アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

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火星銘酒『火星の王』、その原料であるこの謎の白い液体の正体とは……?

 

 

 

 

文字が読めれば、自ずとできる事も変わる。それを実感してなかったが為に三日月は『自分には必要性の薄いもの』として勉学を捉えていた。少なくとも、アトラが暁を妊娠するまでは。

 

三日月やアトラも出自故にそれが子供を作る行為と知ってはいた。アトラは三日月が知らないうちに何処かへと居なくなってしまう事を恐れ、形としての繋がりを求めて三日月を押し倒した。三日月はアトラの恐れを察してか、拒否することはアトラを傷つける事に繋がるのでは無いかと思いそれを受け入れた。結局の所、『これはいつか起こった顛末だった』のだろう。遅いか早いかの差に過ぎない。鉄華団のメンバーも面を食らった様子で驚いたものの、アトラと三日月の関係からそれを受け入れるのは容易な事であった。

 

問題はそこからだ。彼らは子供の作り方は知っていても『その先』についてなんて誰も知っていなかったのだ。

そもそもここは男所帯で、その上に孤児であった者達が多くを占める。皆親の顔も覚えてないことなんてよくある話だ。

 

詰まるところ彼らは赤子の育て方なんて知らなかった。それ以前に、妊婦がしてはならないことに関してもほとんど分からなかった。徐々にアトラのお腹が大きくなると同時に始まる悪阻や体調の変化など、対応しようにもその方法が分かる筈も無く。

事情を知ったクーデリアやメリビット達女性陣が用意してくれた資料には育児書はあったものの妊婦側の体の変化に関してはあまり良い資料が見つからず。加えてその時の鉄華団にはまだ良い医者の伝手は無かった。

そうしてこれは本格的に不味いと頭を抱えたオルガとアトラが体調を崩す様を深刻に捉えた三日月が直接テイワズに出向いてまで名瀬に深く頭を下げて力を借りに行った訳である。アーブラウの一件以来、連絡は取り合っていたもののここまで露骨に力を借りに来たのはこの件が初であったために前回力を借りに来たときの状況の落差からくるその滑稽さと弟分の当時と変わらぬ必死さに名瀬は笑いをこらえつつ、横にいたアミダは苦笑いで迎え入れた。

 

こうした経緯があり、名瀬は自分の嫁さんたちの中でも医療に関する知識と経験や資格__特に産婦人科としての__を持った方やその助手やらを景気良く鉄華団に送り。

名瀬の嫁さん達、特にアトラを気にしていたアミダは役に立つであろう育児書やら妊娠時に注意するべき事を纏めた資料を三日月に渡して鉄華団本部にいるアトラの元へ送り返した。

 

鉄華団のメンバーが本格的に自分なりに勉強をするようになったのはこの一件があってからである。皆自分がなんの力にもなれなかった事を悔やんでいた。そして、自分たちは知らないことが多すぎると自覚した。

それはこの騒動の原因の一人であった三日月本人もそうであった。

 

 

「……うー……」

「……」

 

三日月は今日は非番である為、暁の面倒を見ている。昼寝の時間になり、暁をアトラと同棲している自室で寝かせた三日月は手にしたタブレットに入った『植物図鑑』や『地球の環境』について調べていた。

アーブラウの一件からバルバトスに阿頼耶識を繋げなければ片手が使えないがために畑仕事は出来ないかもしれないなと思いつつあったものの、世話になったサクラ農家に恩を返せればいいなと思い、火星に合う良い農作物は何か無いかと火星に近い環境の地球の土地を探しながらそこにあるという作物や植物について調べている。育てる方法や環境作りなど、気になった部分は付箋をつけて後でわかりやすくして、纏めていた。

もしもあのまま文字を蔑ろにしていたら、手当り次第地球から仕入れた種を植えてみて育つか確かめていたかもしれない。しかし文字や資料に書かれた情報の大切さを身にしみて知った今の三日月はそういった事をする前にまず、調べてから行動するようになっていたのであった。

 

乾ききった空気と滅多に振らない雨、そして痩せた土地。火星の開発が進んでいた厄祭戦以前の宇宙開拓時代にテラフォーミングされた事により火星は人が住める土地に整えられたものの、その環境は過酷の一言である。

しかしながら、それでも人が住めるようになっている以上多少の差はあれども地球にも火星に近い環境の場所がある筈だと思い、三日月はそういった環境の場所に生えているという植物や作物を探していたのである。実際育ててみてちゃんとした物となるかは分からないが、無作為に種を買って植え続けるよりは良い筈と考えて。

 

(……サボテンか。確かに自生してるのをたまには見かけるけど、作物としては……ん?)

