アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果 作:止まるんじゃねぇぞ……
マガジンを入れ、スライドを引き構え、引き金を引く。弾が入っていないがゆえにスライドストップが働くのを確認すると、再びスライドを戻しマガジンを抜き、拳銃を布を敷いた床に置いた。
「ハッシュ、次」
「はい、三日月さん。こちらをどうぞ」
「ん」
三日月は慣れた手付きでピンを引き抜いてスライドを引き抜き、次の拳銃の整備に取り掛かった
「分解するのも組み立てるのも早いッスね三日月さん。早すぎて、俺じゃ何をどうしてるのか見てるだけじゃ分かんないっす……」
「あ、ごめんハッシュ。つい無意識でいつものように整備してた。手順教えながらやるから次の拳銃渡して」
組み立て終えた2丁目の拳銃を先程の拳銃の横に置き、三日月は何でもないように3丁目を渡すようにハッシュへ手を差し出した。
「……言っておくけど、今の俺は団員の中だとバラして組み立てる速さに関しては普通の方だよ?腕が動かなくなってからあまりやれてなかったから鈍ってる」
「ま、マジっすか!?」
「オルガはもっと丁寧にやる癖に腕が動かなくなる前の俺より早かったな。ユージンに至ってはその倍くらい手早くポンポン分解して整備終わらせてたよ。ただ、この手の仕事が一番得意だったのはビスケットだったな……」
今はもう居ない戦友のことを思い出しながら、三日月は拳銃をバラしていった。何度も何度も叩き込まれた動作だ。手違いなど起きるはずもなかった。
「だから、ハッシュも回数を重ねればこれくらい出来るようになると思う」
そう言いながらも三日月はハッシュから渡された3丁目の清掃と油差しを終えた。
「聞くより慣れろだ。まずはこれを組み立ててみて」
「はい!」
ハッシュも小銃の取り扱いに関しては入団後に習っていた。なのである程度銃の取り扱いについては分かる。しかし拳銃に関しては鉄華団においては古参の団員以外は基本的に所持を制限されており、必要な時になるとその他の装備と共に配給される形となっている為あまり馴染みが無い。今整備しているのはそういった共用の拳銃だ。
普段は銃の扱いに手慣れたCGS時代から居る年少組達が整備しているが、最近彼らはマクマードから任されたハーフメタル鉱山の発掘調査に駆り出されている。その為今日は腕のリハビリがてら三日月が整備を引き受け、部下であるハッシュもそれを手伝う事になったのが今2人が武器庫にいる理由であった。
ハッシュはぎこちないながらも言われた手順通りに拳銃を組み立て、それを受け取った三日月が確認する。油を馴染ませる為にスライドを数回動かし、滲んできた油をぼろ布でゴシゴシと拭き取る。
「うん、組み立て方はこれでいい。次は清掃と油のさし方だね。ちゃんと覚えてよ?いざって時にジャムったら、当然のことだけど死ぬことになるし」
「き、肝に銘じておきます……!!」
そうして少しづつ作業に集中して無言になりながら、何丁もある拳銃を分解して、整備を繰り返していく。作業を始めた二人の両手が煤と油で真っ黒になる頃には、整備の終わった拳銃がぎっしりとケースに詰まっていた。
「そろそろ昼時か。手を洗って、昼飯にしようかハッシュ」
「はい。ご指導、ありがとうございました!」
ここ最近、三日月は時間がある時に自分が教えられることをハッシュに教えている。舎弟に色々と教えてやるのも兄貴分の仕事なのだと、名瀬がオルガに色々な事を教えている姿を見て自分もそうしようと思ったからだ。
今度は射撃場で整備したこれの撃ち方を教えるのも悪くない。自分の撃ち方は我流ではあるが、CGS時代に散々正しい撃ち方を叩き込まれたので他の人に教えることも出来はする。そんなことを考えながら、三日月はハッシュを連れて食堂へと向かった。
LCSによる長距離通信。今日は電波環境が悪いのか若干チラつく画面越しに、オルガ・イツカは歳星にてテイワズの会長となった自身の兄貴分と対話していた。
「クワシールカンパニーって、あのクワシールビールで有名なあの……?」
『ああ、そのクワシールカンパニーで間違いねぇ。親父と共に飲ませてもらったお前んとこの【火星の王】の味を鑑みて、必要になりそうな縁になるだろうという判断の元そこの社長を紹介する事になった。ありゃ美味い酒だった。親父も俺も気に入ったよ』
「っ、あ、ありがとうございます!!そう言ってくれると、あれを作った三日月も喜ぶでしょう」
我が事のように通信越しに喜びを隠せない弟分の姿に、思わず名瀬も顔が綻びそうになった。が、これは仕事の話でもある。緩んだ雰囲気でやる訳にはいかないと気を引き締め、話を続けた。
『でだ、兄弟。紹介しようっていう社長さんなんだが……テイワズに大変縁の深い人物でもあるんだ』
「と、言いますと」
『親父の、末の娘さんだ。ミーシャのお嬢は昔俺がまだ見習いの若い衆だった頃、護衛をやらせて貰ってた人でもある……だから、失礼の無いように、な?』
