アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

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新たな仕事

 

 

「あうー」

「おー、よしよし。俺を見て泣かないってのは驚いたぞ。肝の据わり具合はお前さんに似てるな、三日月」

「うん。暁は人見知りしない子だから。他の団員達相手にも、そんなに誰かを嫌ったりしないかな」

 

マクマードが抱っこした暁を見て、その表情を軽く緩めた。自分を見て、無邪気に笑いかけてきたからだ。

 

「そうかそうか、暁か……いい名前をつけてもらったな、坊主。こうして赤ん坊抱いた事は何度かあったが、なんでか俺が抱えると皆泣きだしちまってなぁ……自分の娘にすらその有様よ。だからこうして赤ん坊相手に笑いかけられるのは初めてなんだ。ありがとよ、暁。おかげでいい経験が出来た。ジジイの気まぐれを聞いてもらって悪かったな、三日月。ほれ、お前の父親の元に帰りな」

 

 

そう言うとマクマードは三日月に暁を渡し、再び自身の席に着いた。一瞬葉巻を吸おうとして……その手を伸ばすのをやめた。

せっかく珍しく好かれた赤ん坊に嫌われるのが嫌だったのか、それとも単なる気遣いか。圏外圏で一番恐ろしい男も、今は只の好々爺に見えた。

 

「久しぶりだなお前たち。鉄華団の活躍の声はそれなりに聞いてるぞ。なんでも火星で活動してた海賊共を狩り尽す勢いで討伐したそうじゃねぇか。相変わらず元気にやってるようで何よりだ」

「はい、お久しぶりです親父」

 

 

エウロ・エレクトロニクス社から注文していたMSをホタルビに搬入を終えた後、オルガ達鉄華団はマクマードに呼び出しを受けた。久しぶりに顔を出せと言う指示と、可能なら顔が見たいので三日月のガキも連れてきてくれという伝言を付けてである。

鉄華団の団長であるオルガと、副団長のユージン。その付き添い人である三日月。そして三日月の息子である暁の四人が、マクマードの部屋へと招かれていた。

 

 

「名瀬に聞いているとは思うが、俺は名瀬の引き継ぎが終わり次第会社としてのテイワズの会長から表向き退く事になる。まあ、裏側に関してはしばらく現役でいるつもりだから、まだ大して組織の体制は変わらんがな」

 

 

表向きはテイワズの会長職を辞任する事で今回の件の責任を取る事となっているマクマードだが、裏側……マフィアの首領としての座から退くつもりは『まだ』更々無い。

名瀬に会長職を譲った後は圏外圏での非合法寄りのテイワズの活動を一手に引き受ける気であるからだ。名瀬が地球圏や比較的真っ当な仕事を担当する顔役として活動する裏で、マクマードが健在であると圏外圏で示し、活動する……テイワズ内でそういった役割分担を行なう事にしたのである。

 

圏外圏では絶大な力を持つテイワズも地球圏では一企業でしか無い為、地球圏での顔役を名瀬に譲る事でジャスレイの責任を負ってマクマードが辞任した事を示せればそれで良い為だ。

 

ようは地球に顔を出すのは名瀬だけにすれば良い訳である。交易を行っているアーブラウとの交渉役も元々名瀬だ。何ら問題無かった。

 

対して圏外圏では、マクマードの名がテイワズに対する畏怖を持たせている側面がある為にすぐに名瀬が全てを任せるわけにはいかないものの、圏外圏と地球圏には距離という果てしなく分厚い壁が存在している事から圏外圏での活動が地球圏に伝わる事はほぼ無い。この事から、マクマードが本当の意味で現役を退く事はまだ先の話となるであろう。

 

マクマードもテイワズの幹部達も最終的には名瀬に全てを引き継がせる予定ではあるが、それを行なうにはまだ時間も準備も整っていないからだ。その結果の現実的な落とし所として、名瀬は『企業としてのテイワズの会長職』と『マフィアとしてのテイワズの若頭』に就任する事になったのであった。

 

 

「弟分として、あいつの事をお前達も支えてやってくれよ。テイワズの看板は、中々重いもんだぞ」

「……はい!!」

 

 

そのマクマードの一言に、オルガは威勢良く応えた。

かつては追い詰められた事による焦りによって迷走を感じられたオルガであったが、今目の前にいる彼にはそれが感じられない。

 

どうやら名瀬の話は本当であったようだと判断したマクマードは、今の鉄華団にであればこの仕事を任せても問題ないだろうと判断し話を切り出した。

 

 

「さて、名瀬の話はここまでにして本題に入るとしようか。今回お前達を呼び付けたのは鉄華団に対して依頼したい仕事があるからだ」

 

