鬼喰の血刃   作:九咲

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参の陸【胡蝶カナエの憤慨】

那田蜘蛛山。そこは腐臭が漂う鬼達の餌場と化していた。蜘蛛の糸の繭に捕らわれた死体。

 

基本鬼は群れない。だがそれは下等の知恵の無い鬼の話。

 

鬼の中にも序列は存在する。力ある鬼の前に力の無い鬼はひれ伏し慈悲を乞わねばならない。

 

弱肉強食はこの世の摂理だ。こうして鬼達はこう効率的な餌場を確保する。生き残る為に。強くなるために。

 

 

全く以て反吐が出るわ。お姉ちゃんは憤慨している。

 

全て仲良くなれば良いとは思うけど。争いのない世界なんて小娘の戯言に過ぎないと斬り捨てられるように。

 

こういった場面はいつも私に現実を見せつけてくる。

 

鬼とは決して仲良くなどなれないと。

 

私の甘さが妹と妹と恋仲であった少年を失ってしまったと責め立ててくるようだと。

 

私はあれから毎回思い知らされる。

 

胡蝶カナエは元来底抜けに明るくのんびりとした性格だったと思う。

 

今はそれを取り繕うだけの人形だ。かつての胡蝶カナエを模倣する胡蝶カナエの抜け殻。

 

しのぶと逢魔くんを失っているのは誰のせい?

 

幸せそうな二人を眺めているのが私の幸せだった。

 

姉さんも早く相手見つけないとという言葉にはカチンときたけど。

 

それでも私は幸せだったんだ。それが私の居場所で私が居場所になれて幸せだった。

 

全てを投げ捨て忘れたいけれどまだ私にはアオイやカナヲもいる。

 

…泣いてるだけではいられない。私は…どうしたいんだろうか?

 

………仇を討ちたいのかな?分からないよ…しのぶ…逢魔くん…。

 

 

「胡蝶?」

 

錆兎くんの言葉に我に返る。

 

「あ、ごめんね少しぼーっとしてた」

 

あははーと誤魔化すように笑みを浮かべる。

 

「敵地だ気を抜くなよ?」

 

「あはは、そうだよねごめんね。…許せないねこの惨状」

 

「そうだな」

 

無惨にも転がる隊員達の死体。糸に繋がれ人形のように無理に操られていたのか有らぬ方向にまげられた四肢に首が凄惨さを物語る。

 

「ぁ……胡蝶…様…?」

 

息のある女性隊員が此方をかほそい息をし向いてくる。

既に死に体。余命は幾ばくも無い。医師で有る私には余計に分かってしまった。

 

見覚えがあった。…………何年か前の最終選別で剣士となり蝶屋敷より見送った子だ。

 

剣よりお裁縫やお料理が得意な子だった。

 

それでも慕っていた兄や可愛がっていた弟を鬼に殺されて鬼を倒したいと言っていた子だ。

 

長い髪の毛とくりっとした目が可愛い子だった。

 

その長い髪の毛は無惨にも抜け落ち可愛い目は片方潰れていた。

 

「あぁ…胡蝶様…お久しぶりです………最期にお会いできて……よかった……ごめんなさい……胡蝶様の言い付け守れませんでした……」

 

手が震える。

 

「………お兄ちゃんのとこいけますでしょうか………」

 

ええ、いけるわ。

 

「ありがとうございます……まだ…あの…鬼と戦っている子がいます……木箱を背負った子と黄色い子と猪の皮を被った子が………お願い…します……」

 

息を引き取る少女。

 

「胡蝶……」

 

「ごめんね。……もう少し早ければ……いつも私は遅いね……」

息を引き取った少女の頬を撫でる。

 

「行こ。錆兎くん」

 

私は立ち上がる。このどうしようもないほどの激情は。

 

【憤慨】という名前なんだろうと思うから。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

那田蜘蛛山の死闘。

 

 

我妻善逸は人間を人面蜘蛛に変質させてしまう人面蜘蛛の鬼を撃破し嘴平伊之助は蜘蛛顔の巨漢の鬼と戦闘していた。

 

 

「脱皮した……!!?」

 

木の上に掴まっていた巨漢の蜘蛛顔の鬼は脱皮した。

 

さらに大きく力強く膨張する。

 

「でけぇ…!!」

 

一回り以上大きくなった鬼は伊之助の倍以上の体格を有していた。

 

 

「やべえ…俺死んだ…?」

 

伊之助は走馬灯を見る。誰かの顔を思い出す。

 

 

負けねぇ!絶対負けねぇ!

