アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

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土建戦士グシオンリベイク(鉄華団建設部門、鉄華組社歌)

 

 

 

「昭弘ー!!皆のお昼持ってきたよー!!」

『昭弘さん、ラフタさんが昼飯持ってきてくれましたよ』

『っと、もうそんな時間か。皆、作業はキリの良い所で終わらせて休憩するぞー!!』

 

グシオンのスピーカーから発せられる昭弘のその声に、鉄華組の面々は声を上げた。

『火星の王』を作る為の醸造所の基礎を作る為に、MSを使用しての整地作業の最中だった昭弘はグシオンが手にしていたMS用の整地用ローラーの持ち手をその場に置いてグシオンを座らせた。

阿頼耶識の接続を解除し、椅子の横に置いておいたジャケットを羽織ると昭弘はグシオンのコックピットから外に出た。

 

 

「昭弘お疲れ。お水飲む?」

「ありがとう、丁度喉が乾いてた所だった」

 

ラフタから受け取った水筒から外蓋にもなっているコップを取り外して水を注ぐと、昭弘はそれを一気に飲み干した。

 

「それにしてもあんな器用なこと良くやれるなっていつも思うわ。確かに私も荷物の詰め込み作業程度ならMSでやってたけど」

「そうか?人型の機械なんだからそれくらい誰だって思いつくだろうに」

「思いついても実際にやれる精度で動ける人材とMSがこんなに集まってるのがおかしいのよ。阿頼耶識使いなら身体の延長線上の感覚でMSを動かせるけど、普通はそうじゃないんだからね?それに護衛用のMSとは別にこういう作業に使うMSを用意できる勢力なんて、火星じゃ他はギャラルホルン位じゃない?」

「まあ、そりゃそうだな。それも戦闘用の奴を流用してるならまだしも、完全な作業用のグレイズなんて使ってるのは火星じゃ鉄華団位だろうし、阿頼耶識使えるやつがこんだけ集まってるのもそうはいないか」

 

 

MSで作業する人員のローテーションが組める程度には、鉄華組には阿頼耶識持ちが多い。昭弘が率いる鉄華組のメンバーは自身がそうであったがゆえに事情を考慮して接することが出来る為、元ヒューマンデブリ組の割合が高いからである。先程作業用グレイズから通信でラフタが食事を持ってきてくれた事を伝えてくれたデルマや、海賊討伐の際に無理矢理働かされていた者を拾い上げた新入り等、かつて同じくヒューマンデブリであった経験を持つ昭弘に様々な形で手助けを受け鉄華団での生活に馴染めるようになった者達が昭弘を慕って自然と形成されたグループが元となっているからだ。

 

それを活用して細かい調整が必要となるMSを使った建設作業をローテーションを組んで行う事で集中力を途切れさせることなく行えているのだ。メネリクの手により作業用グレイズに施された阿頼耶識用のセッティングが癖のない万人向けの調整である為可能な方法である。戦闘以外でのMSの有用性を再認識した団員達の案で更に2機ほど作業用のMSを余っているジャンクパーツで組み上げてしまおうという声が上がる程度には、作業用グレイズは重機として非常に便利な存在だった。

 

尚、失伝している阿頼耶識の技術の専門家が居てその細やかな調整まで行えるという事自体が異常であるのは言うまでも無い。更に言えば資材の運搬や整地作業程度ならともかく建造までMSによる手作業で行うのは昭弘達が思ってる以上ハードルが高い作業であり、真似なぞ出来るものでは無い。

例え阿頼耶識が使える者であっても、正しい建築の知識が無ければ出来上がる建物はハリボテにしかならないし、何よりそのようなMSの精密動作が出来るのであれば圏外圏ならどこの勢力でも欲しがるような練度のパイロットであるのだから態々その技能を建築になんぞ使おうという発想に至らないのである。

 

普通の操縦方法でのMSの搭乗歴の長いラフタの総評は正しい。いくらセンサー類による情報補助があるとはいえそれは本来戦闘用の物であるためこのような作業には対応している訳がないのだ。その為巨大な体を持つMSを使いながらほぼ誤差の無い精度の作業を行っている昭弘達の作業は職人技というべきか、曲芸の類とすら言える技能であった。

 

(ま、色々ツッコミたい所はあるけど、昭弘達は今の所これで完璧に熟してるから問題ない、か)

 

そのような細やかな作業を繰り返しているが故に、気が付かないうちに鉄華組のメンバーのMSの操縦技術が上がっているのも事実。それはリーダーである昭弘も同じであり、2年前までは阿頼耶識の照準補正に頼って当てていた射撃を、今では弾道計算を自分の頭でしっかり行い、ほぼマニュアルで当てているほどだ。建築設計に使う為に磨いた計算の勉強で得た知識の流用である。

