アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

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『注意』
砂糖回。ミカクー、昭ラフ等が含まれます。これらがお好きな方はそのままお進みください





【悲報】クーデリアさん、お酒の勢いで三日月を押し倒す【火星の王ェ……】

 

 

 

その少年には、記憶が無かった。記憶が無いにも関わらず、知識だけは何故か持っていた。まるで外部からそれを植え付けられたかのように。

 

一番初めに見た光景は、酷く寒いカプセルの中に自分が押し込められていた光景。そして、その足元に白骨死体が転がっているという訳の分からない状況であった。

 

何故か知っている知識の基にそのカプセルの扉を開き、外に出てみれば自分が入っていたそのカプセルと同じものがいくつも並んでいた。しかしその中に入っている者は自分以外、皆物言わぬ亡骸となっていた。

 

記憶がないにも関わらず、何故かそんな亡骸を見つめる度に涙が溢れて止まらなくなり、散々泣いた後少年は持っていた知識の基にその施設の中にある僅かな衣服や食料、拳銃などの物資を集めて、その施設から外に出た。

食料も水も、このままでは一月と持たない程度の保存食しかこのシェルターには残されていなかったからである。

 

 

失われた記憶と何故かそれでも残っていた知識。この2つに疑問を懐きながらも生きる為にその施設から這い出る事を余儀なくされたその少年は記憶の中の頼りない地図を頼りに、地下に作られたシェルターから火星の荒野へと歩き出した。

 

目的地は、人類の生存圏であったという町だ。

 

この時はまだ、生きる為に自分のような子供はどんなことでもしなければならない土地であるという事など、想像すらしていなかった。

 

 

 

 

 

「……んん、もう朝か。また懐かしい夢を見たもんだ」

 

 

それはまだ、自分が何も知らなかった頃の記憶。

向かった先の町にたどり着いたはいいものの頼りになる相手も無く、食料も底を尽きかけ、残ったのは子供の手には重たい拳銃だけと、詰んだ状況に追い込まれた俺はその町を歩いていると自分よりも小さい子が、行き倒れていた姿を見つけてしまった。

 

まだスレておらず、良心も甘さも世間知らずさも抜けきってなかったその頃の俺は行き倒れたその子を背負って裏路地の一角に連れていき持っていた最後の水と食料をその子に与えた。今思えば、とんでもなく甘い行動だと自分でも思う。

 

だが、その出会いと甘さが生涯の友との縁を繋げてくれたのだから、人生何が起こるかなんて分からないものだ。

 

 

 

(もう、忘れかけてたな……俺が目覚めたあの場所の事なんて。あの時はミカと一緒に生き残るのに必死で、俺自身が何者なのかなんていう疑問はもうどうでもよくなっちまってたからな)

 

 

あの謎のシェルターから這い出てきた少年だったオルガ・イツカは、初めから文字や計算の仕方や火星の大まかな地理について知っていた。

だがそんなもんがあった所で、火星の孤児が働ける場所なんてものは早々無い。

 

結局知識を悪知恵に変えて、あの時食料と水を分けた事で一緒についてきてくれる事になった三日月と一緒に盗みや悪さを散々してなんとか幼少期を生き残って来た。だが、あまりにもやりすぎたせいで俺も三日月もその町には居られなくなってしまった。そうして夜逃げ同然の形でクリュセに向かう事となり、そのときに三日月と仲の良かったアトラもあの娼館から連れ出して俺達はあの町を出ていった。

 

そうしてクリュセにたどり着き、CGSの募集を見つけた俺達は命がけで阿頼耶識を体に埋め込む雑な手術から生き残り、後は知っての通りだ。

 

 

「まあ、今更思い出した所で何だって話だがな。さて、シャワー浴びたら今日も頑張るか……」

 

 

 

疑問は絶えない。いったいあの施設は何であったのか?自分は何者であったのだろうかと。

 

だが、今更自分が何者であろうと鉄華団の団長であるオルガ・イツカである事は変わらない。仲間達と共に手に入れた今以上に、優先すべきルーツなど自分にある筈が無いのだから。

 

そう思ったオルガは自身のルーツに対する疑問に一旦蓋をし、意識を切り替えて今日の仕事は何があったか考えながら朝の支度を済ませていった。

 

 

 

 

そうしていつものスーツに着替え、社長室に着いたオルガは鉄華団のジャケットをハンガーに掛け、パソコンの置いてある机の席に座ると、一通のメールが届いていることに気がついた。

 

