アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

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今回は幕間の話を二本、投稿させて頂きます。
段々と構想が固まってきた……(埋まってる物について)





火星の王は、カクテルにすると飲みやすい

 

 

 

 

 

 

 

幕間『ラフタの決意』

 

 

 

日課のシミュレーターによる鉄華団との模擬戦を終えたラフタとアジーは、整備員の邪魔にならないように格納庫を離れ、連絡通路に置かれたベンチに座りながら話をしていた。

 

「そっか。アジーはだーりんの輸送業を引き継ぐ気なんだ」

「……うん。ハンマーヘッドの船長にならないかって名瀬と姐さんから話が来ててね。この仕事が終わってテイワズに戻ったら、名瀬の代わりに私が受け継ぐ予定なんだ」

 

 

まあ、名瀬がテイワズの会長としての仕事を熟すのに必要な人員をタービンズから引っ張っていくから、元のタービンズよりは少し規模は小さくなるけどねとアジーはそう言った。

 

名瀬の会長就任により、現在は輸送業を臨時休業しつつタービンズ総出でマクマードからの引き継ぎ作業を行っている。今のラフタやアジー達のように手が空いている面々は鉄華団へ出向してきているが、あくまでそれも一部に過ぎない。

 

しかし引き継ぎが終われば、タービンズのメンバー全員がテイワズに留まっている訳にもいかない訳である。

 

何せ今のタービンズはテイワズでも数少ない地球への正式な交易許可を持った貴重な企業。その利益は計り知れない物だ。

 

故に名瀬が現場に行けなくなってしまったとしてもその動きを止める訳にはいかない。それ故に、名瀬の居ないタービンズを指揮する新たなまとめ役が必要になったのである。

 

 

そしてそれに対して、名瀬とアミダは話し合いの末にアジーを指名した。MS乗りである為に度胸があり、冷静で判断力のあるアジーなら問題ないだろう、と。

初めはただのMS乗りである自分がそんな大任を任されて良いのだろうかと悩みはしたものの、名瀬にそんなアジーだからこそ俺達の居場所を任せられると言われ、それを引き受けたのであった。

 

 

 

「それで、あんたはどうするの?」

「どうって……今まで通りMS乗り続けるよ。私は偉くなるなんて柄じゃないし」

「そういう事じゃ無くて、ね。良いの?昭弘の事?」

「……あー、もしかしてお見通し?」

「割と前から気がついてたよ。良いじゃない、あんな真っ直ぐな奴今の時代早々居ないよ?」

 

 

アジーのその問いに、ばつが悪い表情でラフタはアジーに顔を向けて返答した。

 

 

「分かってるよ。でも私まだ、姐さんやだーりんに受けた恩を返しきれてないもん……今、大事な時期なのに私だけタービンズを抜けるなんて……」

「……ラフタ。本当にそれでいいんだったら、私はこれ以上何も言わない。でも、そうじゃないんならこれが最後のチャンスだよ。今までみたいに、入った理由がなし崩し的で、抜ける理由がある子ならタービンズを抜けられるなんて事、早々出来なくなるだろうからね」

 

 

 

ある意味、これが一番名瀬がテイワズの会長になる事を避けていた理由でもあった。

タービンズは、様々な理由を持って集まった名瀬の妻達で構成された組織だ。

ラフタのようにひどい扱いを受けていたが故に保護された者も居れば、自分から名瀬を好いてタービンズに所属した者もいる。

自分の意志でタービンズになった者は、一生名瀬に付いていくつもりでここに来た者達だ。彼女達は良い。だが自分の意志では無く、身寄りや戸籍も無いが故にここに流れ着いた女達も大勢居る。

 

そう言った女達が自分だけの居場所を見つけた時の為に、タービンズを去っていくという選択肢が特例ではあるが今までは認められていた。

 

だが、これからはそれも厳しくなるだろう。何せ、名瀬がテイワズの会長になるということはタービンズも全員テイワズ会長の妻や婚約者であると言う事になるのだから。彼女達にもそれ相応の振る舞いというものが求められるようになるのだ。

 

