アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

3 / 27


※今回話が短くなってしまったのでおまけで番外編付きです。






三代目流星号「フラウロス君、君の出番はボッシュートされました」フラウロス「えっ」

 

 

 

大型惑星間巡航船『歳星』、その最も警備が厳重な場所に企業複合体テイワズの代表の住居はある。そこへ呼び出されたのは彼のトレードマークである白スーツを着こなす伊達男。テイワズの輸送部門を担当する企業『タービンズ』のリーダーである名瀬・タービンである。

 

 

「来たか名瀬。急に呼び出して悪かったな。調子はどうだ?」

「ぼちぼちうまくやってますよ。前言ってた商談も上手くいきました。これで、アーヴラウ連邦とテイワズの新しい交易ルートは確立したと言っていいでしょう」

「流石だな。それに関してはお前に任せた以上心配はしてなかった。……まあ、この話をお前達タービンズの弟分が持ってきた時は驚いたもんだがな。まだまだ儲けを持ってくるには時間がかかると思ったが、こういう形で利益を与えてくれるとは思わなんだ」

「ええ、鉄華団もいい方向に成長してるようでして。最近、次会う時が楽しみで仕方がないと思ってるのがカミさん達にバレたようでして、妬かれてしまいましたよ」

「お前ほどの色男がお熱とは、あいつらも隅に置けないな。少し見ない間に随分面白い連中になったみたいじゃないか。何、今回お前を呼び出したのはな、あいつら鉄華団の事を聞きたかったんだ。火星で海賊退治に精を出しているようで、最近中々こちらには来ないからな。よく会っているお前に話を聞きたかった」

 

 

『圏外圏で最も恐ろしい男』、企業複合体テイワズの代表であるマクマード・バリストンは愉快そうに笑った。

手元にある紙触媒の資料を見て、マクマードは上機嫌だった。

 

 

「鉄華団へ送られてきたアーブラウの軍事顧問としてのオファーを交渉の末こちらに回す事で、鉄華団はテイワズとアーブラウの顔繋ぎ役となった。技量的には問題なくてもメンバーが若い面子ばかりなのは変わらない事を考え、こちらに回したほうが良いと判断したらしいが……その判断は大当たりだった訳だ」

 

 

この時代で紙触媒で印刷されるというのは基本的に紙にしか残せないよほどの重要情報位である。そこに書かれているのはテイワズとアーブラウ連邦との交易によって得られた利益。そして売れた商品のリストである。

 

 

「軍事顧問としてテイワズの兵器運用部門のPMCでもトップの奴らを送った事で俺達テイワズはアーブラウ連邦との信頼を勝ち取り、今では表立って交易を行えるほどの太い交易ルートを得た。だがそもそも俺達みたいな圏外圏の人間が、地球と堂々と交易を行えるほど信頼を得る機会なんざそうそう無い。その機会を持ってきてくれたアイツらは今やテイワズでも注目されるに値する期待の若手だ」

 

マクマードがここまで手放しに褒める事など早々無い。それほどまでに、この話がテイワズにとって非常に儲けになる可能性を秘めているとマクマードは確信しているのであろう。

 

「だが、腑に落ちない点がある。何があればアレが、あの愚直と言えるほど真っ直ぐ走り続けてた奴らがこうも化けるか。あいつらが変わり始めたのはあの挨拶回りがあった位の頃からだったな。何があったのか知りたい所だが、なんかあったか知らねぇか?」

 

マクマードは問いかけるように、机の前に立つ名瀬に視線を向けた。

その視線に答えるように名瀬は手に取っていたトレードマークの帽子を胸に抱え、答えた。

 

「オヤジが気にいっていた、鉄華団のメンバーが居ましたよね?ガンダムフレームに乗っていた。どうやら、アイツに子供が出来たみたいでして……そこからですね、アイツらが変わり始めたのは」

「……くく、くくくっ、はは、アーハッハッハ!!あーそうか、そうか!! そんな所まで似るのかお前らは!!」

 

マクマードは愉快そうに大笑いした。

 

「お前そっくりだよ名瀬。お前が、少人数だったタービンズをここまで大きくするよう方向転換したのは、初めてのガキが出来たからだったな。兄弟分だからってそんな所まで普通似るか?まあ、納得したよ」

「勘弁してくださいよ……変化のきっかけに、因果を感じたのは俺も同じですが」

 

 

気恥ずかしそうに、名瀬は帽子を持っていない方の手を頭に置いた。

名瀬自身が覚悟を決めた理由、そのきっかけはとても単純な物だった。

 

名瀬に第一子が出来たという変化が、彼に覚悟と決意を与えたのである。どうせ抱えるなら、自分の手の届く限り抱え込んでしまおうと新たな交易ルートを探索し、開拓し……今ではテイワズの輸送部門を一手に担う程、タービンズの規模は大きくなった。そうした努力により、今のタービンズは存在している。