宛先が今日の昼からの仕事の依頼主からであった事を確認すると、オルガは即座にそのメールを開封し、内容を確認していく。すると、段々オルガの表情は険しくなっていった。

 

 

「……おいおい、このタイミングで依頼ドタキャンかよ!?一体原因はなんだ?」

 

 

メールの内容を更に読み進めていくとその理由が書かれており、それはあの地球でのあの事件が関わっていると記されていた。

 

 

「……今更、上からの辞令が急にこっちに飛んできたとか向こうも災難だな。そういう事なら仕方ねぇか……キャンセル料もしっかり振り込まれてやがるし……」

 

 

とりあえずおやっさん達にMSの積み込みの中止を連絡して、それから皆に今日の仕事キャンセルになったことを伝えて……と、今からやるべきことを順番付けていると、オルガはある事に気がついた。

 

 

「ああ、そういや昨日ミカはクーデリアの所に泊まってたな。後で連絡しないとな……」

 

 

恋人の所に泊まっている相棒の事を思い出し、自分にもいつかそういう相手が出来りゃいいんだがとオルガはほんの少しだけ三日月のことを羨ましく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んっ……?……っ!?」

 

温かい何かを抱きしめている事に気がついて、私は目を覚した。

その手の中には、あどけない表情で眠る 三日月(最愛の人) がそこにはいた。

 

 

(……そうだ。昨日は仕事が終わった後に三日月が作ったっていうあのお酒……『火星の王』を持ってきてくれて、一緒に自宅で飲んで……ああああっ……)

 

 

やってしまった。あまり慣れていない強いお酒の勢いに任せて、彼を……押し倒してしまうなんて、なんてはしたない事を。

いずれ、私も彼とはこういう事をしたかったと言うことは否定しない。だが、もっとちゃんとした形で最初はしたかったと思うものの時既に遅し。後悔先に立たず。

 

 

酒の抜けた頭で昨晩のことを思い返してみれば、酔った自分が三日月に対して滅茶苦茶に甘え倒した記憶ばかりが浮かんで来て__

 

 

「……おはよう、クーデリア」

「おっ、おはようございます。三日月……その、昨日はゴメンナサイ……」

「……?なんで、謝ってるの?可愛かったよ、昨日のクーデリア」

「かわっ……!!で、ですが、三日月に迷惑を……」

「……うん。やっぱり可愛い。迷惑なんて思わないよ。俺で良ければ、もっと甘えてきても良いからさ」

「は、はい……不束者ですが、よろしくおねがいします……」

 

気恥ずかしさから、後半はかき消えるような声でクーデリアはそう言った。その回答代わりに、三日月はクーデリアに顔を近づけ、軽く額に口づけをした。

 

「シャワー、先に借りていい?」

 

そう言ってベッドから立ち上がった三日月を、クーデリアは首を縦に振って見送る事しか出来なかった。自分の顔が真っ赤になっているのを自覚しながら、クーデリアは潰れるまで酔う事は絶対に避けようと意思を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

シャワーも浴びて、朝食もクーデリアと一緒に食べて三日月が本部に帰ろうとした所で、オルガからクーデリアの自宅に電話が掛かってきた。何かあったのだろうかと思いながら三日月はクーデリアから受話器を受け取った。

 

「えっ、昼からのあの依頼キャンセルになったの?」

『ああ。今朝急に連絡が来てな……困ったもんだぜ。例の地球の事件の影響で意図せぬアクシデントがあったみたいでな。まあ、その分多めにキャンセル料も貰ってるから文句は言えねぇさ』

 

 

最近定期的に行っていたその依頼のキャンセルに、軽く三日月は驚いた。なにせ依頼主はあのギャラルホルン火星支部。二年前の汚職と腐敗の巣窟であった火星支部とは異なり、今の火星支部はマクギリスが選んで送った人員によりかなり真面目に職務に取り組む者達で構成されていた。そんな彼らに依頼をこんなにも直前にキャンセルされたのは今回が初めてである。

 

最近、鉄華団はMSを使った模擬戦の相手をする演習の依頼を定期的にギャラルホルン火星支部から受けていた。報酬額はそこそこだが模擬戦で使うペイント弾やMSの運用費は向こう持ちでかつ、こちらの所有するMSを使用していいという好条件の依頼であった。

 

鉄華団には貴重な定期的な収入が入り、ギャラルホルン火星支部には阿頼耶識持ちの相手に対する知識や二年前の事件や火星を荒らす海賊の討伐等で幾度となくMSによる実戦を経験している鉄華団と命の取り合い無く戦える貴重な経験を得られると、お互い得をする形の依頼であった。

 

