アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

26 / 28
『火星の王』と酒神の女主人

 

 

透き通るような白い肌。意思の強さを宿す父親譲りの青みがかった灰色の瞳。高いヒールの靴を履いているとはいえ自分達の中でもかなり身長が高い方のオルガに並ぶほどの背丈。端正な顔立ちにメリハリの効いた女性的な体型。

男所帯の鉄華団ではあまり近くには居ないタイプの美女がそこにはいた。キレイな大人の女性、という意味ではメリビットも該当するが、明るく穏やかな彼女とは明らかにタイプが違う。

 

 

「遠路はるばる、火星までおいで下さりありがとうございます。ミーシャ社長……!!」

「はは、そう固くなるな。名瀬の弟分なら私にとっても弟分のようなものだ。こちらこそ急に訪問して悪かったな。前もって連絡をしようとも思ったのだが、LCSがアリアドネと上手く繋がらなくてな。結局火星周辺の宙域についてようやく連絡が出来た次第だ」

「いえ、本来なら我々が伺うべき所をこちらまで向かって来て頂いた訳ですからこれ程有り難い事はありません。なので気にしないで貰えると助かります」

「そうか。ふむ……では、早速だが本題に入らせて貰うとしようか」

 

 

名瀬やアミダから聞いた通りの人柄の、真面目で勤勉な褐色肌の少年を相手に悪戯っぽい笑みを薄っすらと浮かべて、彼女はこう切り出した。

 

 

「君達が作り出したという新しい酒……名前は『火星の王』だったか?それを私に飲ませてくれ」

 

 

未知の新しい酒と出会えるこの時が一番楽しい瞬間なのだと、ミーシャ・バリストンは今日が良い一日になるだろうとを彼らを見定めつつも確信した。

 

 

 

 

 

 

オルガは内心物凄く緊張しながらも何とかそれを表に出さないように振る舞うことに必死であった。

何分急な話である。まさか今度紹介すると名瀬や親父から言われていた人物が態々木星から火星に出向いてまでやってくるなどとは思っていなかったのだ。それもテイワズの先達であり、自分たちも良く知る大企業の社長であり、盃を交わした自分たちの親__マクマードの実の娘であるという色々な意味で失礼があったら大変なことになるのが容易に想像がつく人物が相手だ。固くなるなと言われる方が無茶である。

 

 

「承知しまし…」

「固くなるなと言っただろう?普段通りの喋り方で構わんよ」

「わ、分かりました。では、用意させてもらいます。ミカ、用意した火星の王を持ってきてくれ」

「分かった」

 

やりづらい。オルガはそう思いながらも指示を出すと、オルガの席の後ろで立っていた三日月は3本の『火星の王』が詰まった瓶を持って、それをテーブルに並べた。

 

「む?3本も既にバリエーションを作っていたのか?」

「いえ、中身に関してはどれも同じものです。ただ、違うのはその温度ですね」

「……ああ、そういうことか」

 

一瞬疑問が浮かんだものの、即座にその理由が思い浮かんだのは彼女が様々な酒を飲んできたが故の経験からであった。度数が高い酒というのは温度によってもかなり味が変わるものであり、これもそういった酒かと得心を得たのである。

 

「では、常温の物からいただくとしようか」

 

そう言って彼女は1本目の常温の瓶から試飲のために用意した小さなグラスにそれを少し注ぎ、舐めるように少量口に含んだ。無色透明なその色からは想像がつかない程の、強い酒精が口の中で広がる。そして同時に、ハーブや花のような、華やかな香りと優しい甘さが共に口の中を駆け巡った。

 

これ程の物を初の酒造りで作り上げたことに対してミーシャは心の中で賞賛した。ましてやここは木星とは異なり酒に関しては技術が四散し、流通している酒ときたらまともな方の物で飲めるだけ工業用アルコールよりはマシとしか言いようがない合成品が殆どを占める火星である。そんな環境下でこれを作り上げた苦労は並大抵のものではないだろう。

しかし、何かがミーシャの中で引っかかった。この香り、味こそ全く異なるが何処かで飲んだことがあるような……?