 

「俺は鬼殺隊の嘴平伊之助だ!!かかってきやがれ!!ゴミクソが!!」

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「禰豆子…?」

花札の耳飾りの剣士は呆然と呟く。

 

 

 

 

白い少年の鬼。十二鬼月【下弦の伍】累こと僕に苦戦を強いられていた剣士とその妹。

 

花札の耳飾りの剣士の刀は根元から折れ剣士自身の心も折れ掛かっていた。妹も累の糸に縛られ手も足も出なかった。

 

「僕の家族の…邪魔を…させて…なるものか…!!」

 

鬼気迫る怒りのままの攻撃を繰り返す累。

 

累は家族に拘っていた。自身の力で数多の鬼を自身に似せ役割を与えることに固執していた。

 

理由は忘れた。忘れてしまった。

 

目の前にいる兄妹の真の絆に嫉妬した。

 

あの白い女のせいでさらに【在り方】が揺らぐ。

 

無惨様に報わなければと。だが何故というしこりを残したまま激昂する。この兄妹は殺す。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

全集中・水の呼吸・拾ノ型【生生流転】

 

怒濤の激流のような連撃を放つ。一撃目よりも二撃目のがつよくさらに三撃目四撃のが強い連続技だ。

 

白い少年の鬼の糸を連続して断ち切るように折れた刀で放つ。

 

「!!?」

 

妹の縛る糸の束縛を断ち切る。その糸から解放され落下の勢いのまま禰豆子はバク転する。獣のような俊敏さで即座に構え戦闘態勢。

 

唸る。瞳が真っ赤に爛漫に輝く禰豆子。

 

 

怒り。単純に怒り。兄を傷付けられた怒り。

その怒りが知らない力を紡ぐ。

 

簡易領域展開【爆血陣】

 

 

禰豆子の足元に赤黒い陣が展開する。

 

近付く糸を焼き切れる。禰豆子達に届く前にバラバラと焼き切れる。

 

「がぁ!!」

 

禰豆子は咆哮する。累の糸を残らず焼き切る。

 

「禰豆子…?」

 

妹の様子がおかしい。

 

禰豆子は異能を持っていなかったハズだ。目も真っ赤ではなかったハズだ。

 

これは麟さんの影響なのだろうか?

 

禰豆子の足元からは燃える臭いと血の臭いがする。

 

「………【血鬼術】かい?…あの白い女と似たような雰囲気だ。ひどく不快だよ。……眷属にしてやらない。…殺してあげるよ」

 

ひどく不快そうに眉をひそめながら言い放つ。

 

 

「糸の強度がこれ限界だとおもうかい?」

 

   【血鬼術・刻糸牢】

 

強靱な糸が刻む牢獄となって俺達を囲む。

 

 

「お前、もう良いよ。妹共々死ぬが良い。」

 

駄目だ。生生流転は止まってしまった。あの連続技以上の威力は折れた刀では出せない。

 

強靱な鋼のような糸は禰豆子の燃やす異能でも焼き切れないようだ。

 

くそ!!負けるわけにはいかないのに!!

 

死…。

 

 

走馬灯。それを見る理由は一説によるとその死を回避する手段を探しているんじゃないかと言われている。

 

 

 

『炭治郎。呼吸だ息を整えてヒノカミさまになりきるんだ。』

 

痩せ細る父の顔がよぎる。父さん。

 

 

    【ヒノカミ神楽・円舞】

 

燃えるような一太刀は糸を切り払う。生きているような動く糸をまばたきする間もなく新しい糸が張られていた。

もし今一旦引いたとしても水の呼吸からヒノカミ神楽に無理矢理切り替えた反動で動けなくなる。今やらないと!!禰豆子を守るん、だ!!

 

 

見えた!!隙の糸!!!!今まで見えなかったのが!!腕は頸までなら届く!!

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

『禰豆子……』

 

優しく響く母の声。懐かしく愛しく悲しい声。退行した思考の中でまどろみに落ちていた。

 

『禰豆子……』

 

簡易領域展開の反動か眠い。怒りすら霞む強烈な眠気。

 

血肉を必要としない禰豆子は睡眠は重要だ。

 

簡易領域展開はそれ程消耗する。

 

『今の禰豆子なら出来るよ…麟さんが下さった力……起きて』

 

 

『………お兄ちゃんまで死んじゃうわよ……』

 

母の泣きながらの訴えは強制的に覚醒をもたらす。

 

兄を失うわけには…………いかない。

 

 

【血鬼術・爆血】

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

禰豆子の燃やす異能は張り巡らせられていた糸を燃やしてくれた。

 

 

【累】という白い鬼の頸を目掛け俺達を刀で振りかぶる。全身全霊残った力で振りかぶる。

 

 

兄妹の絆は、絶てない。断たしてなるものか。

 

 

全身全霊込めた力は白い鬼の頸へ食いこむ。だが鋼より硬い鋼糸よりさらに硬い少年の頸の硬さがソレをはばむ。

 

くそ!!!!

 

拮抗。振りかぶる力とはばむ硬さは拮抗する。

白い鬼は憤怒の表情を浮かべる。

 

 

「巫山戯るな!!僕は此処で!!死ぬわけにはいかないんだよ!!あの白い女にあの方を冒涜されたまま!!」

 

白い女…?

 

鬼気迫る白い少年の表情に臆せず此方も切羽詰まっている。

 

 

力が足りない。

 

 

刀が爆ぜた。微かな起爆は勢いをさらに付けさせる。

 

禰豆子の異能。爆ぜた血は更なる勢いを与えてくれた。

 

 

「俺と禰豆子の絆は、誰にも引き裂けない!!」

 

 

白い少年の頸を刎ねた。

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