アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

22 / 28
これがガンダム!悪魔の力よ!!

 

 

 

 

青い閃光のような何かが通り過ぎる度に仲間達のMSが刺し貫かれ、もしくは両断されていく。

その光景は海賊達にとって正に悪夢としか言いようがなかった。

 

「な、なんなんだよ、なんなんだあのMSはぁ!?」

 

マン・ロディに乗った海賊は手にしたマシンガンの弾丸をバラまくもののその青い異形のMSの影すらも撃ち抜く事が出来ず躱され、次の瞬間には細長い針のような槍が装甲の隙間に投げられ串刺しにされた挙句、槍自体に仕込まれた爆薬により内側から破壊された。

 

「かっ、敵うわけがねぇ!!おいお前ら、逃げ……う、うわあああぁ!?」

 

逃げようとした次の瞬間には手にしたハルバードを加速力と共に叩きつけられ、胴体を無理やり引き千切られた海賊のMSがその動きを止め、ぷかりと宇宙空間を漂った。

 

 

地球がMAの被害を受け、ギャラルホルンの地球への防衛網にスキが出来た事を好機とみたその海賊達は地球圏周辺の交易船を圏外圏のように襲っていた。圏外圏とは比べ物にならない額の戦利品に喜び勇んでいたその海賊達はすっかり引き際を見誤り、その場所が誰のものなのか忘れ略奪行為に励んでいた愚か者達である。

 

そんな無謀な者達に対して、本来の業務に戻ったアリアンロッド艦隊が黙っている訳がなく、即座に居場所を割り出し精鋭たちを送り込み海賊共に襲撃を仕掛けた。

それだけでも彼らにとっては致命傷であったが、より運の無いことにとある計画により作り出された異形のMSとそのパイロットが機体の宇宙空間でのテストを兼ねてアリアンロッド艦隊に出向していた事が、この蹂躙と呼ぶに相応しい光景を産む原因となったのであった。

 

 

(……恐ろしい加速力の機体だとは思っていたが、いざ使えるようになるとここまで一方的に戦えるようになるとは……これでは戦いですらないな)

「ちょっと、速すぎませんかその機体!?なんて推力してるんですか。レギンレイズでも追いつけないなんて……!?こっ、これは……」

『すまない、結果的に独断先行になってしまった。問題なく動かせるようにはなって来たが、まだ自分もこの速さに慣れていなくてな』

 

遅れて援護にやってきたジュリエッタが、その凄惨な光景に息を飲んだ。突き刺さった槍により内側から爆破された機体。コックピットのある胴体部からハルバードで真っ二つにされた機体。コックピットだけを的確に貫かれた機体。攻撃を受けたであろう武器ごと無理矢理真っ二つに引き千切られた機体。理由は様々だが破壊され再起不能となった海賊達のMSの残骸がざっと見渡しただけで二桁は浮かんでいた。

 

「出撃して、たった三分間で……何機撃墜してるんですか、これ」

『今落としたので11機目だ。大した腕のある相手は一人も居なかったとはいえ、恐ろしい機体だよ、こいつは』

 

ガンダムヴィダール・ガングニールと、その搭乗者であるヴィダールは、出撃してたった3分間の間に海賊達のMSを11機ほどスクラップへと変えていた。

別に無理をしたわけでもなんでもない。むしろエイハブスラスターの出力に制限を設けて機体性能的には六割ほどの稼働率だ。

 

だが、その程度でもこの光景を生み出すには足りるほどの性能がガングニールにはあり、それを効率よく行える能力がヴィダールにはある。阿頼耶識が齎す力は、何も機体を自分の体のように扱えるというだけではない。接続された搭乗者に対して機体越しに取得した様々な情報をナノマシンを介して感覚的かつ瞬時に取得させる事も可能なのだ。

 

これにより、海賊達のMSの位置を知覚したヴィダールは効率的に敵対者を無力化させる戦闘プランを脳内で構築し、そして実行した。人と機械を繋ぎそれらを超えた戦闘力を発揮させるマンマシーンシステム、阿頼耶識とは本来そういうものである。