「はい、親父と兄貴のご期待に応えられるよう、尽力します!!」
『よし、よく言った。ま、向こうもあの土座周りをしてたお前を見てただろうから悪い印象ではないと思うぜ?さて、火星までの通信料も中々馬鹿にならん。話す事も終わったしお開きにさせてもらおう。またな、兄弟。一緒に『火星の王』を飲めるその時を楽しみにしてるぜ』
そう言って、歳星からの通信は途絶えた。急に来た歳星からの連絡に身構えたが、思っていた以上の順調な結果にオルガはガッツポーズで喜びを表した
「やったな、オルガ!!クワシールカンパニーっていや火星でも有名な酒造会社じゃねーか!!」
「ああ、あそこのビールは初めて飲んだ時火星産の合成ビールが全部泥水だと一口で分かっちまった位にはうめぇんだよな……その分、火星じゃお高いんだが。歳星での値段を見たときは思わず2度見したよ。どんだけ火星じゃぼったくられてるんだってな」
社長室でオルガと共に仕事をしていたユージンと共に、その喜びを分かち合う。何せ、念願の戦う以外での大きな収入となりそうな財源となり得る事業だ。火星の土木作業を行う『鉄華組』の仕事も鉄華団の収入の足しになりつつあるが、それでも最近導入したMSの数もあってか当然のことだがそれだけでは足りていない。
その為遠征を行い火星に害を与える海賊等を討伐する仕事を火星の政府から受けているのだが、やはり夜明けの地平線団を倒したからかここ最近はその頻度は落ちつつある。居ないわけではないが、ガンダムフレームを二機、試験運用中の辟邪が予備機含めて三機、ブルワーズからの戦利品を改修したランドマン・ロディが五機、そして先日購入した分を合わせて十二機の獅電という火星では他にはギャラルホルンの部隊位しか持っていないやり過ぎなほどのMSの数を保有する鉄華団が相手をするには小粒な相手が殆どである。
何故これ程の数のMSを今の鉄華団が保有と維持が出来ているのかと言えば、それ程までに火星の流通を狙う海賊が多かったのが原因であった。ハーフメタル規制が解除された今、海賊にとっては火星の流通経路はとても美味しい獲物となりつつあったのだ。
そして、それを狙おうとした海賊は絶望に叩き落とされた。火星政府から経路の護衛の為に海賊の討伐を依頼された鉄華団の手によって。
MSを使い略奪を行おうとしたものはそれよりも強い力と練度を持った鉄華団のMS隊により叩きつぶされ、戦利品として手に入った多量の海賊が使用していたMSが溜まったらエイハブリアクターごと歳星で売り払い、新しい装備やMSに変えてまた海賊の討伐を行う。アーブラウでの決戦後の二年間鉄華団は暁の育児に追われながらもそうやって規模と火星での信用を大きくしてきた。その結果がこのMSの保有数という形で現れているのである。
しかしそれによって新たな問題も出てきた。その解決策として打ち出された側面があるのが鉄華組や此度の酒造事業であった。
「この事業が軌道に乗りゃ、海賊から助け出した新入りの団員たちにも安定した仕事が与えられるようになる……!!今みてーに、危険な鉱山採掘をチビ共にさせなくても良くなるんだ!!頑張ろうぜ、ユージン」
「ああ……!!戦いでも忙しい中三日月がここまですげーチャンスを作ってくれたんだ。ぜってーふいにはできねぇ!!」
現在農作業や土木作業、そして鉱山の採掘を行っている新参の団員の大半は、鉄華団が拿捕した海賊にいいように扱われていた元ヒューマンデブリ達であったりする。戸籍のあったものは送り返したが、そうでない孤児達を捨てる選択をするのは憚られた為に拾い上げた形である。
酷い環境下で生き残った彼らの大半は、鉄華団の年少組やそれよりも小さい子供が大半であり、そんな彼らのリーダー役を今は務めているのがタカキやライド達古参の年少組であった。
CGS時代からの面々は戦いの中で生きる覚悟が決まっている。だが海賊から拾い上げた彼らはその大半が阿頼耶識こそ施されているものの暴力で無理やり言うことを聞かされて戦わされていた者達だ。自分から鉄華団と共に戦いたいというのであれば拒否はしないが、そうでないなら可能な限り戦場で直接戦わせないようにしたいと思うのが人情であった。ましてや暁が生まれた事で自分たちよりも小さい子供に対する優しさというものを自然と持ち始めている団員たちは多い。その為に戦わなくても食っていける仕事を用意する必要があったのだ。鉄華団の、自分たちが居たいと思えるこの場所の未来のために。
「なら早速、火星の王のプレゼンの仕方を考えようぜ。よっしユージン、三日月とデクスターさんと、後チャドとメリビットさんも呼んできてくれ!!その間に俺はこの兄貴が送ってくれた資料を読み込んでおく」
「おう!!こりゃ今日も忙しくなるな!気合い入れていこうぜ団長!!」
まだ未来はどうなるか分からない。だが、今向かっている先にこそ希望はあると思いながらオルガとユージンは今日も仕事に取り掛かった