鬼喰の血刃   作:九咲

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参の㯃【錆兎の迷い。そして柱合会議へ】

半月前。血霞邸訪問の帰り道。鱗滝さんともうひとりの育て親同然の麟さんに定期的に顔を出している。

まぁ【柱】となってからは忙しく回数はめっきり減っていた。一週間に一度から半月ごとに。それから一ヶ月毎にと減っていた。

 

彼女は寂しそうな顔(真菰曰く)しているけれど訪問の度歓迎してくれていた。彼女は鬼という立場上隊の中ではかなり特殊で特別な立ち位置だ。

 

受け入れているものは少ない。

不死川を筆頭とする鬼嫌い。悲鳴嶼さんや伊黒辺りは敵視しており中立は煉獄や時透や宇髄は思うところはあるだろうがお館様の意向には背かないようだ。

友好的なのは甘露寺と表面的には胡蝶だ。

そして親同然に思っている俺と真菰は絶対的に信用している。竈門兄妹も同様だと思う。

 

彼女は基本的には隊には接触して来ない。柱合会議も彼女が議題なこと以外俺から伝えるようにしていた。

俺が柱になる前はどうしてたかは分からないけれど。

 

不死川がいる以上適切だと思う。奴の戦闘能力は剣士としては信用し出来るが鬼嫌いは異常ではあった。

 

鬼殺隊の面々は鬼を憎む理由は少なからずあるだろう。

家族や身内などを鬼に殺されて鬼殺隊に入るなどよくある話だ。

 

 

……親同然の麟さんを獣同然の鬼と同列にするのはやはり面白くない。

あの人は人間より人間らしい鬼だ。

 

優しくて理知的で美しかった。

 

いやいやいやなにを考えてるんだ俺は。麟さんだぞ。親同然だぞ。

 

 

「んで錆兎はいつ麟さんに告白するの?」

 

「……………は?」

 

隣を歩く真菰は訳分からない事を口にする。

 

 

「だからいつするの?」

 

俺は鳩が豆鉄砲打たれたような顔をしている筈だ。何を言っているんだ此奴は。

 

「…………何を言っているんだ真菰。面白くない冗談だ」

 

「うん冗談じゃないもん」

 

「尚更だ。………あの人は親同然だ。鱗滝さん同様育ての親同然だ。……………あの人にとって子供か良くて弟だ」

 

「…ふーん。否定はしないんだ?」

 

「……あ、いや………違うのだぞ?真菰。お前は勘違いしている。」

 

「珍しく饒舌。これはみつりちゃんとの話の種だね」

 

「…やめろ。いやまじで」

 

 

この感情は恋慕というものかどうか判断する材料は今は持たなかった。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

しくじったしくじった。私だけは今までしくじった事がなかったのに。この家族ごっこを。

 

私は森の中を駆けていた。

 

家族は皆寄せ集め。血のつながりなんかなく鬼狩り怖くて仲間が欲しかった。

 

能力は皆累のものを分け与えられていた。累はあの方のお気に入りだから許されていた。

 

最初に顔を変えなければならない。母親役は子供の鬼だった。だからか母親役に徹するのも下手くそだった。

 

顔や躰の変形は苦手で毎日叱責されていた。

 

私は私さえ良ければよかった。私はアイツらとは違う。それなのにしくじった。

 

 

…追われていた。逃げた先一匹の人間を捕まえた時に遭遇した鬼狩り。今まで来た雑魚の鬼狩りとは違う女の鬼狩り。

 

蝶の髪飾りを左右に付けた柔和な女だったが怖気が走った。

 

ニコニコと笑っては居たが……裏では笑って無いことが分かった。

 

「逃げるなんて酷いなぁ。白いお嬢さん?」

 

姉という役割を与えられた私は役割を忘れただ悍ましかった。

 

「仲良くしたいだけよ?ね?」

 

 

「仲良く…?」

 

 

「そう、仲良く。そうすれば世界は平和だし。失うなものなんてなくなると想うのよ?お姉さんは」

ただただ優しく微笑む。まるで蛇に睨まれた蛙の子は蛙心地。

 

「……仕方なく仕方なくなのよ。弱い鬼は強い鬼に従わなくては生きては行けない。」

 

どうしようもない言い訳のような独白。聖母のような微笑みでその独白を聞く鬼狩り。

 

 

「お嬢さんは何人食べたのかしら?」

 

 

「5人。…命令されて仕方なくよ」

 

「お嬢さんの力は溶解の力を有した繭。私は西から来たの。山の西側にに14の繭があったわ。…ふふっお姉さんは嘘は良くないと思うわ。80人は食べているでしょう?」

 

「…嘘じゃないわ」

 

 

「私は怒っているわけじゃないのよー?正確な数を確認しているだけだよ?」

ニコニコと笑う鬼狩り。

 

「確認してどうするのよ…」

 