人の持つ取捨選択を行う能力と、機械が持つ情報収集力を高度に融合させることで擬似的に少し先の未来の結果すら知覚することが可能となるのだ。

高度なAIを持ち合わせていたものの、あくまで機械でしか無かったモビルアーマーが得られなかったその力によりかつての人類はモビルアーマーの脅威を打破したのである。

 

 

『それよりも見つけたぞ。アレが海賊達の旗艦だな』

「……戦っていた仲間を見捨てて、逃げようとしているのか!!」

『思い切りだけは随分と良いな。逃しはしないが』

 

 

そう言ってヴィダールは手にしていたハルバードをサブアームに渡し背中のラッチにマウントさせて、腰からバーストジャベリンを引き抜き左腕部のレールガンを変形させると、それを装填した。エイハブツインリアクター由来の膨大なエネルギーが一気に蓄電されることで、余剰電力がバチバチと輝き出す。

 

 

『お前達はやり過ぎた。ここで刈り取らせてもらおう』

 

 

次の瞬間、機体名の由来となった試作変形兵装『ガングニール』からバーストジャベリンは放たれた。逃げようとしていた海賊の船の推力部をナノラミネートアーマーで覆われた装甲すらも無視するかのように貫通し突き刺さった後、槍に仕込まれた火薬が点火し爆発した。これにより海賊の艦は推力を失ったのか、その動きを止めた。

 

 

ダインスレイヴという禁止兵器がある。高硬度レアアロイ製の槍を電磁投射砲で放つ代物で、ナノラミネートアーマーを容易に貫く過剰な威力からギャラルホルン内でも使用には多大な制限がある。

 

このガングニールもまたそれに類似した兵器だ。ただし、弾丸であるバーストジャベリンは高硬度レアアロイ製では無い最近開発されたカーボン由来の新開発の素材で作られている事や、それ故に本来のダインスレイヴほどの貫通力を持たない点とあまり長距離で放ってしまうと摩擦熱で燃え尽きてしまう欠点などをあえて持たせた部分からダインスレイヴとして認められるような条件を満たしていない。それ故に、グレーゾーンの通常兵器として扱われているという代物だ。

 

これも、もしもに備えた代物だ。ガンダムヴィダール・ガングニールは対MA用の切り札として開発された機体。忘れかけていたMAに対する恐怖の現れでもあり、その対抗手段としてこのような多少グレーな装備も採用されていた。場合によってはこの計画で生産されるであろう制式採用型の第二期ガンダムフレーム機にも搭載される事となるだろう。

 

 

『ヴィダールより旗艦へ、目標は沈黙した。追撃は……了解。これより帰還する……ジュリエッタ、ついてきて貰って悪いが、どうやら俺達の役割はここまでのようだ。残りは他の部隊に任せて一旦帰還するぞ』

「……はい。その機体、色々ととんでもないですね。これが……ガンダム」

 

 

味方にすれば絶対的なまでの頼もしさがある事まで含めて、恐ろしい程の力。まさしく悪魔のようだと、ジュリエッタはその機体を見て思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

【厄祭の再演事件】から、数ヶ月。あの地獄を経験したジュリエッタはかつて程、ギャラルホルンの掲げた正義のような綺麗事を信じられはしない。それでも、パイロットとして戦う他に自分に何か出来る事がある訳でも無い。

 

だからせめて、次は間に合うようにと彼女は再びパイロットとして戦場に立っている。それが今、地上で事実上二人だけしか残っていないセブンスターズの片割れとしての役割を果たしている恩師にして主人であるラスタルに対し自分が出来る事であると信じて。

 

そして、そんなジュリエッタに対して新たに与えられた任務は少し変わった内容の任務であった。

 

 

 