そう言ってマクマードは机に置かれたマチ紐付の茶封筒を手に取り、その封を解いてその中身をオルガに対して見せた。

それは、テイワズが所有する火星のハーフメタル鉱山の土地の権利証だった。

 

 

「これは……ジャスレイの叔父貴が管理していた鉱山の権利証、ですか」

「ああ、そうだ。この鉱山に関してはあんな事があったせいでテイワズ内でも扱いに困っていてな。はっきりいえば不良資産扱いだ。そしてあんな事があった以上、下手に手放すにも手放せねぇ……そこでだ。火星を拠点としているお前達に、あの鉱山の調査を依頼したい」

「調査、というと……?」

「まあ、本格的な地質調査というよりかはあの鉱山を掘り返して、どんなもんが埋まってやがるか調べてほしいってだけなんだがな。流石にあんなバケモンが2つも出てくるとは思えんが……万一があったとしても、今のお前達なら押さえきれるだろうと考えての判断だ」

 

 

現在の鉄華団の戦力はテイワズ内でもかなり突出しており、特にMSの運用数に関しては組織の規模を考えると破格と言っていい。それに加えて、質の面も阿頼耶識使いとそれを活かせるガンダムフレーム機が二機も居るのだ。はっきり言ってこれだけMSを揃えているのは火星だと他はギャラルホルン位である。その事を踏まえれば、マクマードの判断は妥当であると言えた。何せ地球で暴れたというMAを討伐したというのも、ガンダムフレームのMSなのだから。

 

 

 

「そして、何事もなければお前達にあの鉱山を渡して任せたいと思っている。はっきり言って貧乏クジを引かせる事にはなるが……その分上手く行けば見返りも大きい話だ。どうだ、引き受けてはくれねぇか?」

 

 

 

マクマードは口にしなかったものの、テイワズ内でもあのハーフメタル鉱山の扱いに関しては意見が割れており、臭い物には蓋と言わんばかりに閉鎖すべきだという声があれば、あの鉱山に眠るハーフメタルの埋蔵量を考えるとそのまま封鎖するのは余りにも惜しいという声まである。しかし、当然ながら火中の栗を拾うような真似をする者は誰も居らず、あの鉱山の管理を請け負おうとする者は一切現れなかった。

しかし、あんな事があった鉱山だ。そのまま放置しておくのはあまりにも恐ろしい。そこで、火星を拠点とする鉄華団に白羽の矢が立った訳である。

 

本来の価値であるなら新参者である彼らに渡そう物ならやっかみは避けられないであろう大きな収入源が見込めるシノギであるが、皮肉な事に一番反対意見を出したであろうジャスレイはもう居ない。そうしてテイワズ幹部内では大した反論は出る事なく、この話が鉄華団にやって来たという訳であった。

 

 

「……分かりました。この話、鉄華団で引き受けさせて頂きます」

 

そして、そんな急な話にオルガはこの話を受けるべきか否か一瞬困惑した。しかし今までテイワズに、マクマードや名瀬に受けてきた恩義を少しでも返せる良い機会である事と、もしまた別のMAが眠っていたとしてもそんなものが火星にあったままでは皆安心出来ないと考え、マクマードに対してそう応えた。

 

 

 

 

 

 

マクマードから任された鉄華団の新たな仕事。

 

そんな些細なきっかけから、事態は再び動き出す事となる。

 

災いの箱の底に残ったそれの存在は、まだ誰にも知られてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

幕間【ジュリエッタ・ジュリスの最悪な一ヶ月】

 

 

 

燃え盛り、消そうとしても中々消えない炎。煙に巻かれ、炎に焼かれ、倒壊した建物に押しつぶされ……様々な形で死に絶えていった人々の亡骸。

 

そんな見たくもない絶望的な光景を目の当たりにしながらも、私達は立ち止まる訳にはいかなかった。

 

 

「要救助者を確保!!まだ息があるぞ!!至急担架用意しろ!!」

「消火弾の補充はまだか!?これ以上燃え広がると、街が全部燃えちまうぞ!!」

「……こっちは駄目だ。皆燃えちまってやがる……次の建物に向かうぞ!!少しでも生き残りを見つけ出せ!!」

 

 

ギャラルホルン地上本部のMS隊を全滅させ、多くの被害をもたらしたモビルアーマーは討ち取られた。マクギリス・ファリドによって蘇ったバエルの手によって。

 

しかし、元凶を討ち取っただけでは解決とはいえない。薙ぎ払われたビーム兵器の熱量はたやすく街を灼熱地獄へと変え、甚大な火災を引き起こした。地域の消防隊やレスキュー隊とギャラルホルンが協力し、消火用の特殊弾を装備させたMSに消火活動を行わせたり、燃えてしまった建物を破壊することで火の拡大を抑える活動を行っていた。