 

さらに言えばMSを使った建築作業は他の火星の建築会社にはない明確な強みでもある。火星は厄災戦の影響で中途半端にテラフォーミングされた状態で開発が投げ出されている為、手を加えられている市街地ならともかくハーフメタルの眠っているような採掘所候補の場所は戦場跡であったり、根本的にどうしようもない荒れ地であったりする為建設機材の移動もままならない事も多々あるのである。だがMSであれば通路の整地をしつつ移動も楽だ。巨大な2本の脚を持つ機動兵器なので、よほどの地割れでもない限りは地形に関しては歩いて対処可能なのだ。

 

ハーフメタル採掘の利権を得たことで輸出制限が緩和された事で多くのものが採掘の規模を拡大している火星において、建設や整地の需要は高まるばかり。多くの仕事が鉄華組に依頼され、その業績は現在右肩上がりであった。

 

 

「ま、折角休憩なんだから今は仕事の話は置いておいて、一緒にご飯食べましょ?そうだっ、アタシ、三日月とアトラがやってたアレを昭弘にやって欲しいんだけどー??」

「あ、アレをか……分かった。ただまぁ、出来れば二人きりで、頼む」

「おっけ。それじゃ休憩場所にいこっか」

 

 

ラフタは悪戯っぽい声で昭弘に甘えながら、当たり前のようにその隣に立ち腕を絡ませ、もう片方の手に持った昼食の入った包みを持ち昭弘と共に現場を去っていった。

その光景は見るからに熱々のカップルそのものであり、今ではそれを見慣れた鉄華組の面々はいいなぁと憧れの声を浮かべながら彼女の持ってきた昼食のサンドイッチを口に運ぶのであった。

 

 

ちなみに、三日月とアトラがやっていたアレというのは三日月がアトラを膝に座らせながらするサンドイッチの食べさせ合いである。鉄華団ではたまに見る光景であるのだが、その姿を羨ましく感じたラフタもまた恋人である昭弘にそれを要求するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クワシールカンパニーと手を組む事が決まり、そのための資金提供と技術指導を受けることになった鉄華団は少々忙しくなった。

 

三日月率いる酒造担当の面々は火星の王の改良に必要な酒造に使う器具や施設を扱うのに必要な資格の勉強に取り組み、昭弘率いる建設担当の鉄華組の面々は酒造を行う建物の建造を行うために設計の図面を引き、建設作業に取り掛かっていた。幸い現在の鉄華団はマクマードからの仕事である例の鉱山の調査以外は仕事が入っておらずそこの担当以外の手は空いていた為それらは滞り無く進んでいた。

 

肝心の材料であるアガベの生育も順調で、前に開墾した畑に植え替えてきたアガベの子株は順調に大きく成長しておりこの調子なら後3ヶ月程後には収穫できるだろうという話である。本来のアガベならありえない成長速度であるが、この火星に生えているアガベ達は元々厄祭戦以前の火星開拓を行おうとしていた企業が遺伝子改良を施して作り出した物の子孫であるが故だ。その為育ちがとてもよく、それでいて火星の痩せた土でもよく育つのである。

このように順調に物事が進んでいる中、三日月はある物を荷車に乗せて運んでいた。

 

 

「なあミカ、なんだその樽?そんなに沢山何に使うんだ?」

 

荷車に大量の木製の樽を載せて運ぶ三日月に、オルガはそう尋ねた。どうやら中を火で炙っているようであり、近づくと木が燻された独特の良い香りがしている。

 

荷車を止め、三日月はオルガの疑問に答えた。

 

「今作ってるものより高級な『火星の王』の熟成に使うんだよ。クワシールカンパニーの職人達から聞いた方法なんだけど、こういう蒸留酒は樽に入れて熟成させるともっと美味しくなるんだってさ。ただ……」

「何か問題があるのか?」

「うん。この樽を作るの時間が掛かる作業なんだ。今回は昭弘達に手伝ってもらってなんとか数を用意できたけど、いっそのこと樽を作るの専門の団員を用意したほうが良いかもしれない。今は手空きの時期だからいいけど、昭弘達や俺も、こればっかりに手を向けてる訳にもいかないし……」

「そりゃそうだな。ミカも昭弘達もうちの戦力的にも稼ぎ的にも主力だからなぁ……新入りにそういうの得意な奴を募ってみるか」

「それがいいかもね。外注しようかとかも一瞬考えたけど、こんなの使うの火星だと俺達位だろうからいくら取られるか分からないし」

「だよな……外に頼んだらぼったくられそうだ」

 

