鬼喰の血刃   作:九咲

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開幕【覚醒の血溜まり】

記憶の最初は血の臭いだった。森の中で積み上がる死体。オーケィ私の手は汚れてない。故に私のせいじゃない。

 

むせ返るほどの充満しているそれは自身には甘美なものだった。

 

例えるならばワインのような。質の悪いそれでも最高級のもののように感じてしまう事に違和感。そして多少の嫌悪感。

 

抗えない誘惑と自身の倫理観を天秤にかける。

 

ないなと頭を振る。

 

自身の倫理観を破るほどの誘惑となり得ないと結論づける。自身の倫理観が歪になってなければだけど。先程の嫌悪感はそれ。それを甘美と感じてしまった自分にか。

 

血肉を欲しがるなどと。倫理観がまず常軌を逸する事はなかったと安堵する。

 

「驚いたな。…極度の飢餓状態の筈だが。」

驚いたなという割には平坦な声音だった。

 

「…………いや、美味くなさそうだし」

 

 

いつの間にかいる青年。

美醜で言うならば美よりの青年だった。圧倒的なほど。

 

「………どちら様で?」

 

自分の声は思っていたほどに高かった。

どうやら女性のようだ。

 

「鬼舞辻無惨。聞き覚えは?」

 

「ないねぇ…そして私は誰かな?」

心当たりはない。初対面じゃないかな?

 

「【血霞麟(ちがすみりん)】そう名乗るといい、君には上弦の肆を与える」

 

ちがすみりん……ねぇ。ネーミングセンスはなさそう。

 

「断りまぁす!」

いきなりなんだろうこのイケメンは。まぁ私の好みからは外れるんだが。可愛い系だよ可愛い系。

 

「なに?」

怪訝そうな顔をする青年。意外だったのだろうか?

 

「………断るつってんの。マイケル・ジャクソ〇擬き。…………君の周りのそれのが美味しそうだしね」

 

青年の周りにいた異形。

 

異形の人型。

 

先程の血臭より激しく食欲を駆り立てる。

 

 

【血鬼術】

 

魂より刻まれた知識がそう言い放つ。異能が自身には刻まれた事を実感する。

 

 

自身を見下ろす。血のような着物に腰にかけた一振りの刀。

 

「ふふ、先程鬼化したばかりだというに。私の呪いを外したか。なんという逸材か。」

 

忌々しげに言う。

 

私は先程目を覚ましたというに記憶がない。

 

名前も知らない。履歴も分からない。

 

私は誰だ??

 

「私を奪ったのかな?鬼舞辻とやら」

 

刀に手をかける。抜く。綺麗なまでの金属音が響く。

 

柄から刃の先まで狂気なほど鮮血のような深紅。

 

「【黒死牟】」

青年は名を呼ぶ。

 

「……。」

 

【死】がそこにいた。まるで【死】が形になったかのような存在。

 

いつの間にか鬼舞辻の隣にいた。侍のような男。

 

六つの眼が此方を見ていた。異形の風貌。

眼に刻まれた【上弦】と【壱】

圧倒的強者。格上との遭遇に恐怖する。

私は【肆】相当と見られてると言うことね。

 

「………従え女。…………ならば命くらいは見逃してやる」

 

 

「パンナコッタ!!」

 

やなこった。

恐怖と同時にそそるのだ。喰らいたいと。

 

 

「……………私の餌にしてやるよ」

 

 

記憶がない。だが本能的に自身の力を最適化し結論づける。本能のまま異能を手順のまま起動させる。自身の丹田より流れ出る別の何か(・・・・)。無意識に展開する。

 

   【血鬼術・領域展開『血怪百鬼夜行』】

 

 

血液を使用して(あやかし)共を創成する。奇しくも死体が山ほどある。

 

ガシャドクロ。土蜘蛛。火車。犬神。管狐。鵺。

 

等々思い付くだけの妖怪を血液で作りだす。

 

それが私【血霞麟】の【血鬼術】。名前は貰うよ。思い出すまでの仮の名だけどね!!

 

 

「………………血の気の多いの女だ。ならば…死をくれてやろう【血霞】」

 

【黒死牟】という男も抜刀。

 

「……お前が死ぬんだよ!!」

 

血のガシャドクロが大口を開ける。

 

 

???の呼吸・壱の型【???】

 

目にとまらぬ一閃がガシャドクロを沈める。

 

「!!?」

 

 

「…。」

 

静寂。凪のような殺意。暴風のような荒々しいものではなくただただ静かな殺意。ああ、殺意だけで凍り付きそうです。

 

【黒死牟】は再び納刀。居合い使いかしらん。

 

いつの間にか鬼舞辻無惨は居なくなっていた。私に興味がなくなったのか、それともこの【死】が居るから私が堕ちるのが確定したと踏んでるのか。舐めているのかしら?

 

 

「………………………今代のがこれ程とはな。…鬼にしても思い通りにならんとは我の強い女よ。」

 

「…なに、私を知ってるの?」

 

「…知っている。と言ったところでどうする?」

 

「吐かせるに決まってるじゃない。」

鮮血のような深紅の刀を下段に構える。

…………銘は【神血】と言ったか。

 

 

血の呼吸・全集中(・・・・・・・)

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

一晩中、私の抵抗は続いた。

 

何百リットルという血液を使用してもその【死】を喰らうには至らなかった。

 

百鬼夜行を楯に逃げおおせる。恥だ。けど記憶がない私は赤ん坊のようなものだ。

 

私は誰なんだ。

 

 

私は鬼。奴らはそう言っていた。

 

人食いの怪物。…………私の知識はそう言っていた。

 

だがしかし違和感。私は…人より鬼のが美味そうにみえる。

逃げおおせる途中喰らった鬼は確かに美味だった。

 

鬼喰いの怪物。

 

「はは、どちらにしろ化け物かよ。」

 

いつの間にか深い森の中にある池に来ていた。日光すら届かない深い森。知識が正しければ鬼は日光に弱い。命が惜しければ避けていかねばなるまい。お天道様が恋しくなりそうだ。まぁこうなっても命は惜しいものは惜しい。

 

ここで休むかな。いい加減疲れた。くたびれた。空腹感は今のところないかな。先程済ませたし。

 

池に顔を覗き込む。綺麗な水面だ。私を映し出す。

 

…………齢二十前後の女性のようだった。

柔和とはほど遠い鋭い目付きに血のような真っ赤な癖のない長髪に深紅の着物。そして鬼の証の右額から伸びた前髪で隠せる程度の小さな角。口を開けると鋭い犬歯。

ザ・鬼と呼べるような風貌だった。我ながら容姿端麗の分類されるんじゃないかな?きゃぴるん!!…ってやる見た目ではない。どちらかというと冷たい印象受ける。我ながら。……自身の容姿に未だ齟齬があるのは記憶がないからか。

 

さて、どうしたものか。私が誰か。私は何故鬼になんかになってしまったのか。知る必要がある。先程の【黒死牟】と呼ばれた鬼が知っているようだ。聞き出さなければねぇ。

 

よしやっぱり吐かせる。吐かせて私が誰かを知らないとなんか気持ちが悪い。知らない分からないという事はここまで不快なのか。

 

そのためには強くならなければならないなと決意する。

先程の戦闘を鑑みて私自身弱いわけじゃないようだ。けれどあの【死】は強すぎるよう。圧倒的強者。喰らう側の生物。………………それも何か釈然とせず気にくわない。

 

これは鬼を喰らう鬼の物語で。

 

いずれ【血霞童子】とも呼ばれる人間が好きな変わった鬼の話だ。

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