立場というものは容易に人の自由を奪う。名瀬はそれを理解していたからこそ、これまでテイワズの会長を引き継ぐ事に及び腰になっていたのである。他ならぬ名瀬自身の自由もそうだが、彼の家族達もまたそれに縛られることになるからだ。

 

愛する家族の自由や意思を守る為に名を上げたにも関わらず、名を上げる事でそれらが失われては意味が無い。そう考え、タービンズとしての自由さを保つ事のできる程度の地位である現状の維持を第一にこれまで名瀬はマクマードからの昇進の誘いを躱し続けてきた。が、流石の名瀬もテイワズの一大事となっては年貢の納め時と諦めざるを得なかった訳である。

 

無論、それが許される程の利益をテイワズにもたらし続けてきたからこその行動である。利益を自分たちだけのものとせず、テイワズ系の別企業へ商談を持ち込む事で結果的にタービンズのみならずテイワズ全体が利益を得る事のできる動きを名瀬は商人として得意としていた。

 

それ故に、テイワズの幹部達も今回の名瀬へのテイワズ会長指名に関して大体が納得して了承している。一番の対抗勢力であったジャスレイは死に、反対派であった者達も発言力を失ったが故の、不幸中の幸いとも言える状況であった。

 

そうして、テイワズ会長への正式な就任を行う為の準備をしているのが、現状である。

裏を返せば、まだ名瀬は正式な会長では無いが故に今ならまだタービンズを抜ける事も、ギリギリ可能な状況ではあった。

 

 

 

「私は、アンタが幸せになれることが名瀬や姐さんへの一番の恩返しだと思う」

「……アジー」

「ごめん、お節介だったね。この出向の期間が終わるまでは名瀬も正式には会長に就任する訳じゃないと聞いてるし、それまでじっくり考えて決めるといいと思う。大切な事だからね。ただラフタ。親友として、これだけは言わせて」

 

 

自分に素直になりな、私はあんたの幸せを願ってるから。とアジーはそう言って借りている自分の部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

「……良いのかなぁ。素直になっても……」

 

 

 

はじめは、体力だけが自慢の筋肉バカだと思ってた。何回も何回もシミュレーターを使ったMSの模擬戦を挑まれて、その度に返り討ちにしてやった。

 

唯の筋肉バカじゃないと知ったのは、そうして模擬戦を繰り返していく内に教えた技術を貪欲に取り込んでいくのを横から見ていたからだ。私が苦労して覚えた技術を、何回も何回も愚直なまでに練習して、自分の物にする根気が、昭弘にはあった。その姿に、私も教える事が楽しくなって、昭弘との模擬戦をいつの間にかまだかまだかと待ちわびるようになった。

 

それで段々と昭弘自身の事が気になっていって__この気持ちが何なのか、その時の私には良く分からなかった。

 

それが何なのか分かったのは、歳星のMSドックで昭弘と再会した時だった。

再会した昭弘は、以前よりも大きくなっていた。身体が、というだけでは無い。かつて鉄華団の団員達全員にあった張り詰めた弦のような危うい雰囲気は薄れ、大木のように揺るがない芯のような何かを昭弘は得ていた。

 

顔を合わせて話しているだけで、次から次へと話したい事が浮かんでくる。

 

ほんの少しだけ距離と近づけると困ったように照れるその顔を、思いっきりからかってあげたくなる。

 

その大きな背中に、寄りかかりたくなってしまう。

 

昭弘の隣に居たいと、思ってしまう。

 

 

 

(惚れた方が負けって、こういう事なのかな……)

「あ、ラフタ。ここに居たのか」

「っ!?あ、あ、あ、昭弘?!ど、どうしたの?!」

「へっ?いや、模擬戦が終わって喉乾いて無いかと思ってな。今食堂から飲み物貰って来たからそれを渡そうかと……いるか?」

「う、うんうん!一本貰うね!」

 

 

ラフタは慌てつつも昭弘の手から飲み物の入ったボトルを勢い良く受け取ると、刺さったストローからそれを飲んだ。

 

 