 

 

「美味い。良い酒を作ったものだな」

「そう言ってくれると、ミカ……ッ、三日月も喜んでくれるでしょう」

「ほう?この酒を作ったのは後ろに居る君なのか」

「うん。戦いの合間や、息子の相手をしてる合間の時間を使って勉強しながら、何とか作り上げた」

「……そうか。やはり君も、独学でこの酒を作り上げたのか。苦労しただろう?実は、我社のビールのレシピもそうなんだ。色々と生産しやすいように、改良はし続けているが元々は私が納得するビールを作ろうとして作り上げた物だ」

「え、そうだったんですか!?あっ、スイマセン。自分もあのビール、大好きでして……歳星で初めて飲んだ時以来、歳星に行く用事があったらいつも買わせて貰ってます」

「……ふふ、そう言ってくれると私も嬉しいよ」

 

 

親父や名瀬が気にいる訳だとミーシャは思った。圏外圏では珍しい気持ちの良い若者達である。

いくら父親がマクマードと言っても女だてらに社長をしている関係で、舐められることも良くある彼女からしたら素直に尊敬の念を向けてくれる相手は社員以外では珍しかった。

それも、父親が自分達のボスだからという理由でも無く、自分の作り上げたビールの味を好きだからという理由でここまで目を輝かせてくれる相手なのもミーシャにとっては心地よかった。

良い出会い、良い酒。試し飲みとはいえ、こういう状況では杯も進むというものだ。度数が高いとはいえ、少ししか注いでいなかったグラスの中の酒は間もなく飲み干された。

 

 

「さて、では次の瓶も試させてもらおう。どちらもとても冷えているようだが……」

「片方が冷蔵庫で冷やした物で、もう片方が冷凍庫に一晩置いたものになります」

「では、冷蔵庫で冷やしたものから味見させてもらう……ふむ、こうなるのか」

 

冷やした影響で強かった酒精が落ち着き、まろやかな味に変わっていたその酒の味をミーシャは楽しんだ。窓の外の赤茶けた大地を見ながら、こんな荒れ果てた大地でよくもまあこれだけの酒を作り出せる原料を見つけた物だと思いながら、冷やされたことで変化したその香りの良さに舌を巻く。

 

その変化はこの酒に『火星の王』と名付けた者には満点を与えたいと思う程であった。このような酒がまさかこの地で産まれることがあろうとは脱帽ものであった。

 

「この飲み方もいいな……では、最後の瓶。冷凍庫で冷やした物の味はいかがかな?」

 

 

最後の瓶を手に取ると、先程とは比べ物にならないほどの冷気を手から感じ取れた。キンキンに冷えているその酒を注ぐと、先程までの酒にはなかったとろみが付いていた。

度数が高い酒を冷凍庫などに入れると起きる特有の現象である。液体であるが水と違い家庭用の冷凍庫程度の冷気では凍る事はなく独特のとろみがついた状態になるのだ。

 

口に含むと、これもまた格別の旨さがあった。先程までと比べて舌触りがとても良いのだ。独特のとろみが舌を楽しませてくれる上に、先程よりもさらに飲みやすく変化していた。

そうして飲んでいると、またミーシャの中での何かが引っかかった。この香り、この酒精の高さ……自分はこの味を一度何処かで似たようなものを飲んだ記憶があるのだ。だがそれが何なのか中々思い出せなかった。

 

確か……物凄く高い酒だったような……

 

(ああそうだ。この酒__今は亡きテキーラに似ているんだ)

 

 

かつて世界四大スピリッツと言われていた酒であったテキーラ。だが厄祭戦の影響で気候変動が起きてしまった結果材料の植物が絶滅し、それ以降かつて醸造されていたものを好事家が保管していたもの位しか残っていない惨状であった。

多くの酒好き達がこの事実に嘆き、悲しみ、再生を試みたものの気候そのものが変わってしまった地球ではその植物を再び根付かせる事は出来ず、完全に絶滅してしまったのである。

 

そんな貴重なテキーラであるが、ミーシャは一度だけ幸運に恵まれ飲む機会があった。

特筆すべきはその価格でありミーシャはオークションにかけられた物を購入したが、なんと一瓶で新品のMSが三機は購入できる程の金額であった。しかもそれが相対的に高い訳ではなく、現在のテキーラのだいたいの相場の価格である。

