アトラがほんの少しだけ、我慢出来なかった結果   作:止まるんじゃねぇぞ……

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デモンエクスマキナやってた影響で更新遅れた。アレはいいぞ……枯渇していたロボゲー成分を補給出来るいいゲームだ(更新遅れて申し訳ありません。筆の乗りが悪かったのだ……短くて申し訳ない)




※尚団員やクーデリアさんは休暇ですが、団長はその裏で元気に働いています

 

昭弘の休日

 

 

 

 

昭弘・アルトランドは元ヒューマンデブリである。幼少期、宇宙を行き来する商人の家に産まれた彼は海賊に襲われ、両親を殺された挙句弟諸共海賊に一山いくらの『物』として売り払われたのだ。

だが、彼は耐えた。耐えて耐えて、耐え続け体を鍛え、牙を磨き続けた。いつか弟と再会する。その事だけを願って。

 

だが、その願いは果たされたものの……心無い者の悪意によってそれは悲劇に終わってしまった。だから、彼はこの日だけはよほどのことがない限り休む事を団員達に伝えていた。

 

忘れない為に。

 

 

「……昌弘。お前と再会して、もう二年が過ぎるのか……早いもんだよな」

 

 

昭弘は鉄華団本部の基地内の片隅に建てられた慰霊碑へとやって来ていた。あの戦いで失われた戦友達を弔う為に建てられた物である。

イサリビで花火を放つ事であの場でも弔いは行ったものの、団員達の願いによって建てられた。昭弘自身も石材の加工に関わって出来た物である為その思い入れは深い。

 

元来、弔いとは死した者の為に行うものであると同時に残された者が心の整理を行う為の行為である。そうした祈りを行える場所はあった方が良いと話し合い、建築に関して習い始めていた団員達がそれならばその練習として自分たちで作り上げようと決定して作り上げた産物だ。

 

どうやら少し前に誰か来ていたようであり、ほんの少しだけ土埃がついている程度で慰霊碑はキレイなものだった。昭弘は桜農園から分けて貰った白いカーネーションを慰霊碑の前に置き、目を瞑って弟へ祈った。

 

 

「……昌弘、聞いてくれ。デルマとアストンが、俺達の苗字を名乗りたいって言ってくれたんだ……俺の弟にしてくれ、ってさ」

 

 

白いカーネーションの花弁が風に靡く。火星の乾いた風が寂しい音を立てた。

 

 

「俺は、お前を守れなかった……だが、だからこそ俺を兄と慕ってくれるアイツらや、仲間たちに同じ思いをさせたくないんだ……!だから……」

 

 

許してくれと、そう言いそうになった言葉を昭弘は飲み込んだ。それを言ってしまえば自分の何かが折れてしまうと、そう感じたからだ。

 

 

「俺は、俺達は『お前達』を忘れちゃいない。だが、前に進むには後ろばかり見てるわけにはいかねぇんだ。だからここには皆忙しくてあまり来れないけど、それは勘弁してくれよ」

 

また来るよ、と昭弘は昌弘だけでなく、慰霊碑に弔われた団員達全員にそう言ってその場を去った。

 

白いカーネーションの花言葉は___

 

 

 

 

 

 

「あ、昭弘。今日は休み……あ、そうか。慰霊碑に行ってたんだ」

「ああ。俺なりのケジメというか、区切りだからな。後ろばっかりは見てられてねぇ。だが、今日だけは別だ……」

 

そう言って昭弘は上着を脱いで筋トレ用の機材に腰掛けた。先にトレーニングルームで体を鍛えていたチャドがそれを見てため息を吐いた。

 

「うーん……やっぱ俺じゃ昭弘程の筋肉はつかなそうだなぁ。どうも体質的に細くなっちゃって……」

「そうか?使う筋肉はちゃんと鍛えてるんだから俺はいいと思うぜ」

 

 

そんな他愛のない話をしながらでも、二人は慣れた動きで筋トレを続行していた。

昭弘が一年で唯一確実に休むと決めているこの日は、慰霊碑に行った後は何も考えず愚直に体を鍛えると昭弘は決めていた。

普段は弱音を吐かない彼が、唯一それを吐く日が今日だった。そして、思いの丈を弟にぶち撒けた後は原点に振り返る為にも徹底的に体を虐めるのである。

二度と目の前で大切な誰かを失う事がないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーデリアさんの悩み

 

 

 

 

クーデリア・藍那・バーンスタインは悩んでいる。自身の思いについて。

火星に帰ってきてからはハーフメタル事業を切り盛りする日々が続いており、忙しくも充実した日々を送っていた。だが、それはそれとして彼女にも悩みがあった。

三日月・オーガス、そしてアトラ・ミクスタ……いや今ではアトラ・オーガスの夫婦についてである。

この二人のことを、クーデリアは家族として思っていた。二人のことが大事であるし、二人とも大切な存在であるとも思っている。

しかしアトラが三日月を押し倒した事で、この関係にも変化が訪れざるを得なかった。

 

 

(……うう、アトラさん、ズルい。ズルいですよぉ……)

 

アトラが暁を産んで、クーデリアは自分の思いに蓋をしようとした事があった。まあ普通だったらそれで良いのだろう。誰かを選ぶということは誰かを選ばないと言うことでもあるのだから。

 

しかし、当のアトラがそれに見通して待ったをかけたのである。「三日月と、暁と、クーデリアさんと、皆で幸せになりませんか?」と。

 

彼女に悪意はない。純粋な善意である。しかしながらオルガと三日月に助け出される前までの、幼少期の彼女の出身は火星の場末の娼館である。その辺りの倫理観に関してははっきり言って『普通』とはかけ離れていた。

 

愛した人が自分以外の女性を愛したとしても、自分も認めた人であるなら全く不満など無いのが彼女にとっての自然なあり方であった。ある意味、この火星の地に馴染み過ぎているとも言える。

 

が、しかし。人並みの倫理観を教わり持っているクーデリアからすればそれは非常に悩ましい事であった。

確かにクーデリアは三日月を愛していると今では自覚していた。だが同様にアトラの事も大切な存在であると思っているのである。

もしも自分があの二人の間に割り入ったとして、本当に皆幸せになれるのだろうか?