「……ようやく見慣れてきましたね、その仮面」

『意外と快適なんだぞ?ノーマルスーツのヘルメット代わりに酸素も供給してくれる上、MSの搭乗時にはディスプレイ上の任意の情報を視界に投影してくれる素敵な代物さ』

「ああ、だから出撃時でさえもその仮面付けてるんですか……てっきり変なこだわりでもあるのかと」

『俺自身にはそんな趣味は無い。ただこれは、生命維持装置も兼ねてるので人前では外せないだけさ』

「訳ありだとは思ってましたが、そんな大怪我を負っていたのですか?それにしては……」

『大したことじゃない。単に身体は治せたが顔の分の再生治療の費用が払えなかっただけだ。自分への戒めとして傷跡を残している面もあるがな』

「そう、ですか」

 

 

仮面の男、ヴィダールのその返答に少し疑問を感じながらもジュリエッタはMSパイロットをやっていればそういうこともあるかと納得をした。

再生治療は高い。特に顔等の繊細な部位であれば尚更だ。地球圏ではあまり好かれていないが機械により機能を代替する治療の方が安価で済む。この仮面もそういったものなのだろう。

 

フルフェイスのヘルメットを身に着けた大柄なその男は、今から一週間前に新型の機体の宇宙での動作と実戦でのデータを取る為に技術者と共にアリアンロッドへと期限付きの出向をしてきたよそ者である。だがそんな見た目の割には案外気安い性格で話しやすく、同じように戦場に出るアリアンロッド艦隊のパイロット達とは既にそれなりに打ち解けていた。顔こそあわせなかったが共にあの地獄を走り抜けた相手であることも大きかったようだ。

 

そしてジュリエッタは、一時的にアリアンロッド艦隊へ出向してきたヴィダールの僚機兼案内役としての任務を与えられていた。

 

 

「あの機体、初実戦だったそうですけど全く問題なさそうですね。しかも全くの無傷じゃないですか」

『いや、そうでもない。薄々気がついてはいたが今回の実戦でアレの欠点がはっきりと分かった』

「というと?」

『僚機が追いつけんし、色々と加減が効かん……重ねて言うが、置いていってしまって本当に済まなかった。次は気をつける』

「別に気にしてませんよ。まあ、流石にここまで規格外とは思っていませんでしたけど」

 

 

 

ヴィダールもガングニールを扱えるようにはなったが様々な意味で馬力があり過ぎるこの機体を持て余してもいた。

 

グレイズ・アインの手足を強化発展させたフレームはとてつもない破壊力を容易に生み出し、搭載されたエイハブスラスターは地上であれ宇宙であれ関係なく過剰なまでの推進力と速度を与えてしまう。

 

結果生み出されるのは恐ろしいまでの暴力だ。MSだろうと戦艦だろうとそうそうこの機体を止められる存在は居ないだろう。だが裏を返せばどんな相手でもこの機体では徹底的に破壊する事しか出来なくなる程に力加減に関しては苦手な機体でもあった。

 

全力稼働となれば阿頼耶識を持ってしても機体の制御で手一杯となり、しっかりとした対G訓練を受け、専用のパイロットスーツを着込んだヴィダールでなければとてもでは無いが扱えない。下手にヴィダール以外が乗り込めば機体に殺されることとなるであろうじゃじゃ馬だ。

 

そしてこの機体について行ける機体は、現状ではガンダムフレーム位となるであろう点が運用上でもこの機体の扱いの難しさを高めていた。

 

そんな欠陥機と言っても差し支えない代物ではあるが、現状の技術力でMAに対抗できる手段はこういった力技に頼るしかないのもまた事実。後に開発されるであろう正式採用機も流石に此処まで尖りきった仕様にはならないだろうが、それでも運用には腕利きのパイロットが必要となるであろう。まあ、それでも問題はあるまい。

 

第二期ガンダムフレーム計画の機体に求められている役割は、かつてのガンダムフレームと同じく兵隊ではなくもしもの時に脅威を打開する為の銀の弾丸なのだから。一般的な機体ではMAには勝てないと、誰しもがあの事件で痛感したのである。

 

 

 

「まあ、そうですね。そこまで言うのでしたら、シミュレーターで模擬戦の相手になってくれませんか?貴方ほどの腕前のMSパイロットとの戦いなら、私も得られるものは大きいと思いますので」