しかし、例のMAによる事件から数ヶ月経った今日になって急に火星支部のギャラルホルン隊員達にも地球からの正式な辞令が来たらしく、その関係で一度向こうに戻らなければならなくなった隊員達がかなりの数現れてしまった。それで模擬戦どころでは無くなってしまった為に、今日予定されていた依頼は急遽キャンセルとなってしまったようだ。

 

交代要員は用意されているとのことなので、火星の治安維持活動に支障はないとの事ではあるが、いささか慌ただしくなるので状況が落ち着き次第また依頼させてもらうと現火星支部長である新江・プロトからオルガは謝罪と依頼キャンセルの連絡を受けたのだった。

 

 

 

「……あれ?じゃあ、今日の仕事無いの?」

『そうだよ。こんな急に他の仕事も入れられねぇし、まっさら白紙って訳だ。仕方がないんで今日は臨時休業って事になっちまった。他の団員たちにも今日はもう休みを出したから、ミカにも伝えておこうと思ってな。まだそっちに居てくれて良かったぜ。俺も今日は久々にやる事無いから経営の勉強でもするかな……それじゃ、またあとでな、ミカ』

「うん、またあとで」

 

 

オルガが電話を切ったのを確認すると、三日月は受話器を置いて、クーデリアの方へと顔を向けた。

丁度いい機会だと、そう思ったから。

 

 

「クーデリア、実は急に休みになってしまったんだけど、今日は仕事だったっけ?」

「いえ、今日は私もおやすみですよ」

「なら、二人で街にデートに行こうか。クーデリアと一緒に行きたかった所があったんだ」

「デート、ですか!?はい、是非……!」

 

 

あの三日月からまさかデートに誘われるとは思っても居なかったクーデリアは、ようやく顔から引いた熱がまた吹き出る感覚を感じつつ普段は中々無い二人きりで過ごす時間に、心が高鳴った。

 

(……デートって、そんなに嬉しい事なんだ。アトラに教えてもらって、良かったな)

 

自然と笑みがこぼれだすクーデリアのその姿を見て、そんなズレた事を考えながら三日月は自身の妻から教えられた知識の元に、デートの計画を練っていった。

 

恐るべきは恥ずかしがる事なく好意を告げることができる三日月の肝の太さか、それともそういった行為に対して無知な三日月に女の子が恋人にしてもらえると嬉しいことを教えこんだアトラか。どちらにせよ、クーデリアは今朝から三日月に手玉を取られっぱなしである事は誰が見ようがそう思うであろう事実であった。

惚れた方が負けであるという言葉は、きっと正しいのであろう。

 

 

 

 

 

 

クリュセの街は、火星の中ではそれなりに栄えている。表通りであれば飲食店や雑貨屋、洋服屋やジュエリーショップ等も建ち並んでいる区域も存在している。火星の裕福層や中流層の需要を満たす為の店である。

 

無論、ここは火星。裏通りに出ればスラム街や貧困層が暮らす区域も存在している。しかしそういった者達はこちら側にはそうそう来ない。それは暗黙の了解というものであり、関わりあってもろくなことにならないとお互い知っているからだ。たまに無謀にもこちら側へ来て盗みや恐喝を働こうとするものも出るが、そういった者は即座に巡回の警備員により無力化される。無論、そういった者達への命の保証などは無い。ここでの安全とは、ある程度の資金を持つ者達の為のものであるからだ。

 

裏通りや裏道に入らなければ比較的安全なこの場所はデートスポットとしても、それなりに機能している。

 

 

「昭弘、あっちの服屋見に行こうよ!」

「……あれは男物の服屋なんだが」

「そうよ?昭弘、せっかくそんな引き締まってるんだから色々似合うと思うんだよね」

「俺の服を見る気なのか?いや、折角の休暇なのに悪いって」

「だって昭弘、いつもその格好だし。私服の1つや2つ位、持っててもいいじゃん。アタシが選んであげるね!!」

「ああ……それもそうだな」

 

 

もうデブリじゃないしなと、野暮な事を言いかけた口を閉じて昭弘は腕を組んで一緒に歩いているラフタの歩調に合わせながらクリュセの街を進んでいった。

 

 

 

先日、ラフタは昭弘へ告白をする為に歳星にいる名瀬とアジーに連絡を取り、タービンズを抜ける意思を告げた。

 

タービンズは名瀬を愛し、一夫多妻である事を認められる者だけがいられる居場所だからである。他の人と一緒になる覚悟を決めた者は、当然タービンズを去らなければならない。名瀬も多くの女を愛すると覚悟した以上、去る覚悟を決めた者を名瀬は追うことはない。