 

そんな超高級品であるため滅多に圏外圏に流れてくることはなく、大体は地球圏の金持ち共の間で取引されているのが今の残されたテキーラの現状であった。

 

 

「素晴らしい香りの酒だった。なぁ三日月少年、この花やハーブのような香りは何か香り付けに使っているのだろうか?それとも、この酒の材料そのものによるものかな?」

「後者だね。この『火星の王』には火星に生えているアガベっていう植物を使っているから、それが由来になって__」

「ちょっと待て。今、アガベといったか?!」

「え?うん。アガベがこの酒の一番の材料だけど」

 

 

この酒ならば、その代用になるかもしれない。果たしてどのような材料をつかっているのだろうかという疑問が湧き、それを聞いてからこの酒をどのようにさらなる改良を施せる余地があるのか判断しようと考えて材料について質問をしたが、流石に代用品ではなく『そのもの』である事に関してはミーシャも想定外であった。

 

 

「ということは、これはまさか分類としてメスカルなのか……?ははは、まさかこんな事があるとは信じられん!!」

「あの、ミーシャ社長……?何か、俺達が作ってる酒に問題があったんでしょうか?」

「いやいや、酒自体はとても素晴らしい物だったよ!!ただ、一介の酒好きとしてこの幸運を天に祈りたくなっただけだ。君達、テキーラという酒を知っているかね?」

「テキーラ、ですか。初めて聞く名前ですが」

「そうか。だろうな……いいか、よく聞けオルガ団長。君達の作る『火星の王』は……ハーフメタル利権以上の利益を与えられるかもしれない代物だぞ?」

 

 

そう言って、試飲を終えたが為に少しずつ飲む必要が無くなったグラスに、ミーシャはキンキンに冷えきった火星の王を注ぎ、それを一口で飲み干しにっこりと笑った

 

 

「無論、上手くいけばだがな?なあオルガ団長、我社と手を組まないか?資金援助は勿論、技術支援も視野に入れて行おうと思うのだが」

「……何故、そこまでしてくれるんですか?御宅のクワシールカンパニーに比べたらウチは零細も良いところでしょうに」

 

目の色を変えたかのように急に良い話を話す彼女に対してオルガは警戒した。美味い話を持ち掛けられるということはなにか裏があるものだ。そうで無くても何かしら理由がなければいくら酒を気に入ってくれたとはいえ初対面の相手に対してここまで破格の条件で協力を要請する訳がない。

 

目の前にいるのは女手一つで一つの会社を立ち上げ、それを圏外圏でも有数の大企業にまで育て上げた女傑なのだから。

 

「何、この程度で『あの』テキーラが蘇るかもしれないなら安いものさ。ああ、テキーラという酒は君達が作り出した『火星の王』と同じ種類の酒の一つでね。地球のある土地でかつては作られていたんだが、厄祭戦の影響で起こった環境変化のせいで材料のアガベが絶滅してそれ以来幻の酒と成り果ててしまった悲劇の銘酒だ」

 

 

今の相場は瓶一本で新品MSが三機は買えてしまう程の額だと告げると、思わず軽い頭痛を感じてオルガは頭を抑えた。確かに儲かるのは助かるが、いくら何でも桁が違い過ぎる。無論今の希少価値が故の価格であろうが、それでもこの酒を作る原料が生えているのは火星だけなのだ。今ほど暴利な価格になることはないだろうが、希少価値は保ったまま売り出せることは間違いない。

 

彼女の言う通り上手くやればハーフメタルの採掘利権並に儲けられるかもしれない鬼札が、意図せず手に入ってしまったと言う訳だ。現段階ではあくまで皮算用でしかない訳だが、だとしても話が良すぎた。

 

 

「……だとしても何故なのかがわからない。言わなければその利益を独り占め出来る状況で、それを知らない相手に対してこうして話してしまっているのは、何故なのですか?」

「我社、クワシールカンパニーの社是は『素晴らしい酒を作り出した相手に対して敬意を』だからさ。良い酒を作り出す者に対してそうあれる人間で私はありたいのだよ。それにだ。一人で、一つの会社でやれることなんてたかが知れてるものだろう?」

