穢れ。慈しむは色彩。穢れの色彩はわたくしが一番恋しいもの。
穢れのないものはいない。
様々な色彩はこの世界を彩っている。
人には人の。鬼には鬼の。
人も鬼も全て愛おしい。
わたくしという純白を彩るための餌として。
「うーん。この色は有り余っているのですよねぇ。多少偏る傾向がありますのよねぇ。」
少女は年端のいかない少女だった。純白。全て純白。
足元近くまでいく長髪も瞳も最近ではまだ珍しい洋装に大きな帽子も全て純白。
そして目が往くのは額の二本の角。
彼女の足元には死体。色が奪われた死体。
お嬢様の風体の彼女には死の山。腐臭漂う森は似つかわしくは無かった。
「…………………イマイチ糊も悪いですわぁ。劣悪な粗雑な素材ですこと。」
彼女がいる場所は那田蜘蛛山。
十二鬼月・下弦の伍【累】が根城とする山である。
至る所にある蜘蛛の巣。蜘蛛の糸による結界。
山そのものがまるで蜘蛛の罠。
餌となる人間。狩りに来た剣士すらも絡め取り餌とする。
「餌場としては理にかなってますわね。まぁ居心地とかは捨て置きますけど。」
まぁ鬼に雨風しのげる家屋など有りはしないが。
「…………誰?」
其方もまた白い少女だった。白い蜘蛛の巣柄の和装に白い髪。独特の模様をした痣。
「あら、趣味が合いそうな様相ですこと。いい趣味してますわね。」クスクスニコニコと笑う。
「…………好きでこの格好しているわけじゃないわよ」
白い蜘蛛鬼は不満げに吐き捨てる。
「あらそう。残念ですわ。白とは素敵ですわよ。何も穢されず侵されず総てを塗り潰しますわ。」
「訳の分からないことを…あんたも鬼でしょ!!あいつに関わりたくなきゃよそ往きなさいよ!!」
くつくつマイペースに笑う白い鬼にしびれを切らし激昂する。そもそも現状に不満を抱えた鬼だから短気だった。
「短気は損切りですわよ。あれ違うかしら?せっかく可愛いんですもの。仲良くしましょ?」
いつの間にか間合いにいた。蜘蛛の少女の眼前。
幻想が如き美貌を兼ね備えた白い鬼は少女の頬を撫でる。
「……ふふっ。中々こういった【色彩】を持った鬼はいなくて。合格点花丸あげましょう。ふふっ…久しぶりに刺激されちゃいましたわ。」
「…………君…誰?」
「……おや」
「…累……」
白い少年だった。髪で顔を半分隠しこちらの少女と同じ独特な紋様が顔をあり蜘蛛の巣柄の白い和装。
微かに見えた左眼には【下伍】と刻まれていた。
「あら、お初に。…………ふふっ…ここの主かしら?」
「そうだけど。なに?………荒らしに来たの?」
「【新月の純白】の真白と申しますわ。以後お見知りおきを。」
「……………あの方が言っていた【血霞】や逃れ者以外のあの方のお力を外した不届き者か」
「生きにくくありません?鎖に繋がれた飼い犬みたいで」
「その質問に解答する権利は僕にはないよ。」
ただただ無表情にそう答える白い少年。
「でしょうね。それを口にするだけで死にますものね。…………小物ですこと。」
「あの方に対する侮辱は許さない。」
蜘蛛の巣を展開する。真白の左腕が蜘蛛の巣状に瓦解する。
「へぇ。飼い犬が一丁前に怒ってるんですの?【下弦】の5番目程度が。」
すぐに真白の左腕は再生する。
頸無し巨体の鬼。人面蜘蛛の鬼。白い女性が集まってくる。
「ここは僕の家族の場所だ!!外敵は!!あの人の敵は殺す!」
「家族ごっこですか。どこぞの赤い鬼と一緒ですね。まぁあれに比べれば粗雑で粗末なモノですが。力で抑えるとは程度が知れますよ?まぁ反吐が出ます。」
【血鬼術・色彩奪】
「まぁ殺さないであげます。貴方を作品に加えてあげます。」
「さぁ貴方の【色彩】を見せて下さい。【累】くん?」
亀裂のような笑みだった。
踊れ踊れ。
世界は私の無地のキャンパスに過ぎません。
穢れに塗れた常世をわたくしという純白で【救済】して差し上げます。
不浄の常世を全て純白で塗り潰して【救済】して差し上げます。
それがわたくしの使命ですわ。鬼による楽園を。
欲に塗れた常世を全て全て。
「あはははははははははは!!!!!!素敵ですわよ!!累くん!!」
「貴方もわたくしの楽園で永遠に家族ごっこさせてあげますわ!」
真白の周りには倒れた蜘蛛鬼達。恨めしげに睨む【累】
「こうかな?こうかしら?」
彼女は【色彩】で空に彩る。
次第に色彩は実体を形作る。基本色から派生する全ての色彩は【累】を創り出す。
「僕は…【累ノ色彩】よろしくお嬢様。」
目の前には累。それは自身と瓜二つだと目を見開く。
「そしてさようなら僕。今まで通り無様に生きると良いよ。」
自分自身は自分自身を否定する。
「…ふふっ…」
白き麗鬼は嘲笑い恍惚の表情を浮かべる。
「…………いずれ……下弦ではなく上弦を。鬼舞辻貴方を私の作品にしてあげます。」