 

ただラフタの場合、幼い頃にあまりにも酷い環境で肉体労働をさせられていた姿を見たアミダと名瀬に拾われタービンズに入ったという経緯もあり、名瀬からしてもアミダからしても祝福の心の方が大きかった。半ば娘のようにラフタの事を思っていたからだ。境遇故に愛は知っていても恋を知らず、する機会も無かったラフタが誰かに惹かれ、恋をするようになって綺麗になっていく様を見て二人は我が事のように喜んだという。

 

そんなラフタの思いを知っているアミダと名瀬はそれを容認し、無事タービンズを抜けたラフタは、昭弘に対して一世一代の告白を行った。

 

全てを賭したその告白に、昭弘は応えた。元々、昭弘も自分がラフタに惹かれている自覚はあったもののラフタは鉄華団の兄貴分であるタービンズのリーダーである名瀬の婚約者。

元とはいえデブリ出身の自身など到底手の届かない存在であり、血迷えば恩人達全員に迷惑を掛けることになる。その為当然昭弘は自身の好意に蓋をする。我慢する事は慣れていたから。

 

しかしそんな天上の女がわざわざ自分の為に自分と同じ場所にまで降りてきて、家族から一人抜けてまで好意を告げてくれたとなれば、話は別だ。当然昭弘はその告白に応え、晴れてこの二人は恋人同士となった。

 

そうしてタービンズを抜けたラフタは正式に鉄華団に移籍。知らない仲ではない相手であるが故に他の団員達からも歓迎され、今では団員達に阿頼耶識無しでの正しいMSの操縦技術を教える教官として活動している。

 

 

そんな経緯を経てカップルとなった二人であるが、今日まで同じ日に休みが取れる事が無かった。仕事が潰れた事自体は残念だが、そればかり気にしていても仕方がないと気分を入れ替えるためにもクリュセの街に繰り出して初デートとなった訳である。

 

 

「似合う服で着れるのあって良かったー。よく考えたら、昭弘に合うサイズの方を気にするべきだったかもね。昭弘おっきいし」

「選んでくれてありがとなラフタ。俺一人じゃ、服なんて選ぶの初めてだったもんだから自分に何か似合うかなんて分からなかったな」

「いいよいいよ。さ、次何処に行こっか?結構ぶらぶらしてたけど、以外と賑わってて治安良くてびっくりだね、クリュセの街って」

「最近ハーフメタル事業で火星全体が潤ってるからだ。前はもう少し閑散としてたんだがこういうのを見ると、二年前俺達が踏ん張った事に意味があったんだなって実感出来るな。まあ、俺達は仕事をしただけで本当に凄いのはクーデリアのお嬢なんだろうが……」

「良いんじゃない?私達も命かけてやり遂げたんだしさ。じゃ、次どこを見よっか?」

「そうだな、今度はあっちに……ん?あれは」

 

ラフタの選んでくれた服の入った紙袋を手に持ち、服屋から出てきた昭弘は向かい側のジュエリーショップに目が止まった。

その店自体は昭弘自身の興味を引く店と言う訳では無かったが、その出入り口から出てきた人物は先程口にした昭弘も良く知る者達だったからである。

 

「……三日月?それにクーデリアのお嬢も」

「え、ウソ?!ホントだ、三日月にクーデリアじゃん!もしかして、私達と同じようにデート?意外とヤるじゃん三日月」

「確かに意外だとは思うが……ん?」

 

恋人繋ぎで街を歩いていく二人の後ろ姿を眺めていると、二人の同じ指に見慣れない銀色に輝く何かが見えた昭弘はそれが何かを察した。

 

 

「ラフタ、邪魔したら悪いから向こう側へ行こうぜ」

「……そうだね、私達は私達で楽しもうか。なんかすっごい、二人とも幸せそうだったし」

 

そう言って、再び手を組んだラフタと昭弘はクリュセの街中を歩いていった。

二人の左手の薬指に光るそれを見た昭弘は、いつか自分もそれをラフタに贈りたいと、そう思うのだった。

 

 

 




難産だった理由は読んでいただければ分かると思います_:(´ཀ`」 ∠):_

ミカクーも昭ラフも欲望のまま詰め込んでたら二ヶ月キンクリ食らった。勿論アトラの分の指輪も用意してあるので三日月が帰ったら更に甘くなります。
浮気してるように見える?むしろこの二人くっつけたのアトラなんだよなぁ……(一緒に幸せになろうと誘ったのはアトラからである模様)
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