『ああ、ガングニールのシミュレーターのデータは機密上まだ明かせないのであの機体の前身となる機体のデータを使用することになるが、それでも良ければ喜んで相手になろう』

「では、お相手よろしくお願いしますね、ヴィダール」

 

そう言ってジュリエッタは模擬戦用のシミュレーターへと向かっていき、ヴィダールはその後をついて行った。

付いていくと決めた者は違えども、その者の為に強くなろうとする戦士たちの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

幕間『火星の王、歳星にて』

 

 

 

「ふむ……これを本当に火星で、あの三日月の坊主が作ったのか?いい意味で予想外だ……強くて美味い、いい酒じゃないか」

「気に入ってくれたようで何よりです。アイツらもオヤジが気に入ってくれたと言えば喜ぶでしょう」

「『火星の王』なんざ、随分と吹いた名前をつけたもんだと思ったもんだが……こりゃ油断して飲み過ぎたらもってかれるおっかない酒だな。ある意味でアイツらしい……で、これはどの位の量作れるんだ?」

 

 

名瀬が後継者として明言されてから、その周囲へのアピールのため、そして会長職は辞したもののマクマードは健在である事の証明の為にこうして平時は定期的に時間を設けて名瀬と飲む機会を設けていた。

 

名瀬へ会長職の引き継ぎはほぼ済ませているが、テイワズは圏外圏という無法地帯で成り立ったが故に会社としての顔を持ちながらもマフィア組織でもあるという少々特殊な形式が成立している。その為まず名瀬が引き継ぐのは表側の役職の会長であることをテイワズ全体に知らせており、マフィアとしてのテイワズの長は相変わらずマクマードである。その上で、名瀬は次期後継者として若頭に就任した。

現トップと次期トップの仲が良いと言うことを見せつける事で、組織内の無駄な諍いを無くす事が狙いである。

 

無論、二人とも純粋に酒が好きであるが故にこうした理由を作って飲もうという魂胆もある。そんな二人であるが故に、鉄華団が作り出し名瀬に贈り物として渡された『火星の王』も独り占めするのは勿体無いとこの場に持ち出され、話の伴にされているという訳だ。

 

 

「材料の収穫量の目安から割り出した生産量を考えると、流石に穀物酒程の量は確保できなそうではありますが……ある程度流通させるには問題ない程度にはなるかと」

「ふむ……だがそれだけだと味気ないな。このシロップといいこの酒といい、そのままでも金になりそうな良い商品になりそうではあるが……ここにひと捻り加えるのも面白そうだ。例えばだが、この酒を樽に入れて熟成させたらどうなると思う?」

「……!?それは、作るのに時間は掛かるでしょうが、いい酒が生まれそうですね」

 

マクマードも名瀬も、宇宙を股にかけて商売をしてきた中で良い酒も悪い酒もそれなりに嗜んできた酒飲みだ。故に酒に対する知識もそれなりにある。火星の王が『若い』蒸留酒であるのは飲めばすぐに分かった。そうなれば次に思いつくのは樽による熟成だ。

 

「だろう?こりゃそれなりにいいシノギになりそうだ。今度小僧達にミーシャを紹介してやってもいいかもな。あいつなら樽のノウハウもあるだろうしお互い得のある話になるだろう」

「お嬢をですか……そういえば独立して酒造会社を立ち上げていましたね」

「ああ、俺以上の大酒飲みが高じて、とうとう会社まで立ち上げやがったのももう6年前か。そろそろ上の娘達のように良い相手を俺に紹介してくれても良いと思うんだがなぁ……まあ酒以上に熱を上げる相手なんざアイツにゃ居ねーか」

 

ショットグラスに注いだ酒を煽る。クセのないクリアな味わいが、何故か先程よりも染み渡るようにマクマードは感じた。

 

些細なきっかけにより、繋がった小さな縁。それは後にテイワズにも鉄華団にも多大な利益を与えることとなるとある酒の、復活の第一歩であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。