「………………ついに来たか。」
隊士・竈門炭治郎。その妹【鬼】禰豆子の居場所が捕捉された。
厳密には最終選別の際に鎹鴉を付けられた時点で捕捉されていた。
沼の鬼戦、鞠の鬼と矢印鬼戦、鼓の鬼戦、そして那田蜘蛛山戦を経てすりあわせされたのだ。
鬼を連れた剣士。炭治郎の存在はお館様自体は容認してくれてはいるけど他の【柱】たちはそうはいかない。
いつまでも黙認という形にもいかない。
【柱】との接触は不可避だ。
柱合会議への場へと駆り出される。
「……よう、久しぶりだな。麟さんよ」
「御同行願おうか」
玄関先に現れる柱二人。忍ばない忍者・派手男【音柱】宇髄天元と巨漢の坊主【岩柱】悲鳴嶼行冥。
「……どうせならカナエちゃんと蜜璃ちゃんが良かったわ」
「………胡蝶は任務中だ。甘露寺は情にほだされるだろう」
「逃げやしないよ。逃げるなら今からでも逃げれるよ。…………その場合全員で来ることすすめるよ」
側に控え警戒していた零余子の頭を撫で立ち上がる。
「日輪刀は置いてって頂こう。」
「はいはい」
「意味をなさないだろうが【血怪】とやらを会議中出さないで頂きたい」
「時と場合と態度に寄るけどいいよ」
「悪ぃな。麟さん。柱全員の総意ではねぇ。……がやっぱりあんたは鬼だ」
「………分かってるよ。」
隊服ではなく真っ赤な着物のまま歩き始める。
炭治郎、禰豆ちゃん。……君たちは君たちの力で認められなければ意味は無い。
私の庇護はあくまで力による庇護。今のままでは軋轢はより、強くなる。
君たちはもう弱くない。私は君たちの強さを知っている。
信じてるよ。君たちの強さを。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
産屋敷邸。鬼殺隊のまとめ役【お館様】が住まう場所。
そこまで行くために目隠し耳栓、鼻が利く俺は鼻栓までされ抱えられ荷物のように連れられた。
累戦でついた傷に響くので優しくして下さい!
…………なんのため連れて行かれて居るんだろうか。最下位の位階の俺が最高位【柱】が集まる会議に。
心当たりは、ただ1つ。
妹・禰豆子のことだろう。9割9分9厘そうだろう。
認めて貰わねば。認めて貰わなきゃ。
下ろされる。目隠し耳栓鼻栓が外される。
視界が開け感覚も解放される。豪奢な日本庭園のようだった。
「柱の御前だ!!面をあげろ!!」
俺を取り囲む。9人の男女の剣士。隊服を身に纏う。中には錆兎さんの姿もある。
彼と同等それかそれ以上の雰囲気を身に纏う剣士達。
此が【柱】。鬼殺隊の最高戦力にて隊のまさしく【柱】
「此奴が鬼を連れた馬鹿な隊士ってのは」
傷だらけの青年は呟く。
「……まだ、子供ではないか」
「傷だらけ…可愛い」
「…………面倒臭い。」
「普段なら派手に処刑するんだがな!」
「…………そうだな、【血柱】殿もいる。……それをした時点で彼女は容赦なく我等を殺すだろう」
「…簡単に殺されはしないがな。奴は藤の花の簡易的な檻に入れているんだろう?しかも今はまだ正午だ」
「…物騒なことばっか言わないの皆。お館様の意思を聞かないと。」
「ヤッホー。炭治郎。久しぶり元気~?」
「り、麟さん!?」
視覚に入るのは庭から見える和室に藤の花に囲まれた所に座っていた。日光が届かない暗がりから手を振ってくる。
「やはり知り合い。……度し難いな少年」
「……………俺の弟弟子だ。」
「てめぇの処遇も関係あるからな覚悟しとけよ錆兎ぉ…?」
「……ああ」
「それでだ。餓鬼。その背負っている木箱に鬼が居るんだな?渡せ。」
「い、嫌だ」
「不死川くん。お館様を待たないと」