 

人一人でやれる事なんて精々自分が理想とする酒のレシピ一つを作り上げる位だと言って、ミーシャは火星の王を煽りながら言葉を続けた。

 

「確かにやろうと思えばこの酒の利権を合法的にこちらのものにしてしまうことは今なら簡単にできる。だがな、それをやればこれだけ美味い酒を作り上げた君達の新作を飲めなくなってしまうではないか!?私は嫌だぞそんな事は」

「え、それだけの理由で?」

 

あまりにも単純なその理由に、オルガの毒気が抜かれた。当然であろう。なにせ規制が解除されたあとのハーフメタルの採掘利権は今や火星の主産業である。それに匹敵するほどの儲けが得られる金の卵を態々切り分ける理由としては欲がなさ過ぎた。

 

「ああそれだけだ。それだけで十分だ!!何より私がこの会社を立ち上げた理由の一つがソレだからな。木星にも代々酒造を受け継ぐ小規模な会社が数多く存在していたのだが、ただ売れるからという理由で大きな企業にそれらの銘酒の利権と製法を奪われた者達が当時は数多く居てな?彼らの作り出す酒の味をどーしても守りたくて、そういう行く先を奪われた職人達を匿って立ち上げた会社だぞ我社は」

 

 

まあ、そういう意味では君達と成り立ちは似てるかもしれんなと言い、グラスをテーブルの上に置いた。そして気に入っている銘柄の煙草にライターで火を着け、吸い始める。

 

 

「まあ、ここまで好条件を突きつけてる一番の理由は美味い酒を独学で作り上げたという事実を評価してのものだ。誇りたまえ、自分で言っていて何だが私は酒の味に関してはうるさいのだぞ?」

「それに関しては私も散々苦労させられてきましたからね。保証しますよ?」

「まだまだ苦労をかける気だから覚悟しておけよガルシア」

 

 

ミーシャの後ろに侍るかのように立っている部下から、初めて声が発せられた。

彼も今は秘書としての仕事についているが、元々は会社を奪われ酒造を続けられなくなった所を彼女に拾われた最初期の社員である。それ故に、彼女の酒の味に対する拘りの深さはよく知っていた。

 

 

「まあ、我社と手を組むか組まないかはじっくり考えてもらった後で答えてもらうとしてだ、オルガ団長」

「は、はい?」

「出会いを祝う為に、まずは共に乾杯しようじゃないか。まあ、私は大分先に飲んでしまっているがね?」

 

こんな美味い酒一人で飲むには勿体なさ過ぎるとミーシャは言い、そういう事ならばと三日月はオルガへもう一つのグラスを用意した。

 

からんっ、というグラスが重なる音が会談に使われている団長室の中で響く。

 

「さあ、私の事は先程少し話した。今度は君の番だぞ?自己紹介代わりにお互いの事を話し合おうではないか。この酒を飲みながらな?」

「……そう、ですね。まずは、お互いがどういう人間なのか話し合うのは大事ですからね。じゃあ、2年前の大仕事の始まりからで、良いでしょうか?」

「おお、例のギャラルホルンに一発かましたあの事件の時の話か!当事者から聞けるとは貴重な経験だな」

 

 

酒が入れば口は緩む。オルガは酒精の強い火星の王を一口、二口と手をつける度にその気が増しているようであり、ほんのりと顔が赤くなっていた。

その様子を見たガルシアは表情は変えなかったものの自分のボスの悪癖であり最も大きな才能をまた発揮しているなと感じた。クワシールカンパニーの始まりも、これであった。

 

ミーシャ・バリストンが最も得意とすることは、共に酒を飲んだ相手と友人になってしまうことである。人に夢を見せることが得意な、大酒飲みのうわばみであり、天性の人たらし。

人の上に立つ能力という意味では、彼女は父から大いにその資質を引き継いでいるのである。

 

 

「ユージン、飲みすぎてたらオルガ止めるの頼む。俺、アトラに頼んでおつまみ貰ってくる」

「お、おう。なんか、想像とは違う人だったな……」

「いや、案外似てるよ。 あの人と。酒の味に満足してくれたからよかったけどそうじゃなかったら……いや、なんでもない。行ってくるね」

 

