテナの同一品の現物まで使って、どういう状態でそれをセブンスターズの一員であるクジャン家へと渡したのかマクマードは解説していった。

 

そしてそれを終えた後、マクマードはこう切り出した。

 

「今回の事件に責任を感じ、ジャスレイ・ドノミコルスは遺書を残し、自ら命を絶ちました……今回地球へと支援を行わせていただいたのは、自らの資産を使って被災地への最大限の支援を行ってほしいという彼の遺言に従っての行動でございます。事が起きてしまった以上、彼に責任が無いと言うわけではありません。しかしながら、せめて彼の誠意だけは受け取って頂きたいのです」

 

 

そしてその後のマクマードの謝罪の言葉により、会見は終わりを告げた。

 

この会見によりテイワズには少なくない悪評と共に圧倒的な同情の声が募る事となり、結果的にマクマードが責任を取って『表向きには』会長職を辞任する事にはなったものの、それ以外の大きな傷を負うことは無く今回の一件をやり過ごした。

 

反対にこの一件を内々で対処する事ができなくなったギャラルホルン側は、クジャン家の完全なお取り潰しを決定。

そしてその混乱を除く為に、古い法に従ってイオク・クジャン公の死刑が確定となってしまったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、ジャスレイ?いや、もうその名前は使えねぇな。賭けに乗って良かっただろう?」

「……なんで、なんで親父、ここまでしてくれるんだよ……テイワズの会長を、辞任って……!」

「あのな、もう盃を割っちまったがお前は俺の息子だったんだぞ?可愛い息子にあんな不名誉を着せられて怒らねぇ親がどこに居る?」

「すまねぇ……すまねぇ……!!俺のせいで、こんな……こんな事に……!!」

「まぁ、元々丁度いい時期ではあったんだ。テイワズもこれからは圏外圏のみならず地球圏も股にかけるべき時代だ。それをやるためには俺がテイワズの顔であり続けるのは無理があるって話だっただけよ。ま、お前は気に入らねぇかもだがこれからは名瀬がテイワズの看板だ。俺は裏方に引っ込んで、圏外圏におけるテイワズの地位を盤石にしてやるさ……ああそうだ、スッキリしたか?」

 

マクマードは顔を変え、新たな戸籍を得たジャスレイに対してそう問いただした。

種を割れば簡単な方法だ。ジャスレイの資金のほぼ全てを使い支援物資を用意し、被災地とそこにいるギャラルホルンに渡す事でテイワズに対する悪感情を軽減した上で、事実を全て話しただけだ。ジャスレイが罪の意識に耐えられず自殺した、という大法螺を除けばだが。

そしてその証拠として、船内に入っていた取引時の映像データもマスコミに渡している為、これらは重要な証拠として取り上げられる事となり、検証の結果渡した側であるジャスレイに対する不名誉は消え、その分の不満が受け取った側のイオクへと向かった訳である。

金で解決出来るなら金で解決したほうが良いのである。この場合、マクマードはテイワズの信用を守る為にジャスレイが溜め込んでいた資金を使った訳であった。

 

 

「ええ……最っ高にスッキリしやしたよ!!あの野郎が死刑って聞いて、俺ぁ心が晴れやした……今まで、お世話になりやした。このご恩は一生忘れません……!!」

「ああ……あばよジャスレイ。お前のことだから何も心配しちゃいねぇが、木星圏で1からやり直しやがれ。達者でな」

 

そう言ってジャスレイはマクマードの元を去っていった。

これから、昔マクマードが使っていたという古い船を一隻貰ってジャスレイは木星圏へと旅立つ手筈である。自身の私財は全て手渡した為、本当に1からの再スタートとなる。

それでもジャスレイの心は晴れやかだった。自身を貶めた相手は破滅し、自身がここまでマクマードに買われていたのだと知れた以上もはやそれすらもバネにしてどこにでも行けそうだとジャスレイは思うのだった。

そうして船に到着すると、ジャスレイは先に船に乗り込んでいた者の存在に気がついた。

それは、ジャスレイの直属の部下達であった。

 

 

『JPTトラスト』は代表のジャスレイが死んだ事になり、解体されその社員の多くはテイワズの別の部門へと再就職する事となった。

しかし彼らはそれを選ばず、ジャスレイが顔を変えて生きている事を知ると一緒に付いていく事を選んだ者達であった。

 

 

 

「アニキ、遅いッスよ!!」

「……本当に付いてくのかよお前ら。1から再スタートで暫くなんにもねぇぞ?」

「アニキの隣が俺らの場所ですからね。アニキが行くなら俺らもその隣に立つだけっすよ」

「物好きな野郎共め……よし、お前ら!木星圏に向けて出航だぁ!!」

「「「オッス、アニキ!!」」」

 

 

こうして彼らは木星圏へと旅立つ。木星圏には木星圏なりの稼ぎ方がある。再び稼いで必ず成り上がると心に誓って、彼らは歳星を後にした。

 

 

 

 




イオクがあっさり処刑された理由に、こういう背景があったと言う話。
尚親父はあくまで企業としてのテイワズの会長は辞任したが組織としては親父のまま。これからは企業としてのテイワズを徐々に名瀬に引き継がせながら自身は圏外圏の地位の維持を行う裏方に立つ模様()
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