「貴女が殺しただけ罰を受ければ貴女は罪は許されるの。そうしたら仲良く出来る。大丈夫!!お姉さんがいるから一緒に頑張りましょう!お嬢さんは鬼だから大丈夫よ」

 

「何するのよ…」

 

「ちょっとした拷問。……貴女が……あの子にした同じような事よ」

 

 

笑顔が消える。おぞましいだけの殺意。笑顔が綺麗な人から笑顔が消えるだけでこんなにも震える。

 

違う。この鬼狩りは最初から怒っていた(・・・・・)

 

   花の呼吸・弐ノ型【御影梅】

 

 

いつの間にか頸が刎ねられていた。

 

「………………お休み。あの子の苦しみはそんなものじゃ無いけど。私は苦しませる趣味は無いから」

 

無表情で此方を一瞥する事も無く。刀を納める。

 

胡蝶カナエの心中はただただ虚しかった。かつての教え子の無念を晴らしても何も払拭されなかった。

 

「師範。周りの鬼倒してきました。」

カナヲがひょっこり現れる。

 

「お姉ちゃんって呼んでって言ってるのに~。カナヲは優秀ねぇ。ふふふ」

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

血鬼術【殺目籠】

 

籠状の糸が力尽き伏せる竈門炭治郎を包み込む。

 

下弦ノ伍【累】は竈門炭治郎に頸を落とされる直前。自身の頸を切り落としていた。

 

鬼を傷付けるは陽光と陽光と同じような力を持つ特別な鋼で作られる【日輪刀】のみが致命傷たらしめる。

 

「…勝ったと、思った?残念自分で切り落としたのさ。」

 

【ヒノカミ神楽】で技を何故出せたかは分からない。しかし呼吸を乱発したせいか耳鳴りが酷く体中に激痛が走り視界が狭まる。

 

白い少年は頸を刎ねられたまま立ち上がる。

 

「可哀想に哀れな妄想して幸せだった?もういいお前も妹も殺してやる。こんなに腹立ったのも久しぶりだよ」

 

立て!!早く立て!!呼吸を整えろ!

 

 

「お前の妹の血鬼術は酷く不快だ。何故お前は燃えていない?僕と僕の糸だけだよね?イライラさせてくれてありがとう。」

 

「お前達を未練無く刻めるよ」

 

籠状の糸が狭まり収束していく。バラバラに刻まれた野菜のように、なってしまう。

 

 

が、ならなかった。

 

 

音もなく籠状の糸は切り刻まれる。

 

 

「俺が来るまでよく堪えた。後は任せろ」

 

宍色の髪をした狐面の青年。

 

 

兄弟子・【水柱】錆兎だった。

 

「次から次に!!僕の邪魔をするくず共め!!」

 

 

    血鬼術【刻糸輪転】

 

 

糸が網目状に広範囲に広がっていく。全て目の前の青年を切り刻むために。

 

 

 

水の呼吸・全集中拾壱ノ型【凪】

 

 

さらに音もなく錆兎はその名前の通りにゆったりとした動きで迫ってきた糸を斬り捨てさらに間合いを詰め累の頸を刎ねる。

 

 

鱗滝さんの技は拾まで。拾壱の型は錆兎と義勇が生み出したふたりだけの技。凪とは無風の海のこと。海水は揺れず鏡のよう。

 

錆兎の間合いに入った術は全て凪ぐ。無になる。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

この白い少年はただ寂しかっただけ。父母を探していただけの鬼。この家族ごっこは失った絆を埋めるためのもの。

失った記憶はそれを歪ませていた。分からなくなっていたのだろう。

 

他の柱は多分だからどうしたと唾棄するだろう。

 

だからと奪ってはいい理由にはならない。俺もそう思っている反面あの人がちらつく。

 

あの人は奪ってはいない。けどどうしようもなくあの人も【鬼】なのだ。

 

 

俺は迷っているのか?【鬼】のあの人と鬼に殺された義勇を天秤に掛けているのか?

 

…すまない義勇。俺は弱い人間だったのだろうか?

 

 

「……錆兎さん。…」

 

「…鬼に情けを掛けるなよ炭治郎。人を喰った鬼は子供の姿をしていても関係ない」

 

自分に言い聞かせるように。

 

「……殺された人達の無念を晴らすためこれ以上被害者を出さない為勿論俺は容赦なく鬼の頸に刃を振るいます」

 

「だけど鬼である事に苦しみ自らの行いを悔いている者を踏み付けにしない。…鬼は人間だったから俺と同じ人間だったから」

 

 

 

「……お前は」

 

真っ直ぐな弟弟子の眼差しに呆気に取られる。

 

 

「…そうだな。…麟さんと義勇に顔向け出来ないな。」

 

 

薄く笑った後もう一つの任務を思い出す。

 

 

「炭治郎。柱合会議へ行くぞ。お館様がお前達に会いたがっていらっしゃる。……傷だらけのところ悪いがな」


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