酷く不愉快な不快感。生前私は常にそれを抱えながら生きてきた。その不快感の正体は直ぐさま明らかになった。
人食いの鬼。夜な夜な人を喰らう人外の化生。
その畜生に対して極度の嫌悪感。不快感があった。
その影に怯え生きていかねばならないのか。
断じて否。刈り尽くしやる。
他ならぬ姉の死体の前にそんなことを幼き自分は考えていた。
鬼の食い残しと化していた姉の前にそれ以外の感慨がなかった私も十二分畜生だったと実感したのは大分後だったのは今となってはどうでもいい。
ただ刈り尽くし殺し尽くす。あの女はケチを付けた。鬼畜生が人間社会に混ざるなんて許されないしましてや鬼殺隊になど。排除してやる。沸沸とした怒りは蓄積する。いずれ意味すら破綻すると言うのに気付かぬまま。
「瑠偉ちゃん。お目覚めかな?」
「目覚めは最悪よ。……
「そう?私は快眠だったよ?」
空色の2つくくりの長い髪を左右に垂らしてぴょんぴょん跳ねる。快眠とは程遠い覚醒には煩わしかった。
「能天気なあんたが羨ましいわ。酷く最悪な目覚めよ。…………まぁいいわ。【血霞麟】にお返し出来るならなんでも」黒髪長髪のスレンダー体型の私は変わらず。
「……鬼嫌いの瑠偉ちゃんが【鬼】になるなんて笑えるね。拗らせすぎでしょう。ウケる」
ケタケタ笑う天。相変わらずうざったい。
「五月蠅いわね。【新月の空色】上臥原天。」
「どう致しまして。【新月の無色】鎖天川瑠偉ちゃん」
かつての鬼殺の剣士最高位【柱】の二人は鬼となっていた。知らない肩書きがすんなり出て来る。
「………ようやくお目覚めですこと。やはり鬼舞辻のようには行きませんわね。忌々しいことですが」
白い女。【新月の純白】真白が軽く嘆息する。
ここは白い屋敷だった。内装も外装も調度品も全て西洋風で真っ白とした屋敷だった。潔癖過ぎる純白は生活感を塗り潰していた。
「…………」
「…………」
「あら、野蛮な顔ですこと。とりあえずは成功ですわね。【鬼殺の剣士】の【色彩ノ鬼】化は」
「…何かしらあんた」
「【新月の純白】ようこそ【見えざる月】へ。歓迎致しますわ。」
【見えざる月】?
「……【見えざる月】私達は見えない月【新月】の名を関していますわ。まぁ【鬼舞辻】産の【十二鬼月】を皮肉って付けましたけれども」
「私達ってことはあんた以外にもいるわけ?」
「勿論。【色彩】を与えられた者は【十二鬼月】に匹敵もしくは上回る力を有してます。貴女達元【柱】なので下弦の鬼は相手にならないでしょう。【空色】と【無色】?」
成る程ね…鬼の躰に【呼吸】か。
「まぁ、私は【血霞麟】にお返し出来りゃなんでもいいわ。」
「私は元々あばれたいから鬼殺隊にいたわけだしぃ…まぁ、暴れれるなら鬼でもいいや」
無邪気ににぱ~と笑う天。
「あんた…そんな理由で鬼殺隊にいたわけ?」
「ダメ?鬼なら何してもいいでしょ?ありゃ今自分が鬼だったわ。きゃは♪…皆復讐だの恩義だの忠義だの重くて敵わないわ」
「軽いのはあんたの脳みそでしょう。はぁ」
「…わたくしの為に働いて頂きますわよ?」
「【血霞麟】をやらせてくれるならなんでも」
「暴れれるならなんでも~♪にゃは♪」
即答。鬼になってしまった躊躇いもなく首肯する。
どうしようもない暗い怒りとただただ破壊衝動故に。
「結構ですわ。貴女にやられるなら【血霞麟】もそこまでの女という事ですわ。お好きに」
薄く笑う白い女。馬鹿にしたように笑う。気に食わない。あんたが私達を【鬼化】したのかは知らないが気に食わない。【色彩ノ鬼】?は、気に食わない。
「…そうそう【色彩ノ鬼】は厳密には【鬼】とは違います。……飢餓感、人食いを行う必要はありませんわ。…………ただただ私の【作品】であることお忘れ無きよう」
「…は?」
「?」
白い女はいなくなる。
「仔細は追って連絡します。自身と現状把握に努めてくださいましね」
「とりあえず情報収集かな?かな?」
「私は好きにやらせてもらうわよ」
「え~、協力しよ~よ!寂しいじゃん☆時代も違うみたいだし?元号も大正?に変わってるみたいだし。」
「……他の柱が存命してるかも知れないし鬼殺隊にかち合うのは面倒そうね。流石に現役じゃないでしょうが」
「鱗滝ちゃん辺り育手してそう。桑島ちゃんも」
「煉獄はお家が歴代柱継いでるし面倒ね」
「ま、…殺せば良くない?全殺全殺♪み・な・ご・ろ・し♪」
あはっと無邪気に殺意を語る幼い風貌に怖気が走る。
「………………そうね。」
白い屋敷を出る。真夜中。鬼の時間帯。