「……ふう、流石昭弘、気が利くじゃん」

「色々教えてもらってるのはこっちだからな。これくらいの気遣いはしなきゃ駄目だろ」

「相変わらず真面目だねー。昭弘って」

 

 

 

誰かを愛したことはあっても、誰かに恋をした事など一度も無かった。

自分がそんなことが出来るとも思っても居なかったが故に、彼女は戸惑った。駄目だと思っていても、それを抑える事など出来はしなかった。

 

この感情のままに突き進んでいって、その先に何があるのかなど分かりはしない。それでも……この思いを秘めたままにしたら一生後悔すると、そう思った。

 

 

(……中途半端は、駄目だ。やるなら、全力で)

 

 

それが一番私らしいと、ラフタは決心した。

 

 

「昭弘、私決めた」

「……何を、決めたんだ?」

「ちょっと、悩んでた事があって。昭弘の顔見てたら、それに決心がついたの」

「そうか。何だか分からんが……助けになったなら良かった」

「うん……今度の休み、何か用事ある?」

「いや、特には無いんでいつも通り鍛錬と建設の勉強でもしようかと思ってたが……」

「なら、ちょっと私の用事に付き合ってくれない?」

「ん?別に構わないが……」

「ありがと!それじゃ、私部屋に戻るね。また後で」

「ああ、また後でな。ラフタ」

 

 

そうしてラフタは、自分の部屋へと戻っていった。

 

(まずはだーりんと姉さんに、謝る事から、か……確かにタービンズの家族と別れる事は怖いけど……私は決めたから)

 

 

全力を込めた告白をしようと意思を固めたラフタの表情に、もう迷いは無かった。

 

 

 

 

 

 

幕間『火星の王』

 

 

 

 

夜の鉄華団本部の食堂。普段なら遅い食事を貰いに来たオルガ位しか居ないそこに、少し珍しい面々が集まっていた。

 

雪之丞やメリビット、メネリクやデクスター等の鉄華団における数少ない大人達と、三日月やオルガ、シノやユージン、チャド、ダンテ等の年長組のメンバー達だ。なぜこのメンバーが集まっているのかと言えば、これがとあるものの試飲会だからである。尚、昭弘は先にそれを口にした事がある事と、今日は夜勤の基地警備の仕事がある事からこの集まりには辞退している。

 

 

「これが、坊主の作ってた酒か……無色透明な、一見すると水みてえな酒だな」

「うん。だからびっくりすると思うよ?じゃあ、コルクを抜くね」

 

そう言って三日月はコルク抜きを使い、ビンの封を解いた。そして、グラスに少量づつ注いでいく。

 

「ん?なあ三日月、なんでそんな少しづつ注いでるんだ?味見だからか??」

「……飲めば、分かると思うよ」

 

その言葉に疑問を口にしたシノの顔に更に疑問が浮かぶ。が、そんな事よりも目の前にある酒が気になって考えるのは後にした。なにせあのアガベを使って作った酒である。おやつとしてアガベシロップの美味しさを味わっていたからこそ、期待も膨れ上がるという物であった。

 

 

「今日は忙しい中集まってくれてありがとう。やっと、飲めると思う味の酒が出来たから飲んだら感想言ってくれると嬉しいな。それじゃあ、乾杯」

 

乾杯、と静かにグラスを掲げた後、それぞれがそれを口にした。

 

 

次の瞬間、それを一気に口にし過ぎたユージンが思いっきりむせた。

 

 

「やっぱ、初めはそうなるよね、コレ」

「げっほげほッ、な、何だよこりゃ!?アルコールキツすぎないかこの酒!?み、水を……」

「あー……なるほどだからか……こりゃ、そんなに沢山は飲めんわな」

 

むせるユージンに水を渡す三日月を尻目に、シノはその酒をちびちびと舐めるように飲む。その強い酒精に、メリビットやメネリクも難しい表情でそれを口にしている。

 

「ほー……こりゃ、凄く強ぇ酒だな……だが、悪くねぇ。いや、むしろ美味え」

「そうですね……安物の合成アルコールと違って、作り物感が無い。新鮮で辛口の良い酒じゃないですか」

 