 

頁を進める手が止まる。植物辞典に既に地球上では絶滅したとされるその植物について、三日月は見覚えがあった。サボテンではないが火星でも人の手に入ってない場所なら自生している植物である。

 

(アレ……お酒の原料になるの?というか、なんであんな自生してる植物なのに、地球だと絶滅して……いや、逆か)

 

 

火星がテラフォーミングされた時、様々な植物が火星に持ち込まれたらしいと聞く。この荒野で細々と自生しているのはそういった植物の末裔であるらしい。

火星は環境的には厄祭戦の影響が地球に比べて少なかったらしく、そういった植物が生き残る余地があったのだろう。逆に地球はだいぶ酷い環境変化に見舞われる程に被害を受けた為に絶滅してしまった植物も多かったらしい。この植物図鑑もよく見たら出版元は地球であるらしく、火星で自生している事など知らなかったのであろう事が伺える。

 

 

(コレ……使えるかも?一回試しに自生してるアレを取ってきて調べてみようか)

 

その酒の作り方などを今度チャドに頼んで調べて貰う事を考えながら、三日月は植物図鑑のデータに付箋の機能を押してタブレットに記録した。

 

地球で全滅し、火星で自生しているその植物の名前は……アガベ、またの名をリュウゼツラン。地球のメキシコ発祥の、かつて世界四大スピリッツと言われたテキーラの原料であった。

 

そうして次の良さそうな植物を探そうとタブレットに指を滑らせると、ふいに自室のドアが開いた。

 

「ただいまー……あっ、暁お昼寝中かー……静かにしなきゃ」

「おかえりアトラ。食堂はもういいの?」

「うん、今日は三日月がおやすみだから早めに上がって親子水入らずで過ごしなって皆言ってくれてね……今度お礼に美味しい物作ってあげなきゃ」

 

 

そう言ってアトラは靴を脱いで頭につけた三角巾を取り、手に抱えていたバスケットかごからラップで包んだサンドイッチをテーブルに置いた。厨房で焼いているコーンブレッドにワカモレを挟んだサンドイッチである。まだ鉄華団がCGSと言われていた頃から定番であったコレは、三日月も好きな好物であった。

 

「食堂に来てなかったってハッシュ君に聞いたから、三日月の分も持ってきたんだ。ちょっと遅いけど、一緒に食べよ?」

「うん。ありがとアトラ。暁が寝るまでちょっとぐずってて食べる暇無かったんだよね。眠くて不機嫌だっただけみたいだから、横にしたらすぐ寝ちゃったけど……」

 

 

そう言って三日月はタブレットを置いてゆりかごに寝かせた暁を起こさないように優しく撫でた。片手しか使えない三日月でも乗せやすい物をとタービンズの皆が出産祝いに送ってくれた物である。それだけではない。この部屋自体も、鉄華団の皆が態々部屋の配置を変えてまで用意してくれた贈り物であった。

こんな騒動を起こしたにもかかわらず、それを否定せず祝福してくれた事自体奇跡のような事であると三日月は思う。その恩返しをする為にも、三日月は少しでも皆が楽になれるよう稼げる手段を彼なりに探していたのであった。

 

 

アトラが三日月に寄り添う。こうして一緒に自室に居るときは、こうしているのが最近の二人の定位置であった。

 

「今日のサンドイッチは自信作なんだ。だから、その……た、食べさせっこ、したいなって……」

 

アトラは真っ赤になりながらそう言った。それに対して三日月はアトラを抱きしめたくなった衝動を抑えながら、首を縦に振った。

 

 

 

今日は数少ない非番の日。オーガス夫婦は子供がいるにもかかわらず、まだまだ若く、初々しい雰囲気すらあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ミカアトイチャイチャさせたかった。三日月は三日月なりに鉄華団やサクラ農園の資金源になりそうなもんを探してるよって話。
暁育てながらなので流石に農園の手伝い自体は中々行けてないけど、桜さんやクッキークラッカ達に暁合わせたりビスケットのお墓参り行ってたりもしてます。
暫く、こんな感じの日常を続ける事に方針を決定しました。戦闘とかも書きたいもんあるけどそれやると一気に話が転がるし、暁と団員たちの絡みも書けんのでな……ゆっくり進みます

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