狩る側から狩られる側になろうともやることは変わらない。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
私は【下弦の肆】名を
あの方の直属【十二鬼月】の末席に連ねる鬼の一人。
下弦から数えて4番目、上弦から数えて10番目の強さを現状有している。
上弦と下弦の強さは隔絶している。ここ百年【入れ替わりの血戦】を行われず上弦の地位は変わっていない。
私の知らない所で行われてはいたかも知れないが序列は変動していない。
それ程隔絶している。下弦ですら4番目の私は挑む気は無い。
……あの方は現状の【下弦】の状況に失望なさっていた。
全てあの【血霞麟】のせい。あの女のせいで【下弦】の価値は失墜していた。
あの女が誕生してから死んだ下弦は有に50は越えている。
あの方は呆れ果て失望なさってしまった。
故に私はあの女を潰すためあの女の動向を探っていた。
あの女の根城としている深い森に【血鬼術】を使用し潜り込んでいた。
累がいた。私より弱いはずの累が【柱】二人相手に激戦を行っていた。
悍ましかった。……けれど違和感。繋がるあの方の共有知識が教えてくれた。
【新月の純白】あの方のお力を外した鬼のその背徳的な力。
【色彩ノ鬼】…累の複製体だと。
……………………頭が痛い。
【血霞麟】をどうにかしたいのに別の鬼がいるとは。
戦術的撤退。そうしよう。
【逃げるのか?下弦の肆。情報収集に徹しろ】
あの方のお言葉。はい、やらせて頂きます。
その場を離れず息を潜める。
結果は累の複製体の敗北で終結する。
【血霞麟】はより強くなっていた。【色彩ノ鬼】は化け物だった。
これ以上の情報はないと今度こそ撤退しようとする。
「逃がすかよ。なぁ鬼」
ファー!!?
赤い毛並みの犬人間に捕まってしまった。
………………捕まってしまった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「姫、女の鬼が潜んでいた。」
きゅーっと気絶した少女の鬼が目の前にいた。
「……………【十二鬼月】?」
「……………恐らく。」
「お馬鹿!犬神のお馬鹿!鬼舞辻にバレんじゃん!!拠点が」
「…すでに此奴がいるから既に遅いかと」
さねみちゃん達が帰ったあとが幸いか。
「……まぁ………良いこと思い付いた。」
「姫、悪い顔してるぞ」
「失礼ね、知的な顔って言いなさいな。その子起こして犬神。」
「いいのか?」
「玉藻。結界張って」
「はいはいさ」
「何する気だ?」
「鬼舞辻の呪いを発動させる」
「……殺すのか?」
「まさか。……よし、準備完了私はいつでも」
「姫に考えがあるならいいが起きろ」
少女の鬼を軽く小突く。
「わひゃ!!?な、なにぃ!!?」
「こんばんは。可愛い顔しているわね。初めまして……【下弦】………【肆】か。奇遇ね私勧誘されたとき【肆】だったのよ。【上弦】だけどね」
抜刀。首筋に突き付ける。
「…鬼舞辻の指示?」
「……独断よ…」強張る。おや下弦にしては恐怖に素直ね。
「……………………そう。君からは鬼舞辻に対しての怯えがある。恐怖で支配なんて小物ね鬼舞辻は」
「あ、あの方は…小物では……」
「小物よ」
嘲笑。最大級の嘲笑をぶつける。
「…………………き、鬼舞辻様は…!!……あ…」
唖然。その名を口にしてしまったことに絶望する。
直ぐさま変化が訪れる。口より巨大な口が吐き出される。
血の呼吸・壱ノ型【血纏斬り】
私の一太刀は伸びた腕を切り払う。
「え…?」
「………まだ呪いがあるはずだけど大抵この一度だけのはず」
血鬼術【百鬼創生・
血液が【下弦ノ肆】を飲み込む。
「姫、鬼を【百鬼夜行】化するのか!?」
「…前々から思ってた鬼を人にもどす方法の実験だよ。……最近下弦以上の鬼との遭遇なかったし好都合。」
まぁ【百鬼夜行】も所詮は人外だけど。
「人食い衝動の、有無は大きいはず」
飲み込む血液が【下弦ノ肆】に浸透し赤い髪赤い着物へ変換する。
「…成功かな…?」
「…え、えっと……」
ぽかんとしている元【下弦ノ肆】
「鬼舞辻無惨は小物。はい」
「き、鬼舞辻無惨は……小物……?」
そのまま繰り返し言ってしまい口を抑えるが呪いが発動する兆候はない。
「…呪いが外れたね。…………くっくく。鬼舞辻の悔しがる顔が楽しみ。さてようこそ我が【百鬼夜行】へ」
薄く笑う私に元【下弦ノ肆】は唖然としていた。
下弦ノ肆ちゃんは可愛い
ファンブックより下弦ノ肆ちゃんの名前判明したため訂正しました。