マクマードが似ているといったのは、そういう事である。

 

 

「それが、アイツらが一皮剥けた理由か。理由としては納得がいくもんだった。教えてくれてありがとよ。だったらあいつらにやる報酬はもう少し練った方がいいかもしれんな。あの鉱山はジャスレイにでも任せてやるか」

「鉱山というと、例の火星のハーフメタル採掘現場の事で?」

「ああ、もう少し経ったら何かの恩賞でアイツらに任せてもいいと思ってたんだが……そんなもん任せるよりも、今はあいつらの自由にさせた方が面白い事になると思ってな。かつてテイワズに輸送部門を築き上げたお前達みたいに、あいつらはあいつらなりの大きな何かを自分で築き上げるだろうよ」

 

 

そう言って、マクマードは机に置かれたシガーケースから葉巻を取った。

 

 

「まあ、鉄華団についての話は以上だ。思ったよりも愉快な話が聞けて何よりだった。ここから先はお前への話だ。なぁ、名瀬よぉ……テイワズの表の看板、いい加減引き継ぐ気はねーか?」

「……っ、オヤジそれは……って待ってください、表の看板というと」

「ようは、御輿にならんかって話よ。まだまだ俺も引退する気なんぞ起きんが、俺が顔役のままだとテイワズの発展は圏外圏の枠で終わっちまう。無論、今の時勢を顧みれば圏外圏も地球圏ものし上がるには極論どこかで暴力が必要になるが……俺が顔役のままじゃせっかく新しく開拓した地球圏の交易ルートの方々にゃ物騒過ぎると捉えられるだろうからな。その点、お前はいい。女衒紛いと言われてはいるが、弱者側であった女達をああまで纏め上げ、食っていく為の術を与えたお前に悪い風評は少ないからな」

「……俺としては、今の立場に満足してるんですがね。テイワズ全てを纏め上げるなんて、とてもとても……」

「まあすぐにとは言わねぇが、可能な限り考えてくれると俺も安心して圏外圏の事に専念出来る。忘れずに覚えておいてくれよ、名瀬」

 

 

紫煙を燻らせ、マクマードは葉巻を吸った。名瀬は、とうとうこの時が来てしまったかと内心焦りながらも頭を下げ、マクマードの自室から去っていった。

 

 

(こりゃ俺もいい加減覚悟を決める時なのかもしれんな……テイワズ全てを纏め上げる代表なんざ、オヤジ以外に務まるとは思えんが……帰ったらアミダと飲みながらでも話してみるかねぇ……)

 

 

そんなことを考えながら名瀬は嫁達のいる自身の艦であるハンマーヘッドへの帰路へついた。

 

 

 

 

 

 

番外編『オルガの一日』

 

 

 

鉄華団団長、オルガ・イツカの朝は早い。二年たったにも関わらずCGS時代の感覚が抜けきっておらず、時間になるとかっちりと目を覚ましてしまう。

起きるとすぐにシャワーなどの朝の支度を済ませ、背広はまだ着ないものの最近よく着ている臙脂色のスーツに着替える。

 

そうして背広片手にいつもデスクワークをしている社長室へ。そこでハンガーに背広をかけた後、情報端末から昨日から残した仕事と今日入る予定を確認し新しく入ったアリアドネ経由のメール等を確認する。

 

そうして大体の確認が終わると、食堂での朝食の準備が出来ている時間になるのでオルガは社長室を出て早朝の自主トレーニングを終えた者達や起きてきた者達と一緒に食事を取る。

 

「ぱー、まんま!」

「ほら暁、スプーンちゃんと持って……よし、良い子だ。はい、あーん」

「ううー……」モチャモチャ

「とと、溢さないで……よし、ちゃんと食べたね暁。良い子だ」

 

 

この時間帯は職場復帰したアトラが食堂で料理をしている為、主に暁の面倒は三日月が見ているのをよく見る事が出来る。戦場での彼を良く知る者からすれば驚愕するかもしれないが、暁が生まれて六〜七ヶ月が経った今では団員たちにとって見慣れつつある光景であった。

 

 

「お、暁離乳食始めたのか。何を食わせてるんだ?」

「あ、おはようオルガ。薄味のポレンタだよ。味が薄くて癖の無いものをはじめは食べさせた方が良いんだってさ。まあ、今はまだ慣れさせてる段階だからこの後アトラが母乳あげるけどね」

「……赤ん坊が大きくなるのって、早いな。まだ暁が生まれて半年ちょっとしか立ってないっていうのに、随分大きくなった」

「そうだね。段々、重くなってきたから片手じゃ抱えるの大変になってきたよ」

「ぱーぱ、まんま」

「はいはい、スプーン持って……どうやら、ママの作ったポレンタは気に入ってくれたみたいだね」

「そうだな。ちゃんと食べて、大きく育てよー、暁」

「うー!」

 