 

 

「また重傷者が見つかった……この子を、今すぐ病院に運んでくれ!!」

「駄目だ……輸送ヘリが足りねぇ!!このままじゃ、手遅れに……」

 

そこに水分補給にやってきていたパイロットスーツを身に着けた金髪の少女が、その声に反応してこう返した。

 

「私がMSで搬送します!!受け入れ先の病院に連絡出来る方は居ますか!?」

「ああ、今許可を取って来る!!ちょっと待っててくれ……」

 

 

どんな人手も足りていない状況である為に、緊急速報を聞きつけて地球へと降下してきた私達アリアンロッド艦隊のMS部隊もその救助活動に加わり、消火やレスキュー活動に加わっていた。

 

そこは地獄だった。何の罪もない人々の亡骸がそこら中に転がり、運悪くビームの余波を受けた者は骨さえも残らずグズグズに溶けて死んでいる。

 

延々と消えない忌々しい炎を食い止めながら、時には生き残った僅かな人々を運ぶ救助活動を行う生活も、もう始まって一週間になる。

それだけ経って尚、火は盛り続け倒壊した建物に残された人々はまだ沢山残されていた。

 

ジュリエッタは重傷者の子供の意識が途切れないようにその手を握り、呼びかけ続けながら許可が降りるのを待つ。そうして少し立つと、連絡をしに向かったレスキュー隊員が戻ってきた。

 

「痛い……痛いよ……お母さん、何処なの……」

「お願い、気を強く持って……!許可は降りましたか!?」

「ああ、今受け入れ先の病院の許可は貰ってきた!!任せたぞ、アリアンロッドの嬢ちゃん!!おい、嬢ちゃんのMSを動かすからそこの道を開けてくれ!!」

 

 

レスキュー隊の隊員が先導してレギンレイズが動く為の道を確保する。ジュリエッタは自身の機体に乗り込んだ後、重傷者の子供をレスキュー隊員から受け取りレギンレイズを起動させた。

 

 

「ジュリエッタ・ジュリス、これより緊急時につきMSで重傷者を搬送します!!」

『任せたぞ嬢ちゃん!』

 

そうスピーカーを通して周囲に伝えた後、ジュリエッタは極力揺れのないように慎重にレギンレイズを加速させ病院へと向かわせた。

 

 

 

 

 

 

MAによる被害、その爪痕は推定で百万人近い怪我人や犠牲者、行方不明者を出すという形で人々の記憶に深く残り続けることとなる。

 

ビーム兵器が人を殺すのに最適であるとされた理由。それは火災という形で本体が通り過ぎた後も残り続ける性質の悪さにあった。

この二次被害により失われた人命は、むしろMAが倒された後の方が多いとまで言われている。

 

三週間もの間、炎は燃え続け……燃やすものが無くなって、ようやく消火された。しかし、火が収まっても尚ジュリエッタの心は全く晴れなかった。

 

その焼け焦げた街を見てこれが私達ギャラルホルンが守れなかった物であると痛感した事。そして……この一件が、自身も良く知っているイオク・クジャンがMAという危険物を預っておきながら、杜撰な管理の末に暴走させた『人災』である事をニュースで知ったからであった。

 

 

(私は、ラスタル様の剣。拾われ、ここまで育ててくれたラスタル様に恩を返す為に、大義の為にそう在ろうとして来た。でも……)

 

 

あんな光景を生み出したギャラルホルンに、ラスタルの言う大義などあるのだろうか?

少なくとも、ジュリエッタはかつての自分ほどそれを信じられなくなっていた。

 

あの日、助けようとしていた子供をジュリエッタは救う事が出来なかった。容態が急変した事で意識を失い、病院内に子供を抱えて連れて行った時にはもう、息を引き取っていた。

自身の胸の中で冷たくなっていくその姿を、ジュリエッタは忘れる事が出来なかった。

 

 

理想と現実の剥離に、ジュリエッタは今後も悩み続けることとなる……

 

 

 




新展開と前々から書きたかったジュリエッタ回。今ジュリエッタ何やってるんだと言う声への答え合わせでもある。
アリアンロッド艦隊の一部が大急ぎで地球へと降下してきたけど、その前にマクギリスがバエル(プルフラス)で何とかしたんで後始末に回ってました。怪我人や死者、行方不明者をひっくるめた人数とはいえ百万人近い犠牲者が出たのはビーム撒き散らした結果起きた大火災によるものという形になります。

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