「…………必要ねぇよ。……鬼は即斬。俺はそう生きてきた。考えてきたんだが………………無理だわ。悪鬼滅殺。その女ごとその鬼も斬るわ。そうすれば憂いはねぇ」
蝶の髪飾りの女性の制止の言葉に反論する。
「同感だ。…………血柱、彼女みたいな特別扱いが増えれば鬼の根絶は夢のまた夢。」
「…悲鳴嶼さん達の言い分は分かる。だが【新月】という正体不明の勢力は如何する。鬼舞辻らの勢力でも手一杯だ。今のところ敵対意思が見当たらない彼女を処断しこちらの勢力を削るとは愚の骨頂だが」
傷だらけの青年と巨漢の坊様の言葉に炎のような青年は反論する。
「なんだ煉獄。反対するのかぁ」
「違う。現実問題の話をしているのだ不死川」
あれ?…禰豆子の話ではないのだろうか。
「お~い。話が逸れてるゾ。【新月】は私が滅ぼすんだから気にしなくて良いのに」
麟さんの言葉に数名の殺意が放たれる。
「血霞、理解しているのか?今日の処断で貴様の生き死にが決まるという事が」
蛇を連れた男性がネチネチ言っている。
「分かってるよ。君以上に。……その兄妹以上に私をどうにかしたいって事くらいさ………けど今日の主役は彼らだ。ないがしろにしたら可哀想だよ?」
「鬼風情が」
蛇の男性は舌打ち。剣呑な雰囲気が流れる。
「今日の【柱合会議】は所謂裁判の側面を持ちます。故に私【花柱】胡蝶カナエが公平な中立な立場をもって仕切らせて貰います」
「なんだと…聞いてネェゾ」
「……不死川くんや悲鳴嶼さんは反対派。錆兎くんや蜜璃さんは賛成派。性格上私が一番相応しいとお館様に任命されました。反論あるならお館様に不満があることになりますが」
胡蝶カナエさんという女性はにっこりと笑う。事務的に淡々と通達する。
「では【柱合会議】始めます。…………お館様お待たせしました。お見苦しいところを」
「いいよ、カナエ。難しい問題だ。実弥や行冥の意見ももっともだ。……久方ぶりだね。みんなの顔が見れて嬉しいよ。日々弱っていく自分が恨めしいよ」
「……お館様ご機嫌麗しゅう。いつまでも御壮健であられることを切に願います。してこたびの柱合会議は」
「うん。この前の続きみたいなものさ。麟さん。そんな罪人みたいな扱いは申し訳ないよ」
「構わないよ。…体裁みたいなものだよ。」
苦笑し気にしてないと返す麟さん。
「……私は炭治郎と禰豆子の事は容認している。私としては炭治郎と禰豆子のことを皆に認めて欲しいと思っている。」
「………嗚呼、お館様の願いでも承知しかねる…」
「派手に反対だ!鬼を連れた隊士など認められない」
「私はお館様が望むままに」
「…俺はどちらでもいい」
「信用しない信用しない。鬼はそもそも大嫌いだ。特に血霞という人間のふりをする鬼は更に嫌いだ」
「……俺は戦力的な意味で血霞殿を許容すると断言したうえでそこの少年を断じてしまっては筋は通るまい。俺は明言を避けよう!」
「鬼を殺してこそ鬼殺隊。竈門、血霞両名の処罰を願います。」
傷だらけの人の言葉に歯ぎしりする。麟さんは恩人だ。
「……では、手紙を」
お館様は側の最終選別にいた少女に似た白い少女に促す。
「はい、此方の手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです一部抜粋して読み上げます。」
白い少女は手紙を広げ読み上げる。
『炭治郎が鬼の妹と共にある事をどうかお許し下さい』
『禰豆子は強靱な精神力で人としての精神力を保っています、飢餓状態であっても人を喰わずそのまま2年以上の歳月が経過致しました』
『俄に信じがたい状況ですが紛れもない事実です』
『もしも禰豆子が人に襲い掛かった場合な竈門炭治郎及び』
『鱗滝左近次、血霞麟、錆兎が腹を切ってお詫び致します』
え…?