オルガは暁の頭を撫でた後、食べ終わったトレーを持って厨房へ返却しにいった。

 

 

そうして朝食を終えると背広を肩に通し、鉄華団のジャケットを羽織ってから朝のミーティングを各班の隊長やリーダーと共に行う。MSの稼働状態の情報共有。火星各地から寄せられた依頼の取捨選択。今日の予定の打ち合わせ等を行って、それが終わったら団長として把握しなければならない情報を確認し判断して指示を出す為に社長室へ戻りデスクワークを開始する。

 

その仕事内容は日によって変わるが鉄華団本部に居るときは基本的には会計も担当しているユージンが必要な書類を持ってきたり、整備に必要な資材を要請しようとおやっさんがその届け出を持ってきたりする事が多い。

依頼人が来る場合はオルガが直接対応する事もあれば、副団長のユージンが行うこともある。

 

 

そうして昼時になり、オルガの普段の一日で一番忙しい時間帯が始まる。各部署に直接足を運んで指示を出し、用事があるならイサリビに乗って団員たちと共に出撃する時もあれば、依頼の交渉を行う事など行う事は多岐にわたるものの、基本的にこの時間帯が一番忙しい。

最近他の団員たちも『考える事』に関しては自分から学び、勉強する事で以前のようなオルガに負担が全てかかるような状況から改善されつつあるものの、最終的に鉄華団の行動を確定させるのは団長であるオルガの役割である。

その為、食事は本部に居るときは社長室にサンドイッチのような簡単なものを運んでもらう事が多いようだ。イサリビで活動している時は食堂で皆と一緒に食事を取る。

 

 

そうしてその日のうちに終わらせなければならない仕事を片付けると、辺りは真っ暗になっている事が多い。少し前まではそれでも気にせず仕事をしていることも多かったが他の団員たちに心配され、休めという意見が多くあった事からここ最近は仕事を切り上げて明日に回せるものは残すようにしているようだ。

 

 

「すまんなアトラ、こんな時間に食事用意して貰って」

「いえ、いつも遅くまでお疲れ様です団長さん」

「zzz……」

 

 

アトラはエプロンと三角巾をたたみながらそういった。背中にはおんぶ紐に抱えられた暁が寝ている。

朝や昼時等、忙しくてどうしても世話を出来ない時以外、アトラはこうやって暁をおんぶしたり、腕に抱いたりしながらその面倒を見ながら掃除や洗濯、料理などの家事をしているようだ。産後の経過も良好で、暁の首が座ってからは職場に復帰して元気に働いている。

 

アトラがオルガにトレーを渡すと、食堂の扉が開いた。

 

「あ、オルガ。またこんな時間にご飯?」

「ミカか。ああ、どうしても今日中に終わらせなきゃならない仕事があってな……飯を後回しにしてたらこんな時間になっちまった。ミカは何しに来たんだ?」

「火星ヤシの補充に。ハッシュの特訓に付き合ってたら切れちゃったから……アトラ、悪いけど分けてもらっても良いかな?」

「うん。いつもの所に置いてあるから、好きなだけ持っていって」

 

アトラにお礼を言うと、三日月は食堂の貯蔵庫へ入っていった。

火星ヤシは火星で最も安く手に入る甘味である。中にはとんでもないハズレがあり、一見見分けがつかない事からそのまま食べるというよりは水に戻して種を取ってからパンやクッキーのような物に混ぜて焼いたり、酵母の元にする調味料のような扱いを受けていた。火星では砂糖より安いので、火星ぐらしの住人ならよほどのお金持ちでない限りは一度は口にする食材である。その為、鉄華団の食堂にも一定量備蓄があった。

そうして貯蔵庫から帰ってきた三日月は、たんまりと火星ヤシをポケットにつめて戻ってきた。

 

「しかし、ハッシュだったか。あの新入りも随分頑張ってるじゃねぇか……いっそミカの直属の部下にするか?」

「ハッシュを?うーん……考えとく。なんか必死だったから、つい訓練に付き合ってあげてたけど……あのまま戦場に出すのはちょっと怖いね。ただ、伸びると思うよ。ハッシュは」

「ハッシュ君、頑張ってるもんね。前は倒れそうになるまで三日月とシミュレーターしてたの見たよ?」

 

 

そんなふうに会話に花を咲かせながら食事を終えると、オルガは寝室へと向かう。スーツを脱ぎ、シャツを洗濯かごにいれると今は室内着として着ているかつての団員服に着替えて就寝する。

 

 

これがここ最近のオルガの一日のサイクルである。尚これでも改善された方ではあるが、本人が中々休暇を取らない為、親しい団員たちが仕事の予定のない日を見繕って休ませる為に遊びに誘ったりする。

ワーカーホリック気味ではあるものの、オルガは今とても充実した日々を送っていた。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。