自分と同じくオルガの座る椅子の後ろに立っていたユージンにそう言って、三日月は団長室から外に出た。

 

圏外圏で成り上がった会社の社長が、ただ優しいだけの相手ではない事など誰の目から見ても分かる。そうであるにも関わらず実際に会った者にそれを感じさせないグラス片手に笑う彼女から、三日月は確かにマクマードの面影を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お仕事お疲れ様三日月。お酒、社長さんには気に入って貰えた?」

「うん。そっちは問題ない。アトラの作ってくれたおつまみも好評だったよ。おいしかったって」

「なら良かったー……私、まだお酒飲む訳にはいかないから、三日月の作ったお酒に合うかちょっと不安だったんだ。雪之丞さんやメリビットさんも合うって言ってたし、団長さんも好きだからタコスにしたんだけど、美味しいって言ってくれたなら一安心だね」

 

年齢的なものもあるが、暁に母乳を与えているアトラはまだ火星の王を飲んだことはない。その為どんな物が合うかは飲んでいる人の意見を聞いて何が合うのか聞いてそれに合わせるしかなかった。だが偶然というものは侮れないもので、テキーラを知っているミーシャからすればそのツマミにタコスを食べるということの贅沢も当然のように知っており、鉄華団に対する彼女の中の好感が更に得られていた。アトラは知らぬ内に夫の仕事に一つ貢献していたのであった。

 

 

「ただ、オルガが飲み過ぎちゃってさ……流石に社長さんを送り出すまでは何とか保たせてたけど、終わったらフラフラだったからベッドに連れて行ったよ。アレじゃ明日は二日酔い確定だと思う」

「団長さんそんなに飲んじゃったの?普段はあまり飲まない人なのに珍しい」

「あの女社長、凄いうわばみでさ……そのペースに呑まれちゃってたね」

 

 

別段オルガも酒に弱いというわけではない。酒精の強い『火星の王』をカパカパ飲んで尚ほろ酔い程度のミーシャがおかしいだけである。

 

「それはちょっと心配だね……明日に差し支えなければいいけど」

「その時は皆でフォローすればいいさ。というかオルガは働き過ぎだし、なんなら明日オルガは休みでも良いや。いい機会でしょ」

「そうだよね。そうしなきゃいけない気持ちも分かるけど、普段から夜遅くまで仕事してるもんね団長さん。一日くらい休んだって良いって私も思う」

 

暁が眠る揺り籠をゆっくり揺らしながら、アトラはそう言った。

こうして三日月と共に、仕事を終えたあとの自室で暁の寝顔を見ながら今日の出来事を語り合う事が、最近のアトラの一番の楽しみになっていた。自身が母親に少しずつなっていくのと同じように、少しずつ父親になっていく三日月を見ていくのが、何故だがとてもアトラにとっては安心できて、今の幸せを実感できる時だった。

楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、そうして語り合っているといつの間にか消灯時間に近づいていた。暁をベビーベッドに寝かせると、二人は同じ布団に横になった。

 

「そろそろ寝る時間だね。おやすみ、アトラ」

「ん……おやすみなさい。あなた」

 

三日月がアトラの額にキスをすると、アトラはお返しに三日月の頬へとキスをして、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

尚、オルガはその日の夜悪夢を見たようであり、ベッドの上でうつ伏せで倒れながら寝言で『だからよ、止まるんじゃねぇぞ……』と呟いた後完全に熟睡してしまった。朝になって飛び起き、夢であったことを安堵するも目覚めたらどんな悪夢を見ていたか忘れてしまったようだ。夢としてはよくある事だが、記憶には残っていないのに妙に印象に残る悪夢であったようだ。

 

後日、クワシールカンパニーと手を組む事をオルガは皆とともに話し合って決めたが、その光景を見て何故か分からないが泣きたくなるほどに嬉しくなったようだ。何故かは、分からないが。

 

 

 





異世界オルガだと『先行1キルされるオルガ』シリーズが好きです(決闘者感)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。