当人同士で納得していてもあの二人の子供である暁が物心ついたときにどう思うか。不安で不安で仕方がなかったのである。

その為クーデリアはその選択を保留してもらっていた。考える時間をください、と。

休暇で桜農園に手伝いに来ている今も、いや仕事に打ち込んでいない今だからこそ彼女は一人悩んでいた。

 

 

「……何をそんなに悩んでるんだい?折角の綺麗な顔が台無しだよ」

「さ、桜さん。すいません。折角お邪魔させて頂いてるのに」

「別にいいよ。お嬢ちゃんはよく手伝ってくれてるさ。でも心ここにあらずって状態でずっといると流石に声もかけたくなるってもんさ」

「……その、実はアトラさんに……内密にしてほしいことなんですが……」

 

 

クーデリアは桜に現状を打ち明けた。あの二人に子供が出来て自分は身を引こうとした事。今でも三日月の事は好きであるが好きであるからこそ自分は涙を飲むべきだと思った事。しかしながらそれをアトラに見抜かれて『皆で幸せになれないか』と言われた事。

 

少しづつ、ぽつりぽつりと打ち明けて行くにつれてクーデリアの声が掠れていった。

それを聞き逃さないように桜はクーデリアの事を見つめながら静かに聞いている。

 

 

「……そうかい。あの子に随分と好かれたんだねお嬢ちゃん。しかし三日月か……働き者で努力家だけど、どうにも血の匂いが抜けないアイツが、いつの間にかアトラだけじゃなくお嬢ちゃんみたいないい女にも好かれてるとは。隅に置けないもんだねぇ」

「すいません。こんな話急にしてしまって……でも、どうすればいいか分からないんです」

「そうねぇ。前提としてだけど、あんた暁のことはどう思ってる?」

「……正直、羨ましいです。でも、それはそれとしてあの子は守らなきゃならない未来だと、そう感じてます」

 

 

火星に住む者として、鉄華団と親しい存在として、何よりアトラと三日月の子供としてクーデリアは暁の事を内心複雑ながらも祝福していた。あの子が産まれてから、鉄華団も何かいい方向に舵を変えたように思える。

実際クーデリアも暁と会う事自体は楽しみにしており、日に日に重くなる暁を胸に抱く事は自身の行っている事業の重大さを再確認させていた。この子の未来も私の肩に掛かっているのだと。

 

だが、だからこそつい浮かんでしまうのだ。羨ましいと思ってしまう考えが。

 

 

「なら平気そうだね。羨ましいならお嬢ちゃんも三日月に思いを告げればいいじゃないか。奥さんの許可も貰ってるんだから、後はお嬢ちゃんと三日月次第だよ」

「え、あ、桜さん!?」

「私達火星の庶民からすれば、どっちかが裕福なら別に珍しい事でも何でもないさ重婚なんて。それでもアトラの感性はちょっと変わってると思うけど、『ちょっと変わってる』程度の話なのさ」

「そうなん、ですか?」

「ちゃんと家族を養える事が前提の話だけどね。三日月なら……まあ大丈夫。アレで結構、器は大きい所がある。あの子なら、お嬢ちゃんの事も受け入れてくれるだろうさ。だから、お嬢ちゃんが後悔してもいいと思う選択をなさい」

 

「いいかい……言いたいことがあっても、伝えたい思いがあっても、その人が居なくなってからじゃ遅いんだよ」

 

 

そう言って、桜は農作業の続きへと戻っていった。その言葉に、クーデリアはハッとさせられた。三日月は確かに強い人だ。それでも、戦場に出るのなら死んでしまう事だって無い訳がないのだ。

そう思い至って、何故アトラが三日月の事を押し倒したのかクーデリアは理解した。

 

『三日月が何処かへ消えてしまう事が無いように』『三日月が帰りたいと思う居場所を作る為に』アトラは茨の道を選んだのだと。

……そこまで覚悟を決めた彼女が、同じ男を慕っていながら諦めようとした私に対して『諦めるな』と言っているのだということを。

 

 

そう思い至ったクーデリアは……悩みに悩んだ末に、その手を掴む事を選択した。アトラと暁と一緒に、三日月の、愛する人の帰りたいと思う居場所になろうと、クーデリアは決意したのであった。

 

 

……そうして、その選択がまた別の騒動を引き起こす種となる訳だが、それはまた別の話である。

 

 

 





今回は短編を二本お送りさせていただきました。テーマは休暇。
普段は常に前を見て真っ直ぐな昭弘だが、そんな彼にも忘れたくない、振り返って見つめたいと思う時がある筈。そんな事を書こうと思った墓参り回と、クーデリアさんの現状を書かせて頂きました。

アトラさんならこういう事言いそう()

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