 

ワイン等の他の酒に使った樽を使う方法も三日月は聞いていたものの、そっちは早々と諦めていた。火星の酒事情は正直言ってあまり良くない。市場に出回るのは厄祭戦以前の工場をレストアさせて作り出された合成品が殆どで、悪所に行けばそれよりも酷いものが平然と流通しているのが現状だ。

合成品ではない天然の酒も一応無いわけでは無いものの、金持ち向けに少量が作られている程度であり一般的な市場に出回ることは滅多にない。

その為必要な樽を自分達で調達する事に決めたのである。

 

 

「それじゃ、俺はこの樽持ってくから。オルガは今日は休暇だっけ?ゆっくり休んでてよ」

「ああ、わかってら。流石にあんだけ皆に言われたら俺だって休暇中位は休んでるさ」

 

 

久しぶりに赤いスーツでは無く団員服に袖を通したオルガは、そう言ってその場を離れていった。

漸く事務仕事が出来る団員の育成が一段落した事と、この前ミーシャとの酒盛りの後ぶっ倒れた事を理由にたまには休めと鉄華団の団員たちに詰め寄られた事をきっかけにオルガもたまには休暇を取るようにしていた。

 

 

(とはいえ、何をしたものか。最近は仕事が楽しかったもんだから、そっちにばかり注意を向けてて他にやることが思いつかねぇな……)

 

 

とりあえず、基地の中にいては自然と他の団員の仕事を手伝ってしまいそうなのでオルガはクリュセの街に出向く事を決め、手空きのメンバーから護衛を兼ねてとライドとチャドを連れて行く事を決めた。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだなミーシャ。で、話ってなんだ?アイツらとは直接顔を合わせたと聞いたが」

 

鋏を手に盆栽の手入れをしながら、マクマードは目の前に立つ末娘にそう尋ねた。ミーシャが自ら火星に赴いた話は耳にしており、まあコイツならそうするだろうなとは薄々思っていたのでそれについてはそこまで驚いていなかった。

 

「鉄華団については、良い目をする奴らだと思ったよ。親父、ああいう奴ら好きだもんな。気に入った理由もよく分かった。それで、話については例の酒についてなんだ」

「おう、美味い酒だったろう?お前ならありゃ気にいると思ったんだが」

「ああ、気に入ったよ。だが親父、やっぱり気がついてなかったんだな。あれ、テキーラと同じ種類の酒だぞ」

 

サクッと言う音と共に、マクマードの手が狂った。盆栽の枝が落ちる。だが、それに気を向けることなくマクマードはミーシャの方を向いた。

 

「……マジか?あれと??」

「酒について私は嘘をつかんぞ 」

「いや知っとるよ……だからこそ、聞き返しただけだ。そうか……そりゃ……良いシノギになりそうじゃねぇか」

 

数年前の誕生日に、この末娘が共に飲もうと持ってきたその酒の事はよく覚えていた。覚えてはいたが、流石にミーシャ程酒狂いと言う訳ではないマクマードは『火星の王』とテキーラの関連性に気がつく事はなく、見逃していたのである。

 

 

「だろう?だから私も彼らと手を組む事にした。そのものではないとはいえ、テキーラが蘇るとなれば……世界中の酒飲みが買い求めるに違いない」

「そして昔の物はそれはそれとして価値が保てるから資産家たちの機嫌を損ねることも無い、か。いやテキーラを買ってるような資産家でも『火星の王』を歓迎するだろうよ。お前みたいにアレの封を開けるのに躊躇しない奴の方が少ないだろうからな!!」

 

 

自分よりも蟒蛇で、文字通り酔狂な末娘にそう言ってマクマードは鋏を机に置いた。

 

「これは吉報だ。久しぶりに一緒に酒でも飲んでゆっくり話し合おうぜ。色々と夢が広がるなぁ」

「是非とも。失われた銘酒の事実上の復活だ。これ程素晴らしいことは滅多に無いからな」

 

そう言ってミーシャとバリストンは、盆栽の置いてある部屋から出ていった。

枝の絶たれた盆栽は、意図せぬ形ではあったものの以前よりも良い形に変わっていた。それは彼らにとっての吉報の知らせであったのかもしれない。そう思わせてくれるくらい、この二人の酒好きは筋金入りであった

 

 

 

 

 

 

 




リベイクリベイクリベイク〜
グーシオーン、リベイク〜!!
火星の建築、土建作業は鉄華組にお任せください
(目がグポーンと光り輝くフルシティの映像を流しつつ)

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