目を見開く。唖然。呆然。その言葉に立ち尽くす。
涙が頬を伝う。
「…切腹するからなんだというのか死にたいなら勝手にしに腐れよ何の保障にはなりはしません」
否定。斬り捨てる傷だらけの人は麟さんを睨みつける。
麟さんは言葉を発せず静かに座っている。
「不死川の言うとおりです。人を食い殺せば取り返しはつかない!!殺された人は戻らない!」
「確かにそうだね。麟さんという前例は在るけど禰豆子が人を襲わないという保証が出来ない。証明が出来ない。」
ただとお館様は言い含める。
「人を襲うこともまた証明が出来ない」
「!!」
「禰豆子が2年以上人を喰わずにいるという事実があり禰豆子の為に3人の者の命がかけられている」
「それを否定するには否定する側もそれ以上のものを差し出され無ければならない」
「……っ」
「それに炭治郎は鬼舞辻に遭遇している」
お館様の言葉に【柱】の人達は目を見開く。
「!!?」
「そんなまさか…」
「血霞以外【柱】は誰も接触したことがないのに……!!」
「此奴が!!?」
「戦ったのか?」
「人相は血霞から聞いてはいるが…何をしていた?」
「根城は突き止めたのか!!?」
「おい、答えろ!!」
「黙れ俺が先に聞いているんだ」
「あー……」
麟さんは溜息をついている。
俺は繰り返し聞かれ混乱する。柱の人達に急かされ揉みくちゃにされる。
「鬼舞辻について…!!」
お館様がしっと人差し指を立てるとピタッと柱の人達。
「鬼舞辻は炭治郎に向けて追っ手を放っているんだよ。その理由は口封じかもしれないし麟さんが関係しているのかもしれない。私は麟さん以外が初めて鬼舞辻が見せた尻尾を逃したくない。恐らく禰豆子は鬼舞辻以外が作った鬼で奴にとって予想外の何かが起きていると思うんだ。」
「分かってくれるかな。……どうかな麟さん」
「……………私?確かに禰豆ちゃんは普通の鬼とは違う状態だね。私は鬼を喰らっているけど禰豆ちゃんはそうじゃない。私と同じになるか、また違うようになるのかなんとも言えないわ」
断言は出来ないよ。と薄く笑う。
「……………分かりませんお館様。人ならば生かしておいてはいいですが鬼は駄目です。承知出来ない。血霞てめぇだよ!!全ててめぇだ!!訳分かんねぇのは!!鬼の癖に鬼の分際で!!」
不死川と呼ばれた傷だらけの青年は抑えきれない激昂が麟さんにぶつけられる。
「………………」
麟さんは彼の言葉に返事をしない。多分言葉を並べても意味は無いと。ただ彼女からは悲しそうな匂いがした。
「俺が証明してやるよ!!貴様ら鬼の醜さを!!」
不死川さんは俺に距離を詰め吹き飛ばし木箱を奪った。
「あ!!?か、返して下さい!!」
「うるせぇ!!黙ってろ!!」
「おい鬼!!飯の時間だ!食らいつけ!!」
自身の腕を斬り出血させ禰豆子が入っている木箱に振り掛ける。
俺はやめろと叫び駆けるが蛇の青年に地面へ抑えつけられる。
「不死川、日向では駄目だ日陰に往かねば鬼は出て来ない。」
「お館様、失礼仕る」
彼は木箱を抱え跳躍。屋敷の奥へと日陰へ移る。
「…不死川くん!!このような真似許されるとでも」
「うるせぇ胡蝶!!」
胡蝶さんの言葉を無視して木箱を破壊する。
「やめろっ!!!!」と蛇の人の拘束を解こうとするがより、強い力で抑えつけられる。
禰豆子!!禰豆子!!
「出て来い鬼ィ!!てめぇの大好きな人間の血だぞ!!」
立ち上がる禰豆子の前に失血している腕を突き出す不死川さんは嗤う。
禰豆子は瞳孔を見開き息が荒く脂汗を大量に流している。
自身の強い衝動を我慢している。
「伊黒くん、強く抑えすぎじゃないかな」
「動こうとするから抑えつけているだけだが?」
「竈門くん、肺が圧迫された状態で呼吸を使うと血管が破裂するよ」
「血管が破裂!!響きが派手で!!よしいけ!!破裂しろ!!」ヒョ!!
「可哀想に…なんとも弱く哀れな子供だ……南無阿弥陀仏……」
ぐ…!!好き勝手に……!!麟さん………!!俺は俺達は報わなきゃ行けないのに…禰豆子を、人間に!!
より呼吸を、強く使用する。蛇の人の拘束に抵抗する。
「竈門くん!!」
胡蝶さんの言葉と同時に解放される。見上げると錆兎さんが蛇の人の拘束を解いてくれた。
「錆兎…貴様何のつもりだ?」
「薄情なもんだな!血女!!大事な鬼なんだろ!!?助けねぇのか!!?」
「………………ここで禰豆子を守るのは簡単な話だよ。不死川実弥。……けど私はその子達の強さを知っている。……私は信頼しているよ」
「てめえが死ぬ事になってもか?」
「当たり前でしょう。それが責任だよその子を鬼にした」
ただ涼しげに言い放つ。信頼していると。
「ああ、そうかよ!!」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
どうしようもない、衝動に思考が弛緩する。
血。血液。血肉。人間。
人間……?