対して、火星出身の大人である雪之丞とデクスターはそれを上機嫌で口にした。火星の安酒の酷さをよく知っているこの二人からすれば、酒精が強い事よりもその味わいの良さに驚いたのであった。かつてのCGS時代の、まだマルバが腐ってなかった頃に祝い事の席で口にした上物の酒を思い出すが、それと遜色ないと思える味だったからだ。

 

 

「うーん……あ、慣れてきたら結構イケるわね。おかわり、頂いても良いかしら?」

「気に入ってくれたなら良かった。でも、強すぎるから気をつけて」

 

そう言って三日月は少し嬉しそうにメリビットのグラスにその酒を注いだ。

この酒は三日月がその作り方からボトルに詰めるに至るまで、関わって出来上がった物である。それ故に、それが受け入れられた事がとても嬉しく感じられた。

 

 

「……な、なあミカ。悪いが、なんかで割って飲んでも構わねぇか?ちと、このままじゃオレにはきつすぎるんだが……」

「お、俺も……つーかこのままじゃ飲み切る自信ねーぞコレ……」

「うん、勿論……というか、初めの一口以外はそうするつもりでこれ、用意してたんだけど……」

 

 

そう言って、三日月は安物のオレンジジュースのパックをオルガとユージンに手渡した。

三日月自身、あまりにも酒精が強すぎる上に大した種類の酒も飲んだことのない自分では酒の味の判断がつかない為にこうしてここにいる面々を集めて試飲会を開いたのである。そう思う者が出る事は折り込み済みであった。

 

 

「あと、メネリク先生に頼まれてたこれも用意しておいたよ。でも、こんな物が酒に合うの?」

「おお、ありがとう三日月。これは別の酒を飲む時の定番の組み合わせなんだ。だからこのお酒にも合うと思うよ」

 

 

度数が高いと聞いて何となく合うんじゃ無いかと思ったと言って、メネリクはトマトジュースを受け取る。無色透明なその酒に真っ赤な彩りが加えられ、軽くスプーンでかき混ぜるとメネリクはそれを口にした。

 

「うん、美味しい。このお酒、カクテルのベースにも合うんじゃないかな? 地球でそれなりに酒は飲んできたけど、これは初めて飲む味だね」

「俺ぁ逆にこうやってロックで飲むのが気に入ったぜ。確かに味に癖はあるが、こりゃいい酒だな……」

 

 

ツマミに用意していたナチョスを食べながら、上機嫌で雪之丞はちびちびと酒を飲んだ。

 

思えば遠くへ来たもんだと、雪之丞はオルガのコップにオレンジジュースを注いでいる今の三日月を見てそう思った。

 

 

 

そうして試飲を終え、酒の味が分かる者達からは概ね好評であった事から三日月はオルガやクーデリアと話し合いながら、この酒を生産し販売するのに必要な準備を進めていく事となる。

 

この酒の名前は、火星の王(Mars King)

 

きっとこれが火星で一番強い酒だなー。と呟いたシノの言葉に、酔ったユージンが『ならこいつは火星の王だな!火星で一番強い酒の王様ってな』と言ったのを飲んでいた皆が気に入り、この名前に決まったそうである。尚言った当人は度数が高いせいで部屋に戻ると即寝落ちするほどに深酔いしてしまったせいで記憶が飛んでしまい、何故この名前になったのか疑問を抱いていたそうな。なんとも締まらない話ではあるが、この酒の強さが分かりやすい経緯でもあった。

 

 

こうして厄祭戦により失われたリュウゼツランの酒が、火星にて静かに蘇った。

それは小さな一歩であったが、後の鉄華団の財源を支える新たな事業の始まりを意味する重大な意味を持つ一歩であった。

 

 

 

 

 

 





※今回出てきた火星の王はテキーラやメスカルで言うとシルバー、全く追熟させてない透明なものになります。
※お酒は二十歳になってから!!この作品は未成年の飲酒を推奨するものではありません(ミカ達がガッツリ飲んでる事から目を背けつつ)

※火星の安酒は、とても酷い味な設定(ロシアの代用酒のがマシなレベル)
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