人は守り助けるもの。傷付けない。絶対に傷付けない。
プイッ!!
全力でそっぽを向く。今できる私の全力の拒否だ。フンス!!
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「どうしたのかな?」
お館様の問いかけに白い少女は答える。
「鬼の子はそっぽ向きました。不死川様に三度刺されましたが目の前に血塗れの腕を突き出されても我慢して噛まなかったです」
お館様は薄く微笑む。
「これで禰豆子が人を襲わないことが証明出来たね」
「「!!」」
「……ふふ、当たり前じゃない」
自信ありげに、優しく言う麟さん。
「それでも、禰豆子をまだ快く思わない者もいるだろう」
「証明し無ければならない。これから炭治郎と禰豆子は鬼殺隊として戦えること役立てること」
何だろうこの、感じふわふわする…。
「十二鬼月をたおしといで。そうしたら皆に認められ炭治郎の言葉も重みが変わって来る……麟さんの為でもあるんだよ炭治郎」
「俺は!!俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!!必ず!!悲しみの連鎖を断ち切るやいばを振るう!!」
「今の炭治郎には出来ないからまず十二鬼月を倒そうね」
微笑むお館様の言葉に恥ずかしくなり真っ赤になる。
「はい」
笑いを堪える柱の人達もいるし錆兎さんは呆れてる。
それでも、麟さんの視線だけは優しかった。
「鬼殺隊の柱達は当然抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛錬を、自らを叩き上げ死線をくぐり十二鬼月をも倒している」
「だからこそ柱達は尊敬され優遇されるんだよ炭治郎も口の利き方には気をつけるように」
「は、はい」
「それから実弥小芭内……あまり下の子に意地悪しないこと」
「「御意…」」
「………………麟さん何かあるかな?」
「カナエちゃん結局仕切れていないような」
「し、仕切れてたよ?麟さんの意地悪」
「…まぁ炭治郎と禰豆子の話はありがとうね皆。……認めるかどうかはこの子たち次第だけどね…まぁ一ついい機会だし……真面目な話をしよっか」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「私は誰なんだろう?」
鬼化した際真っ白だった自分の記憶。
「私は長く生きすぎた。」
「私は疲れた。……………私は鬼が嫌いだ。鬼が嫌いで人間が大好きだ…けど……」
首を横に振る。
「……………今回の議題の【色彩ノ鬼】は私が討ち滅ぼすから安心してお館様」
「麟さん?」
「……あと禰豆子と炭治郎のこと見届けて……死のうと思う。まぁ、禰豆子は鬼にしてしまった私の責任だ」
目を見開く錆兎と炭治郎。
「鬼舞辻と【新月】が、死んだ時最期の鬼となった時此処にいる誰かに頸を斬って欲しい。……出来れば実弥ちゃん」
「俺…だと」
「………………鬼嫌いの君なら迷い無くやってくれるでしょう。」
薄く笑う。
「……………麟さん…何故…!!貴女が死ぬ必要ないだろ…!!」
「……………………人は喰わなくてもやっぱり鬼は鬼でしかないよ錆兎。………せめて…私が誰かは知りたかったけど……今すぐ死のうって訳じゃない。…責務を果たすまでの存命をどうか許して欲しい鬼殺隊の皆」
「……先々代からの産屋敷の名において血霞麟の責務完了までの存命を許可するよ。…麟さん。貴女の生きる道は針の筵のようで茨の道で困難だ。…………出来れば貴女が死ぬ必要がない未来になればと個人的には思うよ。……皆の胸中はいろいろあると思うよ。すぐには納得しろとは言わないよ。けど私は…分かり合える日を望むよ」
柱の面々は肯定はしなかったが否定もしなかった。
お館様の望みを声高に否定は出来ないだろうがそれでも…前進はしているだろうとは思いたかったのもある。
血霞麟の鬼生は無駄ではなかったと思いたかった。
「ありがとう。それで少しは救われた。」
「………何これ、綺麗事の茶番劇。生温いわね今の鬼殺隊は。……反吐が出る」
「きゃは♪キモイ」
ケラケラ笑う空色の少女に心底不快そうな長身の黒髪の女性はいつの間にか庭先にいた。
彼女らの頬には【真白】と同じ色彩ノ紋様が見て取れた。
そして何より見知った顔だった。
かつて憎悪を向けられた相手だったけれど。